提督室。
作戦会議を終えた提督とヴァルキューレは、
艦娘たちの出撃を見送るために整列していた。
「全艦、出撃準備完了しました!」
ヴァルキューレが無線機越しに報告する。
「よし……行け。気を付けろよ、みんな──必ず生きて帰れ」
提督は、厳しく、けれど温かく言葉を送った。
艦娘たちは一斉に敬礼。
それぞれの艦隊が、希望と覚悟を胸に、
鉄底海峡へ向かって進発した。
最初の作戦海域、サーモン諸島海域。
青く広がる海。
しかし、その下には、深海棲艦たちの影が蠢いていた。
第一艦隊(長門・陸奥・赤城改・加賀改・高雄改・吹雪改)
第三艦隊(神通改・那珂改・夕立改二・睦月改・雷改・電改)
──二つの艦隊が、連携しながら慎重に前進する。
すぐに、敵影を発見。
「深海棲艦、駆逐艦クラス数隻接近!」
「上等だ!」
長門の砲撃が火を噴いた。
陸奥が続き、赤城と加賀の艦載機隊が空を裂いて飛ぶ。
あっという間に敵艦隊を制圧。
「すごーい!」
夕立が嬉しそうに跳ねた。
だが──これで終わるはずがなかった。
「──警戒! 大型反応接近!」
ヴァルキューレの声が無線に響いた。
艦隊の前方、海面が不自然に泡立ち始める。
そして。
ズオオォォォン──!!
水柱と共に、
巨大な影が姿を現した。
黒く鋭い艤装。
紅く脈動する、異様なオーラ。
──戦艦ル級elite。
しかし、通常個体とは違う。
その身にまとった真紅のオーラは、
まるで生き物のように海面を蠢かせていた。
「な、なんだあれ……!」
「気を付けろ! ただのル級じゃねえ!」
提督も、モニター越しに息を呑む。
その異様な姿を見た瞬間、
ヴァルキューレの心臓が、ズキンと痛んだ。
(……あれは……)
理由はわからない。
けれど、本能が警告していた。
──あれは、普通の敵じゃない。
「でも、大丈夫……!」
「吹雪、睦月、雷、電、回避行動! 高雄は左舷から砲撃支援!」
「赤城・加賀、艦載機による制圧行動!」
ヴァルキューレが冷静に指示を飛ばす。
艦娘たちは迅速に対応。
だが、ル級の砲撃は桁違いだった。
轟音と共に、海面が爆ぜる。
吹雪がギリギリで回避。
睦月も必死で舵を切る。
「なにあれ、やばい!!」
雷と電が互いに支え合いながら突進する。
神通と那珂が駆逐艦たちを守り、
夕立が一閃、魚雷を放った!
「いっけぇっ!!」
魚雷がル級の艤装を掠め、
一瞬赤いオーラが歪む。
「……チャンス!」
高雄が砲撃。
赤城・加賀・飛龍・蒼龍の艦載機隊が一斉に爆撃を仕掛ける。
鎮守府の司令室。
ヴァルキューレは、無線越しに艦娘たちを支援しながら、
じっとモニターの奥、ル級を見つめていた。
(なぜ……私は、あれを知っている気がする……)
深い、深い場所。
誰も触れたことのない記憶が、かすかに蠢いていた。
「……還れ……」
ふと、耳元に、聞こえた気がした。
(誰?)
だが、今は──
この戦いに集中しなければならない。
長門と陸奥の主砲が、ル級eliteの胴体を撃ち抜いた。
轟音。
赤いオーラが一気に爆発する。
ル級は呻くように、
かすれた声を漏らした。
「──ワレラ、マダ……」
そして、海の底へと沈んでいった。
──サーモン諸島海域、突破。
艦娘たちは、歓声を上げた。
「やったぁー! 勝ったっぽい!!」
「生きて帰れた!」
笑顔と安堵の声が飛び交う中──
ヴァルキューレだけは、
静かに、胸に手を当てた。
(……これからだ)
遠く、海の向こうに。
まだ見ぬ、さらに深い闇が待っているのを、
彼女だけが、確かに感じ取っていた。