医務室に、微かな息遣いが戻る。
天霧は重たげにまぶたを開け、白い天井をぼんやりと見上げた。
「……ここは……」
「舞鶴鎮守府よ。助かったんだから、感謝しなさいよね」
傍らで曙が腕を組みながら言う。
ぶっきらぼうな口調だが、彼女の手はそっと天霧のシーツを直していた。
「……そっか……助けられたのか」
天霧はかすれた声で呟き、少しだけ微笑んだ。
だがその表情は、すぐに曇る。
「……なぁ、曙……あたし、最後に、変なもんを聞いた気がする」
「変なもん?」
曙が眉をひそめる。
天霧はゆっくり言った。
「深海棲艦が、喋ってた。……あたしを、呼んでた」
一方、仮設整備室。
ヴァルキューレは、夕張が準備した簡易スキャン装置の前に立っていた。
「大丈夫だよ、ちょっとピッと測るだけだから!」
夕張が明るく言う。
ヴァルキューレも無言で頷く。
(ようやく……ようやく、私も)
彼女は目を閉じた。
スキャン音が響く。
機械の光が、彼女の体を舐めるように走った。
数十分後。
「うん! 仮設艤装、組めそうだよ!」
夕張は満面の笑みでヴァルキューレに報告した。
ヴァルキューレは、ほっと小さく息を吐いた。
これで、戦える。
みんなと、並んで戦える。
だが。
スキャン結果のモニターを見つめる夕張の手は、
小さく震えていた。
夕張は提督を呼び出し、
誰にも聞かれない場所で、真剣な表情で切り出した。
「提督……ちょっと、ヤバい話があるんだけど」
提督は無言で頷く。
夕張はタブレットを差し出しながら、低く言った。
「ヴァルキューレちゃんの中身、普通の艦娘じゃない。まず……艤装接合部、コア動力、信号制御。全部、いろんな艦種の規格が、ぐちゃぐちゃに混ざってる」
提督は目を細めた。
「どういうことだ?」
「本来、艦娘は艦種ごとに一貫した規格で統一されてるのに、あの子の内部構造は、駆逐艦、巡洋艦、戦艦、空母……あらゆる艦種の要素が、ごちゃ混ぜになってるの」
夕張はさらに続けた。
「それだけじゃない。内部エネルギー波形を調べたら……艦娘と、深海棲艦。両方の波が混ざってる」
提督は言葉を失った。
「……たぶん、ヴァルキューレちゃんは、艦娘でもあり、深海棲艦でもある。あるいは、そのどちらでもない、何か」
提督は静かに目を閉じ、深く息を吐く。
だが、すぐに顔を上げ、力強く言った。
「……関係ない。何者だろうが、あいつは俺たちの仲間だ」
夕張は、驚いた後、微笑んだ。
「……やっぱり、提督は最高だよ」
後日…
「できたよー!! ヴァルキューレちゃん第一号機ー!!」
元気いっぱいに飛び出してきた夕張の腕には、
妙な形をした試作艤装が抱えられていた。
自転車にミサイルポッドが載り、火炎放射器が刺さり、
しかもピカピカ光るLED付き。
「……夕張、お前、正気か?」
「科学の進歩って、ちょっと爆発しないと進まないんだよ!」
「にゃしぃー!? なんか怖いにゃしぃー!!」
「……やめとけマジで」
ヴァルキューレは、真剣な顔でそれを受け取ろうとした。
「……提督、これでも、私は……強くなれますか?」
「やめろォォォ!!!」
提督と浦風たちが全力で止めに入る。
鎮守府中に笑いが溢れた。
だが、その笑い声の中で――
ヴァルキューレだけは、心の奥のざわめきを、静かに抱えたままだった。