TS長身コミュ障女は旅に出る 作:Revak
「そーいや、あの人は最近どうなの?」
昼過ぎの冒険者ギルドの受付で、雑談が始まろうとしていた。
冒険者ギルドは基本朝の十時までが混む。それ以降はまばらになり、基本は──何かしらのアクシデントが無い限りは──暇だ。
「あの人?」
「ほら、あの仮面付けてる人」
あー、と話しかけられた方──ソリアは同僚の問いかけにどう返すか悩む。
冒険者について受付が他者に話すのは禁止されている。理由は当然個人情報だからだ。
少なくとも自分について他人にあれこれ勝手に言われるのは気分が悪い、と思う冒険者が多い。故に最も冒険者と関わる職業である受付は他者と冒険者について語るのは禁止されている。
だが、相手は同僚。ならばいいか、とソリアは話すのを決断する。話しかけてきたのは最近入って来た新人であり、ここの冒険者全員に詳しい訳ではない。
ソリアでは気づけない。昼過ぎだというのに依頼も受けずギルドに併設されている酒場で飲んだくれている一部の冒険者の意識が自分たちに向いたことには。
「……えで──あの人に着いて何が聞きたいの?」
「ん―と、まずは職業かな。戦士? それとも魔法士?」
魔法士というのは主に魔法を使って遠距離で戦う者を差す言葉だ。
この世界に置いて魔法とはほぼ万能の力だ。
何処までも個人の才能にのみ依存し個々人によって出来ることも出来ない事も変わる力の使い方は、当然の様に個々人によって違う。
戦士は己の身体能力を上昇させ、近接戦闘に特化した者を差し。魔法士は自己の強化をほぼせず、遠距離攻撃に特化した者を指す。
また魔法を使える者の総称を魔法使いと言い、そこから近距離型か遠距離型かで分けているのだ。
広義で言えばこの世界の戦士も魔法使いに分類される。魔法を使うモノ全てを魔法使いと呼んでいるのだから。
更に言えば魔力と言う超常のエネルギーを使っておこなわれる現象全てを大雑把に魔法と呼称しているに過ぎない。大概の超常は全て魔法扱いされる。
「一応はあの人魔法士で登録されてるね。ただ剣も持ってるから両方できるタイプだと思うけど」
魔法使いにとって厄介なのは中には何でもできる万能型もいるという事。
近距離も遠距離も中距離も出来るという万能型と言うのも一定数居るのだ。
そう言った者はどうするのか、となるが基本は魔法士として扱われるようになる。
「そっかぁ。魔法士かぁ……あの人ここに来る前何してたんだろうね?」
「それは私もわからないなぁ。一応は他の街で登録されてからここに来たっぽいけどね」
冒険者ギルドの受付嬢には一定の権限がある。
その権限の中には依頼を受ける冒険者のこれまでの活動履歴の確認も含まれている。
だが当然の様にそれは今いるギルド内での活動記録の話だ。他のギルドで活躍していたのだとしても別の街にその活動記録がある訳がない。
精々が冒険者登録した者全員に配られる
「そっかぁ。仲間とか居ないの?」
「いないっぽいよ。依頼もまとめてけて達成して、それだけ。臨時パーティ組んだりとかしないし」
「えー、なにそれ。変わってる……てレベルじゃないね。大丈夫なの?」
冒険者ギルドとて薄情ではない。将来有望な冒険者などには贔屓する事がある。
エディス等は言うまでもなく将来有望どころか現在進行形でギルドにとって利益がある存在だ。
依頼達成率驚異の百パーセント。アクシデントに見舞われようと必ず依頼を達成する。
また依頼以外でも利益がある。一週間のうち勝手にモンスターを狩りまくりその素材をギルドに売るのだ。しかも大量に。
時にはレアなモンスターの素材すら売って来るエディスは冒険者ギルドの稼ぎ頭としてギルド内で扱われていた。
だが、ソロだというのが懸念されている。
たった一人では何かあった際に何も出来ずに死ぬ。それはギルドにとって手痛い損失だ。
「何度かパーティ組みませんかって提案したけど、全部断られちゃった」
ソリアとて何もしてこなかったわけではない。何度か言い方を変えてパーティを組むのを提案したことがある。
だがすべて取り付く島もない。全て最短で「結構です」と言われ依頼に行かれる。
「そっかぁー、うーん。彼? 彼女? ってこれまで何処で活動してたの? ここに来た時には既に登録されてたっていうし」
「それは──流石にもう言えないかな、うん」
ちらり、とソリアはこっちを見ていた冒険者達に顔を向ける。
聞き耳がばれたことで冒険者達がわかりやすくそっぽを向くのを同僚も見、しょうがないかと仕事に戻る。
ただ、ソリアだけはエディスについて考える。
(彼女、ここに来る前に登録されてたけど──登録してた街とここじゃぁ距離が離れすぎてる。
そのくせ登録後一月でここに来た……登録して即移動を始めてないと説明が付かないけど、いったい何なんだろう)
まぁ、考えても仕方が無いか──とソリアは仕事に戻った。
森の奥深くで一匹の獣が唸り声をあげた。
森の奥深く、地理と環境的に植物が生えにくく、木の一本すらない森の中の平野にて人と獣が対峙する。
巨大な姿。三メートルを超える巨体に毛皮に覆われた体。
その手に着いている爪は鋭く、事実鋼鉄程度ならば容易く斬れる鋭利さを有している。
目は赤く血走り、理性を失いかけている。
熊型のモンスターであるレッドグリズリーと言うモンスターだ。モンスターとしての特徴は常に飢えており動物ならば目に付くもの全て食い殺しにかかるのと、その外見通りの戦闘力を有しているところだ。
冒険者ギルドが定めた等級はDランク。これはDランクのパーティ、つまり四人以上の者がレッドグリズリー一体を相手に出来ると定めた事に成る。
それと対峙するのは、レッドグリズリーに劣らぬ体躯を持つニンゲンが一人。
長身、百八十二を超える身長に反し枯れ木の様に細い体。
ローブを纏い体格をわからなくさせ、そのうえで仮面を被る事で表情すら読み取らせない女。
言うまでもなくエディスである。
エディスは今、討伐任務として受けたレッドグリズリーと相対していた。
「グオオオ!」
レッドグリズリーはにらみ合いを辞め、その爪で獲物を斬り裂かんと腕を振るう。
エディスもまた長剣を振るう。
圧倒的速度。人外の領域の速度で振るわれた長剣はレッドグリズリーの腕を斬り落とす。
そしてレッドグリズリーが苦痛に喘ぐ声を出す暇もなく、長剣はレッドグリズリーの頭部を斬り落とした。
(これで依頼は終わりか)
斬り落とされたレッドグリズリーの頭が地面に落ちると同時に光の粒となって消える。
これはモンスターが起こす現象──ではなく冒険者ギルドが発光しているギルドカードの能力だ。
冒険者ギルドが登録しているモンスターや動物にのみ、討伐後自動的に解体と収納をするというカード自体が持つ魔法能力だ。
収納先はギルドカードであり、容量や解体の精度は使用者に依存するところがある為にエディスが使えば実質無限である。
一応中身を保存する能力もある為に幾らでも討伐し収納が可能な
余談だが魔法的な能力を持つ道具の総称を
「……はぁ」
思わず、といった風にエディスは溜息を零す。
ゴブリンの巣の掃討は何一つ問題が無く終わった。そもそもゴブリン百体が殺す気で棍棒を振るったところでエディスには一切合切ダメージが入らない。
単純な肉体強度でさえも生物の領域を超えている。今のエディスは破城槌の直撃を受けてものけぞらず傷一つ付かない。
そして実質何でも斬れる剣を持っている、となればゴブリン程度単なる作業に過ぎない。
首尾よくゴブリンを掃討したエディスは採取を終わらせ、最後にレッドグリズリーを倒しに来た、という訳だ。
「はぁ~」
再度、エディスがため息を零す。
エディスが今の生活を始めて一月が経過していた。
代り映えしない毎日。週に一度ギルドに赴き依頼を受け、モンスターを倒す。
エディスがギルドに行くのは週に二回。依頼を受ける日と達成した処理をするだけ。
週の初めに依頼を受け、週の終わりに依頼達成の報告をする。
その間は外でモンスターと戦うだけ、という血生臭い日常にエディスは辟易していた。
元が日本人であり戦いとは無縁の人生だった。だが転生したことによって人を殺す事もモンスターを殺す事も自然に出来る様になっていた。
女の体になったからなのか、あるいは転生した時に神が何かしたのか。理由はエディスにはどうでも良い事だった。モンスターを殺す事で食っていけるのだから。
(目標まで遠いな……少しぐらい娯楽に……いやいやダメだろ……)
エディスが目標とする金額は五千万G。
このGというのはこの世界全体での通貨だ。だいたい一Gイコール一円程になる。
つまり五千万円エディスは求めている。
理由は当然人のいない場所の土地を買う為だ。その為の最低値が約三千万でありそれよりは億、という事で五千万を目標にしていた。
その為の節約だ。
宿に泊まるのは週一。食事はしなくてもいいのでしない。武器防具は自分で作れるので費用にはしない。
魔法と言う超常を前提にした生活をエディスは送っている。
(寝るか)
深い、深い溜息を零して動きを再開する。
「<破邪結界>」
エディスが行使するの中位の魔法。
魔法にもある程度ランクがある。
下位、中位、上位。そして最上位に禁位。
ただしこれはある程度それっぽく等級分けしただけであり、実際には等級の差など無いに等しい。
あくまでも魔法の難易度や使いやすさ等で分けただけであり、上位の魔法が使えるから強い、などという事は余りない。
これは魔法士協会という全ての魔法使いを管理する組織が魔法の難易度と使いやすさで定めた等級だ。一つの魔法に幾つ効果があるのかで等級が決まる。
効果が一つならば下位。二つならば中位。三つなら上位。三つ以上あるならば最上位と言う分け方になっている。
最後の禁位は効果の数や使用難易度というよりは容易く使われると世界が混乱する魔法を禁位と呼んでいるだけに過ぎない。
例を挙げれば黄金などの貴金属の製造魔法や死者蘇生、他者洗脳などの魔法が禁位扱いされている。
使用難易度で決められている訳ではない。何処までも才能と言うモノに依存する魔法技術は分かりやすい指標が無い。
またも例を挙げるとするならば死者を一日百万人、距離も関係なく千年前に死んだ人間だろうと問答無用で蘇生出来る者がいたとしよう。
そのものにとっては死者蘇生など呼吸するのと同義だが、代わりに他の魔法が一切合切使えない。そのように尖った者もいる。
上位の魔法が使えるから下位の魔法も使える、などという事は無いのだ。
逆に下位の魔法しか使えないくせに大陸の半分を消し飛ばす。そのような者さえいる。
今エディスが使ったのは結界魔法だ。
使用者が定めた対象以外の侵入できぬバリアを張り、他者から一切認識されなくなる効果を持つ魔法。
「おやすみなさい」
エディスは安らかに眠りに落ちた。