万装の記憶消失の艦娘と新人提督。   作:snooze

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第十七話 残響、沈まぬ声

重厚な扉が、機械的な音を立てて閉じる。

 

ここは、横須賀鎮守府・作戦会議室。

厳格な防音処理が施されたこの部屋では、

いま舞鶴鎮守府での最新作戦記録――

ルンバ沖での泊地棲鬼との交戦映像が再生されていた。

 

モニターに映るのは、

深海棲艦の大群の中、

海を裂くように出現し、四形態を自在に切り替えて暴れ回る――

 

ヴァルキューレ。

 

それを黙って見つめる人物が一人。

 

椅子に浅く腰掛けた長身の男。

横須賀鎮守府の提督である。

 

その隣に立ち、静かに腕を組んでいるのは、秘書艦・長門。

 

「……なんだこれは」

 

映像が一旦止まったところで、提督が口を開いた。

 

「この波動、見たか。深海棲艦との戦闘時、彼女の艤装から観測されたエネルギー波……あれは完全に、混ざっている」

 

長門が頷く。

 

「はい。艦娘の核構造と、深海棲艦特有のエネルギー制御構造。本来、共存できるものではありません」

 

「だが、している。しかもあの身のこなし。駆逐から空母まで、艤装を切り替えての連続戦闘……」

 

提督はモニターに映るヴァルキューレの姿を見つめた。

 

「……舞鶴は、また異物を抱えたな」

 

「そうなります」

 

長門の声には、一抹の警戒が滲んでいた。

 

 

会議室の外。

訓練場では、横須賀の艦娘たちがそれぞれの任務に従事していた。

 

静かに走り込みをする妙高型の姉妹たち。

駆け回る島風を、冷たい視線で追う不知火。

艦載機整備の手伝いをしている翔鶴と赤城は、淡々と整備士妖精に指示を飛ばしている。

 

「赤城さん、次の出撃が早まりそうですね」

 

「ええ……またお弁当、二段重ねにしておいた方が良いかしら」

 

「いや、三段重ねで行きましょう」

 

穏やかだけれど、どこか鋭い会話。

 

横須賀には、“整っている静寂”があった。

混沌の舞鶴とは対照的に、ここは統制と強さが両立する鎮守府だった。

 

だがその静けさに、今、揺らぎが生まれようとしている。

 

 

作戦会議室。

長門がタブレットを操作し、情報を再確認する。

 

「ヴァルキューレ。登録なしの艦娘。正式な建造記録も配備記録も存在せず、艤装も試作兵装としか記されていない。なのに、エネルギー反応はA級戦力以上。泊地棲鬼を押し返すなど、正直“規格外”です」

 

「……あの泊地棲鬼も、異様だった。最後の発声。『還れ』『悲しい』……まるで“かつて人間だった”かのような言葉だったな」

 

「はい。ヴァルキューレとの交戦中にのみ、その言葉が出た。彼女の存在が、何かを刺激している可能性があります」

 

提督は腕を組んで沈黙する。

 

 

「長門」

 

「はい」

 

「……今後、舞鶴の動向を監視対象に加えろ。あの艦娘が、この戦争を“正しく進める存在”である保証は、どこにもない」

 

長門はわずかに頷いた。

 

「承知しました。そしてもし彼女が“敵”に傾く兆候があれば──」

 

「即応だ」

 

「了解」

 

部屋の温度が、わずかに下がった気がした。

 

横須賀の夕暮れ。

訓練を終えた艦娘たちがそれぞれの持ち場に戻っていく。

 

翔鶴が最後に空を見上げ、

小さく何かを呟いた。

 

「……誰かが、泣いているような気がする」

 

その言葉の意味を、誰も問わなかった。

 

けれど確かに、

この“海のどこか”で、

誰かがまだ、沈まぬ声を放っていた。

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