「T氏の話を信じるな!!」
「いきなりどうしたヤブから棒にそんなことを言って…?」
前どこかで見たことのあるような部屋に連れてこられたあとに言われた言葉がこれ。
どう判断すればいいんだよ。
「いやーちょっと普段のテンションじゃこーいうことできないんでやってます!イブキとしてはもっとはっちゃけちゃえーって思うんですけどね!!」
「とりあえず今回はとんでもなく勢いだけなのは理解したから一回止まれ。久しぶり過ぎて何を言うべきかわからないんだよ」
そういや異界のときにこんなことになっていたよな、とぼんやり思い出す。あの時は狛枝、今回は澪田…うん、もしかしなくともスーダンで揃えたいのかな。
「イブキ的には他の人でもよかったんですけど根暗なおっさんとしてはイブキのほうがいいみたいっス!あんな悲壮な曲を引く人にも響いてるみたいでなによりってすね!」
「アヴェンジャーの中でも好き嫌いはやっぱりあるのか…」
「そして今回は曲にハマってるんでテンションMAX!最高の勢いに乗って頑張るっスよ!もうそろそろ心の準備はできた?できたってことでいいっすね!!」
「おい待てどこの世界に飛ばされるとかそういう状況説明しないのかよ!?」
きょとんとしている澪田だけどせめてそれくらいは教えろ。つーかそもそもFGОの世界からはみ出し過ぎなんだよ毎回。
「あ、そういうのは前回のナギっちゃんと同じでやる気ないんですよ!どうせ行けばわかるタイプの世界なんで!!」
「勢いで誤魔化そうとすんじゃねえ!」
「えー…だって道案内とか現地の人ですし今回はほぼ一瞬でわかると思いますから!!いざ開拓の精神をこめてレッツラゴーです!」
「…ざけんなや」
キレそうだけどもう諦めた。どうせ前回と同じなら相手が誰かわかればなんとかなるはずだし。
てか最初のT氏の話を信じるなってなんだよ。勢いだけでなにかやろうとするんじゃねぇよ。
Tから始まる奴に気をつけるしかない、とかかね…?
「…起きた?」
「う〜ん…やっぱりここじゃなくて街の方に行けば起きるかな?」
「…そもそも介抱するならここで唐突にやるのではなかったな」
最初に感じたのは冷たい雪。目を開けるとピンク色の髪の人と灰色の髪のバットを持った女の人。
「…いや、大丈夫。もう起きたから」
なるほど、今回は崩壊スターレイルか。最近コラボが始まるらしいしぴったりとも言えるだろう。
問題は俺がほぼ知らない世界であるということだが。
「あ、起きたよ!おはよう、あなたはだれ?私は三月なのか!なのって呼んで!」
「私は
「…こいつらのお守りの丹恒だ。こんな場所で起こして悪かったな」
3人ともそこそこしっかりとした話をしてくれていて、雪原の中でもはっきりと聞き取れた。
「大丈夫だ、ありがとな。俺は白井…ま、シロイって呼んでくれ」
流石に全部言えるほどこの世界で生きてないし。ちょっと自分の能力がどうなっているのかわからないから名前も少し適当に言うことにした。
「よろしく、私の運命の人」
「何言ってるんだ星宮?」
「すまない、こいつの悪ふざけはどうにも俺らの方でも止められる気がしないんだ」
今回どうなってるかはわからないからな…もしかしたら殺されるかもしれないから注意しないと。
「どうしても苦手なものは苦手だしな。太刀…じゃねえ、銃槍で戦闘するからよろしく」
後ろにあるのは太刀ではなくずっしりとしたガンランス。今の主人公のような見た目でペアルックとして嫌になる。
…頼むからどうなってるのか教えてほしいんだよなぁ…
「結構特殊な武器だよね。もしかして特殊な星の技術?」
「ドンドルマの技術だしね、多分そんな感じはするぜ」
「…ふむ。とりあえず銃のような機構であることくらいだしそんな強そうには見えないな」
「まぁいいじゃん!雪の中だし楽しもうよ」
なぜか知らないけど雪なのにテンションが高い三月。もしかして中のキャラとも関係あるのか?
「はぁ…三月がよくてもシロイが先に凍えるぞ。そもそも今日はブローニャに呼ばれているんだからここでグダグダしている暇はない」
「へぇ…まあ、万が一にも戦闘するようなことがなくてよかったよ」
もし戦闘しろって言われたら負ける気がするな。何使ってくるか知らないんだもん。
「ベロブルグのお祭りの日だし急ごうよ!ね?」
「あぁ、まあそうだけど…」
スタレに詳しいとか詳しくないとか関係なしにお祭りとは得てしてトラブルに巻き込まれるまでのお約束みたいな感じがする。
…うん、少し気持ち悪いけど今回の配役的には俺がブローニャのお父さんらしい。存在しないお父さんって相性悪すぎない?
前々から借金を故郷と娘の為に返済してきた。そして最近やっと故郷の氷が溶けたから帰りに来た…って設定。
トラブルにしか巻き込まれる気がないな。
案の定、色々と面倒そうな感じで立っている誰かがいた。
「私はトパーズ。スターピースカンパニーの…って、列車の人?」
トパーズ…Tやん。なんか今回のヒント(あれをヒントとは認めたくない)的に信じないほうがいいか?
「そっち三人は全員そうだ。俺は何一つとして違うただの無から生えてきた一般人だ」
「人権がない…ってことは攫っても大丈夫?」
人の心とかないなこいつ。それとどうせ所属先が碌でもないとかそういうパターンか?
ラノベの『お約束』について可能な限りこの状況に合ってるものを当てはめて推理するしかないとか地獄過ぎないこれ。
東方みたいに知ってるわけじゃないんだ、知ってても精々がキャラの名前くらいだし。
「違うだろ、色々と。てか俺を攫ったところで資産価値なんぞないと思うし」
「いやー、こんな仕事してると出会いが少ないから潤いってものがほしいんだよね。特に君みたいなさ」
「…ねぇ、結局要件はなんなの?」
確かにここまで俺に対しての会話だけで目的に関しては一度も触れられてない。腐っても開拓者の精神を忘れていないということか。
…単に俺が女子と話して嫉妬した、とかじゃないと信じたい。そんなことで今のうちから難癖つけられてたらたまったもんじゃない。
「ベロブルグの為政者さんに用事があったから来たんだよ。…おっと、時間的に急がなきゃいけないからまたね」
俺に向かって手を振って颯爽と駆け抜けたトパーズ。
…キャラを当てるとかではなく純粋に夜を生き残るだけのシャトーのほうがまだマシだよな。なんでこんなもんをしなくちゃいけないんだ。
「じゃ、さっさと行こうかシロイ。私の背中に乗ってくれたらきっとすぐだよ」
「俺は子供かなんかじゃないからな?」
マジでこいつおちょくってんのか。
いや、近づかんでもろて。
「ん、思ったよりも普通の祭りだな」
当然だけど皆しっかり楽しんでおり、三月に至ってはかき氷を購入していた。暑い場所なのにアイスを求めるのはやっぱり人のさがなのだろうか。
「そりゃそうだろシロイさん。この星は殆ど氷に覆われてたんだからな」
「それならしょうがないか。そんならもうちょい火の力出せるようにしたほうがいいか?」
祝砲を挙げるのにガンランスならちょうどいい。戦闘になるのに備えて竜撃砲は使えないけどフルバーストならいける。
「傍から見たら変質者…でも私たちのものになってほしいから変質者になって?」
「何言ってるのなのか。静かにしないと気づかれちゃうよ」
存護の二人の言葉が後ろから聞こえたので引っ込めておく。今回は軽いくらいのヤンデレみたいだな。
「すまん丹恒、俺はお前のことを信用するわ」
そしてTから始まるけど丹恒は信じて大丈夫だろう。こいつらを抑えられる貴重な人間だし…
…風みたいな感じで槍を使うライダーは心当たりあるんだよな…
「わかってくれたなら結構だ。さて、祭りの雰囲気を楽しめたことだしブローニャのところに行こうか」
「そっか、ブローニャのことについては知らないんだっけ。このベロブルグの偉い人だよ!!」
「…あぁ、なるほどね」
なんかゴタゴタあって一番まともだった現地人のブローニャがこの世界の上の人になったってことか。
こいつのお父さんムーブってどうやれと?
「…やっぱり少しは私たちの活動を知ってるの?」
「全然知らない。寧ろ教えてほしいくら「じゃあ今日のホテルでたっぷり教えてあげるから」…悪い、丹恒に頼みたい」
別に主人公のことは嫌いじゃないけど二人きりの密室みたいになったらどんなことをされるかわからないからな。
「えー?私もいればいい?」
「やめとけ、シロイさんとしては同性の俺が安心して話せるってだけだろう。抵抗するときでも躊躇はしにくいしな」
やっぱり丹恒って凄いわ。しっかりこっちのことも考えて発言してくれるから真面目にロールプレイできる…!
もちろん完全には信じないんだけどね。
「ともかく、待たせちゃ悪いし速く行こう!100メートルくらいだしさ!」
祭りだからって浮かれ過ぎじゃない?
なのかに手を繋がれてめちゃくちゃ走ることになった。
「ああ、叶たちか…それに知らない顔もいるけど…」
「気にしなくていい。あくまで単なる祭りを楽しみに来た客程度に考えてくれ」
ブローニャさんは白髪の可愛い女の子であり、銃剣を傍らにおいているから戦闘もできるようだ。
果たして頭を悩ませてるのは何が原因だろうか。
「その、大量の借金があることがわかって……」
「どれくらい?」
「その、一年分くらいの予算…誰かが払ってくれてたみたいで、借りたときから払わなかったよりはずっと少ない金額だけど…お父さまを出せの一点張りで…」
「見たことないじゃなくて形式上は存在しないお父さまだろ。カカリア・ランドとは血の繋がりがないんだからな」
「…!?」
「なんで知ってるとかそういうことを言うつもりはないが、流石にそれくらいの借金で済んでよかったんじゃない?」
まあ、結論としてはバラすというよりそれっぽくミステリアスに動けばバレないやろ。
バレたら逃げて機会を伺うだけだし。
「まさか…!!」
「いや、まぁね。借金が本来ならこれの数百倍あったことを踏まえると、報酬として娘からのハグくらいはもらいたいかな?」
きっしょいなこいつ。ブローニャのこっちに来る反応的になんか致命的な方向で勘違いが確定した感じがするし。
「おとうさま…わたし…わたし…!」
「うんうん、よく頑張ったね。とりあえずたんとお泣き」
胸の中ですすり泣く声を聞きながら背中をさする。ようわかんないけどこれが一番ましだろうか。
…頼むから余計なことにはならないでほしいな。
「…ごめんなさい、お父様。それで、名前は…」
ようやっと泣き止んだ娘に至近距離で見つめられて照れるがそんなことを言っていたらこのあと何回死んじゃうのかわからないのでスルーで。
「シロイ。今は単なるシロイだからブローニャとは血の繋がり以外はないよ」
先にきっぱりこう言っておく。大体ストーリーがちゃんとしているゲームにおける反乱後の為政者というのは有能の塊なんだから俺になるのは不味い。
「ならいいです。その、はじめまして…?」
「う〜ん、気にしなくていいよ。所詮は単なるナナシクサ…いや、ナナシビトと言えばいいんだっけ?」
「そうか。だからこちらのことにやけに知ってるような目を向けていたのか」
「別にしばらくはいなかったし何とも。娘がどうなってるかは知らなかったけどこんな席についてる時点でまあ…ね?」
雑な説明だけどこれくらいで充分。バレないように手に持っていたヌンノスのぬいぐるみを渡す。
「とりあえずお土産としてこれ。最近アクセサリーとかかわいいのを入手しといたほうがいいかなって思ってたから」
「…ありがとう」
そんな感動的な再会(?)をしていると後ろから慌てた親衛隊の声が。
「ブローニャ様、下層で謎の兵隊が暴れているようです!」
「…オッケー、俺ちょっと行ってくるわ。娘にかっこいいところを見せるならこれくらいは苦じゃないし」
まあどんな状況なのかは知らないけどガンランスでぶっ飛ばせないようなことはないでしょう。最悪は状態異常ライトボウガンでハメ技すればいいしな。
「積もる話もあるだろうし後で合流したときに聞かせてくれ。今は部外者が暴れてる現状を止めようか」
流石にここから行くにはちと時間がかかるけど走ればすぐだろう。
「…お願いします、お父様」
「ん、任せといて」
まさか娘ができるとは思ってないから驚きだな…にしたってこの感覚つい昨日くらいに味わったような気もするけどまあいいか。
娘は全てに優先する、だいたいはこれに収束する気がする。
そんなことを考えながら俺はベロブルグの下層へと潜った。