「今日から元のヤンデレ・シャトーに戻すことになった」
「だろうな、お前二人来てたもんな」
オベロンはオーバーザセイムスカイで2体きた。というか周年だからってカオス過ぎる引きをさせないでください…ヤバい女子ばっか来たせいで大変めんどくさそうな気配がしていて嫌なんです。
「というかフォーリナーとか関係なしに引いたせいで新顔がやばくなってることに気づけ」
「うっ…しょうがないだろ、引けば当たるんだから…」
推しを引けなかったからと言ってやけくそで引いたのがよくなかった。もはやこんな来ないのは全部オベロンのせいだ。
「理不尽なことを言ってるがお前のせいだろ。責任は全部お前だ、理解したか?」
「うぐっ…」
ともかく、間違いなく嫌な人達のところへといかなきゃいけないのだろう。
なんで今日だけでSAN値が全滅しそうなシャトーに入らなきゃいけないんだよ。
「まあ怒らせなければいいだけの話だろう。誰が来たとしてもまともな奴らしかいないぞ」
「色物枠しかいないからな、そりゃそうなるだろ」
間違っていないのが絶妙に腹の立つ理由である。
というかなんでこんな引きにエクストラクラスが多いんだよ。頭おかしいくらいやりたくないタイプのキャラばっか…
「どうせならロウヒとか引きたかったなぁ…」
「ある程度は会話の通じるだけましだろ。ほら、ウジウジしてないでサッサと行け」
トントン、ガチャリ。
「お兄ちゃん?」
寝ているベッドの横から声をかけられる。隣を見ると白い髪の毛がぴょこぴょこと動いており、誰なのかは明白だった。
「プーリンか…」
「そうさ。お兄ちゃんの妹のプーリンだよ」
少し普段よりも幼く見えるプーリンは、なんでなのかはわからないけど包丁を構えてる。確かに元祖のヤンデレが持ってる武器の一つだな。ヤンデレジャパニーズソード、構えないでほしいです。
(あれ…この後ってなにがあったっけ…?)
どこかで見たことがあるような場面だけどそれを詳しく思い出せる気がしない。
唸ったりするのではなくプーリンをじっと眺めていると、こちらに対してちょっとだけ恥じらった表情を見せてくる。
「ごめんね、今日のこと謝りたくて…」
「ならリビングのほうで話そうか。流石に正面に座って話したいし」
正確には寝転んだ状態から行動できないからなのだがそれは言わぬが花だろう。
というか明らかにスケスケなネグリジェを着ていることについては兄としてつっこんじゃいけないのかね。
「ごめんね、お兄ちゃんの美味しいご飯作れなくて。今日はどうしても外せない用事があって…」
「別に気にしなくていいよ」
「ううん、気にするよ。だってお兄ちゃんは私の晩ご飯楽しみにしてくれてるもん」
…やばい、物凄い既視感が凄い。具体的には元ネタがヤンデレまで思い出せるくらい思い出せている。
「作り置きも考えたんだけど、やっぱりお兄ちゃんには出来立てのものを食べてもらいたいからね」
「魔術とかの応用で出来立てにするとはまた違うもんなぁ…というか外せない用事ってなんだったんだ?」
「でも大丈夫。明日からはちゃんとお兄ちゃんにご飯作ってあげられるから安心してね。べ、別にお兄ちゃんのことが嫌いになったとかそういうのじゃないから!」
ダメだこれ話を聞かないパターンだ。ヤンデレブームの火付け役のミームだからってふざけすぎなんだよ。
(しかし話を聞いてくれないのは困ったな…ちょくちょくプーリンっぽいアレンジは加わっているけどラストの顛末とか変わらないパターンだろこれ)
「寧ろそうじゃなくて…フフッ、これはまだ言わないでおこうか。これもいわゆる伏線というやつになるんだよ」
「伏線どうこうじゃなくて今すぐ教えてもらってもよろしい?死ぬんよ、色んな意味でわけわからんくて」
「あっ、そう言えば昨日の悪夢はどうだった?ティフォンも私の妹だからね、どんな悪夢の作り方をしたのか気になるんだよ」
「前のほうが断然よかったってことは俺の中で思ってるぞ。体が変なのはさておいてだけどな」
「そっか…よかった、お兄ちゃんの口に会ってないみたいで安心したよ。ちゃんと他の女狐に洗脳されてないようで何よりだ」
…前回は確かエミヤに相談したくらいだしな。逆にここからどう浮気を疑われればいいんだよ。なんだ?俺がホモになることはないんだからな?
ブリテンダーに少し恐怖しつつ、そっとプーリンの手を握る。もし包丁を振り回されたりしたら即取り押さえられるようにだ。
…まあ、この形だとテーブルを挟んだ状態になるわけなんだが。
「お兄ちゃん、恥ずかしいよ。欲情してくれるのは嬉しいけど、そういうのはこんなところじゃなくてベッドでやろうか」
「…まあそうだよな」
包丁を取ろうとしたけどどこかへと隠された。触ったときに血が出たのも踏まえると持っていたはずなのにどうしてだろうか。
「おっと、血が出てしまっているじゃないか。私のハンカチでちょっと拭き取ってあげるから動かないでね」
すっと手を布で拭き取られる。くすぐったい感覚だが全く止血がされてないので止まらずにぽたぽたと落ちてくる。
「これでよし、と。お兄ちゃんの血はやっぱり保存しておかないとだからね」
「魔術の触媒かなんかだと思ってるの?…それと、明らかになんか嫌な気配がするんだけど」
「そういえば最近お兄ちゃん帰るの遅いよね」
強引過ぎる話題転換、ヤンデレCDならではの光景である。だがなんて答えればいいんだろうな…
「美術室でよく根暗な人と話してるよね?」
「まあ、うん…確かに話すことのほうが多いな」
根暗な人の美術室でフォーリナー…絵画の絵の具になってましたってオチにならないように気をつけないといけなさそう。
(そもそもプーリンから逃げ出さないといけないんだけどな…)
「まあでも、お兄ちゃんにはあんな人と過ごしてほしくないんだよね。根暗な人とお兄ちゃんが過ごしていたら、お兄ちゃんまで腐っちゃうもん」
しまった、なんにも否定できない。言葉に詰まってるのを見計らってこちらに更に話をふってきた。
「あっ、今日の晩ご飯ってどうしたの?」
「いや、なんにも知らないんだけど…多分母さんのご飯だと思う」
最もその母さんが誰なのかはわからずじまいなのだが。とりあえず無難な答えでいけそうなものばかりでお茶を濁そう。
「ふぅん…わかった、君の体は汚染されてるね」
「おい待て汚染なんてされてないぞ?」
「いいや、そんなわけないじゃないか。あいつの泥みたいな飯を食べるなんて正気の沙汰じゃない、お弁当だって満足に作れないあいつより私のほうがいいじゃないか!」
「なんでお弁当になるん…?そもそも危ないからやめてもらえる!?」
飛んできた包丁を指で挟んで止め、そのままこの部屋から脱出するためにドアを開けようとする。が、なくなっていることに気づいた。
「お兄ちゃんの頭がおかしくなっちゃったね…大丈夫!私と一緒に居たら治るからさ!」
「あーもうこれだから人の話を聞かないグランドロクデナシは!」
一応見渡して他に扉がないかを確かめるが、残念ながら先ほどベッドがあった部屋しかない。
「どうしてそんなに拒むのかい…?そうか、お兄ちゃんは私の愛を試してるんだね!任せて、永遠に幸せにしてあげるから!」
夢に閉じ込められるなんてたまったもんじゃない。床をそのまま包丁で切り裂き、下のよくわからない空間へと侵入する。
まだここにいるよりはマシなはず、多分。
落ちた場所は真っ白な上下もわからなくなってしまいそうな世界。そこの境目に二人で佇んでいた。恐らくここは夢と現実の境界だろう。
「座長さん?それともマスターと呼べばいいのかしら?」
「どちらにしても速く帰ってください」
なら当然夢のセコム業者ことアビーもいる。というか間違いなく宝具のあの世界だ。ここはシンプルに怖いから帰らせてください。
(超高校級扱いされる復讐者さんも同じはずなのに来ないのはなんでだろうか…?)
しかしサッサと退散するか死ぬかしないと精神が耐えられないで発狂してしまうだろう。
「ふふ、イケナイ子のアビーをどうか叱ってくださいな」
存在してはいけない触手が自身の五感へと侵食する。ソレは本来ならば見て理解してはいけない─否、見たところで理解できるわけもない。矮小たる愚かな一人間としての自覚と上位存在からの憤怒を受けている身としての恐怖が思考を支配する。*1
(なんか凄い思考がヤバいかもしれない…あ、ゴリッと正気じゃなくなった気がする)
気持ち悪いくらい思考が安定しないけど、それだけでここから脱出しない選択肢にはならないので体をアビーとは真反対へと向ける。逃げれるかは知らないけど、こうするほうがいいだろう。
「まだ向かってきてくれるのね、マスター。なら私はあなたの体を徹底的に壊しましょう!」
中空からでる触手をオートガードで受け止め、隙ができたら逃走。できる限り安全に動いてはいるものの、たまに地面から出てくるせいで回避の方向が難しい。
「あら、随分粘るわね」
「う〜ん…やめてもらってもよい?」
対話も何もない状態なのが本当にしばきたいけどどうしようもない。こちとら単なる一般人だぞ。
(…待てよ…?)
夢の中である、ということならある程度は自分自身の望みを反映させられないだろうか。
そう思って無理矢理魔女の家を作成する。
「逃げ込めるセーフエリアくらいは許せよ…!」
もう既に正気ではない行動ばかりではあるものの、逃げれるのならある程度は問題ないだろう。
魔女の家。フリーゲームの中ではまあ、有名なほうだろう。しかし当然ながら家だけを作成したのであり、誰もサーヴァントなんか呼ぶつもりはなかった。
「おかえりなさい、私のかわいい子供。ご飯にしますか、お風呂にしますか、母にしますか?」
まあ安全地帯なんてものはサーヴァントに潰されるのが当然だよね。ティフォン的には願ったら即こんな風に反対のことをやるのが常だからしょうがないか。
ともあれそんな感想を抱きつつ、目の前にいるキャラへと丁寧に返事をする。
「ただいま、ティアマト母さん」
「子供からそう呼んでくれるのはとっても嬉しいです。そのままハグしてもらえると母はもっと喜びますよ?」
質問のように話しているけど、実際はもう既に抱きしめられているので無駄である。本人曰く「スコシダケ オモタイ」らしい角に触らないよう慎重にハグの位置を変える。
(というかプーリンの言ってたことって本当じゃん…てか大統領は結局いないんですかそうですか…)
確かにティアマトなら泥そのものを食事として出してきてもおかしくないし、プーリンが妹ならティアマトは母の配役で違和感はない。果たしてそれがいいことなのか悪いことなのかは判断がつかないのだけど。
「とりあえずお風呂に入ってきてください。少し匂いますから」
ティアマトはこの感じだと問題ないのかな。妻に見えるけど単なる母と息子の関係にはなるし…いや、やっぱり色んな意味でよくないと思うかな。
「もう、悪い匂いばっかりつけてきて。母のものなんですからちゃんとそれも含めてお友達に言ってくださいね?」
前言撤回、普通にヤンデレだった。友達扱いなのは二人とも人ではないからだろうか。ともかく怪しまれないように振る舞ってここから脱出するか。
「ん、気をつけとく」
しかしプーリンやアビーとの逃亡でかなり時間が経っていたのでもう体が透け始めた。
「ふぇ!?母のこと、嫌いになった…?」
「そういう仕様としか言いようがないんだけど…」
ティアマトが明らかに動揺してるけど知ったことではない。というか家庭未来図のときにいたからある程度は知ってるだろ。
「ちゃんと明日から母も頑張る、よ?だから今度はもっと、悪夢に溺れるようにしてあげるね?」
視界が泥で覆い尽くされるが、そんなことは覚めるのに大して引き止めることではない。
「一緒に幸せになろ?ね?」
「…まじかぁ」
額についていた黒い泥を拭い、朝の支度をする。今日は折角の涼しい日、出かけるにはもってこいの天気だ。
「散歩にでも行かない?」
「シャー♪」
ガラちゃんが首元に絡みつき、そのまま腕の中にしゅるしゅると入っていく。
エアコンは切った。電気も消した。ごはんの炊ける匂いなんてのもしないはずだ。
「…いってきます」
『『『いってらっしゃい』』』
…だが、今日だけはナニカ得体の知れないものが居着いているように思えた。