万装の記憶消失の艦娘と新人提督。   作:snooze

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第八話 監査官、見ゆ!

「監査官、到着されました!」

 

緊急連絡を受け、司令室がバタバタと騒がしくなる。

提督は机に突っ伏していた頭を上げ、ぼさぼさの髪を整えながら呻いた。

 

「……来たか。敵か味方か、さて……」

 

「“味方だった例は過去データに存在しません”」

 

「ヴァルキューレ、その情報いらない!!」

 

制服を慌てて整え、書類を抱え、提督は桟橋へと急いだ。

 

降り立ったのは、黒の軍服に身を包んだ白髪の男。

鋭い目。堅く結ばれた口。

それだけで「絶対面倒くさい奴だ」と分かるオーラを放っている。

 

彼の名は――雨宮 誠司(あまみや せいじ)

 

「舞鶴鎮守府、臨時監査に入る。案内を」

 

低い声で、それだけ言った。

 

「……はい、こちらへどうぞ」

 

提督は汗をにじませながら頭を下げた。

後ろでは艦娘たちが壁から顔を出して、興味津々にこちらを見ている。

 

「うわ、めっちゃガチの人きたにゃしぃ……」

 

「き、緊張する……!」

 

「絶対余計なこと言うなよ、睦月」

 

「にゃしぃ……!」

 

雨宮は無言のまま施設を回る。

 

壊れた廊下、

手作りで直した司令部、

ペンキ跡がまだ乾ききっていない浴場、

古びたドックで油まみれになりながら艤装を磨く夕張。

 

何も言わない。

ただ、その目だけが静かに“何か”を見つめていた。

 

 

「えっ監査官ってマジの人!? 那珂ちゃん芸能履歴しかないよ!?」

 

「ぶちのめしてもいい?」

 

「お茶ですにゃしぃ~!」

 

睦月が全力でお茶を運ぶ……が。

 

バシャッ。

 

雨宮の軍服に思い切りかかる。

 

鎮守府、氷点下の静寂。

 

「……にゃ、にゃしぃ?」

 

「死んだ……俺たち終わった……」

 

「……熱くなかった。問題ない」

 

無表情でそう言った男を見て、提督は思った。

 

(つ、強ェ……!)

 

施設視察の後、提督はヴァルキューレと共に用意した資料一式を差し出した。

 

「こちらが、復旧状況報告書、ならびに艦娘たちによる証言記録と、

舞鶴鎮守府の日常を記録した映像です」

 

雨宮は無言でそれを受け取り、報告書をめくる。

 

数分後、映像が再生される。

 

映るのは、日常の光景。

 

掃除に明け暮れる艦娘たち。

笑顔で走る睦月。

ぶっきらぼうに手伝う曙。

ツッコミを入れながら整備する浦風。

歌う那珂。

それを見守る由良。

そして、彼女たちの中心にいる提督の姿。

 

「ここには、“生きてる艦隊”がある」

 

その言葉に、

雨宮が少しだけ、笑ったような気がした。

 

すべての確認が終わり、雨宮が背を向けようとしたその時。

 

ヴァルキューレが、静かに一歩前へ出た。

 

「……雨宮中将、よろしいでしょうか」

 

「許可する」

 

「私は、正式な艦籍にも、配属記録にも存在しません。この鎮守府の書類にすら、私の名はありません。それでも私は、ここにいて、提督と、艦娘たちと、共に生きています」

 

雨宮は一瞬、ヴァルキューレをじっと見つめる。

 

「記録にない存在でも……声は、確かにある。ここは、そういう鎮守府だな」

 

それだけ言うと、雨宮は再び無言で去っていった。

 

 

数日後、提督のもとに一通の公文が届いた。

 

『舞鶴鎮守府、仮運用からの正式復帰を承認す』

『引き続き観察対象とするが、独立運営を認可』

 

提督はその紙を読み上げ、手を高く掲げた。

 

「よし!!! やったぞお前らあああああああ!!!」

 

「おおーー!! にゃしぃーーー!!」

 

「うっさい!! でもまあ……やったわね」

 

「これで那珂ちゃんの全国ツアー計画がッ!」

 

「違う。断固、違う」

 

ヴァルキューレは、皆の騒ぎを静かに見ながら、

そっと微笑んで呟いた。

 

「……届きましたね、私たちの声」

 

提督は、ぐしゃぐしゃの顔で笑った。

 

「……ああ。しっかり、ぶちかましてやったさ」

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