廃墟のような鎮守府の現状を前に、俺がまず決めたことは──
「生活の立て直し」だった。
「戦うにも、訓練するにも、その前にまず……風呂、飯、そして修理ドックだ」
「合理的な判断です、提督。艦娘の基盤機能を保つ三本柱ですから」
ヴァルキューレが、即座に頷いてくれた。
それだけで、なんだか背中を押された気がする。
「というわけで、ドックの修理から着手する。夕張、協力頼めるか?」
「えっ、やだ~……って言うと思ったでしょ? こればっかりはマジで気になってたのよ~。整備系は任せて♪」
白衣を脱ぎ捨て、つなぎ姿に着替えた夕張が、工具片手に大はしゃぎでドックに駆け込んでいく。
「電源ライン断線、オイル枯渇、装置の錆とモーター劣化……う~ん、見どころ満載だわぁ!」
「楽しんでる!? 楽しんでるよね!?」
「大丈夫、あと爆発させなければ完成するから!」
「そこが一番不安なんだけど!!」
夕張の整備を、ヴァルキューレが淡々とサポートする光景は圧巻だった。
「電力復旧、第三サブライン接続完了。試運転、実施します」
「モーター、動いた! やばい、ちょっと泣きそう……!」
「感動するのは、火花が出なくなってからにしましょう」
「ううっ……はいぃ……」
数時間後──
ドックの中央、緩やかに昇降機が上下する音が響いた。
「よし……これで、誰かが傷ついても、治す場所はある」
「この一歩が、艦隊としての始まりになります。お見事です、提督」
「次はキッチンだ。由良、手伝ってもらえるか?」
「はい♪ 実はずっと、ここをどうにかしたかったんです」
由良は本当に嬉しそうに微笑んだ。
その表情だけで「お願いして良かった」と思えた。
「まず水周りですね。配管がサビで詰まってるみたい……。浦風ちゃん、レンチ取ってくれる?」
「ほい、任せときんしゃい! ウチこう見えて工具扱い得意なんよ」
「え、そうなの?」
「親が町工場やっとったけぇな。こういうんは性に合うてる」
「……まじでこの艦隊、バランス良くない?」
睦月も調理室に現れて、張り切りすぎて小麦粉をぶちまけた。
「にゃー!? 目が痛いのにゃしぃ!」
「睦月、炊事場でスモーク演出は不要です」
「ごめんなさいにゃしぃ~……」
作業の末、再生されたキッチンから、
ほんのりとお米の匂いが立ちのぼった。
「……ああ、これだ。これだよ。鎮守府の匂いって」
「ふふ……やっぱり、お腹が鳴っちゃいますね」
「残るは風呂だ。……ここが一番厄介かもしれん」
「ボイラー故障、配管の腐食、浴槽ヒビあり。ですが、素材的に“補強”で使用可能です」
「補強できるのか?」
「曙が、鉄板の溶接が得意です」
「え? マジで?」
「工事現場でバイトしてたの。艤装を外せば私たちもただの人間と見た目は変わらないからね」
「やっぱり口は悪いけど根は真面目だこの子……!」
ヴァルキューレが部品調達リストを出し、那珂が工具を調達し、
そして夕張が「絶対に爆発しない温水供給装置」の設計に挑む。
「完成っ……!!」
浴場の蛇口から、白い湯気を含んだ温水が流れ出した。
「おおおお……」
「やったにゃしぃ──ー!!」
「湯だ!! 湯だぞぉぉおお!!」
「“入浴可能”とは、このことを指します」
艦娘たちは、順番に風呂へと向かい、
炊きたてご飯と煮物、あたたかいスープを囲んで食卓を囲んだ。
笑い声が、ボロボロの食堂に響いた。
「……不思議ですね。提督」
「ん?」
「ここは、まだ崩れていて、整ってなんかいません。それでも、皆が笑っている。……私は、この景色が好きです」
「俺もだよ。……ありがとな、ヴァルキューレ」
「いえ。私は、ずっと……あなたの艦娘ですから」
淡く、静かに。
だが確かに、舞鶴鎮守府は今日──“再生”を始めた。