ラスボスドラゴンを育てて世界を救います!〜世界の終わりに聞いたのは寂しがり屋の邪竜の声でした   作:犬型大

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一流の職人2

「良い条件だったし、体よく断るつもりだったのだがな……」

 

 サタケはため息をついた。

 本当なら誰が相手でも難癖をつけて断るつもりであった。

 

 オウルグループが提示してきた条件は申し分なかった。

 むしろもっと吊り上げても応じてきそうな勢いがあるぐらい。

 

 提示された条件は心惹かれないといえば嘘になるぐらいに良いものである。

 けれどどこかに所属するようなつもりもなかった。

 

 断るたびにオウルグループがドンドンと条件を引き上げるので、断るために気に入ったものがいなければと条件を出したのにこのような偶然があるなんてと驚いてしまう。

 

「最新の設備を使わせてもらえるんだな?」

 

「もちろんです」

 

 ムサシはアースドラゴンの精髄を見つめている。

 トモナリの名前は忘れたが、アースドラゴンの精髄がこの世に存在しているということは忘れたことがなかった。

 

 ドラゴンの素材は希少であり、加工が難しく、そしてドラゴンの素材を使って作り上げられた装備はレジェンドクラスなんて呼ばれるほどの品質を誇る。

 職人なら誰しもが夢見る素材である。

 

 手に取ったアースドラゴンの精髄から、まるで大地のようなしっかりとした力強さを感じる。

 トモナリを信頼しているわけじゃなく、本来ならばアースドラゴンの精髄も本物かどうか鑑定する必要がある。

 

 話もそれからだろう。

 しかし本物だとムサシの勘が告げている。

 

 この機会を逃したらアースドラゴンの精髄を逃してしまうのではないかという不安すら覚えてしまう。

 イガラシの口添えもある。

 

 ムサシから見てトモナリ自身の資質も高くて、装備を授けるのにふさわしい人物だと思う。

 断る理由の方がない。

 

「費用もそちらが持ってくれるのだな?」

 

「……ええ」

 

 ムサシの視線にカエデの顔が少し引きつる。

 なんだか怖い念押しのように聞こえたのだ。

 

「はっ、俺の負けだ。オウルグループとの話、引き受けてやろう」

 

「…………ありがとうございます」

 

 オウルグループは一流の職人を引き入れることができた。

 トモナリは一流の職人にアースドラゴンの精髄の加工をお願いすることができた。

 

 ムサシは貴重な素材の加工をすることができる。

 三者それぞれ得をした。

 

 しかしなんだか得をしたのはトモナリとムサシなのではないか。

 カエデはそんな気がしてならなかった。

 

「それと一つ聞きたい」

 

「なんでしょうか?」

 

「君たちは特進クラス……というものだったな?」

 

「はい、そうです」

 

 なんで急にそんなことを聞くのかとトモナリは不思議だった。

 

「うちの娘が今年アカデミーに入学したのだ。特進クラスに入ったと聞いていてな」

 

「へぇ、そうなんですか」

 

 トモナリもカエデも驚いてしまう。

 しかし佐武という名字の人はいたかなと疑問に思う。

 

 課外活動部のスカウトのために生徒たちの名前を少し前に確認した。

 その中でも特進クラスは何回か見たのに、佐武という名字の子はいなかった。

 

「うちの子はナナという。……名字はタンノだ」

 

「えっ? タンノさんが?」

 

「知り合いなのか?」

 

 思いもよらない名前が出てきた。

 

「ええ、知っています。同じ部に入っているので」

 

「そうだったのか。名字が違うのは恥ずかしながら……昔、妻がナナを連れて出て行ってしまったからだ」

 

「あっ、そう……だったんですね」

 

 まさかナナがサタケの娘だとは思いもしなかった。

 トモナリがチラリとカエデを見るとカエデも知らなかったようだ。

 

 実はサタケが今回の話を引き受けようかと迷う要因の一つがナナであった。

 昔気質なところがあるサタケはあまり家庭的な人ではなかった。

 

 そのせいで離婚することとなって、ナナは母親の方についていったのである。

 ただナナとの連絡は取っていた。

 

 アカデミーに入学することも、特進クラスに入ることも聞いていたのだ。

 

「ナナのこと頼むぞ。ただ……手を出したらコロス……」

 

 サタケの職業は鍛冶職人で、ナナの職業も鍛冶職人である。

 職業が子供に遺伝するなんてことはない。

 

 つまり職人の子が職人になるなんていうのは、ほとんどあり得ないような珍しいことなのである。

 そういえば少し似ている気がしないこともない。

 

「……はは……手なんて出しませんよ」

 

 職人ではなく父親の顔を覗かせるサタケに殺気を向けられて、トモナリは引きつった笑いを浮かべていたのであった。

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