鎮守府に、静かに風が吹いていた。
荒れ果てた海辺の基地は、わずかに片付いたとはいえ、まだ“再建中”というより“再開発予定地”のような有様だった。
だが、その空気の中に──わずかな活気が生まれつつある。
それは、初めての任務が発令されたその朝から、確かに始まっていた。
朝、鎮守府にようやく繋がった通信機が、パチ……パチ……と音を立てる。
「……任務、入りました。近海偵察兼、物資回収任務です」
ヴァルキューレが無表情でモールスを訳す。内容は簡単。だが、今の舞鶴には大きな一歩だった。
「にゃしぃー! 睦月、出撃したいにゃしぃー!」
「よっしゃ睦月、わしがついとるけえな。暴走は阻止する方向でな」
「……あたしも行くわよ。あんたらだけじゃ危なっかしくて見てらんないし!」
「那珂ちゃんも行きます♪ あ、カメラって持ってっても大丈夫ですか?」
「……非常用のフラッシュにしておけ」
「私は……由良、ですね。後方支援に徹します。みなさんの無事をお祈りしてますね」
こうして編成されたのは──
旗艦:浦風(まとめ役)
第二艦:曙(現場のツッコミと救護役)
第三艦:睦月(元気とトラブルの源)
第四艦:那珂(サポート兼“たまにキラキラ”)
第五艦:由良(癒し枠、ムードメーカー)
「じゃあ、ヴァルキューレ、夕張……後方は頼んだ」
「お任せを。全力で“掃除”しておきます」
「がっつり修理して、ちょっとだけ爆破もしておくね~♪」
「やめろぉぉぉ!!!」
空は快晴。波は穏やか。
舞鶴の海は、まるで彼女たちの船出を祝うかのように穏やかだった。
「にゃしぃ~! あっちにドラム缶が流れてるのにゃしぃ~!」
「……待て睦月、走るな──」
→ 睦月、派手に滑ってドボン。
「やっぱりな! ほらもう、誰か──」
曙が無言で海に飛び込み、睦月をがっしと引っ張り上げる。
「ばっかじゃないの!? 何回やったらわかんのよ!」
「えへへ、でも曙ちゃん、助けてくれてありがとにゃしぃ~♪」
「……う、うっさい!!」
砂浜では、浦風と那珂が物資を回収中。
「これは……缶詰? いや、中身のラベルないけぇ、賭けじゃな」
「賭けと言えば運命! 運命と言えばアイドル!」
「え? なんで!?」
由良は静かに空を見上げて呟いた。
「……こうして皆が動いてると、なんだか“鎮守府”って感じがしますね。にぎやかで、笑えて、ちょっとだけ騒がしくて」
その頃、舞鶴鎮守府では──
「提督が留守の間に、司令室の照明を最新型にアップグレードしました! リモコン三つついてます!」
「三つもいりません。特に“非常時爆発遮断モード”って何ですか、夕張さん」
「かっこいいでしょ?」
「評価は保留します」
倉庫では、夕張が古い資材をかき分けて工具を探し、ヴァルキューレは台帳と配線図を照らし合わせながら、手際よく修理部品を分類していた。
「前任の管理は……本当に杜撰でしたね」
「だからこそ、やりがいがあるってもんよ♪ こういうの、性に合うのよね~」
「……それは、ある意味で“才能”です」
「褒められてるよね? ね?」
お昼時、2人は並んで湯を沸かしながら、ふと小さく言葉を交わす。
「提督、無事帰ってくるかな?」
「帰ってきます。必ず。……だって、あの人ですから」
夕張はクスクス笑った。
「……ヴァルキューレさん、たまに顔が柔らかくなるの、気づいてる?」
「……気のせいです」
「舞鶴艦隊、帰還しました!」
「にゃしぃー! 任務完了にゃしぃー!」
「全員無事か!? 怪我人は……」
「睦月が落ちたけど、私が引きずり上げたから大丈夫!」
「ありがと曙。マジでありがと」
「……う、うるさいな。そういうの、言うなよ……バカ」
報告を受けたヴァルキューレは、黙って頷く。
「記録完了。……初任務としては、充分以上の成果です」
「ふっふっふ~! 那珂ちゃん、ちょっとだけ輝いてたでしょ?」
「いらんこと言って自滅しないように、明日からも注意な」
夕張が厨房から顔を出した。
「できたよ~! 修理したコンロで炊いたごはん、今日の主役!」
並ぶのは、炊きたての白米、ほかほかの味噌汁、
そして缶詰にしては絶品だった謎の魚の煮物。
「あったかい……」
「にゃしぃ~! おかわりある?」
「少しならのう。みんなに回してからじゃぞ」
曙がそっぽを向きながら、そっと睦月の器に煮物をよそう。
誰も、それに突っ込まなかった。
夜。
ヴァルキューレは、食堂の隅で提督の背中を見ていた。
「……あなたの鎮守府、ですね」
「まだまだこれからだけどな。ようやく“ここにいる”って気がしてきたよ」
「それで十分です。私たちは、ようやく“帰ってこられた”んですから」
月の光が差し込む、ぼろぼろの天井。
でもそこに響く笑い声は、確かに──舞鶴を、温めていた。