地獄より我らが父へ   作:XP-79

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No.26 最終決戦 開幕

 

 

 ワープホールから放り出され、AFOの体は落下を始めた。

 浮遊系個性を発動。弔に“個性”を返してしまったが、浮遊する程度の個性ならば幾らでもストックがある。

 そのまま目立つ位置に滞空。オールマイトを釣らなければ。

 

 足元には緑が広がっている。

 民家は無い。夕暮れの空は山と繋がっている。酷い田舎だ。

 視界にある人工物は送電塔のみ。

 今ある位置を丁度中心として100ha以上の土地が送電塔に囲まれている。

 

 送電塔に向けて“光塵”を撃った。

 着弾寸前に光が弾ける。送電塔には僅かなダメージも無く、白く放電していた。

「金をかけたな。根津か」

 雄英を護る電磁バリア技術の流用だろう。

 よく見れば送電塔と、送電塔を繋ぐ電線が電磁波をまき散らしている。

 “光塵”を弾いた事からして強度はかなりのものだ。電力供給元を潰す方が現実的だろう。

 

 そう思った瞬間、思考が途切れる暇もなく首から上が吹き飛んだ。

 

 

 

 黒い塵と化したAFOに舌打ちする。

「複製体か。早いな」

(気を付けろ八木。今ので“AFO”がまた渡された。OFAの内側で死柄木全が目覚めたら何が起こるか分からん)

「りょうか、」

 三代目の声が終わる前に足元から大量の肉が湧いた。 

 

 清々しい翠に食いつく黒い歯列。鱗を持つ豚の皮。爬虫類のような尻尾。煙を吐く三叉路の口。瞳から爪を生やした少女の首。

 そういったものが混ぜ合わさった艶々とした赤い肉が一瞬で小高い丘のように肥大化した。

 肉の中央ではAFOが満面の笑みで笑っている。密度の高いエネルギーが螺旋を描き、その周囲に円を作る。

 

「全因解放」

「カリフォルニアスマッシュ+発勁+黒鞭」

 

 肉を鞭で絡めとり、動きを止める。

 拳によって生まれた衝撃波を受けて、AFOは千切れて飛散した。複製体なだけあって脆い。

 湧き上がった肉塊はAFOと共に消滅し、ついでに森が一つ吹き飛び、大地が抉れ、クレーターになる。

 粉塵を受けながら目を細めた。

「今の攻撃について詳細な報告をエンデヴァーに」

『了解した』

 

 見たことのない攻撃だ。所持している個性を一斉に解放したのか。

 “複製”が無ければ一世一代の大技だろう。真正面から喰らった拳が僅かに痺れている。

 

 吹き荒れる砂塵の向こう、クレーターの中央に本日3人目のAFOが立ってた。

 当然ながら無傷である。

「良いのかい?ヒーローが環境破壊なんて」

「全くだ。貴様を倒した後は森林復旧に勤しむことにするよ」

 

 背後で爆発音が弾ける。

 ヒーロー達がAFOの複製体と接敵したのだろう。指示を出すエンデヴァーの大声が此処迄聞こえてくる。

 

「今日は君一人じゃないんだな。足手纏いを連れて来るとは酔狂なことだ」

「貴様こそ、誰もついて来てくれないから自分を増やすとはね。寂しんぼか?」

「自分を増やすと言えば君の量産型はどうなったのかな。『オールマイト』が市民を大量虐殺なんて心が痛むねぇ」

 

『無い!!』

 インカムの向こうで塚内が悲鳴を上げた。

 俄かに作戦本部の空気が冷える。

『AFOの拠点にある筈の『オールマイト』が行方不明だ!!』

『志村転弧が所持していたのは、』

『アレとは別で、もう一体足りないんだ!コンパスキッドは!?』

『九州だぞ!?間に合わない!』

 

「……どこにやった親友」

「言うと思うかい親友」

 AFOがニコッと笑う。

 インカムを掴む。

「塚内君、アイツに“嘘発見器”を使えるか」

『ッ、ああ、勿論、』

「アイツに可能な限り喋らせる。常に真偽を確かめてくれ」

 

 真正面から『オールマイト』に対応できるのは自分だけだろう。

 しかしAFOが所持しているにしろ、どこかに隠しているにしろ、この状況で対応するのは難しい。

 何としてもAFOの口を割らせて、産まれる前に処分するしか無い。

 

「───黒霧がどうして貴様を裏切ったのか分かるか」

「?白雲朧の意識を取り戻したからだろう。ヒーローってのは本当にしつこい……」

「違う。黒霧はお前より転弧少年を選んだのさ。初代も、貴様より二代目を選んだ。だから唯一の肉親であるお前を置いて出て行ったんだ。誰にも選ばれない男ってのは惨めなもんだね」

 思いきり地雷を踏まれたAFOの白い額に青い血管が浮かぶ。

 

 AFOの性根は赤ン坊に近い。喜怒哀楽の感情が薄く、代わりに他人の注意を引き付けたがる。

 親を知らず、独力で育った反動なのかもしれない。

 忘れられる事、捨てられる事をこの男は何より怖がる。

 

「誰もお前に興味が無いのさ。お前は倒されるべき悪の象徴で、そこにお前自身は何処にもない。同情を誘う悲しい過去も、思わず応援したくなる向上心も無い。そんなヤツに一体誰が興味を持つってんだい」

「……お前もそうだろう。お前も結局、ヒーローという象徴でしかない。もう誰も貴様の名前すら呼びはしない」

「お前に認められたら気分が良いな。私はずっとそう成りたかったんだ」

 

 AFOを真似てせせら笑った。

 挑発しろ。喋れ。喋らせろ俊典。

 

「お前の言う通り、私達が人間だなんてもう誰も覚えちゃいない。私はオールマイトで、貴様はAFOだ。もう誰もお前を見ない。選ばない。二度と名前を呼ばれる事も無く、思い返される事すら無い!!」

「僕は僕だ!!僕は確かに此処に在る!!それは……貴様が、貴様にだけはッ、」

 

 再び全因解放が放たれ、それを真正面から破る。

 AFOが微塵に砕けた。

 周囲で襲撃の機会を伺っていたAFOの複製体も諸共に消滅する。

 隠れ場所になり得る木々は根元から吹き飛ばす。頭上の電磁バリアが破れ、電磁波が火花を散らしながら大音響で文句を言った。

 

『オールマイト!加減を!!』

「すまないナイトアイ。燈矢君、補修を、」

『黙ってろロリコン!!電磁バリアの維持はコッチの担当だ!!電力上げっから気にすんなオールマイト!!』

 頼りがいのある気風に笑って頷く。

 

 

 

 

 

 ■  ■  ■

 

 

 

 

 

 伊口秀一ことスピナーをみすみす取り逃がしてから、轟燈矢はらしくもなくウジウジと考えている。

 

 東京都個性発電所で個性訓練を終えた後、シャワー室に向かった。

 何人かの顔見知りが居て、こちらを見るなり「お」と水しぶきに負けない声を上げた。

「燈矢。休憩室の冷蔵庫にアイスあるぞ」

「え。マジ?」

「マジ。スーパーカップ一択だけど」

「ンで一択だよ。ダッツねぇの?」

「無ぇよ。でもクッキーバニラならある」

「つか火傷の面積増えたよなぁお前。シャワー出たらちゃんと保湿剤濡れよ」

「また増えたン?所長超えた?」

「アイツ超えたら死ぬだろ」

 

 気を遣っているのか、素なのか。

 もしくはシンプルに興味が無いのか。

 東京都個性発電所の面々は動画の話題を出さない。

 気楽ではある。しかし、これで良いのかという気もする。

 

 

 シャワー室から出ると所長が待ち構えていた。

 コッチを見つけるなり、「ヤ」とツギハギだらけの手をひらっと振る。

「疲れてるのにごめんね。ちょっと話せるかな」

「ウス」

 この人はオールマイト時代より前のヒーローらしい。

 つまりお父さんの先輩にあたる炎熱系個性のヒーローだ。パンピーの梅干しのように見えてけっこう偉い人なのだと最近気づいた。

 

 2人揃って休憩室に向かい、スーパーカップを冷蔵庫から取り出した。

 カッチカチでスプーンも刺さらなかった。

「凶器かよ。これで人殴ったら死ぬだろ」

「発想が恐いなぁ。貸して」

 クッキーバニラを渡す。所長は両手にスーパーカップを一つずつ持って、軽く個性を使った。

 

 それに、「お?」と思う。

 紙容器は一切燃えていない。しかしカッチカチのアイスがあっという間に程良く溶けた。

 トンデモないコントロール力だ。高火力を爆発させるより、炎を出さず、熱だけを物体に効かせる方が難易度が高い。

 それを表情も変えずに、更には両手で別々にやってのけるのだからこの所長はバケモンである。

 

「はい」

「ン。アンタなんでヒーロー辞めたの?スゲェじゃん」

「家族を燃やしちゃったからかなぁ」

 

 それに再び「お」と思う。

 クッキーバニラをスプーンで掬い、口に放り込んだ。

 自分から話したと言うことは、ツッコんで聞いても良いってコトだろう。

 むしろそのために待ち構えていたのかもしれない。

 

「そりゃ、事故か」

「事故だね。当時は騒がれたよ。私、No.1だったし」

「………マジ?」

「マジさ。まぁ八木が留学から帰って来るまでの短い間だったけど」 

 

 オールマイトは雄英卒業後、4年間の海外留学という少々珍しい経歴を持つ。

 大抵の雄英ヒーロー科卒業生はそのままプロヒーローとして就職するものだ。

 

「学生の頃から『こいつがデビューしたら負けるな』って予感はあった。でも4年間もアメリカで遊んでいたら鈍るだろうと、当時は楽観的だったね」

「で、あっという間に抜かされたと」

「もう笑っちゃうくらいあっという間だったよ。予想はしてたのに凄く焦った」

 抹茶味のスーパーカップをスプーンでつつく。

 口調は軽い。過去を飲み込んだ男の声だった。

「テレビも、人々の話題も、SNSも、ビルボードチャートも、一瞬でオールマイトに塗り替えられた。鬱々としていた日本があっという間に生き返って、それは全部アイツの功績だった。そして何より最悪なのは、八木は、自分の功績になんて全く興味が無かったことだ」

「そりゃあ惨めだ」

「違いない。完敗だよ。悔しかった。悔しくて、焦って、この有様さ」

 火傷塗れの頭を指差す。

 茶色く変色した皮膚の真ん中に引き攣れて動かしにくそうな瞼がある。

「訓練中に火力を見誤って、家を燃やしてしまった。家には妻と息子が居た」

「死んだの?」

「いや、オールマイトが救助してくれてね。命は助かった。しかし妻と息子はベッドから起き上がれなくなって、私はヒーロー協会から除籍されたよ」

「アンタよくオールマイトを殺さなかったな」

 

 この上ない生き恥だ。

 そこまでの屈辱を晴らすには、もうオールマイトを殺すか、自殺しか選択肢は残っていないように思えた。

 

「やっぱり君はそう思うよねぇ」

「そりゃそうだろ。そうなったらもう殺すか殺されるかしかねぇじゃん」

「うん。私もそう思ったけど、でも寝たきりになってしまった妻と息子が居た。介護の末に2人とも亡くなる頃にはエンデヴァーがNo.2になっていてね。見るからにオールマイトに対抗心がバチバチな、ヤツを毛嫌いしている炎熱系だ」

「………」

「彼はすぐに私より強くなった。だからもう、私はいいかなって」

「………なっさけねぇのぉ」

 

 お父さんが子供達に「最高傑作」を期待したように、コイツはお父さんに「オールマイト越え」を期待したのだ。

 そして自分は逃げた。身勝手な男だった。

 

「そうだよ。私は情けない。そもそもヒーローに相応しい人間では無かった。妻と息子が死んでからは浮浪者みたいな生活をしていたよ。それを見かねた根津校長が個性発電に関わる会社を紹介してくれて、それで色々あって、今さ」

「つまり何が言いたいんだよ。さっさと結論を言え」

「君、ウチに就職しない?」

 

 パチッと瞬きする。

 所長の顔はあんまりにも火傷が酷いので、表情が読めない。

 しかし声は冷えた灰色をしていた。冗談ではなさそうだった。

 

「私も歳だ。この火傷塗れの体でいつまで生きられるかも分からない。だから次世代のリーダーが欲しい」

「悪ぃ途中経過を言ってくれ。どうしてそうなった?」

「君はどうひっくり返ってもヒーローにはならない。ならウチが欲しいなって」

 コメカミが引き攣れる。空になったスーパーカップを燃やした。

 あまりの高温に煤も残らない。

「そりゃ、俺にヒーローの素質が無いと?」

「うん。君は炎熱系らしくトコトン自分勝手な男だ。お母さんや弟妹達が、君が投稿した動画のせいで苦労していても一切後悔なんかしちゃいないだろう」

「………ちっとは悪いと思ってるぜ」

 痛い所を突かれて唇を尖らせる。

 

 冬美ちゃんと夏君は学校で陰口を叩かれることがあるらしい。

 お母さんはネット上でトンデモない誹謗中傷を受けている。

 一番酷いのは焦凍だ。フランケンシュタインだの、ホムンクルスだの、囃し立てたいだけのバカが言いたい放題に言っている。

 

「でも、本心ではだからどうしたと思っているだろう。そもそも他人に興味が無いのさ。共感性が圧倒的に欠如しているんだ」

「悪いかよ」

「悪くない。逆だ。君はその上でヒーローを良いモノだと認めている。そういう人間は他人の悲劇に引きずられない。悲しむ人に寄り添う才能が皆無な代わりに、君は人の前を歩いてゆける人だ」

「……訳分かんねぇ」

 頭を掻く。

 所長の喋ることは抽象的過ぎる。

「つか、俺ァリーダーなんて柄じゃねぇよ。伊口……俺のシンパだったガキも、俺が対応ミスったせいでヴィランに取り込まれちまったようなモンだし」

「そりゃあ傷ついた子供に寄り添うなんて君には無理だろう。そういうのはヒーローに任せとけば良い。君がスピナーに示すべきはもっと別の事だった」

「そりゃ何だよ」

「自分勝手でも、普通じゃなくても、人生を達成することは出来ると」

 

 所長はスーパーカップの空箱を燃やした。小さく、驚くほど揺らがない炎だった。

「私は家族を殺して、ヒーローの印象も悪くして、自分一人だけが生き残ってしまった。なのに後悔すら無い人間のクズだ。それは自分が一番、よく分かっている」

「………」

「オールマイトは私を救えなかった。私を救ったのはエンデヴァーだ。君はお父さんによく似ている」

 

 所長の言葉に喜びを感じることも、怒りを抱くことも出来なかった。

 どう受け止めて良いのか分からなかった。

 

「ウチの職員、君に動画のことを話したりしないだろう」

「……おう」

「みんな酷い火傷をしているだろう」

「うん」

「彼らは君や私と同じように、火の不始末を過去に持つ。家族を燃やしたり、自身を燃やしたり。友達。家や学校。救助にやって来たヒーロー達。通りすがりの赤の他人───ここの職員は皆、一度地獄に落ちている。だから君に優しい」

「アンタがそういう奴らを集めたんだろ」

「私達のような炎熱系のための居場所が必要だと思ったからね。30年以上かかったが、なんとか軌道に乗せられた」

 

 言葉で言う程に簡単な事では無かっただろう。

 多くの問題があった筈だ。ましてや家族を殺してしまった元No.1なのだから、何をするにしても悪評が付き纏う。

 それが、何を思って同じような罪を犯した炎熱系個性を救う道をひた走っているのか。

 

 分からない。少なくとも贖罪ではないだろう。

 きっともっと自分勝手な理由だ。炎熱系なのだから。

 

「堕ちてしまった人間に、堕ちたことの無い人間の言葉を届かせるのは難しい。だからこそ私達が再び立ち上がって、胸を張って生きることで、救われる人達はきっといる」

 

「私はそう、信じていたい」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「電磁バリア破損!電力上げろ野郎共!!」

「女も居るわよ!!」

「レディース&ジェントルメン!!死ぬ気で火力上げろ!!もしくは死ね!!」

 

 電磁バリア近くに設置された臨時の個性発電所は、近くに寄るだけで熱気が肌を焼く。

 

 臨時とは思えない本格的な施設だ。電磁バリアとの連結も、周囲を巡回する護衛役のヒーロー達も、根津という発案者あってのものである。

 施設内部には東京都個性発電所の職員が揃っていた。彼らはサポートアイテムに身を包み、炎を全身から噴き出している。

 頭上では世界最高峰の熱電効率を誇る巨大タービンが凄まじい勢いで回転していた。

 

「エリア2、14、18破損!30%上げろ!!」

「セメントス&パワーローダーチームが補修開始!!」

「おいぶっ倒れる前に交代しろ!!」

「サポートアイテム壊れた!!予備ちょうだい!!」

 

 発電エリア内は現場の情報を伝えるスピーカーと、戦場の状況を伝えるディスプレイのせいで非情にやかましい。これらは非常事態において速やかに職員を避難させるために設置されていた。

 なにせ発電所は電磁バリアの分かり易い弱点である。しかも送電ロスを最小限に抑えるため、戦場に程近い場所に建っていた

 なんなら戦場の爆音すら聞こえている。

 

 ひと際大きい爆発音が弾け、職員と共に叫び続けていた喉が引き攣った。

 今の爆発音はオールマイトがAFOと戦っている音だろうか。

 もしくはお父さんがAFOの複製体と戦っている音か。

 

「燈矢出力下がってんぞ!!」

「もうバテたか内冷外燃!!帰ってママのおっぱい吸うか!?」

「ッ、うっせえカス!!俺ァ褒めたら伸びる子なんだよ!!」

「燈矢スゴイ!!偉い!!イケメン!!」

「黙れ!!」

 

 今はそんなことを気にしてはいけない。予想以上に電磁バリアにかかる負担が大きい。

 それだけヒーロー達とAFOの戦いが激しいのだろう。

 気を抜いたらAFOが電磁バリアを破って外に逃走する。そうなったら全てがパァだ。

 オールマイトが生きていて、AFOが逃げ隠れ出来ない状況は今しかない。

 

「ハハ……」

 額に滲む汗を感じながら思い出す。

 そうだ。所長にああ言われて、自分は“荼毘”を始めたんだ。

 

 虐げられるばかりの、戦う術もない子供達に自分は共感出来ない。

 自分は伊口秀一に手を差し伸べられない。

 自分にはヒーローの素質が無かった。

 

 しかし堕ちても、普通でなくとも、生きる強さを示すことは出来る。

 人生なんて楽しめたらそれで良いんだと、胸を張って生きることは出来る。

 

「あいつら、何してんのかな」

 “荼毘”が保護した子供達はオールマイト事務所とジーニスト事務所が保護施設に送った。

 彼らは何をしているだろうか。心安らかにいるだろうか。この戦いをテレビで見ているだろうか。

 何か、楽しいことを見つけただろうか。

 

 他人なんてどうでも良いけれど。

 でも、もしそうであれば、嬉しいと思う。

 

 

 

 

 

 ■  ■  ■

 

 

 

 

 

 緑谷出久は夕暮れ時にアスファルトを駆けていた。

 以前レディ・ナガンと遭遇した公園を抜けて、幼馴染の家に向かう。

 前はよく遊びに行っていたけれど、最近はめっきりだ。殴られるし、暴言を吐かれるし、機嫌が悪いと爆破されるから。

 しかし今日ばかりは、たとえ爆破されようと引き下がるつもりは無かった。

 

 オールマイトのカードを御守り代わりに握りしめて玄関をノックする。

「はぁい。あら、出久君じゃない」

「こんばんは!!かっちゃん居ますか!!」

「居るわよ。どうしたの汗だくで」

 玄関に入れてくれた光己に、あの、あの、と言いたいことを口の中で並べつつ、息を吸った。

 

「かっちゃんと一緒にテレビを観させてください!!」  

 

 

 

 

「………ンで来たんだよデク」

「お母さんにテレビ観るなって言われたから。街頭テレビに張り付こうかと思ったけど、もう夜だから危ないかなって」

「帰れ。ついでに死ね」

「イヤだ」

「近寄んな。死ね」

「かっちゃんがテレビの真ん前陣取ってるからだろ。僕にも見せてよ」

「ナード菌が伝染すンだろうが死ね」

「勝己」

「ンだよババア」

「もう一回出久君に死ねって言ったらアンタを家から放り出すよ」

 

 光己の性格上、放り出すと言ったら本当に放り出すことを勝己は良く知っていた。

 しかしだからと言って大人しくデクの存在を許容出来る訳もなかった。

 学校ですらイライラするのに、ココは自分の家なのだ。

「ッ、でもコイツが勝手にウチに来たんじゃねぇか!」

「いいじゃない一緒にテレビ観るくらい。みみっちい男ねぇ」

 リビングのテレビに齧りつく2人にお茶と、夜だけれど特別にお菓子を置いて、光己もまたテレビを観ていた。

 

 画面の向こうではオールマイトを含めたヒーロー達が、何か恐ろしいものと戦っている。

 レポーターが大声で叫んでいるが、内容は殆ど分からない。広大な森が消し飛んだり、地面が抉れてクレーターになったりと、常に爆音が響いているせいだ。

 かと思えば突如として悍ましい形をした巨大な肉が湧き上がり、ヒーロー達が悲鳴を上げている。

 現実のものとは思えない光景で、このまま地球が終わるんじゃないかと思った。

 

 そりゃあ蚤の心臓の引子では観れないし、子供にも観させられないだろう。

 最悪、出久は大好きなオールマイトが死ぬ光景を目の当たりにすることになるのだから。

「でもそうなったら遅かれ早かれ地獄を見るわよ」

 なら好きにさせよう。

 引子も本心では同意見らしく、LINEで連絡すれば「良ければテレビを観させてやって」と返事があった。

 

 そう、社会の平和はオールマイトにかかっている。

 だから彼が死ねば終わる。

 

 自分達に出来る事なんて彼を応援するくらいのことだ。

 この社会において、その権利だけは誰からも奪ってはならないように思えた

 

「あ、エンデヴァーだ!凄い、チャートトップがこんなに揃うなんて!」

「………ンでこんなに集まってんだよ」

 出久は次々と画面に現れるトップヒーローに大はしゃぎだった。

 内心では同じようにはしゃいでいるだろうに、勝己の口調はそっけない。幼馴染と同じテンションではしゃぐのが恥ずかしいのだ。

「きっとすっごく強いヴィランなんだよ!毒々チェーンソーより強いのかも!」

「だとしてもオールマイトなら一発だろ!!」

 きゃあきゃあわあわあ言い合う子供達の顔に恐怖や緊張は無い。

 遠景のために詳細が映っていないのだ。

 

 

 

 子供達の頭の向こう、テレビ画面の中ではエンデヴァーが炎を纏って佇んでいる。

 

 足元にはヒーロー達の死体があった。

 隣には息も絶え絶えのイレイザーヘッドが立ち、敵を睨んでいる。

「作戦本部、こちらエンデヴァー。オリジナルのAFOを発見」

 イレイザーヘッドが僅かに瞬いた瞬間、秀麗な顔の男が2人に増える。即座に焼き払った。

 複製体は笑いながら黒い塵になって消え、オリジナルだけが残る。

 

 周囲の木々はとっくに焼き払った。

 AFOは隠れる場所も無く、しかし緩く微笑んでいた。

 

「これから接敵する」

 

 

 

 

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