万装の記憶消失の艦娘と新人提督。   作:snooze

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第一話の前の話だぜ!提督がまだ学生だった時の話ってやつだな!


第零話 そして、彼は海を目指した

風が強い日だった。

海沿いの坂道を、ひとりの少年が走っていた。

 

その日も、変わらず。

 

白い士官学校の制服。腰に巻かれた訓練用の模擬サーベル。

海軍士官養成学校・第49期生、予科最終年。

 

彼はまだ、名前も与えられていない「無名の士官候補生」にすぎなかった。

 

成績は中の上。

身体能力は合格ライン。

戦術学、歴史、統率、工学――すべて、平均より少し上。

 

誰もが言った。

「優秀ではあるが、突出してはいない」と。

 

ただ一つ、教官たちの目を引いていたのは、「艦娘との適性指数」だった。

 

ある訓練の記録。

 

「艦娘との連携テストにおいて、彼は5人の艦娘の行動パターンを即座に見抜き、指示系統を“信頼”で構築した」

「軍規に則った命令ではなく、判断の余地を艦娘側に与えたうえで成果を上げたのは稀有である」

「従来の“兵器としての艦娘運用”ではなく、“共同作戦”を可能にする可能性」

 

そう書かれていた。

 

本人にその自覚はなかった。

むしろ、彼にとって艦娘という存在は──

 

「不思議な存在だった。人間みたいで、人間じゃない。だけど、人間より“痛み”に正直で……」

 

そう呟いた日、隣にいた教官が言った。

 

「お前、いつか地雷踏むぞ。それ、軍じゃあんまり口に出すなよ」

 

「……でも、本音です」

 

教官はため息をついたが、それ以上は何も言わなかった。

 

ある日、海岸沿いのコースをランニングしていた彼は、

そこで“何か”を見つけた。

 

それが、“あの艦娘”との出会いだった。

 

誰にも言わなかった。

報告も、記録も、義務も、すべて無視して──

 

彼はそれを「拾った」。

 

寮の裏の納屋に寝かせて、

制服の予備を着せて、

名前も知らないその艦娘と、しばらく一緒に暮らした。

 

「……君、名前は?」

 

「……わかりません」

 

「何艦?」

 

「……わかりません」

 

「でも、“艤装”の痕がある。間違いなく艦娘だ」

 

「……そう、なんでしょうね」

 

最初は話しかけてもろくに返事がなかった。

 

表情も、感情も、空っぽだった。

 

だが、日が経つにつれて、

彼女は少しずつ、表情を取り戻していった。

 

その中で、彼はふと、こう呟いた。

 

「名前がないのも寂しいよな……うーん、どうしようか…」

 

「…ヴァルキューレ」

 

「え?」

 

「私の名前…なんか、そんな感じがします」

 

それが彼女の、“今の名前”となった。

 

「お前、卒業だってな。おめでとう」

 

「ありがとうございます、教官」

 

「行き先、決まったらしいぞ。お前には、ちょっと変わった鎮守府が……」

 

そのとき彼は、ある予感を感じていた。

 

「“変わった”?」

 

「……まぁ、“終わった”と言った方が正確かもしれんがな」

 

卒業式の夜、彼は校舎の裏でヴァルキューレと会った。

 

「……君、俺がいなくなっても、ひとりで大丈夫か?」

 

「私は、あなたの艦娘です。だから……どこまでも、ついていきます」

 

「そうか……なら、行くか。俺たちの戦場へ」

 

こうして──

名もない士官候補生は、

記録にも残らぬ形でひとりの艦娘と共に、

“再建不能”とまで言われた舞鶴鎮守府へと赴任することとなった。

 

正規の配属記録には、ヴァルキューレの名はどこにも記されていない。

 

彼女の存在は、“いないこと”になっている。

だが彼にとって、それは確かにそこに“いる”艦娘だった。

 

そして物語は動き出す。

 

荒廃した鎮守府、心に傷を負った艦娘たち、そして失われた“何か”を探す記憶喪失の少女。

 

これはまだ、すべてが始まる前の物語──

 

 

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