呪霊装術   作:戦艦YAMATO

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初めてのifです。
少しぎこちないかもしれませんが、楽しんでくださると嬉しいです。


if Story もしも千鬼が大嶽丸戦で死んでしまったら

 

 

目の前で千鬼の母親が泣いている。

棺桶に縋ってこの場に響くくらいに、その背中を父親がさするが、肩が震えているので、泣いているのだ。

 

『硝子....』

 

歌姫先輩に声をかけられる。いつもの巫女服ではなく喪服だった。

ハンカチを差し出してきたので、なんでだろうと思っていたら頬を伝う涙の感覚があり、自分が泣いているのが分かった。

 

『硝子、無理しないで』

 

『....いえ、大丈夫ですよ』

 

涙を拭いて笑顔にしたが、先輩の表情を見るに上手く笑えていないのだろう。

周りを見ると五条や夏油が見たことがないくらいに表情が暗かった。

黒井さんと理子ちゃんは静かに泣いている。

津美紀、菜々子と美々子にいたっては声を上げて泣いているのを恵が慰めているが、当の本人も泣いている。

 

あぁ、死んだんだ...

 

"千鬼が死んだ"この事実がより突きつけられた。

 

....いや、私が助けられなかったんだ.....

 

 

--------------------------

 

 

あの時、千鬼と私が一向に戻ってこないのを異常事態と考えた補助監督が急いで五条と夏油、夜蛾先生を呼んだ。

駆けつけた3人により大嶽丸はなんとか祓われ、千鬼を急いで病院まで運んで治療を行った。

だがいくら医者が診ても、私が反転術式をかけ続けても、千鬼の心臓が動くことはなかった。

 

『——治せる、治せるから……』

 

必死に呪力も込めた。心配蘇生もした。

 

『……なんで、なんでよ……っ』

 

胸の奥が苦しくなる。指先が震える。

心臓を動かせば、生き返るはずだ。

血が巡れば、またあの声を聞けるはずだ。

 

——だから、もう一回、笑って——

 

『……硝子』

 

気づけば、五条が私の肩を掴んでた。

珍しく、彼の声は静かだった。

普段の軽薄な響きが一切ない。

 

『……離して、邪魔』

 

『硝子、もう』

 

治せるのは私しかいないのに、なぜ邪魔をするだこいつは!

 

『離してって言ってんでしょ!!!』

 

部屋に叫びが響いた。

五条が少しだけ目を伏せる。

 

『……死んだ人間は、戻らない』

 

手が止まる。

わかってる。そんなこと、最初から、わかってる。

 

『でも……っ』

 

肩が震える。

今、目の前の恋人が、何も言わずに横たわっていることが、理解できない。

 

『嘘でしょ……? 少し前まで話してたんだよ……』

 

くだらない冗談を言い合って、笑っていたのに。

 

 なんで、もう動かないの。

 なんで、もう息をしないの。

 なんで、なんで、なんで——

 

私がいくら絶望しても大切な人が慰めてくれることはなかった。

 

 

--------------------------

 

 

棺桶の中にいる千鬼を見る。

外傷は全て治されて表情は寝ているように穏やかだった。

まるで今にも起き上がってくるのではないかという期待もしたが、そうはならなかった。

 

火葬が終わり、骨だけになった千鬼を見た瞬間

私は思わずその場から走り出した。

外へ出て火葬場の入り口まで来ると膝から崩れた。

また涙が出てくる。

 

——千鬼はもう戻って来ない——

 

それを理解してしまった私は声を上げて泣いた。

 

 

 

 

葬式が終わって、高専に戻った私たちに夜蛾先生は数日は休んでもいいと伝えられた。

 

その日の夜に、私は千鬼の部屋に来ていた。

まだ整理をしていないので、あいつがいたそのままの状態だ。

 

部屋を見回すと懐かしい思い出が蘇る。

あいつの読んでた漫画、4人で遊んだゲーム、趣味の一つだったプラモ

 

そして....私との写真があった。

 

『...これ....』

 

あいつが使っていた机の上には私と2人で撮った写真が飾られていた。

 

これは確か、あいつの告白をOKした後すぐに撮った写真だ。

 

『ぎこちないなぁ...緊張してる笑顔っていうのが分かる』

私は軽く笑いながら、ほかの写真を見る。

 

2人でデートに行った時、4人で任務に行った時、大食いチャレンジであいつが最速タイムを出した時などの写真が沢山あった。

 

『...このまま続くと思ってたんだけどなぁ....』

 

また涙が流れる。

私はこんなに泣きやすかっただろうか...

 

『ほんとにさぁ....なんで死んだんだよ!』

 

いや違う。

 

私が助けられなかったのだ。

 

この手で何度も人を救ってきたはずなのに。

 

どうして、千鬼だけは救えなかったんだろう。

 

『……ねえ、戻ってきてよ』

 

誰もいない部屋に向かって呟く。

当然、返事はない。

 

『冗談きついよ……』

 

あいつが寝ていた布団を握りしめる。もうそこに温もりはなかった。

手を伸ばしても、何もない。

触れることも、抱きしめることもできない。

 

『嘘つき』

 

私の声は、震えていた。

 

『ずっと一緒にいるって言ったじゃん……なんで置いていくの』

 

涙が頬を伝う。止められない。

何もかもが嫌になった。

 

助けられなかった私が息をするのも、心臓が動くのも。

 

『…ならさ』

 

私はポケットからメスを取り出す。

 

もう、いいや...

 

刃を見つめる。

こんなもので簡単に、全部終わるんだ。

 

私は自嘲する。

 

『馬鹿だよね、私』

 

涙で濡れた顔のまま、メスを自分の首に当てた。

 

力を入れようとした瞬間、

 

『硝子!!』

 

聞き覚えのある声がした。

 

『っ……何してんのよ!!』

 

荒い息をついて、歌姫先輩が駆け寄る。

私の手を乱暴に掴んで、メスを首から遠ざける。

 

『離して、離してください!!』

 

『今すぐやめなさい!』

 

声を聞きつけた五条と夏油も部屋に入ってくる。

 

『硝子何してんだ!』

 

『悟、抑えるぞ!』

 

『やめろ!離せー!!』

 

私は必死に抵抗するが、五条と夏油に拘束され、メスを歌姫先輩に取り上げられた。

 

なんで、なんで邪魔するの!

 

『返して、返してよ!!』

 

『っ!』

 

パシンッ!

 

頬に痛みが走る。

ゆっくりと前を見ると涙目になった歌姫先輩がいた。

 

『ふざけないで....!何考えてるのよ!』

 

『.....何も』

 

『嘘つかないで!』

『千鬼が死んだのはあんたのせいじゃない!』

 

『もう、いいんです』

 

『よくない!』

 

先輩は涙をこぼす。

 

『なんで、あんたまでいなくなろうとするのよ…! 私たちのこと、考えたことある!?』

 

『........』

 

何も言えなかった。そこへ、五条と夏油が声をかけてきた。

 

『硝子なんで黙って死のうとした?』

 

『私なんか、いなくなったほうがいい....』

 

『それは千鬼も望んでいることなのかい?』

 

『......私は、あいつを救えなかったんだ。』

『どんな怪我でも治すって約束したのに....あいつを死なせたんだ....』

 

『そんなこと言ったら、私達だって同じだ』

 

『.....』

 

『お前が死んだら、俺たちはどうなる?』

 

五条の声が、低く響く。

 

『お前が死んだら、俺達はお前も救えなかったって一生後悔し続けることになる』

『千鬼だって自分が死んだから硝子が死んだんだと後悔する』

『硝子はそれでいいのか?』

 

私は何も言い返せなかった。

 

『これ、千鬼から』

 

夏油から一通の手紙を差し出された。

 

震える手で、それを取る。

 

『千鬼はもしもの時のために夜蛾先生に渡していたらしい。みんなの分の手紙があったよ』

 

封を切って中身を見る。

 

“硝子へ”

呼ばれた気がして心臓が痛んだ。

 

“これを読んでるってことは、俺はもういないんだな

ごめん。約束守れなくて、でもお前を悲しませるつもりはなかった。

だけどお前にだけは伝えたいことがある”

 

私は唇を噛み締める。

今までの思い出などが書いてあって読み進めるたびに、涙が溢れてきた。

 

“俺はお前が好きだった。お前と一緒にいる時間が、何よりも幸せだった”

 

“だからさ、お願いがあるんだ”

 

そこで一度、言葉が途切れる。

 

“お前には、生きてほしい”

 

その一文を見た瞬間、硝子の喉が詰まった。

 

“俺がいないからって、お前までいなくなったら、俺は本当に救われない”

 

“だから、生きてくれ。どんなに苦しくても、どんなに辛くても、お前には生きてほしい”

 

“それで、たまにでいい。俺のこと、思い出してくれ”

“俺はそれで十分だから”

 

最後の行は、少し滲んでいた。

 

涙が、数滴、便箋に落ちる。

 

「……バカ」

 

紙を胸に抱きしめる。

 

「なんで、こんな……」

 

泣きたくなんかないのに、涙が止まらなかった。

なんでこんな呪いみたいな言葉を残すのか。

でも、不思議と、その言葉にすがりたくなった。

 

——生きてほしい

 

その願いだけは、何よりも大切にしなきゃいけない気がした。

 

夏油は震える声で話す。

 

『千鬼はな、硝子のことを何よりも大切にしてた。

俺がそうしたいからだっていつも言ってたよ』

 

『硝子は....そんな千鬼の願いを踏みにじりたいのか!』

 

夏油の頬にも涙が伝う。

 

『そんなことはやめてくれ....』

 

先輩が震える手で私を抱きしめる。

 

『硝子....私達はあんたに生きて欲しいの。

もうこれ以上、大切な人を死なせるのを見たくないの....』

『だからお願い......生きて....』

 

『.....ごめんなさい』

 

私は涙を拭い、笑う。

 

『五条、夏油、先輩....ありがとう』

『私、生きるよ』

 

千鬼....あんたのいう通り、私は生きるから。どんな辛いことがあっても、あんたの分まで生きていろんな経験してくるから。

だから.....待っててね。

 

 

 

 

〜12年後〜

 

ある日、五条と夏油指導のもと一年生と二年生が合同で体術訓練をしており、休憩をしている時だった。

 

『ねぇ五条先生』

 

『ん?どうしたの悠仁』

 

『家入先生ってさ、いつもネックレスかけてるよね?』

 

虎杖の言葉に釘崎も反応する。

 

『あぁ、そう言えばそうね』

『飾りは見えなかったけど』

 

『俺見たんだけどさ、指輪が二つかけられてたんだ』

 

『えっ!そうなの!』

 

真希も思い出したように付け加える。

 

『そう言えば私も見たことあるけど、硝子さんって結婚してないはずだよな』

 

『しゃけ』

 

『五条先生ならなんか知ってるかなって?』

 

虎杖の質問に五条はいつものように明るくではなく、少し落ち着いた声で話す。

 

『そうだね....悠仁達にはいいかな』

『いいよね、傑?』

 

『いいと思うよ。硝子だって悠仁達なら気にしないさ』

 

『それじゃあみんな少し長くなるけどいい?』

 

『『『大丈夫!(しゃけ)』』』

 

訳を知っている恵、菜々子、美々子、パンダも黙って聞く姿勢をとる。

 

『実はね、僕達3人以外にもう1人同期がいたんだよ』

『硝子はその人のことを思ってあの指輪を持っているんだ』

 

『どんな人だったの?』

 

『そうだなぁ。とても頼りになって、強くて、真面目で、そして』

 

 ——硝子が一番、愛している人——

 

 

 

 

 

 

医務室で硝子はそっとネックレスに触れる。

 

二つの指輪。

 

千鬼と、自分のもの。

 

『…ずっと一緒にいるって、言ったでしょ』

 

 

 

 

 

 

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