地獄より我らが父へ   作:XP-79

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No.21 死柄木全:Willing suspension of (dis)belief

 

 

「初代に……?何年前か知らないが、とっくに亡くなっているだろう」

「“個性”には人格と意識が宿る。僕も奪った“個性”から持ち主の意識を感じることがある。OFAの中には、間違いなく、与一が居る」

 

 AFOの瞳孔はポカンと切り抜かれた穴のように見える。

 狂気に陥った人間はもっと瞳が澄んでいる。少なくとも、根拠はあるらしい。

 だが死人は生き返らない。

 

「……もしそうだとしても、それは生前の人格の焼き映しに過ぎない。個性因子はその人そのものじゃない。哲学的ゾンビと一体どう違うんだ」

「君からOFAを奪い返しはしないよ。あまりに長く研鑽を続けたOFAはこの身体には余る。それは既に君のものだ」

『嘘は言っていない』

 

 インカムの向こうで塚内が保証する。だがその言葉をそのまま飲み込める訳が無い。

 この男はOFA奪還のため、100年以上に渡って後継者達を次々に殺した。

 諦めるとは考え難い。

 

「私を諦めて次代を待つと?長期戦はOFAに有利だ。九代目は間違いなく私より強いぞ」

「確かに、ずっと同じ展開が続くと飽きが来る。僕もそろそろ終わりにしたいさ」

「貴様は私と話しに来たんじゃないのか。さっきからはぐらかしてばかりだ。目的は何だ」

「僕の夢は昔から変わらないよ。全ての人々が僕のために存在する世界を作ること。そうして、人々の記憶に残る事さ。君は不思議に思ったことは無いかい?」

「何がだ」

「この世界の都合の良さに。君はコミックスは好きかな。与一はアメコミが好きでね、僕もよく読んでいた」

 

『ショッピングモール内に死柄木弔こと志村転弧を発見。同行者は黒霧、20代男性、それに女子小学生と共に行動しています』

『4人はショッピングモール3階服飾雑貨店で買い物をしています。周囲に他ヴィランの気配は無し』

『志村転弧と行動している20代男性の身元が割れました。名前は分倍河原仁。ヴィラン名トゥワイス。個性は“複製”。連続強盗犯として全国指名手配中』

『女子小学生の方は個性カウンセリングに記録が残っていました。名前は渡我被身子。行方不明届は提出されていません。実母から学校へ休学届が出されています』

『ショッピングモールから客を避難させています。そちらに応援は、』

 

「燈矢少年と転弧少年の方に注力してくれ。こちらには近寄るな」

「賢明だね。いくら増えても蛇腔病院の二の舞になるだけさ」

 AFO相手に追加人員は意味がない。相澤の“抹消”のような個性でなければ余計な犠牲になるだけだ。そして相澤は燈矢の護衛をしている。

「そう心配するな。此処で君が僕と話をしている間は何もしないよ」

「塚内君」

『……本心だな』

「信用されて無いなぁ。ヒーローなんだから、もっと人を信じる心を大事にしたらどうだい?」

「今まで私に信用されるような事を何か一つでもした覚えはあるか?」

「勿論だよ。僕は必ず約束を守る。君の師匠も、同僚も、友人も、殺すと決めた相手は必ず殺してきた」

 

 AFOはストローの先でカフェモカに沈む氷をつつく。

 そうしている間にも周囲の人気が減る。私服姿のヒーローがこちらに神経を尖らせつつ、客を迅速に退避させている姿が見えた。

 自分が気付いているのだからAFOも気付いているだろう。しかし気にする様子も無く、緩い手触りの会話を投げる。

 

「僕は光る赤ン坊より1年程早く産まれた、此の世で最初の異能だ」

「………個性はお前から広がったと?」

「それは分からない。与一と僕は双子の兄弟だ。個性の感染源は僕か、与一か、私達の母親か、それとも別の要因か。いずれにせよ世界は“光あれ”で始まった訳では無い。君は聖書を?」

「教養としては」

「はじめに、神は天と地とを創造された。地は形なく、むなしく、闇が淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてを覆っていた。神は「光あれ」と言われた。すると光があった───つまり僕は天か地のどちらかという訳だ」

「傲慢も過ぎるとこうなるのか。恐ろしいな。救急車を呼んでやるから今すぐ精神科に行け」

 

 ヒーロー達の動きは良いが、大型ショッピングモールを丸ごと無人にするとなると時間がかかる。さらに蛇腔病院のような事前準備も無い。

 時間が要る。

 AFOに「それで、」と話の続きを促した。

「うん。僕の母は娼婦だったらしくてね。物心つく前に死んだけれど、これもまた運命的だと思わないかい」

「……性産業に従事する女性の子供がこの世に何万人居ると思っているんだ。信仰書と現実を混同するな。全て貴様の誇大妄想だ」

 

『轟燈矢が伊口秀一とショッピングモール内を移動中。何やら揉めている様子』

『志村転弧含む4名がゲームセンター方面に移動。方向からして轟燈矢とかち合うぞ』

 

「そのまま転弧少年の保護を、」

「僕と話せよ。気の多いヤツだな」

 口を閉じる。機嫌を損ねて暴れられては困る。

 黙ってAFOに向き直ると、満足げな様子で空になった容器を投げ捨てた。氷が飛散する。

「ある程度の力を得てから、母に関する情報を集めた。与一が知りたがっていたから。それで母が娼婦だった事は分かったが、客の情報は無かった……当り前だよね。僕だってホームレスで酒浸りの信楽狸なんて金を貰っても勃つ気がしない」

「だが、性的サービスの利用客なんて調べようも無い。黙秘する者が大半の筈だ。いくら貴様でも父親を特定するのは、」

「母が商売をしていた売春街へ一度でも足を踏み入れた者は全員調べた。本人が死んでいる者は血縁者を探した。100年かけて調べ尽くしたが、成果は無し」

 AFOは足先で溶けかけた氷を踏み潰した。

 

「では、僕の父親は誰だ?」

 

 

 

 

 

 ■  ■  ■

 

 

 

 

 

「俺の住んでるところは田舎で異形差別が酷くて……だ、だからアンタの動画がメチャクチャ心に響いたんだ!今の歪んだ社会を非難して、ヒーローを絶対的正義とする歪んだ思想を押し付ける有様を否定して、キレイ事で蓋をされていた民衆を解放する行動に感銘を受けて俺も是非燈矢さんの力になりたくってアンタのファングループ入って正しい社会の在り方について討論してでも結局は行動で社会に歪みを示すしかねぇと」

「スタバ近くにねぇのな。しゃーねーからドトール行くか」

「あ、ハイ」

 

 さっきまでモゴモゴ俯いてた癖に、自分のフィールドだと思ったらワンブレスで喋りやがる。

 こーゆー相手のツラも見ないで喋るヤツ苦手。しかし年下なのでしょうがなく奢ってやった。

 ヒーローと一緒に暮らしていると体育会系的な縦社会思考が嫌でも身に着くのだ。

 伊口は手渡された塩キャラメルラテをどこか不服そうに飲んだ。

 

 2人で黙ってドリンク片手に歩く。

 沈黙に耐え切れなかったのか、半分くらい飲み干した伊口が口を開いた。

 声は小さい。声量がマックスとミニマムの二段階しか搭載されていないタイプの人種らしい。

「その、と、燈矢さんはこれからどうやって社会の歪みを正す予定なんだ……?」

「俺が何かするのはテメェらの中で確定事項なのか?」

「え、だって今も個性社会の歪みを暴くためにヒーローを監視してるんだろ?」

「知らねぇ」

「オールマイトの薄汚い本性を暴いてヒーロー社会をぶっ壊すために牙を研いでるって噂は?」

「なんだソレ。マジで知らねぇ」

「え、で、でももうオールマイトの秘密の一つや二つは手に入れてるんだろ!?」

「俺が知ってるアイツのイメ損情報なんてLINEがオジサン構文なトコぐらいだよ。焦凍が真似するからマジで止めて欲しい」

 黒糖ミルクを啜りながら愚痴ると「や、そういうのじゃなくて……」と不満げにごにょごにょ言う。

 

 うぜぇ。

 

「ンだよ。なんか言いたい事あるならハッキリ言えや。最悪殴るだけで済ませてやるから」

「………あんたは、俺達の旗頭になってくれるもんだと思ってた」

「フリーライド思考極まれりだな。勝手にやってろ」

「………俺達みたいな異形型や、世間に抑圧されてる奴らのためにアンタは立ち上がったんだって信じてたのに………」

 

 裏切者のように言いやがる。

 腹の底からため息が出た。

 

「俺が一度でもンなコト言ったか?俺は俺のために動いただけだ。それが偶然テメェらの琴線に触れて、テメェらが勝手に俺に期待したんだろ」

「じゃあ俺はどうすりゃいいってんだよ。田舎で、差別されてて、学校には居場所が無ぇ。こんな社会じゃ生きていけない、俺達みたいなのは、」

「家族から虐待されてる訳じゃねぇんだろ。ちゃんと屋根がある家に住んでて、毎日3回キッチリ食べさせて貰ってんだろ」

「そりゃあ……当たり前じゃねぇか」

「………SNS止めて血反吐吐くまで勉強して奨学金貰って都会に進学して家から出ろ。アホらし」

 飲み終わったプラカップをゴミ箱に投げ捨てる。

 

 この伊口という子供、どうにも好きになれない。

 どうやっても弟妹達と比べてしまうせいだ。

 

 虐待親ごと今までの生活を捨て、後ろ指を差され、世間からあらゆる誹謗中傷を投げつけられ、それでも学校に通う冬美、夏雄、焦凍は、しかし一言も文句を漏らさず、毎日笑って生活している。

 比べるとコイツは全てが軽い。

 

「手続きが難しいならチャイルドラインがある。異形型個性専用の相談窓口もある。異形型は体が頑丈だから都会にゃ山ほど就職先がある。高校さえ卒業すりゃ後は自由だ」

「テ、テメェには分からねぇよ!田舎じゃ俺達みたいなのは石を投げられる、殴られることもある!こ、殺されるかもって思うこともあるんだ!」

「だから何だ。石を投げられたら投げ返せ。その場でやり返せねぇんなら家に火でも付けりゃ良い。結局、戦う覚悟も逃げる覚悟もねぇんだよテメェは……」

 

 口を噤んだ伊口に踵を返す。

 こんな甘ちゃんから他の反社会活動家やヴィランに繋がることは無いだろう。

 相澤にハズレの連絡を入れようと耳に触る。

 

 インカムが無い。

 

「あ?落としたか?」

「覚悟?」

 足を止めた燈矢に、伊口がパチッと瞼を開けた。

「なんで普通に暮らすために覚悟が要るんだ?」

 反論と言うより疑問の気配が強かった。見れば伊口は、透明な天井に罅を見つけたようにぼやっと空を見上げている。

 

「他の人と同じように、普通に生きたいだけなのに。どうして俺達だけ我慢して、そんなに頑張らなきゃならねぇんだ?」

 

 伊口の声に、深く考えることもせず、反射的に応えた。

「そう生まれちまったからだよ。さっさと諦めろ」

 

 伊口は見放された子供の顔をして俯いた。

 燈矢には伊口の気持ちが全く理解できていなかった。

 

 

 そもそも、つい最近まで父親以外の全てがどうでも良かったのだ。

 普通の子供が普通に感じる、居場所のない苦しみを理解するだけの精神的な土壌が無かった。

 

 

 しかし死柄木弔には理解出来た。

 

「───諦める必要はねぇだろ。間違ってるのは社会の方だ。なら一回全部ぶっ壊して、俺達が自由に生きられるようにするべきだ」

 

「あ、燈矢様だ!燈矢君って呼んで良い?呼ぶね。燈矢君初めまして!」

「マジの有名人じゃねえか!ツーショ撮ろうぜ!」「撮る訳ねぇだろコッチは犯罪者だぜ!」 

「オ久ぶリです燈矢さん。お元気そウデ何より」

 

 礼儀正しく黒霧が頭を下げる。その隣には女子小学生と、全身スーツのオッサンが1人。

 黒霧の手にはインカムがあった。そのまま握り潰される。

 

「………多様性の時代らしいオトモダチだなァ弔。暫く見ないうちに趣味が変わったか?」

「ヒーローに救われなかった連中の寄せ集めさ。代わりに先生が救けてるんだよ」

「駒扱いの間違いだろ」

 鼻で笑うと、弔は意外にも反論しなかった。黒霧も黙っている。

 黒いスーツの男だけが分かり易く憤慨していた。

「ンだとこのクソガキ!!AFOは俺達に居場所をくれた良いヤツだ!!」「それにしちゃあ隠し事が多いけどな」

「そうかよ。でもリーダーはそう思っちゃいねえようだな。どうした?」

「……テメェには関係ねぇ」

「そりゃそうだ。ならここでお別れで良いか?晩飯が冷めない内に帰りてぇんだよ」

「あれだけ殺し合いたがってた“お父さん”はもう良いのかよ」

 

 弔の顔にひっついていた手首が無い。

 蛇腔病院に弔が居たと相澤から聞いた。その時に崩れたのだとも。

 

「テメェこそ手首はどうした。おしゃぶり代わりに引っ付いてただろうが」

「もう要らねぇ。あんなもの無くても俺は痒くない」

「痒いのは手首じゃなくてアトピーが原因だろ。ステロイド塗っとけ」

「“お父さん”ともう一回殺し合いたくねぇのかって聞いてんだよ」

 声には緊張があった。弔にとっては大きな切り札だっただろう。

 

 成程、エンデヴァーとの再戦は轟燈矢を引き込むのに最適なカードだ。

 不満の溜まっている社会層に求心力がある燈矢が味方に付けば、良い広告塔になる。

 

 背後からの視線が背中に刺さっている。相澤だろう。

 相澤はきっと自分を心配している。

 しかし他のヒーローはそうではない。自分は反社会的な動画を投稿してエンデヴァーを襲ったテロリストだ。

 この誘いに乗るんじゃないかと監視カメラの向こうでヤキモキしていることだろう。

 

「俺を手駒にするって?AFOに命令されて来たのか?」

「ヒーローの元で我慢してるんじゃないかと心配してやってんだよ。お前はエンデヴァーと殺し合うために何度も焼死体になりかけてた。死んでも構わないってぐらいに執着してただろうが」

「俺の知ってる“お父さん”は死んだ。今のエンデヴァーは他人だ。興味もねぇ」

「心を入れ替えて善人になれば他人扱いか?人間ってのは地続きで生きてるモンじゃねぇのか?」

「………そうだな」

 

 眼を伏せる。お父さんへの愛憎は今も脳の底に沈んでいる。

 しかし神野区の事件前と比べて、熱くはない。

 火種が燃え尽きたからだ。今やお父さんへの感情は、幾重にも包んだオブラート越しに掌で転がせる。

 

「そうかもしれない。でも、アイツは俺の“お父さん”じゃねぇんだ。だから終わりになっちまった───そういうこともある。あるんだよ」

「………ツマンねぇヤツに成り下がったな。キレイ事なんて吹いて飛んでおく未来だとほざいておいて、結局はそのキレイ事に加担しやがる」

 

 黒霧の影から異形の生物が乗り出してくる。伊口がヒッ、と短い悲鳴を上げて腰を抜かした。

 脳無だ。次から次へと、水辺のユスリカのように次から次へと湧き出してくる。無理にでも連行しようというのか。

 人間の5倍はあるだろう太い腕が伸びて来る。

 

「大人しくついて来れば歓迎するさ。お前はそもそも頭がイカれた、ヴィランに向いてるヤツだっただろ」

 

 弔の言うことは正しい。

 

 しかし瞬きをすると、人工的な光の絨毯が足元に広がる。

 車のクラクション。広い背中。星の光。遠くに見える病院の灯り。男の楽観的な声。

 

 

 

 皆で力を合わせれば、どんな苦難も乗り越えられるって!!

 

 

 

「本当のキレイ事は蓋をしない。指し示すんだ。俺はもう、その方向に歩くと決めた」

 

 

 

 脳無が視界から消える。

 赤い炎が横殴りにショッピングモールの壁を貫通し、脳無を瞬時に焼き尽くし、そのまま反対側の壁を吹き飛ばしていた。

 同時に自分の身体に捕縛布が巻き付き、後ろに引っ張る。誰かなんて確認しなくても分かる。

「おッせェよ相澤!」

「悪い。エンデヴァーが救援に来ると連絡があってな。ここで一網打尽にする」

「そりゃ、」

 過剰戦力だろ、と口にする前にわっと人が増えた。

 

 比喩ではない。タイツ姿の男が突如として2人に増えた。

 そして4人に増える。8人に。16人に。32人に。

 瞬きするより早く、指数関数的に増える。増え続ける。

「おいおいそりゃないぜ」「DVクソ野郎だ!」「邪魔すんな!」「息子の窮地を救いに来たって?」「サインくれよ!」「高く売れるかな?」「売れねぇよ!」

 五月蠅い声が大音量で響く。

 あっという間に辺りを埋め尽くしたタイツ男から踵を返し、相澤は自分を抱えたままショッピングモールを駆けた。

 

 大量の腕からすり抜けて、手すりに捕縛布をひっかけて吹き抜けを跳び下りる。

 そのまま階下に衝撃も無く着地した。相澤は義足の不自然さも無く、自分を背負ったまま外に向かって疾走する。

「ありゃなんだ!どういう“個性”だ!?」

「トゥワイス。個性は“複製”。連続強盗犯で、全国指名手配中のヴィランだ」

「お前の“抹消”で止められねぇの!?」

「視界に入ってるヤツの複製は止められるが、こうも増殖されると全員同時に見れねえから意味が無い。それに、」

 

 さっきまで自分達が立っていた上階が吹っ飛んだ。

 赤い炎が天の怒りのように空気を焼いた。

 悲鳴みたいな音を立てて窓ガラスが全部割れる。ドロドロに溶けたマネキンやら、砕け散ったゲームセンターの筐体やらが凄まじい勢いで吹き抜けを落下した。

 

「チンタラしてたらエンデヴァーに巻き込まれるだろうが」

「………俺の方が火力は高ぇ」

「知ってるよ」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 燈矢がイレイザーヘッドと軽口を叩いている姿を遠目に見る。

 信頼しているのだろう。ヴィランに襲われたばかりだというのに、恐怖する様子もなく背中におぶさっている。

 怪我はしていない。イレイザーヘッドは真っ直ぐショッピングモールの外へ燈矢を避難させている。

 

 目の前に蹲る子供に視点を移した。

「志村転弧だな。貴様を保護する。両手を上げてその場に這い蹲りなさい」

「ッ、保護の言葉を辞書で引いて来いオッサン!」

 大量のトゥワイスを肉盾にして身を守ったのだろう。死柄木弔、オリジナルのトゥワイス、渡我被身子、伊口秀一の全員に火傷は無い。

 しかし直接的な熱は防げても、生物である以上呼吸は止められない。

「空気を瞬間的に熱した。喉が焼けて痛むだろう。今すぐ投降すればこれ以上の攻撃はしない」

「流石にガキの虐待に手慣れてやがるな!死ね!」

 

 弔が床に触れる。触れた場所からショッピングモールが崩れる。

 報告通り、触れたものを破壊する個性らしい。

「俺には届かんが、建物を崩されては困るな」

 一般人は既に避難が完了しているが、階下には燈矢とイレイザーヘッドが居る。

 とはいえ保護対象である志村転弧と渡我被身子に怪我を負わせてはならない。あまり高火力で攻撃はしたくない。

 

 悩む間にもトゥワイスは増える。放っておけばショッピングモールの収容可能人数なんぞ容易く超えるだろう。

 しょうがない。山のような人の群れの中に飛び込み、燃やす。

 人肉が燃える特徴的な汚臭は無い。焼死したトゥワイスは死体も残さず煙のように消える。

 

「投降しろ志村転弧、いや、死柄木弔。何をしても無駄だ」

「無駄?」

 とうとう床が崩壊する。ヒーロースーツを握り締めたままのトゥワイスが落下する。

 体重はオリジナルそのままなのか。引きずり落とさんとするトゥワイス達を燃やしつつ、炎を噴射して宙に浮く。

「何が無駄だって?俺達の存在が?」

「ちがう。抵抗しても無駄だと言ったのだ。貴様らはすぐに捕らえられる」

「本当に?」

 自分にしがみ付いたままのトゥワイスが燃える。

 その中に燈矢の顔があった。

 

 燈矢が燃えている。

 

「俺の抵抗は無駄だった?」

「とぅッ、」

 咄嗟に炎を消した。落下する。

 見上げた燈矢の顔は熱で溶けている。

 

 その下から、気味の悪い笑顔でこちらを見下ろす女児の顔が浮かんだ。

「燈矢君の抵抗は無駄にはならなかったですよ?少なくとも、私は嬉しかったのです」

「トガちゃん、燈矢の勧誘失敗したからもう帰るぜ!」「レザーフェイスから貰った燈矢の血ってマジモンだったんだなぁ」

「お、俺もッ、俺も行っても良いですか!?」

「好きにしろよトカゲ野郎。黒霧、」

「ええ。帰りましょう。流石にこれ以上エンデヴァーの相手は出来ない」

 

 燈矢が付けた炎が、燈矢の意図しないところで延焼している。

 社会の隅に追いやられた子供達。運悪くヴィランに堕ちた者。AFOに利用された脳無。

 周囲に振り回され、自我を否定された者達が、身を寄せ合い、時代にうねりを齎そうとしていた。

 

「無駄ではありませんでしたよ。何も」

 

 

 

 

 

 ■  ■  ■

 

 

 

 

 

「僕はね、僕の父親は神様だと思っているんだよ」

「随分答えが飛んだな」

「ただの比喩だよ。何の捻りも無い直喩さ」

 

 インカムの向こうから、エンデヴァーが緊急要請に応じたと連絡が入った。

 なら燈矢少年と転弧少年の方は任せられる。自分はAFOに注力すれば良い。

 

「この世はあまりに都合が良い。コミックス的と言える。昔から不思議だった。そして君の存在で確信を得た」

「何を?」

「この世は創り物だという事に」

 AFOが立ち上がった。周囲に人気は無く、切り抜いた空白である。

 

 

 

 

 

 死柄木全は白い行間の隙間を貫いて、画面の向こうにいる「あなた」を見ている。

 

「ほら、あそこに、こちらを読む人がいる」

 

 

 

 

 

「………?」

「そうさ。君と同じように、僕も実感してはいない」

 しかし、とAFOは決められた台詞をなぞった。

「不思議な力がある日突然人々の間に広がった。僕は産まれた瞬間より邪悪であり、弟は善良だった。七代目の名前は志村奈々、八代目の君の名は八木。ご都合主義の波乱万丈───あまりに筋道が立っていると思わないかい?まるで人工の地獄のように」

「………シミュレーション仮説か?」

「いや、物理学の計算可能性より枠が狭い。この僕こそは都合よく倒されるためのヴィラン。君は正義を成すデウス・エクス・マキナの化身。そうなるよう、我らの父が設定したという話だ」 

 

『一般人の避難完了!!イレイザーヘッドと轟燈矢も撤退した!!』 

 

 塚内の連絡と同時にAFOの胴体を殴りつけた。

 僅かな手ごたえと共に身体が黒い液体に代わる。

 幻覚ではない。しかしAFOでもない。

 

 転弧と共に行動しているヴィランの名前を思い出した。トゥワイス。個性は“複製”。

 液状化するAFOは、しかし口を止めなかった。力を振り絞るようにこちらの両手にしがみ付く。

 

 必死だ。何故だろう。

 先程までの飄々とした、この世の全てが他人事というプラスチックの顔ではなかった。

 

 今この時、死柄木全は、生きている人間の顔をしている。

 

「そして、何より……何より許せないのは、もしかすると、僕達は人間ですらないかもしれないということだ。彼らの方こそ人間で、我々はッ、ただのキャラクターなら、これが地獄でなくて何だ!!これ以上の地獄があるか!!」

「AF、いや、死柄木、一体、一体何を言っているんだ、」

「せめて、彼らが人間で、我々がそうでないのなら。彼らに忘れられないために僕は何が出来る?魔王として、予定された以上を果たせば我々の世界は続くのか?」

「ッそんな理由のために多くの人を殺したのか!!」

「所詮はキャラクターだ!!どれだけ死んでも悲劇として消費されるだけのものだ!!」

 

 AFOは既に溶けて消えている。“複製”によって作られた人間は脆いのか。

 しかし何故か、声だけがその場に反響していた。

 声は頭の裏側から響いている。

 

「量産されたコミックスを幾つも読んだ。どんな話も、ヒーローがヴィランを倒せば終わる。倒されるべき僕が倒されれば、全てが丸い予定調和の大団円。そして何もかもが忘れられる。「君」だって、完結した小説はフォローから外すだろう?」

『オールマイト、何を喋っているんだ?』

「AFOが消えた。“複製”で作られたヤツだったんだろう。この場にはもう、」

『?いや、そうじゃない。喋っているのは君だ』

 

「ならば、僕が倒されなければ良い。全ての人々が、倒されない僕を、倒すために存在する世界になれば。そうすれば完結のピリオドは打たれない。終の文字は永遠に来ない」

 

『君の声でさっきから、所詮はキャラクターとか、倒されるべきとか……“複製”されたAFOは既に消えた。監視カメラを見る限り、君以外の人間は既にそこには居ない』

 

「僕は訴え続ける。この地獄から、向こうにいる貴様へ。つまり我らが父へ」

 

 

 

「思い通りになると思うなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

破、自我受精編 終

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 本編にギャグが少なかったので追加。
 轟燈矢が選ぶ、オールマイトの地味に嫌な所3選

・LINEがおじさん構文
 最初は「下心のないオジサン構文なんざカワイイもんだ」と思っていたが、焦凍が真似するようになってから本気で嫌になった。マジで止めて欲しい。

・オールマイトグッズの試供品を家に持って帰る
 クソダサいので普通に止めて欲しい。何が悲しくて保護者の顔が付いてる歯ブラシやらタオルやらを使わなきゃならねぇんだ。
 しかし質が良いらしく、花の女子高生である冬美ちゃんが普通に使っているので何も言えない。
 値段を調べたら意外に高かった。

・蓋をめっっっちゃ固く締める
 ペットボトルでもジャムの蓋でもぎっっっっちぎちに締める。
 相澤はギリ開けられるが他は無理。レディ・ナガンですら無理。
 注意しようとしたが、夏雄が毎度健気にチャレンジしているので今の所放っておいてる。
 頑張る夏君がカワイイ。
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