「今日から家族になろうよ!」
「…おままごとでもすればいいの?」
いきなりヤバそうな発言をしてきたジャックを抑える。ジャックのおよめさんになるつもりは今のところないからな。
「ううん、ほんものの家族!わたしたちと結婚して、おかあさん!」
「やだよ?今の会話の流れでプロポーズにはできないよ?」
ちなみにガラちゃんはジャックにもう懐いており、頭の上でくるくる回っている。
なんか天使に見えてきた。どっちも嫁にはやらんぞ。
「むぅ…おかあさん、どうやってプロポーズすればいいのか教えて!」
「…それは俺にプロポーズしろって言ってるの?」
「うん!おかあさんからしてほしいの!」
チラッとこっちを見てくる眼差しは純粋に見えるけど、そんなものでジャックの提案に乗ろうなんて思うわけがないだろう。
「せめて指輪とか用意してきたら?」
「うー…ちょっと待っててね!」
さて、このままだと結婚させられそうなのでどこかに逃げないといけない。
…結婚とかしたら再臨段階下がるとかあったら嫌だからな。
「あ、それについては気にしなくていいですよ?」
「ふぇ!?…なんだカズラドロップか」
こちらに後ろから話しかけてきたのはサクラファイブのアルターエゴ、カズラドロップだ。どちらにせよ警戒しなければ変わらないが、最近引いたこともあってどんなキャラなのか計りかねる。
あのイベントでオベロン引けなかったの本当になんでだよ。
「…むっ、マスターさんはどうやら別のお邪魔虫について考えてますね?」
「オベロンは、まぁ…」
否定はできないけど、そんな深くは考えてないと思う。たかだか周回の有用性について考えていただけだ。
カズラドロップってジャックと合わせて使っているからな…Qサポ…水着スカサハ…
「他の女の人のことを考えているマスターさん?あなたのサーヴァントのカズラドロップですよー?」
「視界をのぞき込まないでくれよ…つーか今回のシャトーってどんなルールだよ」
「それではこの私が説明しましょう!」
エヘンと胸を張ってどこからかホワイトボードを取り出してきた。虫空間ってそんな便利なものなのか…?
「今回のヤンデレシャトーのテーマは『マスターさんとの結婚』です!基本的には指輪をマスターさんが通せば終わり。なんともわかりやすいですよね」
「そんな生やさしくないでしょこの感じだと…」
「はい!この世界にあまりいないのにすぐ馴染むんですね!」
明らかにトゲのある発言に凹みつつ、カズラドロップに更に聞く。
「というか6日間過ごせばムリヤリ慣らされるに決まってんだろ…まあいい。で?」
「はい!明日のヤンデレシャトーで実際に家族として過ごしてもらいます。2日連続のマスターと過ごす機会は逃したくないんじゃないでしょうか!」
「普通に寝させてくれよ。夢見が最近ずっと悪いんだぞ?」
「やっぱりまだヤンデレ成分が足りていなかったから悪いと。今から私が頑張って変身しちゃいましょうかー?」
「いや、やんなくていいから。黙って休ませてくれ」
なんで慈愛のアルターエゴなのにこちらにこうも構ってくるんだろうか。
そこいらにいる人類にでもばら撒けばいいのに。一人に集中させるなんてそんなバカなことはしないでくれ。
「むっ?なんでそんなに不満そうなんですかぁ?まさか最新だからとか知れてないからって敬遠しちゃってます?」
にしたって結構辛そうだけど。後ろからなんかやな気配も感じるし、さっさと逃げたほうがよさそうだ。
「ま、そんな訳で速く逃げたいんですけど」
「ダメですよ?マスターさんはダメダメな人類ですから、私のものとして管理されないと。ほら、誓いの証だって用意したんですよ?」
「それ単なる首輪だろぉん!?」
見せられたのは『カズラちゃんのおむこさん(笑)』と書かれた首輪。それ。渡されて喜ぶのは一部の熱狂的な変態だけとしか言えん。
当然ながら俺には当てはまらないそれを簡単に躱し、ダクトを蹴破って逃げ出した。
「………ふぅ」
落っこちたのはやたらとかわいいぬいぐるみばかり置かれている部屋。エッチや雰囲気とかそういうのはなくて単に癒やされる。
「はて、こんなに集めている奴なんて誰かいるかな…?」
「私だ」
どさっと置かれたハンバーガーとフライドチキンの箱。
こんなジャンクフードを好むサーヴァントは一人しかいない。
「アルトリア・オルタ…!」
「そうだ。マスターはどうやら随分とこのベッドルームがお気に召しているようだな…女装でもしてみるか?」
「ぜっったいにやだ」
「ふん、新宿では着ていたのにか?」
新宿のときのパーカーを脱いでこちらへ投げつけてくる。優しい手つきではあったが、ちょっと暖かくてさっきまで使っていたのがわかる。
「ほれ、着ろ」
「邪知暴虐な王のごとしだな…」
「そうでなければ王など務まるまい。寧ろメロスなどという間抜けに押されたのが悪いのだ」
袖を通さないと見るや、こちらのことをぐいっと引っ張り始めた。
「
「まぁそれくらいならいいか…」
ベッドの上で話してるからいつ襲われるかわかったもんじゃない。ひやひやしながらオルタについていった。
テーブルやらなんやら、ともかく普通の家だった。こまごまとした掃除ができているのは水着でメイドをやっていた経験からだろうか。
「子供もいないから2人だけの食事だ。…まあ、私のように大食漢だとこれぐらいのほうが食費として丁度いいか」
どさっとテーブルの上に置かれているのは軽く4人分のファーストフードである。どれもこれも揚げたてのようで本当に美味しそうだ。
「ま、結婚するとなったらこうやって食べる機会は少なくなるだろうからな…」
「なに、子作りしなければ問題あるまい?もちろんマスターがやりたいのなら話は別だが」
「まぁ、そりゃな…」
食べてる最中に言われたら吹き出すからやめてほしいと想いつつ、つい笑ってしまう。
「そういえば、マスターはやけに家庭的に料理ができると言っていたじゃないか。特にリリィから振る舞われたシチューなどもう一度食べたくなるくらいだぞ?」
「オルタが認めてくれたんなら何よりだな。暮らしてくやつの好みくらい覚えられないでどうする?」
「そこまで強い発言をされてもな。私の体でしか礼はできんぞ?」
「構わねぇよ。洗濯までやってもらってんのに料理くらいはできないとダメだろ?」
「…私としてはダメ人間になって依存してほしかったのだがな」
「そうまでなったらいい顔みせられないだろ?」
「それもそうだな。つくづく尽くしがいのあるマスターだ」
…待てよ?なんかおかしいな?
本来そもそもオルタと結婚を誓い合った仲だったし、今日婚約指輪の分のQPが溜まったからプロポーズしたんだよな。
うん、間違っていないはず。
「どうした、マスター?私のことについては気にしなくていいから好きに食べていいぞ?」
「それならよかった…なんか、ふと疑問に思っちまってな…」
なんで上の空から赤い光が来てんだろ。バルファルクってえっちゃんだっけ?
「私は端的に言えば自分で自分の脳を破壊されているように思いました。つまりふざけんなこのヤロー」
「ごめん、ってなんかちょっと強くない?」
「甘んじて受け入れてください」
えっちゃんにぽかぽかと殴られつつ正気に戻った。カリスマEとかそれくらいでも簡単に染まるなんてな…
チョロインとかこんな感じなのかね?
「こんどアンパンでも作ってください。マスターさんのアンパンを毎日食べたいです」
「プロポーズにしてもちょっと意味がわからん。つーかそんなことやったらバカみたいに費用かかるぞ」
「そんなの…お仕事、頑張ってくださいね?」
「かわいく言っても騙されないからな?」
飯をたかりにくる後輩と考えればましか。にしてはだいぶ図々しいけれど、それも愛嬌みたいなもんだと思えば…
いやダメだな。指輪を持って迫るヒロインはもうホラーの領域だ。
「むしろ後輩ヒロインとして普段から関わってくる幼なじみポジでは?」
「それを百歩譲ってやるにしてもいとこなんだよ。お前が出しゃばれることなんて一つもないぞ」
「そんな…、私のヒロイン力を下げるようなセリフを…」
「ヒロイン力ってなんなの?謎でしかないんですけど…」
ヒロイン力じゃなくてあるのは後輩力にしろよ。絶対にマシュに負けるんだから。
「しかし正ヒロイン(笑)から産まれたクローンの私はこれしきでは動じません。ならば実力行使です」
手をこちらへと構え、なんちゃらかんちゃらと声を出す。すると体が勝手に動き出し、えっちゃんから指輪を受け取ろうとしだす。
「見えざる王の手、プロポーズ版…!」
「使い方絶対に間違ってるからな…?しかもこれどっちかっていうと誘拐婚とかそんな感じだろ…!」
「オルタシリーズはみんなこんな感じらしいです。強引な側面、マスターがお好きでしょう?」
「嫌いだよ!?」
「う、うぅ…マスターさんから嫌いって言われて泣きました。つまり女を泣かせた責任を取るとのことで結婚するということで…!」
「誘導尋問じゃねーか!」
とはいえ女を泣かせた事実に変わりはない。こんな理不尽な理由でずしっと責任が肩にのしかかる。
「ふふふ、やっぱり情に訴えるのが確実ですね。これでえっちゃんの大勝利です」
「今のところヒロイン力なんて微塵も感じないしむしろ低下してるんだが?」
「大丈夫です、話しても理解できませんから。子作りすればわかりますよね?」
「もはやそれハニトラの類じゃねーか!?」
「ヒロインとしては失格ですけど、こうでもしないとマスターさんを落とせませんから」
どうしようもないくらい押し込まれているが、これでも逆転の手はある。
「来い、ジャック!」
ジャックならきっとこの状況を打開するはず。
「うん、おかーさん任せて!」
「…おかあさん、指輪用意したよ!」
「…そっかあ、そうだよな…」
ヤンデレの鯖から逃げるのにヤンデレを利用したら捕まるよな…
後悔しつつ、ジャックちゃんの指輪をみる。
頑張って作った金色の指輪をみつつ、ジャックちゃんから逃げ出すためのことを考える。
「おかあさんはいやなわけないよね?わたしたちのこと、大好きだよね?」
「そりゃそうだよ?最初の絆10が何を言ってるのさ?」
「わたしたちがおかあさんのものだってわかるけど、わたしたちのものだっておかあさんのことはわからないでしょ?」
…言ってる言葉がよくわからん。多分ジャックちゃんのものである証明を俺に贈りたいってことなんだろうけど。
「そもそもナイフでよくないか?」
「やーだー!もっとかわいいのがいいの!」
「そう言われると指輪とかのほうが最適なんだろうな…」
そもそも善意から言ってくるのを断り辛いからな…わざとやってるならジャックちゃんの成長に心が震える。
ガラちゃんがなんかフンフン誇ってるし、一番安全なのはジャックちゃんなのかな…
「明日も一緒だけどいいの?」
「うん!おかあさんと一緒なんでしょ?みんなでなかよく独占できるといいな!」
「次のヤンデレシャトー大丈夫かな…」
どの状況でも殺されたくないんだけど、次のシャトーって家族だから逃げにくいんだよな。
果たして生き残れるのかなぁ…
「おかあさん!ガラちゃんって連れてくの?」
「そりゃ当然だよ。ガラちゃんは大切なペットだし…」
一緒にいてくれれば疑似ガンドもできるし選択肢が広がるんだ。変にエッチなこととかされそうになったら麻痺させることもできるから強い。
多分ジャックには反応しなさそうだけど。
「それじゃ、おかあさんまた明日!」
「あ、指輪を受け取った判定…っていつのまに!?」
こんな話をしている最中にさらっと薬指に指輪がはめられていた。この方法は流石だなー…
いや、なんでつけれてんだよ。
「畜生、眠いな…」
どうしても気だるげな体をもそもそと動かし、ようやく明るくなった空を見やる。
「わかってる、わかってるんだけどな…」
例え落ちつかないと知っていても、深呼吸をそっとくり返す。ガラちゃんが首もとに巻きつくのを丁寧に剥がし、服を着替える。
…試練が近づいている朝にしては、じっとりと冷たかった。
ジャックちゃんの立ち位置は?
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おねえさん!
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おかあさん!
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いもうと!
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そんなことよりシエル出せ