万装の記憶消失の艦娘と新人提督。   作:snooze

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第十話 混合する違和感

医務室に、微かな息遣いが戻る。

 

天霧は重たげにまぶたを開け、白い天井をぼんやりと見上げた。

 

「……ここは……」

 

「舞鶴鎮守府よ。助かったんだから、感謝しなさいよね」

 

傍らで曙が腕を組みながら言う。

ぶっきらぼうな口調だが、彼女の手はそっと天霧のシーツを直していた。

 

「……そっか……助けられたのか」

 

天霧はかすれた声で呟き、少しだけ微笑んだ。

 

だがその表情は、すぐに曇る。

 

「……なぁ、曙……あたし、最後に、変なもんを聞いた気がする」

 

「変なもん?」

 

曙が眉をひそめる。

 

天霧はゆっくり言った。

 

「深海棲艦が、喋ってた。……あたしを、呼んでた」

 

 

一方、仮設整備室。

 

ヴァルキューレは、夕張が準備した簡易スキャン装置の前に立っていた。

 

「大丈夫だよ、ちょっとピッと測るだけだから!」

 

夕張が明るく言う。

 

ヴァルキューレも無言で頷く。

 

(ようやく……ようやく、私も)

 

彼女は目を閉じた。

 

スキャン音が響く。

機械の光が、彼女の体を舐めるように走った。

 

数十分後。

 

「うん! 仮設艤装、組めそうだよ!」

 

夕張は満面の笑みでヴァルキューレに報告した。

 

ヴァルキューレは、ほっと小さく息を吐いた。

 

これで、戦える。

みんなと、並んで戦える。

 

だが。

 

スキャン結果のモニターを見つめる夕張の手は、

小さく震えていた。

 

 

 

夕張は提督を呼び出し、

誰にも聞かれない場所で、真剣な表情で切り出した。

 

「提督……ちょっと、ヤバい話があるんだけど」

 

提督は無言で頷く。

 

夕張はタブレットを差し出しながら、低く言った。

 

「ヴァルキューレちゃんの中身、普通の艦娘じゃない。まず……艤装接合部、コア動力、信号制御。全部、いろんな艦種の規格が、ぐちゃぐちゃに混ざってる」

 

提督は目を細めた。

 

「どういうことだ?」

 

「本来、艦娘は艦種ごとに一貫した規格で統一されてるのに、あの子の内部構造は、駆逐艦、巡洋艦、戦艦、空母……あらゆる艦種の要素が、ごちゃ混ぜになってるの」

 

夕張はさらに続けた。

 

「それだけじゃない。内部エネルギー波形を調べたら……艦娘と、深海棲艦。両方の波が混ざってる」

 

提督は言葉を失った。

 

「……たぶん、ヴァルキューレちゃんは、艦娘でもあり、深海棲艦でもある。あるいは、そのどちらでもない、何か」

 

提督は静かに目を閉じ、深く息を吐く。

 

だが、すぐに顔を上げ、力強く言った。

 

「……関係ない。何者だろうが、あいつは俺たちの仲間だ」

 

夕張は、驚いた後、微笑んだ。

 

「……やっぱり、提督は最高だよ」

 

 

後日…

 

「できたよー!! ヴァルキューレちゃん第一号機ー!!」

 

元気いっぱいに飛び出してきた夕張の腕には、

妙な形をした試作艤装が抱えられていた。

 

自転車にミサイルポッドが載り、火炎放射器が刺さり、

しかもピカピカ光るLED付き。

 

「……夕張、お前、正気か?」

 

「科学の進歩って、ちょっと爆発しないと進まないんだよ!」

 

「にゃしぃー!? なんか怖いにゃしぃー!!」

 

「……やめとけマジで」

 

ヴァルキューレは、真剣な顔でそれを受け取ろうとした。

 

「……提督、これでも、私は……強くなれますか?」

 

「やめろォォォ!!!」

 

提督と浦風たちが全力で止めに入る。

 

鎮守府中に笑いが溢れた。

 

だが、その笑い声の中で――

ヴァルキューレだけは、心の奥のざわめきを、静かに抱えたままだった。

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