万装の記憶消失の艦娘と新人提督。   作:snooze

12 / 22
第十一話 超万装艦娘艤装製造計画、なんとか中止

 朝霧の立ち込める鎮守府近海。

 ヴァルキューレは仮設艤装を装備し、単独で海上を滑るように進んでいた。

 

 水面を蹴る感覚。

 艤装の重みは、ほとんど感じない。

 

(……これが、海)

 

 ヴァルキューレは静かに目を細めた。

 生まれて初めての感覚。

 それなのに、まるで昔からここにいたかのような、妙な懐かしさを覚える。

 

 艤装は体に吸い付くように馴染み、

 操縦すら意識する必要がないほど自然だった。

 

(これが、私の戦い方……?)

 

 ヴァルキューレは、速度を上げた。

 

 その時。

 

 ふと、海の向こうに“黒い影”が見えた。

 

 ヴァルキューレは立ち止まり、警戒する。

 

 現れたのは、軽巡クラスの深海棲艦。

 だが、通常の個体とは違う──どこか、ふらふらと不安定な動きをしている。

 

 ヴァルキューレの視線が、それを捉えた。

 

 瞬間。

 

 ──深海棲艦が、「彼女を見た」。

 

 明確に、意識を向けられた感覚。

 

(……見られている)

 

 ヴァルキューレの背筋に、寒気が走った。

 

 敵は、ヴァルキューレに向かって動き出した。

 

(戦う……!)

 

 彼女は迷わず艤装を起動し、応戦体勢を取る。

 

 初めての実戦。

 

 だが、体は迷わなかった。

 

 滑らかな加速。

 ブレない砲撃ライン。

 仮設艤装の限界を軽く超える動き。

 

 ヴァルキューレは、まるで生まれつき戦闘のために作られたかのように、

 自然に戦っていた。

 

 砲撃をかわし、間合いを詰めた時。

 深海棲艦が、ぐしゃぐしゃな声を漏らした。

 

「──アァ……ワレラ……カナシ……」

 

 意味を成さない、しかし確かに「言葉」とわかる呻き声。

 

 ヴァルキューレは、頭を押さえた。

 胸の奥が、ズキズキと痛む。

 

(……なに、これ)

 

 敵は、なおも彼女を見つめたまま──

 ふっと、海中へと沈んで消えていった。

 

 撤退。

 

 追わなかった。

 追えなかった。

 

 ヴァルキューレは、

 ただ海の上に、取り残された。

 

「…………」

 

 

 鎮守府へ帰還すると、皆が歓声で迎えた。

 

「試験成功だねー!!」

 

「すごいにゃしぃー!」

 

「これからバリバリ働いてもらうからな!」

 

 艦娘たちの賑やかな声。

 

 だが、ヴァルキューレだけは、静かに空を見上げた。

 

(……私は、何者なんだろう)

 

 胸の痛みは、まだ消えていなかった。

 

 

 

 夜。

 提督と夕張は、整備棟に集まっていた。

 

 机の上には、ヴァルキューレの戦闘データとスキャン結果。

 

 提督は腕を組み、低く呟く。

 

「仮設艤装じゃ、もう限界だな」

 

 夕張も頷く。

 

「本気で戦うなら、専用の“正式艤装”を作らないと!」

 

 提督は静かに頷いた。

 

「作るぞ。あいつのために、最高の艤装を」

 

「はいっ!!」

 

 そして、夕張の目がキラリと輝いた。

 

「それなら提督……! せっかくほぼ全部の艦種に適性があるんですから──全部詰め込んじゃいましょう!!!」

 

 ドン!!

 

 机を叩く勢い。

 

「……お前、正気か?」

 

「潜水艦の潜航機能、駆逐艦の速力、巡洋艦の火力、戦艦の耐久、空母の航空機運用! オールインワン!!! 最強艤装!!!」

 

 提督は顔を引きつらせた。

 

「バカ!! 全部載せたらお前、ヴァルキューレが動けなくなるだろ!!」

 

「きっと気合で乗り越えられます!!!」

 

「理論崩壊してるぞ!!!」

 

 夕張はめちゃくちゃやる気だった。

 

 タブレットに勢いよく超合体艤装案を描き始める。

 

 提督はそれを必死で止めた。

 

「まず、落ち着け! いいか、まずは艦種ごとに個別に作ろう。な? 順番に、段階踏んで、な?」

 

「……しょ、しょうがないですねえ~」

 

 夕張は渋々タブレットを消した。

 

 それでも、その目は希望に満ちていた。

 

 二人は机に向かって、

 静かに、静かに設計を始めた。

 

 これは、まだ始まりにすぎない。

 彼女──ヴァルキューレという存在の、

 本当の力を解き放つための、第一歩。

 

 夜の整備棟に、青白い作業灯がぽつりと灯り続けていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。