万装の記憶消失の艦娘と新人提督。   作:snooze

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第五話 初めての出撃

 鎮守府に、静かに風が吹いていた。

 

 荒れ果てた海辺の基地は、わずかに片付いたとはいえ、まだ“再建中”というより“再開発予定地”のような有様だった。

 だが、その空気の中に──わずかな活気が生まれつつある。

 

 それは、初めての任務が発令されたその朝から、確かに始まっていた。

 

 朝、鎮守府にようやく繋がった通信機が、パチ……パチ……と音を立てる。

 

「……任務、入りました。近海偵察兼、物資回収任務です」

 

 ヴァルキューレが無表情でモールスを訳す。内容は簡単。だが、今の舞鶴には大きな一歩だった。

 

「にゃしぃー! 睦月、出撃したいにゃしぃー!」

 

「よっしゃ睦月、わしがついとるけえな。暴走は阻止する方向でな」

 

「……あたしも行くわよ。あんたらだけじゃ危なっかしくて見てらんないし!」

 

「那珂ちゃんも行きます♪ あ、カメラって持ってっても大丈夫ですか?」

 

「……非常用のフラッシュにしておけ」

 

「私は……由良、ですね。後方支援に徹します。みなさんの無事をお祈りしてますね」

 

 こうして編成されたのは──

 

 旗艦:浦風(まとめ役)

 

 第二艦:曙(現場のツッコミと救護役)

 

 第三艦:睦月(元気とトラブルの源)

 

 第四艦:那珂(サポート兼“たまにキラキラ”)

 

 第五艦:由良(癒し枠、ムードメーカー)

 

「じゃあ、ヴァルキューレ、夕張……後方は頼んだ」

 

「お任せを。全力で“掃除”しておきます」

 

「がっつり修理して、ちょっとだけ爆破もしておくね~♪」

 

「やめろぉぉぉ!!!」

 

 

 空は快晴。波は穏やか。

 舞鶴の海は、まるで彼女たちの船出を祝うかのように穏やかだった。

 

「にゃしぃ~! あっちにドラム缶が流れてるのにゃしぃ~!」

 

「……待て睦月、走るな──」

 

 → 睦月、派手に滑ってドボン。

 

「やっぱりな! ほらもう、誰か──」

 

 曙が無言で海に飛び込み、睦月をがっしと引っ張り上げる。

 

「ばっかじゃないの!? 何回やったらわかんのよ!」

 

「えへへ、でも曙ちゃん、助けてくれてありがとにゃしぃ~♪」

 

「……う、うっさい!!」

 

 砂浜では、浦風と那珂が物資を回収中。

 

「これは……缶詰? いや、中身のラベルないけぇ、賭けじゃな」

 

「賭けと言えば運命! 運命と言えばアイドル!」

 

「え? なんで!?」

 

 由良は静かに空を見上げて呟いた。

 

「……こうして皆が動いてると、なんだか“鎮守府”って感じがしますね。にぎやかで、笑えて、ちょっとだけ騒がしくて」

 

 その頃、舞鶴鎮守府では──

 

「提督が留守の間に、司令室の照明を最新型にアップグレードしました! リモコン三つついてます!」

 

「三つもいりません。特に“非常時爆発遮断モード”って何ですか、夕張さん」

 

「かっこいいでしょ?」

 

「評価は保留します」

 

 倉庫では、夕張が古い資材をかき分けて工具を探し、ヴァルキューレは台帳と配線図を照らし合わせながら、手際よく修理部品を分類していた。

 

「前任の管理は……本当に杜撰でしたね」

 

「だからこそ、やりがいがあるってもんよ♪ こういうの、性に合うのよね~」

 

「……それは、ある意味で“才能”です」

 

「褒められてるよね? ね?」

 

 お昼時、2人は並んで湯を沸かしながら、ふと小さく言葉を交わす。

 

「提督、無事帰ってくるかな?」

 

「帰ってきます。必ず。……だって、あの人ですから」

 

 夕張はクスクス笑った。

 

「……ヴァルキューレさん、たまに顔が柔らかくなるの、気づいてる?」

 

「……気のせいです」

 

 

 

 

 

「舞鶴艦隊、帰還しました!」

 

「にゃしぃー! 任務完了にゃしぃー!」

 

「全員無事か!? 怪我人は……」

 

「睦月が落ちたけど、私が引きずり上げたから大丈夫!」

 

「ありがと曙。マジでありがと」

 

「……う、うるさいな。そういうの、言うなよ……バカ」

 

 報告を受けたヴァルキューレは、黙って頷く。

 

「記録完了。……初任務としては、充分以上の成果です」

 

「ふっふっふ~! 那珂ちゃん、ちょっとだけ輝いてたでしょ?」

 

「いらんこと言って自滅しないように、明日からも注意な」

 

 夕張が厨房から顔を出した。

 

「できたよ~! 修理したコンロで炊いたごはん、今日の主役!」

 

 並ぶのは、炊きたての白米、ほかほかの味噌汁、

 そして缶詰にしては絶品だった謎の魚の煮物。

 

「あったかい……」

 

「にゃしぃ~! おかわりある?」

 

「少しならのう。みんなに回してからじゃぞ」

 

 曙がそっぽを向きながら、そっと睦月の器に煮物をよそう。

 誰も、それに突っ込まなかった。

 

 夜。

 ヴァルキューレは、食堂の隅で提督の背中を見ていた。

 

「……あなたの鎮守府、ですね」

 

「まだまだこれからだけどな。ようやく“ここにいる”って気がしてきたよ」

 

「それで十分です。私たちは、ようやく“帰ってこられた”んですから」

 

 月の光が差し込む、ぼろぼろの天井。

 でもそこに響く笑い声は、確かに──舞鶴を、温めていた。

 

 

 

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