万装の記憶消失の艦娘と新人提督。   作:snooze

3 / 22
第二話まで閲覧した皆様、もうお判りでしょう。
この調子でしばらくはやります。


第三話 正月じゃなくても大掃除は定期的にやるべきなんだよぉ!!こうなるからなぁ!!!

 舞鶴鎮守府──その名を聞いて、かつての海軍関係者は皆、口を揃えてこう言った。

 

「あそこは栄光だった」と。

 

 整然とした白壁の本館、磨かれた艤装ドック、各地の艦娘たちが目標にした最前線の舞台。

 だが今、その地に立った俺の目の前に広がっていたのは……幻想の崩れた“現実”だった。

 

 瓦礫。破れた旗。傾いた桟橋。崩れた壁。

 まるで戦後処理が放置されたまま数年経ったような有様。

 

「……ここが、舞鶴……」

 

 呆然と立ち尽くす俺の隣で、ヴァルキューレが淡々と記録を取っている。

 

「被害状況、予想より深刻です。これは……戦後の都市遺構レベルかと」

 

「え、これマジで稼働中なんだよな?」

 

「はい、“書類上”は」

 

 俺は思わず頭を抱えた。

 さっそく逃げ出したくなったが、もう逃げ場はない。

 これは俺が拾った現実。

 ここから、始めるしかない。

 

「提督~、おそようございま~す……って、あっれぇ? マジで来ちゃった系?」

 

 最初に姿を見せたのは、相変わらず実験用火薬の匂いを纏った夕張。

 白衣の袖をまくり、顔は煤だらけ。どこからどう見ても爆発魔。

 

「やーだやだ、掃除? 爆薬成分落ちるからやだなぁ~(笑)」

 

「それ言うのやめろや!!!」

 

「おっ、こりゃうるさそうな新人が来たのお」

 

 次に顔を出したのは、関西弁が心地いい、姉御肌の浦風。

 タオルを肩にかけ、裸足で廊下を歩いてきた。

 

「しゃーないけぇ、うちらでやるしかないじゃろ? 提督さん、指示よろしくな」

 

「お、おう……よろしく」

 

「ふぁぁぁ……やっと来たんですね、提督」

 

 のそのそと現れたのは、ツインテールにキラキラ笑顔を封印した那珂。

 

「私はもうアイドルじゃないんで、掃除ぐらいしかできませんけど……えへへ、頑張りますね?」

 

「……うん、なんかごめん」

 

「クソ提督、来たんだ。ようやく、ね」

 

「開口一番それやめろや!!」

 

 毒舌といえばこの人、曙。腕組みしながらも、足元にはモップ。やる気は……微妙にありそう。

 

「べ、別に歓迎してるわけじゃないからな……ただ、掃除ぐらいはしとかないと、こっちも気持ち悪いし!」

 

「…………ツン90%、といったところでしょうか」

 

「ええと、あの……由良です。よろしくお願いしますね、提督さん」

 

 ふわっと微笑んでやってきたのは、癒しオーラ満載の由良。

 バケツとスポンジ、そしてお花模様のゴム手袋という本気装備。

 

「水場の掃除、任せてください♪」

 

「ママかよ……いや、助かるけど……」

 

「にゃしぃー! 睦月、雑巾振り回す準備できてまーす!」

 

 最後に飛び出してきたのは、元気爆発系駆逐艦、睦月。

 頭には三角巾、腰にはホウキと洗剤袋、まるでちびっこ戦隊のヒーローだ。

 

「やる気は一等賞なのにゃしぃ~!」

 

「よし! お前たち、戦闘準備だ!!」

 

「提督、それを言うなら“掃除”ですよ」

 

「戦場が変わっただけだ!!」

 

 掃除を開始する前に、ヴァルキューレの案内で施設全体を視察することにした。

 

「提督、施設の状況を把握していただくのが先決です。

 全体を巡ることで、再建の優先順位をつけることが可能となります」

 

「了解。……もう、どうせなら全部見せてくれ」

 

「地獄の始まりですね」

 

 

 

【1. 司令部棟】

「椅子に……キノコ生えてる……」

 

「これは“シロカビ”の一種かと。毒性は低いですが、胞子が肺に入ると──」

 

「やめろやめろやめろ!!!」

 

【2. 艦娘居住区】

「床が傾いてるし、窓割れてるし、ベッドが……なにこれ?」

 

「板です。布団は無く、寝具は畳のみ。健康への影響が懸念されます」

 

「曙があんな口になるのもわかるわ……」

 

「クソ提督、なんか言った?」

 

「いえなにも!!」

 

【3. 食堂・炊事場】

「見てください提督! 今日の食材は乾パン、乾パン、あと乾パンです!」

 

「にゃしぃ〜、おかわりも乾パンにゃしぃ!」

 

「冷蔵庫に“期限不明”って書いてある瓶があるんだけど……」

 

「それ、由良特製の“万能調味料”です。使用は自己責任で」

 

【4. 浴場】

「お湯、出ません」

 

「…………知ってた」

 

「浴槽にヒビがあり、サビ水が出ております。肌にやさしくありません」

 

「夕張、入ったことある?」

 

「うん、爆発しなかったから合格かなって~」

 

「合格基準ゆるすぎだろ!!」

 

【5. ドック】

「艤装整備施設……の、はずだった」

 

「電源未通電、オイル切れ、昇降装置故障中。いっそ解体の方が早いかもしれません」

 

「終わってる!!!」

 

【6. 倉庫類】

「夕張────ー!!!」

 

「ごめーん! また火薬と砂糖間違えたー!」

 

「燃えすぎだろ!? どっちにしろ爆発するじゃん!!」

 

【7. 通信室】

「稼働中の通信設備は……モールス信号のみです」

 

「現代戦でそれはレトロすぎるだろ!?」

 

「逆に、暗号解読不能で安全とも言えます」

 

「“逆に”って便利すぎだろお前ら!!」

 

【8. 医務室】

「ベッド1台、包帯2巻、謎の薬瓶数本」

 

「看護艦はいません」

 

「いないのかよ!! 誰が看るんだ!!」

 

「由良さん、実は救急資格持ってるんです♪」

 

「神か……」

 

【9. 訓練場】

「棒しか立ってない。的どこ行った」

 

「腐食で“溶けました”」

 

「物理的に溶けるのかよ!?」

 

【10. 会議室】

「天井崩れてる。会議できねぇ」

 

「議題は“上から降ってくる”状態ですね」

 

「黙れ名言製造機」

 

 

 施設の全てを巡った後、俺は息を吐いた。

 たった今、自分の戦場がどこにあるのかを知った気がする。

 

 ここは、かつて栄光だった場所。

 でも今は、ただの“廃墟”だ。

 

「……よし。直すぞ、全部」

 

「提督……?」

 

 ヴァルキューレが、こちらを見る。

 

「マジでやる。ここを、もう一度“誇れる鎮守府”にする」

 

 艦娘たちが、一斉にこちらを見る。

 

 そして、小さく、けれど確かに……誰かが笑った。

 

 

 




※普通の家はこんなことにはならない…筈
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。