ラスボスドラゴンを育てて世界を救います!〜世界の終わりに聞いたのは寂しがり屋の邪竜の声でした   作:犬型大

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力こそ全て1

「‘だああああああっ!’」

 

 ドゥウェルが床を殴りつける。

 あまりに唐突な癇癪に、近くにいるトモナリやエリオットだけでなく観客席でも悲鳴に近いようなどよめきが起こる。

 

「‘なぜ返事がない!’」

 

 とうとうドゥウェルの堪忍袋の緒が切れた。

 出した要求の返事が一向にこないのだ。

 

 交渉に応じるのか、応じないのか。

 要求に対して動いているのか。

 

 何も分からずにドゥウェルはイラついていた。

 要求が届いていないのではないかとすら思っていた。

 

 相手も脱獄騒ぎで混乱極めているのかもしれないし、あるいは要求を無視しているのかもしれない。

 ただ実際には事件が起こってからそんなに時間も経っていない。

 

 ドゥウェルの気が短すぎるのである。

 ただ確かに会場にいる人数や貴賓を考えると対応としては遅いといえる可能性はある。

 

「‘ジェームズ! 俺たちの本気が伝わってないのかもしれないぞ!’」

 

 ドゥウェルは明らかにイラついた目をしている。

 その感情が自分たちに向けられやしないかと、トモナリとエリオットはヒヤヒヤしていた。

 

「‘そう大きな声を出すな’」

 

 落ち着きのないドゥウェルに対して、ジェームズは非常に落ち着き払っている。

 飯を食べてお腹が膨れたジェームズはステージの真ん中に寝転がっていた。

 

 寝ているわけではないが、目を閉じて休んでいる。

 周りの緊張感など無視して、まるで自分の部屋かのようにくつろぐ。

 

 ドゥウェルのようにジェームズは焦っていないようである。

 自分の力一つで観客席を爆破できるのだから、焦ることもないのかもしれない。

 

「‘ほら’」

 

「‘なっ……’」

 

 ジェームズが軽く指を鳴らすと観客席が爆発して悲鳴が上がる。

 

「‘これでいいか? 大人しくしていろ’」

 

 なんてこともないように一つ爆発を起こした。

 爆発の中心の人はおそらく助からないだろう。

 

 人の命をなんとも思っていない、いとも簡単に行われる残虐な行い。

 それはちょっとジェームズを黙らせるためだけに行われたのである。

 

「‘暇なら少し遊べばいい’」

 

「‘なんだと?’」

 

「‘ここには前途有望な若者がいる。少しばかりお前が世の中の厳しさを教えてやってもいいだろう?’」

 

 ジェームズがチラリとトモナリとエリオットを見た。

 そしてドゥウェルも同じく二人を見る。

 

 嫌な予感するとトモナリはひきつった顔をする。

 

「‘……確かにな。人生の先輩として、後輩たちに教えを説いてやるのも面白いかもしれない’」

 

 ドゥウェルがニヤリと笑う。

 

「‘お前ら、俺と戦え’」

 

 とうとうこの時が来てしまったかとトモナリは思った。

 

「ぬおお……怖いのだ……」

 

 ヒカリはトモナリの後ろに隠れる。

 

「‘もちろん本気で戦うわけじゃないですよね?’」

 

「‘なに?’」

 

「‘あなたが本気で戦えば俺たちは数秒も持たないでしょう’」

 

 こうなったら戦いは避けられない。

 しかしドゥウェルが本気で戦ったならトモナリたちの死は避けられない。

 

 戦いをやめさせる事はできないが、ジェームズに比べてドゥウェルはまだコントロールができそう。

 

「‘先輩として手加減はしてくださいますよね?’」

 

「‘……うーん、まあ確かにすぐ終わってはつまらないからな’」

 

「‘近くに命令を聞く人がいる方が先輩も楽でしょう?’」

 

「‘それはそうだな’」

 

 食べ物を運んできた時も押し付けられたのだろう、涙目の女の子がカートを押してきた。

 足がすくんで近づけなかったところをトモナリが運んだのだ。

 

 ジェームズは勝手なことをしたトモナリに目を細めていたけれど、怒りはしなかった。

 何かと動く手駒が近くにいれば、ドゥウェルとしても便利だと説得を試みる。

 

「‘分かった。手加減をしてやる’」

 

 先輩と呼ばれてドゥウェルも少し気分が良くなった。

 歯を見せて笑って手加減することを受け入れる。

 

「‘じゃあご指導よろしくお願いします’」

 

「‘はっはっはっ! 見上げた若者だな!’」

 

「‘どうするつもりなんだ?’」

 

 エリオットは困惑する。

 たとえ手加減していたとしても二人じゃドゥウェルに勝てないだろう。

 

 手加減してくれるなら死にはしないだろうが、ドゥウェルの言う手加減というやつも信頼できない。

 

「‘一発ぶちかます’」

 

「‘はっ……?’」

 

「‘油断してる間に一撃で倒す。これしかない’」

 

 トモナリたちの方から襲撃すれば相手は本気で反撃してくる。

 よほど上手くやらないと相手の不意をつくことは難しい。

 

 しかしこうして手加減して戦ってくれると約束してくれるならチャンスがある。

 相手のタイプを見るに、一発ぐらいならもらってくれる可能性も高い。

 

 一撃。

 これに全てを込めてみようとトモナリは考えていた。

 

「ヒカリ、お前は手を出すな」

 

「トモナリ?」

 

「俺は何発かもらっても大丈夫だろうが、お前はそうじゃないからな」

 

 今はまだエドのドラゴンズコネクトをキープしている。

 防御重視の姿であり、本気でないのならドゥウェルの攻撃も受けられるはずだ。

 

 ヒカリも弱くはないが、いまのトモナリほどの防御力はない。

 

「ここは俺に任せてくれ」

 

 トモナリがやられるとヒカリもカッとなりがちだ。

 だがここでヒカリが目立てばどうなるかわからない。

 

 今はまだヒカリのことを気にしていないようだが、オモチャにされてしまうかもしれない。

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