万装の記憶消失の艦娘と新人提督。   作:snooze

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第四話  まずは風呂と飯と修理から

 廃墟のような鎮守府の現状を前に、俺がまず決めたことは──

 

「生活の立て直し」だった。

 

「戦うにも、訓練するにも、その前にまず……風呂、飯、そして修理ドックだ」

 

「合理的な判断です、提督。艦娘の基盤機能を保つ三本柱ですから」

 

 ヴァルキューレが、即座に頷いてくれた。

 それだけで、なんだか背中を押された気がする。

 

「というわけで、ドックの修理から着手する。夕張、協力頼めるか?」

 

「えっ、やだ~……って言うと思ったでしょ? こればっかりはマジで気になってたのよ~。整備系は任せて♪」

 

 白衣を脱ぎ捨て、つなぎ姿に着替えた夕張が、工具片手に大はしゃぎでドックに駆け込んでいく。

 

「電源ライン断線、オイル枯渇、装置の錆とモーター劣化……う~ん、見どころ満載だわぁ!」

 

「楽しんでる!? 楽しんでるよね!?」

 

「大丈夫、あと爆発させなければ完成するから!」

 

「そこが一番不安なんだけど!!」

 

 夕張の整備を、ヴァルキューレが淡々とサポートする光景は圧巻だった。

 

「電力復旧、第三サブライン接続完了。試運転、実施します」

 

「モーター、動いた! やばい、ちょっと泣きそう……!」

 

「感動するのは、火花が出なくなってからにしましょう」

 

「ううっ……はいぃ……」

 

 数時間後──

 

 ドックの中央、緩やかに昇降機が上下する音が響いた。

 

「よし……これで、誰かが傷ついても、治す場所はある」

 

「この一歩が、艦隊としての始まりになります。お見事です、提督」

 

「次はキッチンだ。由良、手伝ってもらえるか?」

 

「はい♪ 実はずっと、ここをどうにかしたかったんです」

 

 由良は本当に嬉しそうに微笑んだ。

 その表情だけで「お願いして良かった」と思えた。

 

「まず水周りですね。配管がサビで詰まってるみたい……。浦風ちゃん、レンチ取ってくれる?」

 

「ほい、任せときんしゃい! ウチこう見えて工具扱い得意なんよ」

 

「え、そうなの?」

 

「親が町工場やっとったけぇな。こういうんは性に合うてる」

 

「……まじでこの艦隊、バランス良くない?」

 

 睦月も調理室に現れて、張り切りすぎて小麦粉をぶちまけた。

 

「にゃー!? 目が痛いのにゃしぃ!」

 

「睦月、炊事場でスモーク演出は不要です」

 

「ごめんなさいにゃしぃ~……」

 

 作業の末、再生されたキッチンから、

 ほんのりとお米の匂いが立ちのぼった。

 

「……ああ、これだ。これだよ。鎮守府の匂いって」

 

「ふふ……やっぱり、お腹が鳴っちゃいますね」

 

「残るは風呂だ。……ここが一番厄介かもしれん」

 

「ボイラー故障、配管の腐食、浴槽ヒビあり。ですが、素材的に“補強”で使用可能です」

 

「補強できるのか?」

 

「曙が、鉄板の溶接が得意です」

 

「え? マジで?」

 

「工事現場でバイトしてたの。艤装を外せば私たちもただの人間と見た目は変わらないからね」

 

「やっぱり口は悪いけど根は真面目だこの子……!」

 

 ヴァルキューレが部品調達リストを出し、那珂が工具を調達し、

 そして夕張が「絶対に爆発しない温水供給装置」の設計に挑む。

 

「完成っ……!!」

 

 浴場の蛇口から、白い湯気を含んだ温水が流れ出した。

 

「おおおお……」

 

「やったにゃしぃ──ー!!」

 

「湯だ!! 湯だぞぉぉおお!!」

 

「“入浴可能”とは、このことを指します」

 

 艦娘たちは、順番に風呂へと向かい、

 炊きたてご飯と煮物、あたたかいスープを囲んで食卓を囲んだ。

 

 笑い声が、ボロボロの食堂に響いた。

 

「……不思議ですね。提督」

 

「ん?」

 

「ここは、まだ崩れていて、整ってなんかいません。それでも、皆が笑っている。……私は、この景色が好きです」

 

「俺もだよ。……ありがとな、ヴァルキューレ」

 

「いえ。私は、ずっと……あなたの艦娘ですから」

 

 淡く、静かに。

 だが確かに、舞鶴鎮守府は今日──“再生”を始めた。

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