ラスボスドラゴンを育てて世界を救います!〜世界の終わりに聞いたのは寂しがり屋の邪竜の声でした   作:犬型大

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世界の終わりに君の声を聞いた2

「なっ……そんなこと…………ある、けど」

 

 恐ろしく大きな体してるのにギリギリ聞こえるぐらいのか細い返事だった。

 

「…………なら友達になるか?」

 

 なんで世界を滅ぼした。

 どうしてみんなを殺した。

 

 なぜこんなことを始めた。

 聞きたいことはたくさんある。

 

 でも聞くのはやめた。

 聞いたところで世界が戻るわけでもない。

 

 なら何か先のためになることをしてみようと思った。

 トモナリはこんなもの気の迷いだなと思ったけど最後にくだらない話を聞いて終わるよりは少しでも良いことした気分になりたかった。

 

 友達が欲しいならなってやろう。

 気まぐれに口にした言葉だった。

 

「本当!?」

 

「ああ、俺が生きている間は何があっても友達でいてやるよ」

 

 邪竜が笑ってる。

 そう前に言われた時は未来を繋ぐためにと残った覚醒者を皆殺しにした邪竜を遠くから見た時だ。

 

 確かに笑っているようにその時には見えたのだけど、今はちゃんと嬉しそうにしていることが分かる顔をしていた。

 邪竜の尻尾が振られ、風が巻き起こり地面に当たるために大きく振動がトモナリに伝わってくる。

 

(勘違いしていたのかもしれないな)

 

 ぼんやりとした頭でトモナリは思った。

 邪竜は敵であり、知ろうともしなかった。

 

 こんな犬みたいに邪竜が尻尾を振ることがあると誰が想像できただろうか。

 

「友達、友達、とっもだち〜」

 

 こんな風に友達ができたぐらいで大喜びすることがあるのだと誰も知らないだろうとトモナリは思わず顔をほころばせた。

 

「お前、名前は?」

 

 邪竜、と呼ぶわけにはいかない。

 人の都合で勝手に呼び始めたものだし名前があるはずだろうと思った。

 

「……僕、名前が無いんだ」

 

「名前が無い?」

 

「どこで生まれたかも、親がどんなのかも知らないんだ。ただ気づいたらここにいて、抗いようのない衝動で戦わされる……嫌だって叫んでも僕は……君たちを殺してしまったんだ」

 

「うわっ! 顔を俺の前からどけてくれ!」

 

「あっ、ごめん!」

 

 邪竜の目から涙が流れた。

 流れた涙は邪竜の真下にいたトモナリに降ってきた。

 

 邪竜にとっては些細な一滴の涙だったのかもしれないけれどトモナリにとっては大きなバケツをひっくり返したような量があるのだ。

 

「ごめんね……こんなことしたくないのに…………ごめんね」

 

 まだほんの少しだけ残っていた邪竜を責める気持ちが涙を流して小さくなって項垂れる姿を見た瞬間にチクリとした痛みに変わった。

 したくないのに戦わされる。

 

 立場も力も種族も違うが邪竜と人間は同じだったのかもしれない。

 何か、より上の存在によって戦わざるを得ないように仕向けられていたのだとトモナリは思った。

 

「……泣くな。せっかく友達ができた良い日に泣くもんじゃないさ」

 

「…………ゔん!」

 

 邪竜は口を閉じてグッと涙を堪えると尻尾で目を拭う。

 そこで拭うんだという驚きはあるがなんだか可愛らしい仕草にも見えてくるのだから不思議なものである。

 

「名前……つけてやらないとな」

 

「名前つけてくれるの?」

 

「呼ぶための名前が無いと不便だろ?」

 

「これまで名前で呼ばれることなかったから……」

 

「……何にしても名前ぐらいあってもいいだろ?」

 

 もう持っているアイテムも何もない。

 何かしてあげられることは名前をつけてやるぐらいだ。

 

 邪竜は期待するようにトモナリを見下ろしている。

 

「ポチ……」

 

「ダメ」

 

 トモナリは小さくため息をついた。

 名前をつけるとは言ったもののトモナリにネーミングセンスはないのだ。

 

 ポチも可愛いと思うのだけど邪竜は嫌らしい。

 チラリと邪竜の様子を見る。

 

 真っ黒なドラゴンは破壊のかぎりを尽くしながら戦う様子から邪竜と呼ばれていた。

 本来ならそうしたところをピックアップして名前をつけるべきなのかもしれない。

 

 しかしなんだか邪竜の本質はそうしたところじゃないような気がした。

 それに黒くてカッコいい名前よりももっと可愛らしい名前の方がいいと感じられてしょうがなかった。

 

「……ヒカリ」

 

「ヒカリ?」

 

 戦いの影響で今の世界の空は霞がかかっていて常に薄暗い。

 それでも昼夜ぐらいは分かるもので、薄く明るくなり始めていた空に太陽が顔を出し始めていた。

 

 だけどもうしばらく太陽の光をまともに見ていない。

 希望に満ちていた時代の暖かで柔らかな、眩しいぐらいの日の光をもう一度浴びたいと感じていた。

 

 どうせなら黒いとか闇とかそんなものじゃなくて明るい名前にしてやろう。

 オスかメスかも知らないがヒカリならオスでもメスでもいい。

 

 可愛らしいし邪竜なんてのとは程遠くて面白い。

 

「どうだ?」

 

「うん、僕ヒカリって好き」

 

「そうか……」

 

「お友達かぁ……何しようか?」

 

 名前ももらってヒカリはご機嫌だった。

 

「何したい?」

 

「友達とはねぇ……一緒にご飯食べるんだ」

 

「ご飯?」

 

「うん。おしゃべりしながら一緒に」

 

「そうか……良い夢だな」

 

 確かに他愛無い会話でも人と一緒に飯を食うと美味いものであるとトモナリも思う。

 

「あとは、綺麗なもの見たり色んな場所行ったり……トモナリに褒めてもらったりしたいな」

 

 ヒカリは曇った空を眺めて嬉しそうに語っている。

 

「すまないな」

 

「……どうしたの?」

 

「もう……お前とは一緒にいられない」

 

「どうして? ずっと友達だって……」

 

「見れば分かるだろ……俺、下半身消し飛んでんだ……」

 

 もはや血すら流れていない。

 特殊な魔道具の効果で生きているが生きていると言えるのかも正直怪しい。

 

 トモナリは感じていた。

 自分の命の時間が尽きようとしていることを。

 

「俺は死ぬんだ……せっかく友達になれたのに……ごめんな」

 

「ヤダ……ヤダよ!」

 

「死は止められない。あばよ、ヒカリ。強く生きろ……天国でお前は悪いやつじゃなかったとみんなを説得してやるからさ」

 

「お願い……死なないで! 友達でしょ!」

 

「今度は……もっと早く会えたらよかったな」

 

 ひどい耳鳴りがしてヒカリの声が聞こえなくなってきた。

 

「……次があるなら…………もっとまともに……今度はお前と友達に……」

 

「トモナリ……トモナリ!」

 

 トモナリのウツロな目は何も映し出さなくなった。

 邪竜は泣いた。

 

 初めてできた友達は悲しいほど短い時間でヒカリの元を去ってしまった。

 両目から激しく涙が溢れ出し、大地を揺るがすほどに大きな声で泣いたとしても友は目覚めない。

 

 ヒカリは願った。

 自分の全てを差し出してもいい。

 

 初めてできた友達を返してほしい。

 もっと一緒にいたかったと。

 

「うわあああああああん!」

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