朝。
整備も終わり、建物も人員も整い、
今ここから、再び歴史が刻まれ始める。
提督の訓示に、艦娘たちがビシッと整列して応じる。
──が、
「にゃしぃーーーっ!!」
「にゃ、また転んだ!!」
整列中に思いっきり転ぶ睦月。
すかさず曙が蹴飛ばして列に戻す。
提督は遠い目をしながら、
(先が思いやられる……)と小さく呟いた。
それでも、鎮守府に再び活気が戻ったのは間違いなかった。
舞鶴鎮守府の再建第一歩として、新しい艦娘を建造することに。
資材もギリギリ、でも気合いは十分。
提督の号令と共に、工廠がざわめき始める。
建造炉の周りに、ぞろぞろと現れる妖精さんたち。
「よーしやるぞーー!!」
「資材持ってこーーい!!」
「鉄材? いや、まず燃料燃やすかーー!!」
何の打ち合わせもなく、自由に暴れ出す。
「えええ!? そっちじゃないにゃしぃ!!」
「違うでしょ!こっちの資材でしょ!!」
「バカばっかり……」
曙が心底うんざりした顔で呟く。
資材コンテナを頭の上に乗せて走る妖精、
ドラム缶に乗ってコロコロ転がる妖精、
爆発する炉を見てハイタッチする妖精。
もう工廠は完全にカオス。
提督は頭を抱えた。
「頼むから……せめて手順通りにしてくれ……!」
ヴァルキューレも、初めて見る光景に目を丸くしていた。
(これが……人類の希望?)
「いくぞぉぉぉ!!」
妖精さんたちの掛け声と共に、炉が轟音を上げた。
白い光が溢れ、
そこから元気いっぱいの声が飛び出す。
「こんにちは、白露型駆逐艦『夕立』よ。よろしくね!」
「駆逐艦夕立、改装の必要な練度が低く、早くから鎮守府の戦力となりますね」
その瞬間、ヴァルキューレ胸の奥に、
ぎゅう、と締め付けるような痛みが走った。
(……なに、これ)
懐かしい。
苦しい。
でも、思い出せない。
夕立が笑っているのを見ながら、
ヴァルキューレは一人、言葉にならない胸騒ぎを覚えていた。
「まだまだいくぞぉぉぉ!!!」
テンション上がった妖精さんたちが、ノリノリで次の建造に入る。
また光が弾けて──
「オレの名は『天龍』。フフフ、怖いか?」
「………」
「…」
「…………」
「………」
「おい!黙るんじゃねぇ!!」
さらに、舞鶴鎮守府が正式再稼働したことで、
以前派遣されていた艦娘たちも続々と帰還してきた。
「ただいま戻りました!」
「やっぱ舞鶴は落ち着くなぁー」
鎮守府がどんどん賑やかになる。
提督は、心の底から思った。
(やっと、ここからだ……)
皆が笑い、にぎわう鎮守府。
でもヴァルキューレだけは、少し離れた場所で海を見ていた。
(なぜ、私は……)
夕立を見たときに覚えたあの胸の痛み。
それが何なのか、彼女にはまだわからない。
けれど、
確かにそれは、心の深い場所で、何かを呼び覚まそうとしていた。
──静かに、確実に。