「……届いたか」
提督は、封を切ったばかりの公文書を手に、眉をひそめた。
その紙には、
赤い印と共に、次なる作戦の名が刻まれていた。
1:大本営 ID:lal+CKZvK
『サンタクロース諸島海域制圧作戦』
南方諸島域にて、敵泊地の構築を確認。
同海域に対し、連合艦隊による掃討作戦を展開せよ。
作戦名に反して、内容は笑えなかった。
「……休む暇もないな」
提督は一つ息を吐き、報告書をテーブルに置いた。
「──全艦娘へ通達。次作戦、正式発令だ」
その声に、執務室にいたヴァルキューレも、無言で立ち上がった。
提督が配備されてから数か月に及ぶ修復と補強を経て、舞鶴鎮守府はついに、完全な稼働状態へと戻っていた。
ドックはピカピカに磨かれ、
妖精たちが全力でペンキ塗りをしている。
「おらぁぁ!! ピッカピカじゃぁ!!」
「戦艦も空母もまとめて来いやぁ!!」
工廠では、明石が相変わらず工具片手に叫んでおり、
キッチンでは睦月と電がカレーの準備に大忙し。
高雄は司令室前で帳簿の山に埋もれながら、
「提督がちゃんと予算管理をしないから……!」とボヤいている。
どこか緩く、しかし活気がある。
舞鶴は、確かに生き返っていた。
医務室。
夕張は、ヴァルキューレの艤装ユニットの端末を見ながら、
何度も舌打ちをしていた。
「やっぱりダメですね……雷巡モードも空母モードも、
前回の無理がたたって変形制御系が焼けてます」
明石も横で溜め息をつく。
「戦艦モードと駆逐モードは一応稼働可能だけど……本来の力は出ないね」
「筋肉痛……」
小さくヴァルキューレが呟いた。
「えっ?」
夕張が思わず聞き返す。
「脚が……階段、ちょっと、しんどいです」
「違う、そこじゃない! ていうか筋肉痛になるの!? 艦娘って!?」
「……私は、なります」
「だれのせいですか!? 前回めちゃくちゃ張り切って無双してたの!」
「……提督の命令でした」
「ぐぬぬ……!」
そんなやりとりに明石が吹き出す。
「ま、今回は私たちがなんとか修理してあげる。次の戦いまでは最低限、動けるようにしておくから」
「……ありがとう、ございます」
ヴァルキューレはそっと頭を下げた。
夜の執務室。
提督は、窓の外の海を見ながらぽつりとつぶやいた。
「また……君の力を頼ることになる」
ヴァルキューレは、その背中に静かに応えた。
「……私は、まだ、戦えます。完全ではありませんが、立てます。遅れても、必ず」
「無理はするな」
「……できるだけ、そうします」
二人の間に流れるのは、
かつてのような“命令と服従”ではなく、
確かに、信頼に近いものだった。
南方海域。
赤道直下の小さな島影の上空に、
漆黒の艤装を備えた巨大な艦影が浮かんでいた。
艶やかな髪。
絶対的な自信と冷徹さを湛えた目。
──装甲空母姫。
彼女は、黙って空を見下ろしていた。
「……マタ、来ルノネ。人間タチ。艦娘。偽物ノ船……」
その指がゆっくりと空をなぞる。
漆黒の艦載機が静かに展開する。
海と空に、新たな戦火の匂いが漂い始めていた。