万装の記憶消失の艦娘と新人提督。   作:snooze

21 / 22
第十八話 再編成、海へ立つ者たち

「……届いたか」

 

提督は、封を切ったばかりの公文書を手に、眉をひそめた。

 

その紙には、

赤い印と共に、次なる作戦の名が刻まれていた。

 

1:大本営 ID:lal+CKZvK

 

 

『サンタクロース諸島海域制圧作戦』

南方諸島域にて、敵泊地の構築を確認。

同海域に対し、連合艦隊による掃討作戦を展開せよ。

 

 

作戦名に反して、内容は笑えなかった。

 

「……休む暇もないな」

 

提督は一つ息を吐き、報告書をテーブルに置いた。

 

「──全艦娘へ通達。次作戦、正式発令だ」

 

その声に、執務室にいたヴァルキューレも、無言で立ち上がった。

 

 

提督が配備されてから数か月に及ぶ修復と補強を経て、舞鶴鎮守府はついに、完全な稼働状態へと戻っていた。

 

ドックはピカピカに磨かれ、

妖精たちが全力でペンキ塗りをしている。

 

「おらぁぁ!! ピッカピカじゃぁ!!」

 

「戦艦も空母もまとめて来いやぁ!!」

 

工廠では、明石が相変わらず工具片手に叫んでおり、

キッチンでは睦月と電がカレーの準備に大忙し。

 

高雄は司令室前で帳簿の山に埋もれながら、

「提督がちゃんと予算管理をしないから……!」とボヤいている。

 

どこか緩く、しかし活気がある。

 

舞鶴は、確かに生き返っていた。

 

 

医務室。

 

夕張は、ヴァルキューレの艤装ユニットの端末を見ながら、

何度も舌打ちをしていた。

 

「やっぱりダメですね……雷巡モードも空母モードも、

 前回の無理がたたって変形制御系が焼けてます」

 

明石も横で溜め息をつく。

 

「戦艦モードと駆逐モードは一応稼働可能だけど……本来の力は出ないね」

 

「筋肉痛……」

 

小さくヴァルキューレが呟いた。

 

「えっ?」

 

夕張が思わず聞き返す。

 

「脚が……階段、ちょっと、しんどいです」

 

「違う、そこじゃない! ていうか筋肉痛になるの!? 艦娘って!?」

 

「……私は、なります」

 

「だれのせいですか!? 前回めちゃくちゃ張り切って無双してたの!」

 

「……提督の命令でした」

 

「ぐぬぬ……!」

 

そんなやりとりに明石が吹き出す。

 

「ま、今回は私たちがなんとか修理してあげる。次の戦いまでは最低限、動けるようにしておくから」

 

「……ありがとう、ございます」

 

ヴァルキューレはそっと頭を下げた。

 

 

夜の執務室。

 

提督は、窓の外の海を見ながらぽつりとつぶやいた。

 

「また……君の力を頼ることになる」

 

ヴァルキューレは、その背中に静かに応えた。

 

「……私は、まだ、戦えます。完全ではありませんが、立てます。遅れても、必ず」

 

「無理はするな」

 

「……できるだけ、そうします」

 

二人の間に流れるのは、

かつてのような“命令と服従”ではなく、

確かに、信頼に近いものだった。

 

 

南方海域。

赤道直下の小さな島影の上空に、

漆黒の艤装を備えた巨大な艦影が浮かんでいた。

 

艶やかな髪。

絶対的な自信と冷徹さを湛えた目。

 

──装甲空母姫。

 

彼女は、黙って空を見下ろしていた。

 

「……マタ、来ルノネ。人間タチ。艦娘。偽物ノ船……」

 

その指がゆっくりと空をなぞる。

漆黒の艦載機が静かに展開する。

 

海と空に、新たな戦火の匂いが漂い始めていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。