虎杖は状況を打破しようと宿儺に協力を頼んでみる。
『ここまで近づかれたらもう逃げらんねぇ、俺も死んだらお前も死ぬんだろ』
『それが嫌だったら協力しろよ宿儺』
『断る』
頰から口が現れ、宿儺からの返事は無情だった。
『お前の中の俺が終わろうとも切り分けた魂はあと18もある。とはいえ腹立たしいことにこの肉体の支配者は俺ではない』
さらに嘲笑うかのように続ける。
『代わりたければ代わればいい、だがその時は呪霊より先に隣の小僧を殺す』
『次に女どもだ、全員活きが良いな、楽しめそうだ』
『んなこと俺がさせるかよ』
即座に言い返す虎杖を宿儺は笑う。
『だろうな』
『だが、俺ばかりに構っていると仲間が死ぬぞ』
特級呪霊が何かを吹くと、虎杖たちの地面が抉れた。
その威力に伏黒は冷や汗をかく
『(呪術じゃない、ただ呪力を飛ばしただけだ!)』
『伏黒、美々子!釘崎と菜々子連れてここから出ろ!』
『みんながここを出るまでこいつは俺が食い止める、出たら何でもいいから合図してくれ』
『そしたら俺は宿儺と代わる』
『そんなことできないよ!』
『そうだ!特級相手に片腕で!』
『よく見ろって、相手は楽しんでいる』
『完全にナメてんだよ俺たちのこと、これなら時間稼ぎぐらいはできる』
『駄目だ!『伏黒!!』っ!』
伏黒の言葉を遮り、虎杖は伏黒を見る。
『頼む』
伏黒は歯を食いしばるが意を決した。
『美々子行くぞ!』
『う、うん!』
『玉犬2人を捜せ!』
伏黒と美々子が離れていくが、呪霊は2人を追いかけなかった。
やはり呪霊にとってはいつでも殺せるからという感覚なのだろう。
『(やっぱりナメてるな)行くぜ!』
--------------------------
『はぁ、はぁ、お前...顔覚えたからな』
釘崎は荒い息を吐きながら、傷だらけの手で呪霊を指さす。
しばらくの間呪霊の群れと戦っていたが、ついにトンカチが折れ、体力も尽きて捕まってしまった。
幸いにも、暴れていたおかげか倒れている菜々子の方に呪霊は行かなかった。
『絶対呪ってやる』
呪霊が釘崎を飲み込もうとすると、突然大蛇に食われた。同時に釘崎は何かに巻き付かれてそのまま引っ張られた。
バクンッ
『釘崎、ここから出るぞ!』
『蛙、苦手なんすけど』
『悪かったな!美々子、菜々子は俺が運ぶから先導頼む!』
『分かった!』
美々子は前方を確認しながら駆け出し、伏黒は菜々子を抱えて走り、蝦蟇は釘崎を口に入れたまま伏黒に続く。
伏黒たちは無事に外へ脱出して伊地知と合流した。
『大丈夫ですか!?』
『伊地知さん、菜々子と釘崎を、玉犬!』
『アオォォォォーン』
伏黒は虎杖に合図を送り、釘崎と菜々子を車に乗せた。2人とも気を失っているが、息はある。
『避難範囲を10kmまで広げてください』
『伏黒くんは?』
『俺は残ります』
『私も!』
『美々子、危険だからお前は『私だって何かできる!』....分かった』
『伊地知さん、できれば戻ってくる時は1級以上の術師と一緒に戻ってきてください』
『伊地知さんが戻ってきてもあまり意味ないので』
グサッ
伊地知はナチュラルに刺さる言葉を伏黒に言われるが、指示に従うしかなかった。
伏黒と美々子は車を見送る。
不意に美々子が後ろを見ると、急いで伏黒を呼ぶ
『...!、恵!』
『どうした?...!、(生得領域が閉じた!特級が死んだんだ)』
それは戦いが終わったことを示していた。
『(あとは虎杖が戻れば...)』
『ヤツなら戻らんぞ』
安堵したのも束の間、伏黒の横から1番聞きたくない声がする。
『『.....』』
動けない伏黒と美々子を見た宿儺は少し笑うと
『そう怯えるな、今は機嫌がいい』
『少し話そう』
宿儺はゆっくりと話し出した。
『何の縛りもなく俺を利用したツケだな。俺と変わるのに少々手こずっている様だ』
『しかしまぁ、時間の問題だろう』
伏黒と美々子は息を呑む。
『そこで、俺が今できることを考えた』
すると宿儺は服を破き、
ドスッ!
『なっ!』
『えっ!』
自分の手を胸の中に刺して心臓を取り出した。
ブチブチ...
肉が引きちぎられるような音が少しした後、宿儺は心臓を取り出した。
『小僧を人質にする』
心臓を手に持ち、不敵に笑う。
『俺はコレなしでも生きられるが、小僧はそうもいかん。俺と代わるということは死を意味する』
『更に、駄目押しだ』
そう言うと特級呪物である自分の指を取り込んだ。
『(宿儺の指!特級が取り込んでいたのか)』
『さてと、晴れて自由の身だ。もう怯えていいぞ』
『殺す、特に理由はない』
美々子に視線を向ける。
『女の方は....良いな、ガキを殺したらゆっくり楽しませてもらうか』
『っ!』
宿儺の不気味な笑みと言葉に美々子は身震いした。
『...あの時と立場が逆転したな』
『だけどな...虎杖は戻ってくる。その結果自分が死ぬとしてもな』
『そういう奴だ』
その言葉に宿儺はククッ...と笑う。
『買い被りすぎだ。こいつは他の奴より多少頑丈で鈍いだけだ』
『先刻も今際の際で脅えに脅え、ゴチャゴチャと御託を並べていたぞ』
『断言する、奴に自死する度胸はない』
宿儺の言葉を聞きながら伏黒は分析する。
『(治ってる、治癒...反転術式が使えるんだ)』
『宿儺は受肉してる。心臓なしで生きられるとはいえダメージはあるはずだ)』
『(虎杖が戻る前に心臓を治させる、心臓を欠いた体では俺に勝てないと思わせるんだ)』
『(できるか?特級の前ですら動けなかった俺に)』
不安から一瞬迷いが生まれるが、すぐに振り払う
『(できるかじゃねぇ)』
『(やるんだよ!)』
『美々子行くぞ!』
『うん!』
伏黒は美々子に声をかけると同時に鵺を出し、宿儺に向かわせた。
『せっかくの外だ、広く使おう』
伏黒は鵺の後に宿儺に向かって行った。
『(面白い式神使いのくせに、術師本人が向かってくるか』
伏黒が何発も拳を放つが、宿儺は簡単に防ぎカウンターを放つ。
『もっと呪いを込めろ(バシッ!)、!』
伏黒を殴ろうとすると宿儺の腕に縄が巻き付き、殴られるのを防いだ。
『(これは....あの女の術式か?)』
『フンッ』
ガッ
その隙に伏黒が宿儺を殴り、少し怯んだところに大蛇を出した。
そのまま大蛇に抑えられ、更に首に縄が括り付けられる。
鵺が雷を纏い、宿儺に攻撃する。
パリパリ、バチィィン!
『畳み掛けろ!』
伏黒達がさらに追撃をしようとした時に、宿儺は笑みを浮かべる。
ザシュンッ!
宿儺ら大蛇と縄を切り刻み、向かってくる伏黒の懐に入り、強烈な拳を腹部に叩き込む。
ドゴッ!
『ぐっ!』
伏黒の体はくの字に曲がり、衝撃で吹き飛ばされた。
『恵!』
美々子が叫び、再び縄を操る。
だが宿儺は自分に向かってくる縄を引きちぎり、同時に美々子の背後に回り込む。
『ガラ空きだぞ?』
宿儺の膝が美々子の背中に叩き込まれる。
『...っ!..』
美々子の体が宙に浮き、倒れている伏黒の近くまで飛ばされる。
宿儺は2人の元へ一瞬で詰め寄り、
『言ったろ』
ガシッ
ガシッ
『広く使おう』
伏黒と美々子を掴むと勢いよく放り投げた。
ブンッ!ヒュォォォォォ
『ぐっ!』
『きゃっ!』
『(呪術うんぬんじゃない!何もかもが....格が違う!)』
飛ばされる伏黒に宿儺が攻撃を仕掛ける。
『恵!』
美々子が急いで縄を操り、伏黒を引き寄せた。
ブンッ
『大丈夫!?』
『悪い....!、危ねぇ!』
追撃で攻撃が来たが、鵺が翼で直撃を防いだ。
ギシギシ
『いい術式だ』
ヒュッ、ドーーーン!!
2人は一緒に建物に叩きつけられたが、鵺が庇ったので重傷ではなかった。
ガラガラ....
『...美々子、大丈夫か?』
『うん...何とか...それより鵺が...』
『(壊れる前に解いた方がいいな、生得領域を抜けるのに式神を一通り使っちまった)』
『(しかも玉犬[白]と大蛇は破壊されてる)』
『もう呪力が...』
ズンッ!
『小僧、お前の式神は影を媒体にしているのか?』
『...ならなんだ』
『フム(呪符を使うありきたりな術式ではない、応用も効く、小娘の方は縄を操るものだろう)分からんな』
宿儺は伏黒に視線を向ける。
『お前、あの時なぜ逃げた?』
『?』
『宝の持ち腐れだな、まぁいい』
『どの道、その程度では心臓は治さんぞ』
その言葉に伏黒は自嘲する。
『(バレバレか)』
『つまらんことに命をかけたな、この小僧にそれほどの価値がないというのに』
その言葉を聞いた時、伏黒の脳裏にはある言葉と善人である姉が浮かぶ。
『ふざけないで』
伏黒が少し考えていると、美々子が宿儺を睨みつけながら反論した。
『恵は虎杖くんを命をかけて助けようとした。それは間違いなく虎杖くんは善人だったから、恵が助けたいと思った人だから』
『だから私はそんな恵の意見を尊重するし、協力もする』
『少なくともあなたに虎杖くんの価値を、恵の行動をとやかく言う資格なんかない!』
美々子の言葉を聞き、伏黒も何かを決心する。
『.....(そうだな...少しでも多くの善人が平等を享受できる様に)』
『(俺は人を.....不平等に助ける)』
ビリビリビリ
伏黒が瞳が力強く開かれると、明らかに伏黒を纏う呪力の流れが変わった。
『美々子、俺の後ろにいろ』
それを感じた宿儺は好戦的な笑みを浮かべ
『いい、いいぞ』
『命を燃やすのはこれからというわけだ』
『魅せてみろ!伏黒恵!』
『布留部由良由良八握、!』
伏黒が唱えると、美々子が何かに気づく
『恵...あれって...』
それに気づいた伏黒は唱えるのをやめ、語り出す。
『.....俺は、お前を助けた理由に論理的な思考を持ち合わせてはいない』
『危険だとしても、お前の様な善人が死ぬのを見たくなかった。それなりに迷いはしたが、結局はわがままな感情論』
『でもそれでいいんだ』
『俺は正義の味方じゃない、呪術師なんだ』
そう言うとフッと笑いながら告げる。
『だからお前を助けたことを、一度だって後悔はしない』
スゥ
『...そっか』
そこには意識を取り戻した虎杖がいた。
『伏黒は頭がいいからな、俺より色々考えてんだろ』
『お前の真実は正しいと思う、でも俺が間違っているとは思わん』
ゴホッ、ボタボタ
咳き込むと同時に口と胸から血がとめどなく出てくる。
『あー悪い、そろそろだわ』
『伏黒も釘崎も、菜々子も美々子も、五条先生は...心配いらねぇか』
『....長生きしろよ』
ドサッ
笑いながら倒れた虎杖は二度と起き上がることはなかった。