「なーんでこうも最初の状況からなのかね?」
まさかの旧カルデアの部屋からスタート。もともとこの部屋にいた期間が少ないからか見慣れないものの、自分の部屋にいるような安心感があった。
(まあこの部屋で襲われたらひとたまりもないから移動かな…ん?)
移動しようとドアの前に立とうとしたが、机の上においてある紙がなぜか気になる。見ろ、ということなのだろう。
特に呪詛なんかも乗ってないその紙にはそっけない文字でこう書かれていた。
『今回のヤンデレ・シャトーに限り銃弾はリロードなしで無制限に使えるものとなる。それに俺はもうここから降りなきゃいけないから事実上は最後の悪夢だ、精々苦しんどけ』
「ふぅん…まさか7日間は全部仕組んでたのかな。それとも何か出かける用事があったのか…」
さて、オベロンがここまで言うとなると相当のことが起きているのだろう。そして今日はボウガンとかそっち系の遠距離武器と。
銃火器なら間違いなくコヤンが出ているだろうな。
最後の悪夢、存分に踊ってやろうじゃないか。
扉を開けた廊下にはライフルやらショットガンやらの弾幕がこちらへと向けられていた。武器という殺戮兵器をとことん熟知している彼女としてはあり得ない乱発だが厄介さではこちらに軍配が上がる。
念の為ガンランスの盾だけで受け流そうとしたが貫通する。なるほど、ジャストガード以外認めないと。
「せっかくだ、ガンナー勝負といこうか!」
かたやアサシンでかたやマスターだがそんなことより自分のメンタルを保たないといけない、ヨシ。
ヘヴィボウガンの最強格(らしい)を二丁構えて一斉掃射する。とりあえず弾同士をぶつけて相手の姿を認識しないと話にならない。
ちなみにそもそも二丁も持つだけでも凄まじいくらい反動やら何やらが恐ろしいのだがリリスの変容があるせいでなんとかなっていた。体にくる反動は無視するものだとして。
「隠れ場をなくしてやる…!」
どれだけ周囲へと弾をばら撒いても出てくる気配がしないのはアサシン故の気配遮断スキルだろうか。確かなかったと思うけど。
(長期戦は不利だけど弾幕に当たることがきつい…!対人特攻とかBアップとか使うんじゃねぇよいつもありがとうございます!)
周囲に出てきた拳銃を散弾で破砕させ、遠くのライフルは近場のC4爆弾を遠投してなんとかする。というかこれだけやってもまだ終わる気配は一切ない。耐久するにしては人間の範疇超えてきてない?
「そもそも防御アップとか耐久系のスキルないよな…」
何がそこまでして彼女がこうも攻撃してくるのだろうか。確か契約は絶対に破らないはず…てことは他に約束があったのか?
考えることをし続ける余裕もなく、貫通弾から散弾へと入れ替えて周囲へとぶっ放す。環境破壊ってほどではないが、それでも弾幕は途切れずに続いている。
「まあ、そりゃ弾切れがないもんな…流石に休まないと…!」
咄嗟に近場の扉を開け、その中へと転がり込む。少しの手加減もないところが本気すぎて怖いか知ったことではない。
「…ふぅ。埃を被っている部屋だけどいいか…」
誰の部屋かまでは見ることができなかったが、とりあえずカルデアの部屋である以上は安全だろう。
簡素な…とまでは行かずとも物が整理されきった部屋の中で体を休める。
(でも部屋の整理のされ方がおかしいな…?)
よく見ると消耗品すらも完璧に片付けられており、ゴミ箱もひっくり返されているくらいには整頓されていた。
まさかこの部屋の人は死ぬことを予知していたのだろうか。
「すいません、事後報告ですけど借りさせてもらいます」
それにしては光っているパソコンが気になる。近づいていると、ほんの少しココアの香りが鼻を掠めた。
『しょうがないな…でも必ず他の時間でも休憩しないとダメだよ?キミは僕たちと違って換えのきかない大切な人材だ。もちろんこんな言い方をするのはダメだと思うんだけどね』
…幻聴か。というより、この体の記憶かな?
人理を修復したとはとても言いがたい俺からしてみても辛い言葉だが、肩の力が抜けたのは事実だろう。
『どうせなら僕の推しについて話してもいいかな?せっかくならこういう学生らしいことをやったほうがもとに戻ったときに少しでも馴染みやすくなると思うんだ』
「…どうせなら、あのコスプレのほうが良かったな」
悔やんだところでこの体ではどうしようもあるまい。開かれているパソコンをそっと閉じ、肩を回して体の状態を確認する。
『バイタルチェックオールクリア。大丈夫、君はこのまま頑張るといい』
「…言ってきます、ドクター」
外に出るときに弾幕はなかった。
「ええ。Dr.ロマニの依頼は完璧に終わりました。報酬は既に貰いましたし、ケモノ科マスターの泣き顔も追加報酬として眺めさせてもらいましょう。…今度はしっかりとマスターと話したいですね」
…なんで、かな。
歩いていると翼脚をツンツンと杖でつつかれた。振り返ると青い服に身を包んだアルキャスがいた。
「あ、あおい!こっちで一緒にご飯食べよ!」
「いいよ。俺が作ればいいんだよな?」
彼女がどれだけ食べるかは夏イベントで重々承知している。そんな提案をするとこちらへとぷんすか怒って殴りかかろうとしてくる。
「むっ、なんだよその反応は!私だって料理はお嫁さんと同じくらいは作れるもん!」
「怪我しない?魔術で横着しないで煮込める?黒こげに焼けたりしたものを料理って言い張らない?」
「マーリンと同じような言われ方されるの気に食わないんだけどぉ!?じゃあ私と料理対決してどっちが美味しいの作れるか勝負しよ!」
「構わないぞ」
アルトリア、ねえ。前回は持っていなかったのに出ていたから何ともいえないが、こちらはもしかしてバーサーカーのほうなのだろうか。
(いや、それだったらこの見た目はあり得ないか。夏だし弾けてるならこうやって誘ったら早食い対決で勝負してきそうだもんな)
ともかく、火力の面では気にしなくてよさそうだし一緒に過ごしてよさそうだな。どんな奴が来るのかはわからない以上、ゲスい考えだが性能としては最高級の彼女がいることで問題はないだろう。
「その、あおい?心の中で呟いた最高級の彼女って耳元で囁いてもらってもいい?」
「別にいいよ、減るもんじゃないし…」
ちょっとした遊び心というか、いつも助けてもらっている大切なサーヴァントだ。それくらいならいつもの感謝もサービスでつけて返してあげよう。
「最高級の彼女、俺のキャスター。アナタがいることで、どれだけこの世界は救われただろう」
「えっ、ちょっと待って録音してないからやめて?」
なんか赤面で困惑しているアルキャスだがそんなことは聞こえない。だってこんなこっ恥ずかしいことを言う機会なら恥ず過ぎて残してもらいたくないから。
「もしカルデアが天体を観測してるのなら、アナタは最も注目された星だ。アナタを望んで恋い焦がれる人がどれだけいるだろうか」
果たしてこれは俺の精神衛生上大丈夫なのだろうか。まあいいや、もうさっさとシメてやろう。
「どんな生き方だとしても、それでも、あなたのそばにおいてくれるでしょうか。
「み゛ゃ゛っ゛」
奇声を上げてその場に崩れ落ちるアルキャス。少しふざけすぎた…かな…?
ともかく、どうしようもないので食堂まで運んで少し仰ぐか。
「ちょっとあの小娘は何をやってるのかしら!?あーもう…食堂を出たあとにやりたかったプランが台無しになったじゃない!…まあいいわ、それなら私は演出を変えて行きましょう。泡沫の夢だもの、楽しんでほしいわ」
ふと食堂の中に旗があった気もするけど見間違いだろうし。
食堂にアルキャスを寝かせた俺は少し大きく伸びをする。やはりこれだとなんか動きにくい気もするけど、そういうものだと割り切るしかないだろう。
「ふぅ…すこしふざけすぎた気もするな。さて、と…」
今のうちにご飯でも作って待つことにしよう。アルキャスが起きる時間がどんなもんかはわからないけど、ここまで寝ているのなら起こしてもばれないはず。
和食の繊細な味付けくらいなら作れるし、もともとこういうのは俺の十八番だ。
作り終わって待っていると、まつ毛やらなんやらがドンドン気になってくる。言葉とかどうこうで魔猪の氏族と言われがちな彼女も単なる少女なのだ。
「…ま、お疲れさん」
せめて作り終わって待つだけなら膝くらいは貸してやろう。
『疲れているなら誰かに頼ることも必要だよ。マシュやジャックなんかはキミのことを頼っているけど、当然彼女たちも頼られたら助けてくれるはずさ。とりあえずは身近な大人を頼ってほしいな』
…ふう。今日の悪夢は果たして乗り切れるのかな。
懐かしいことばかり言われるし、知りたいけどしりたくなかったことを知らされる。
『うん、やっぱり疲れてるね。エミヤに頼んでご飯を…え?僕に作ってくれって?それがキミの頼みなら任せてくれ。大人にだって見栄というものはあるんだからね』
「…子供にも見栄はあるんだがな」
まあ、そんな独り言だったりに浸っていれば柔らかい毛先が少し揺れた。もうそろそろ起きそうだな。
「おはよう、あおい…あれ、もしかしてもうご飯?」
「うん、勝手に作ってみた。つくづく食べるのは苦手だから気をつけないとな」
間違えて2人分多く作ってしまったけど、まあ誤差だろう。そう思って彼女の目の前によそった一人分だが、アルキャスはどうも挙動不審になっている。
「まだそんな緊張するもんか?これくらいならどこでも普通だろ」
目の前の膳を食べようとした矢先に白い手に奪われる。明らかにジャンヌの手の色をしていたが、着ている服は妙に現代に沿っている。
「あー、マスター?私のご飯でもう一つ用意してもらってもいい?」
「いいけどさ…せめて何かは言うべきだと思うんだよね」
一瞬物凄いブレをしたオルタだが、そこまでおかしなところはなかったと思う。
「ほら、この後も予定が詰まってんだからさっさと行くわよ。全く、なんでこんなのに恋したんだか…」
「…なんかこう、すまん?」
「謝るくらいなら私にちょっとくらいサービスしてくれてもいいと思うのよ。具体的には…口移し、くらいはしてもいいんじゃないかしら?」
明らかにニヤニヤしてるけどそんなことをするのもムカつくからな…
その代わりにご飯を箸で摘んでジャンヌの口へとせっせと運ぶ。
「んむっ…これ、意外といいわね。ほら、もっとやりなさい?」
「ちょっと不公平だよジャンヌ!私だってあおいにあーんされたい!」
「…わかったからせめて片方ずつにさせてくれ」
ハーレム主人公ってこんな気持ちなんだろうな。
「はぁ…とりあえず私だけ美味しいところもらっちゃったみたいで悪いなぁ…でも、多分最後の仕掛けまではわかられてないよね。あの人のところから食器が戻って来るまで頑張ってあおいを引き止めなきゃ!」
普段は絶対に思わないそんな感想を抱きつつ、しばし手を食べ物を運ぶために使うのだった。
「あー…私はあなたのことを好きとかそういうのでもなんでもないから。復讐の焔に焼かれないように精々怯えて過ごしなさい?」
「はいはい、とりあえずいつも通りのオルタだってことは理解したから連れてってもらえるかな?」
オルタがいつも通りポンコツっぷりを発揮したところで手を繋がれて奥に連れて行かれる。曲がりくねった道と階段はどこかで見たことがある。
(マシュの回想シーン…考えてみればこの悪夢のシメには相応しいか)
今日の出てきたキャラは殆どが一部クリアをする前に引いてきた。そりゃ喜んでこの悪夢に参加するはずだ、きっとカルデアにいた『彼』のことをどうにかしようとしているのだから。
「着いたわよ、マスター。あとのことはアナタと関係深いあいつに任せたわ」
無機質な部屋の前に案内したオルタは端のほうから消えていく。霊体化の様子とも違う。
俺が気づいたことを理解したオルタは意地悪そうに笑った。
「あら、今更気づいたのかしら?『この私』はオルレアンからイドまでを経験してきた泡沫の存在よ。安心しなさい、消えたとしても私の影が残っているから」
そんな強がりを言いながらも手は震えている彼女をそっと抱きしめる。塵を抱くようなそんな感覚だが、胸のあたりは濡れている。
「なによ…いえ、ここは普段通りに言ってあげましょう」
「私のこと…一生忘れない傷として覚えていて…?」
…はぁ。オルタの最後の頼みというよりはお願いは叶えてあげるしかないだろう。そもそも頼みそのものは既に最初から叶っているのだ。
「……残ってくれよ、オルタ」
泣くのはまだ速い。そもそも今の俺には─マスターに対しての好意を利用するような俺にそんな選択肢などないのだから。
今日の悪夢は、まだ続く。
結局、オルタと別れたところから体感にして数十分。曲がりくねった暗い一本道を進めばそこには盾を持った少女がいた。
ギャラハッドより託されたその盾を変化させていない、一番最初のありのままの彼女。あるいはこの地下の中に無垢で閉じ込められた実験体。
「こんにちは、マスター。これより先はとある理由により進入禁止とさせてもらいます。如何なる理由があっても、です」
マシュ・キリエライト。ファーストサーヴァントとして最も長く連れ添ってきた彼女からの言葉は拒絶だった。
「進入禁止にした理由は?」
「詳しくは言えませんが準備です、マスター。ここから先は神聖領域となっており、儀式が終わるまではここへと待機してください。邪魔をするなら戦闘へと移ります」
…なんか変だな。妙に喋り方がかしこまってるように感じる。緊張するくらいには大物なのか。
『いや、単になんとも言えないなぁ…マシュ、張り切るときはホラガイとかも吹いてたし』
「とりあえず戦闘をしたほうがいいんだよな」
「ええ、そうなりますね。私は彼のためにもあなたを越えなければならないのです…!」
振るわれる盾を止めるのは容易だが、彼女の気迫がそれをためらわせた。
他人事のように肉体がひしゃげる音と感覚を聞く。
死にかけているとは思えない体ではあるが、思ったよりも自分の感情は動かなかった。マシュに対する思いがそこまで強くならなかったのは特別ルールが解けなかったからなのか。
暗転していく目の前を見ながら、ぼんやりとそう考えた。
「目標、鎮圧しました。私としてはドクターに成長した姿を見せたかったのですが…昔の私と変わっていると言われるなら安心しました。それにしても…来てくださってありがとうございます」
「あー…大丈夫かい?」
優しく声をかけられて目を覚ます。どうしてもあり得ないシチュエーションで彼が話しかけてくる。生きている…というよりは間違いなく死んだのだろう。目の前にいるロマニがいる以上、死後なのは間違いない
「…そうか、天国にでも来たのか。ありがとうな、見送りに来てくれて」
「ちょっと待って、ここは単なる夢の中…みたいなものさ。僕がいる理由はせつめいするよ」
「いやロマニさん何言ってるんですか?」
あなたサーヴァントとしても一切召喚されない存在でしょう。
そんなわかりきっていることだからこそ混乱が止まらない。
「とりあえず僕が今いるのは別世界の神様のお陰…らしいね。確証のないことはいえないんだけど、どうやらこちらの世界の夢を介して別の世界と繋げたらしい」
心当たりは、ある。
確かにスターレイルには夢を扱う店があるし、なんなら今の俺のシャトーの管理人は夢について百日の長があるオベロンだ。不可能なんてことはない。
「なんで、だよ」
どうしても言いたいことはぱっとでてこない。すぐに出てくるのは巨大な疑問。
「…こういう言い方はどうかとは思うけど、僕はもう出ない人間なんだ。退場し終わった僕が、まだ戦ってる君と話せていることが奇跡なんだよ」
「…だろうな」
優しい目からどうしても本人だとわかる。わかってしまうのだ。
「まあ、君との会話を楽しむ分をマシュは用意してくれたみたいだし、たくさん話そうじゃないか」
目の前にココアとクッキーが置かれる。
その後、どんなことを話したのかまでは覚えてはいないけど─
『全く、苦労かけさせやがって…夢の中でくらい休めるようにするのがどれだけ面倒なのか理解するよ。正式に入ったところで疲れるからな。この悪夢から解放されるならまあいい』
─とても
ランキング、ヨシ…?
驚きのままにラストを書き上げた今日このごろ。ヤンデレなんてなかったんよ。
最初の星5→光のコヤンスカヤ
作者のサーヴァントにおける一番最初の星5。この度絆が15に達しました。ちなみにこの直後にモーさんいてビビった。オルレアンから光コヤンと一緒にいるせいでマテリアル読んで二部のネタバレを喰らったのはまた別の話。
アルキャス→アルキャス
多分どんなところでも使われるアーツパの主役、それがアルキャス。魔猪の氏族はかわいいので使いたかったけどバーサーカーは使えないので大人しく一般的な少女として登場。
ヤンデレにしにくいからね、ヤンデレになれないけどね。
復讐の聖女→ジャンヌ・オルタ
アクアマリーでお世話になりました、今まで色んなところでありがとうね。高難易度とギミックイベントでもよく見る常連の子。
ツンデレキャラとしてヤンデレが死ぬほど似合わない女というのが総評。ちなみに結局本編では水着徐福ちゃんのほうが使いやすかったのはここだけのお話。
ファーストサーヴァント→マシュ
パラディーンでの活躍も書きたかったけど普通のシールダーのほうが好み。というかファーストサーヴァントなら星3のまんまである。
オルテナウス?これは知らない霊装だなぁ(すっとぼけ)
出したかった人→ロマニ・アーキマン
やりたかったからやった。後悔はしてないし反省もしない。そしてこれ以上出すつもりはない。
前回のアーチャー→花火(スターレイル)
今回の黒幕の手先。正確には別世界の神様こと愉悦神アッハ。オベロンから持ちかけられた話をおもしろそうだから手伝った。
ちなみに中途半端に開けたところはコピペするか誤字報告で読むとわかります。
つまりそういうことです。
次回→リクエスト企画