TS長身コミュ障女は旅に出る   作:Revak

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九話 図書館

 

 旅をすると決めたは良いが、当然問題が発生する。

 そもそもとしての旅の目的地が決まっていないのだ。

 

 宿に帰り、ベッドに横になりながらエディスは本を開く。

 

 本の内容を思い出しながら、本での会話での土地やそれに関する地域を考える。

 だが当然異世界人でありこの世界に詳しくないエディスでは該当する地域などわかるはずもない。

 

(こういう時ネットがあればな……)

 

 そこまで考えてようやくエディスは自分が今持っているのが本であり、本があるならば図書館があるという発想に至る。

 ベッドから降り、手早く着替えエディスは町に繰り出した。

 

 

 町に出たエディスは悩んでいた。

 図書館を探しに出かけたはいいもののそもそもとしてこの町に図書館があるのかすら知らないのだ。

 現代ならばスマートフォンなりなんなりで調べることが出来るがここは異世界でありそんな便利な道具は存在しない。少なくともこの町には。

 ならば出来るのは最も原始的で古典的な方法──人に聞くしかない。

 

 人に尋ねるのか? 自分が?

 

 無理だろう、と心の内からの問いかけに返す。

 

 他者と話すと言う行為がエディスは苦手だ──無理と言ってもいい。

 どうしても他者と話さないといけない事を除きエディスは会話という選択肢を取りたくない。

 エディスが話す時など会話しなければどうにもならない時だけであり願うならば誰とも話さずに生きて行きたいとエディス羽が居続けている。

 これもそれもエディスが転生する前とした後、両方で起こった悲しい事故とも事件とも言える事が原因。

 

 だが誰かに聞くぐらいしか目的地が分かりようもないのもまた事実。

 結局は誰かに聞かないといけないという事に辿り着く。

 

 誰に聞くべきか。

 

 そこら辺の通行人──却下。そもそもとしてこの町に図書館があるのかすら定かではないのに聞くべきではない。

 ギルドの受付──却下。ギルドはあくまでも冒険者としての仕事の受注場所であり、仕事と関係ないことを聞く場所ではない。

 

(……交番、か?)

 

 そこまで考えてようやくエディスは正解に辿り着く。

 衛兵にでも聞けば案内してくれるのでは、という警察が身近だった国出身ぽくエディスは考える。

 だが問題はこの世界における警察機構──衛兵が何処にいるのかという問題だ。

 日本ならば身近に交番でもあったがこの世界には交番は無い。

 あるのは衛兵駐屯地という衛兵の詰め所であり、交番の様に気さくに使える場所ではない。

 

 だが、其処以外に思いつかないエディスは衛兵の詰め所に向かう事を決めた。

 

 ブラブラと動いていた足を動かし、目的地へと進路を向けた。

 

 

 街を歩けば、日本の物と違う建築物が多数目に入る。

 

 煉瓦を基本的な建造材料にしモルタルなどのつなぎをもって作り上げた家々は地球で言うヨーロッパの家に非常に近い構成をしている。

 地球のと明確に違うのは耐久性だ。地球の家が百年も持たないのに対しこの世界の家は二百年は最低でも持つ。理由は当然魔法の存在が影響している。

 使われる魔法は<補強>(リーンフォース)という強化魔法でありこれは魔法による魔法道具(マジックアイテム)化だ。この世界の魔法道具(マジックアイテム)は二種類存在する。

 一つが制作時に魔力を込め、込めた魔力分の動きをする物。もう一つは使用者の魔力を消費し効果を発揮する物。

 家などに使う魔法は前者であり、一流の魔法士が使えば最低で二百年、エディスレベルの実力者が使えば千年は劣化を防ぐことが出来る。

 それ以外にも魔法は多種多様な事に使われる。

 

 エディスが視線を横に向ければ其処は建築現場。

 普通の一軒家を建設しているのだろう場では何人もの魔法士が魔法を使っている。

 魔法を使い建材を上に運び魔法を使って足場を作り魔法を使って仕上げをする。

 勿論専用の職人もいる。大工は専用の道具を使い職人技で家の柱を作り壁を作る。

 だが、全てに置ける補助動作に魔法が使われている。

 

 魔法が使えるというだけでくいっぱぐれることは無い。

 

 極論言えば魔法が使えるだけで一生食っていけるのだ。魔法使いの仕事など幾らでもある。

 

 鉄や銀、金などの希少金属の製造もしくは採掘。道具の魔法道具(マジックアイテム)化作業。飲み水の生成に街の整備。

 魔法で出来ることは多岐にわたる、というよりは出来ない事を探す方が難しい。勿論どんな魔法が使えるかは術者による為出来ない者は何も出来ないが。

 

 その為に魔法士であるというだけで一生が保証されているも同然だ。

 

 だが当然、魔法士になるには時間がかかる。

 平均と言うのも可笑しい表現になってしまうが、平均値を無理に出すならば魔法を使うのには五年程の修練が必要になる。

 魔法と言うモノに対する理解。研究、実際に魔法を見聞きする事による深淵の智慧の会得等。

 五年の修練を得てようやく魔法を使えるようになる。勿論その修行の間は魔法で金を得るなど出来ないので五年間の生活費を別途用意する必要がある。

 だがこれは平均値であり、魔法は使える者なら使えるのだ。具体的には生まれたその日から使える者がいる。

 母の胎の内に居るころから使える者が入れば物心ついた時には使えてた者もいる。

 逆に最長では人生の全てを魔法に捧げ、九十年の年月の果てにたった一つの陳腐な魔法が使えた者もいる。

 才能と言うあやふやなモノに依存する技術は、何とも使い難い異能の類だ。才能があるモノが努力すれば五年で使えるかどうか、という技能。

 

 魔法が使えるならば正直、冒険者と言う危険な仕事をするよりも普通の、真っ当な仕事をした方が良い。

 命の危険など無いし、役職手当もつく。一般的な冒険者よりは安定した稼ぎになる。

 冒険者では買えない物も買えるようになる。例えば土地や家などは冒険者の身分では基本的には購入が出来ない物だったりする。勿論例外は何処にもでもあるので冒険者でも買える場合もあるが。

 冒険者の立場が低いにも関わらずエディスが冒険者を続けるのはソロの場合だと冒険者の方が稼げてしまうからだ。

 冒険者の依頼からの報酬は基本四人から六人で等分するのを前提に決められている。

 その為ランクに見合った依頼をこなした場合日本円に換算すると日当は約一万円程になる。無論あくまで平均すればの話であり日当換算で五千円などの日もある。

 其処から宿代食費武具の修繕費などを引いて行けば三千円も残るか残らないか程度となる。

 だが、エディスは実力者だ。その力をもってすれば食費など要らないし武具など自力で用意できる。

 更には依頼外のモンスターを退治し素材を得ることによる換金をすれば資金は膨大なものとなる。エディスが一週間で何十万と稼げるのはモンスター素材の恩恵が大きい。

 ついでに言えば冒険者は他者との交流が最低限で済む。ソロならば職務上必要な会話すらそもそもがないのでする必要が無いという、他者とのかかわりを断ちたいエディスにとってみれば好都合であった。

 

 だが、ああして人々と関わり笑顔で仕事をこなす魔法士を見ると嫉妬が沸いてくる。

 自分も、あのように他者と笑い合い仕事が出来たら、なんて。

 

(まぁ、無理だろうなぁ)

 

 現実はそんなに甘くないだろうな、と悲観しエディスは歩を進めた。

 

 

 そうこうしながら歩いているうちにエディスは目的地である衛兵の詰めのに辿り着く。

 衛兵詰め所は他の家などと違い作りがしっかりとしている。

 石煉瓦で出来た壁に太く逞しい木による柱。ドアには装飾も施されている。

 

 詰め所からタイミングよく、衛兵が一人出て来た。

 

 出て来たのは兜をかぶった衛兵だ。

 毛皮の篭手とブーツ。鉄の鎧を纏い顔の見えないフルフェイスの兜。腰には鉄の剣と盾が装備されている。

 これが基本的な衛兵の装備品である。特徴的なのは兜の形だろう。衛兵と一目で分かる様に兜だけは統一されたデザインになっている。

 

 じぃっと、エディスは出て来た衛兵を見つめ続ける。

 一分程仮面の女と兜の衛兵が見つめ合ったのち、衛兵が口を開いた。

 

「……何か御用で?」

 

 一瞬。エディスは口吃るものの意を決して口を開いた。

 

「……図書館が、何処にあるか聞きたくて」

 

 そこまで言ってからエディスは失敗したと嘆いた。

 そもそもこの町に図書館があるのか不明なのだ。その段階で聞いてどうする。

 これでこの町に図書館が無い場合無い施設を訪ねる不審者ではないか、とエディスは自己嫌悪する。

 

「図書館? この町に図書館は無いが……」

 

 やっぱりないんかい、とエディスは頭を抱えたくなる。

 無論実際には抱えないが気分はそれだけ落ちていく。

 

「……この町には無いが、そうだな、この近くだとグラプスに図書館がある」

「グラプス、ですか」

「聞いたこと無いか? ここらで一番大きいダンジョンがある都市だよ」

「そう、ですか。ありがとうございます。情報助かりました」

 

 エディスは小さく頭を下げると踵を返し、来た道を戻っていった。

 

「我々衛兵は常に市民の味方だ。何かあれば来るといい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 図書館の場所が分かったエディスは冒険者ギルドへと向かっていた。

 向かう理由は二つあり、一つは単純に地図がギルドにしかないからだ。

 いや、正確には商業ギルドの方にもあるがエディスが閲覧できる地図となると冒険者ギルドの物しかない。

 この世界において地図というのは貴重品であると同時に重要品となる。

 戦略的観点から見た場合、地図というのは戦争においてあらゆる情報が詰まった戦略的に重要な物となる。

 その為地図の作成や所持というのは普通の者には許されておらず、許可を得た商人などにのみ所持と作成が許されている。

 そもそもとして、この世界の市民などは生まれた街から一生でない、というのも珍しくない。色々と出かけ国外にまで出るのは大貴族や冒険者程度のモノだ。

 

 エディスは冒険者ギルドに辿り着き、中に入っていく。

 時刻は昼前でありまばらにだが冒険者達が併設されている酒場で酒を嗜んでいる。

 それらを横目にエディスは依頼受注用のボードの横まで歩く。

 そこには非常に簡素な地図が設置されていた。

 あるのはだいたいの街の位置と名前、多少の地形情報のみであり地図としては余り使いにくい代物だ。

 だが公開されている地図とは得てしてこういうものであり、敵国などに自国の情報を漏らさないように簡素な代物しか用意されない。

 これでは自国の民も地図を見て移動するのが厳しくなるが地図が必要な物は行商人などであり、市民や冒険者には必要の無い物。

 勿論市民用に街を描いた地図も存在するが、それらも詳細までは描かれてないことが多い。

 

(グラプス……グラプス……あった)

 

 数秒でエディスは目的地であるグラプスを見つける。

 地図上ではそこまで離れている訳ではない。だが尺度も適当な地図である以上距離は当てに成らないだろう。

 だが位置が分かった。方角も分かった。ならば充分。

 エディス以外にも言える事だが一定以上の実力を持つ冒険者──正確には魔法士には地図は半分不要だ。

 <地図作成>(クリエイト・マップ)等の地図を作成する魔法は幾らでもあるし、地形を把握するのも朝飯前だ。序に言えば魔法による地図の会得は違法ではない。

 魔法で作った地図を販売や譲渡する場合は違法行為になり罰金や収監されるが自分にのみ使うのならば問題は無い。

 

 場所を確認し脳に刻み込んだエディスは受付へと動く。

 

「すみません、冒険者活動の変更をしたいのですが」

 

 気だるげな受付嬢にそう言いながらエディスは冒険者カードを取り出す。

 

「え?」

 

 目を見開き、受付嬢は驚愕し動きが止まる。

 

 

 冒険者には二種類存在する。

 一つは特定の町や地域でのみ活動する常在冒険者。もう一つは旅をする流浪冒険者。

 冒険者はどちらのスタイルなのか、登録する義務がある。

 理由としては幾つかあるが大きいのは戦力的な扱いだ。

 常在戦力として扱えるのか、使えないのかという扱いがある。居るのかいないのかわからない戦力を当てにすることは出来ない。

 それ以外にも税金的問題がある。特定の町や地域で活動する場合依頼から自動的に税金を抜いておけばいいが、旅をする者の場合はランクに応じ払えるときに払う必要がある。

 冒険者といえど非国民という訳ではない。ギルドがある街の国に所属するという扱いになり納税の義務も当然生ずる。

 

 受付嬢が止まったのは変更が珍しいから、という訳ではない。

 エディスが言い出したことに驚いたのだ。

 

 エディスの今の扱いは常在冒険者であり、変更自体はそう珍しい事ではない。

 だがこれまで依頼の受付ばかりしてきた者が急に別の事を言い出したので驚愕したのだ。

 そしてそれ以外にも、エディスに変更されるのはギルドにとっても痛手となる。

 

 エディスが一週間に何十万と稼ぐという事は、ギルド側もそれなりに稼いでいるという事。

 これで活動を変更され、何処か別の町に行かれればエディスから得ていた利益が丸々消えることを示している。

 

「て、手続きには時間がかかるのでお席に座りお待ちください」

 

 カードを受け取った受付嬢は定型文ののちどうするか上司へ操舵する事を決める。

 そんなことは知らないエディスは大人しく席に向かい、座り込んだ。

 

 そうして五分程待てばエディスは呼ばれ、無事に流浪冒険者に成る事が出来た。

 

(これで、旅をする為の一歩は踏み出せた、かな)

 

 何処にいるのかもわからない本の向こう側の誰かが居た場所を思って、エディスは仮面の下に思いを馳せた。

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