危険な任務?
三年のある日、夜蛾先生と俺の2人だけがいる教室で真剣な表情で向かい合う。
『千鬼....これはお前にとってとても厄介な任務だと承知している』
『だが悟や傑にはこの任務は向いていないんだ』
夜蛾先生は少し息をつくと
『どうか受けてくれないか?』
目の前で夜蛾先生が俺に頼み込んでいる。
この任務はとても嫌なものだ、今の俺にとっては特に
『夜蛾先生、俺には硝子がいるってご存知すよね?』
『そこをなんとか頼みたい!』
先生の気持ちもわかる。この人は呪術師の中では良い人の部類なので、犠牲を出したくないのだろう。
『....分かりました。ただ硝子には黙っていてください』
夜蛾先生は頷く。
『あと、七海と灰原を同行させてください。彼らならこの任務にも対応できる』
『分かった』
さて、五条と夏油には硝子の足止めを頼むか...
※
『七海、灰原すまんな。こんなことに付き合わせて』
『大丈夫ですよ!』
『早くこの任務を終わらせるほうが、私達や千鬼先輩のためにもなりますからね』
『ありがとう....入るぞ』
俺は意を決して七海、灰原と共にある建物に入った。
入ってすぐに、
『お帰りなさいませご主人様♡』
メイドさんが元気よく出迎えてくれた。
夜蛾先生から秋葉原のメイドカフェのメイド達や客がたびたび怪我を負わされたり、悪夢を見るような現象が起きていると聞かされた。
最初は五条か夏油にしようと思ったが、去年似たような任務へ向かわせるとメイドからアプローチされ、ノリのいい2人はメイド達に声をかけまくって他の客に反感を買う。建物の備品などを平気で壊すなどの問題が目立ったため、俺に話が来た。
正直言ってやばい....なんせ俺は彼女持ち、メイドカフェに行ってるなんてバレたらどんな顔されるか分かったもんじゃない。
もちろん最初は断ったが、等級は少なくても準一級になっているのでそこら辺の術師ではどうにもならない、そこをなんとか頼むと言われたので渋々受けた。
硝子には余計な心配や変な誤解がされないように黙ってきた。(もしかしたら間違ったかもしれない)
五条と夏油にはこの任務のことを伝えている。
ないとは思うが硝子がこちらに来ないようにすること、うまく誤魔化すことをお願いした。
2人もまずいと思ったのか、珍しく真剣な態度で了承してくれてた。
※
『お帰りなさいませご主人様♡』
メイドさんが元気よく出迎えてくれ、何か紙を見せられた。
『こちらお約束になります。何かわからない点はございますか?』
『いえ』
『分かりました。ありがとうございます』
『僕も大丈夫』
なるほど、約束がちゃんとあるのか
まぁこういうのがないとただの無法地帯だからな。
店の中に案内されて少し入ると店のメイド達に
『『『『『お帰りなさいませご主人様』』』』』
『(案内してくれる子を含めて6人ほど、みんな一斉に挨拶してくれるのか....結構もてなすんだな)』
俺は初めて入るので新しい発見が色々と出てくる。
『ご主人様達の席はこちらになります』
俺達は席に案内されて座る。
内装は結構可愛らしいが、色使いがうざくはない
派手すぎでもないが、ちゃんと目立つようにしてある。
『目が疲れないような内装だな』
『そうですね、思ったよりも派手ではないです』
『先輩も七海もメイドさんより内装ですか。さすが、目の付け所が違いますね!』
灰原、別に褒めるようなことなかったぞ。
するとメイドさんがメニューを差し出してきた。
『こちらはお飲み物になります。こちらのお飲み物は.....』
メイドさんがメニューの品を一つ一つ可愛く紹介してくれる。
『(ちゃんと一つずつ紹介してくれるんだな。と言うか食べ物だけではないんだな)』
『(結構な品数なのに、普通にすごい)』
一通り紹介され、俺は七海と灰原に何にするかを聞く。
『2人ははどうする?俺の奢りだから遠慮しなくていいぞ』
『いいんですか?』
『もちろん、付き合ってもらっているからな』
『ありがとうございます!』
『それじゃあ僕は、カレーで』
『私はナポリタンで』
『俺はオムライスで』
『かしこまりました』
メイドさんが注文を取って下がるのを確認すると
俺達は少し静かな声で話し始めた。
『呪力は感じるか?』
『少し微弱ですがありますね』
『夜蛾先生の話を聞いた時に、被害者の行動を分析してみたらメイド達と交流した人が多かった』
『あぁ、だから先輩はオムライスを』
『そう、オムライスにはあれがあるはずだからな。もし呪霊がメイドととの距離が近い人を狙っているなら俺にくるはずだ』
『なるほど、正直そういうのに興味があるのかと....』
『確かに興味はあるが、今は任務優先だよ』
『それに今日中に終わらせて、硝子にバレないようにしないと』
『下手したら、振られて俺が首を吊ることになる』
『その前に家入先輩にホルマリン漬けにされるのではないですか』
『怖いこと言うなよ七海!』
呪力を探りながら雑談をしていると料理が運ばれて来た。
『お待たせしました〜』
『おぉ、美味しそうですね』
『確かにいい匂いだな』
『ご主人様、美味しくなるおまじないをしたいのですが、よろしいですか?』
『あぁ、はい。お願いします』
『では、失礼します』
『美味しくな〜れ、萌え萌えきゅん!』
『(これが萌えきゅんか...結構恥ずかしいな)』
俺達は食事を食べ、メイドさん達とチェキを撮ることにする。
『やっぱり、2人か3人のメイドさん達と撮った方が目をつけられるかな?』
『そうですね、先輩が撮るんですか?』
『いや、1人ずつ撮っていこう』
『まずは灰原、いけるか?』
『写真ぐらい余裕です!』
その次に七海、俺と続いて撮っていく、メイド3人に囲まれて撮る時に、呪力の乱れを感じた。
『先輩...』
『目をつけられたみたいだな』
『少ししたら出るぞ』
メイドさん達にお礼を言って店を出ていく。
しばらく歩いていると、俺たちの前に呪霊が現れた。
『こ、こ、殺す〜』
『メイドは俺のものだ!』
異様に肥大化した上半身と、蜘蛛のように異常に細長い手足を持っていた。顔にはいくつもの瞳が不規則に並び、恨めしそうにこちらをみている。
『はっきり喋るな、一級か?』
『先輩、どうしますか?』
『お前達は先に帰ってろ、俺1人で大丈夫だ』
『だけど、』
『これ以上こんな任務に付き合わせる必要はないからな、ありがとう。後はまかせろ』
『....分かりました。灰原行きましょう』
『でも七海』
『先輩は大丈夫です。信用しましょう』
『...そうだね、それじゃあ先輩、お気をつけて!』
『ありがとな』
手を振って七海たちを見送る。
目的は俺だったのか呪霊が狙いを定めて来た。
獣のような咆哮を上げ、地面を削りながら一気に間合いを詰めてくる。
『グガアアア!』
『うるせぇ』
俺は天逆毎を装備し、呪力を拳に込める。
呪霊の爪が迫るのを見切り、左へ避けると同時にカウンターを叩き込む。
ドゴォッ!
俺の拳が呪霊の顎を直撃、鈍い音と共に奴の頭部が激しく揺れる。
それでも怯まず、触手のように変形した両腕が絡め取ろうと迫ってきた。
『遅い』
難なく呪霊の攻撃を回避する。
そのまま呪霊の懐に入り
バギャァッ!!
呪霊の胸部が陥没し、黒い血が飛び散る。
『ギ、ギィィィ…!』
断末魔と共に、呪霊は消滅する。
『....どうってことないな』
俺は拳を軽く振り、付着した血を振り払った。
『少し買い物して帰るか』
俺は電話で夜蛾先生に終わったことを伝えて、買い物へ行った。
※
夕暮れ時になり、高専に帰った俺は寮の食堂に向かっていた。
『五条達の分のお菓子買ったし、これでお礼にしてもらおう』
食堂の近くまで行くといい匂いがしたので、黒井さんが料理を作っているのだろう。
『それにしても、今日は少し早いな....』
若干違和感を感じながらも食堂のドアを開ける。
『!』
ドアを開けた先には五条と夏油が4人座れる席に向かい合って、大人しく座ってた。
2人は俺を見つけると目だけで助けてくれという意志が伝わってくる。
『(あいつらなんかしたのか?)』
『(....いや、待てよ....これ逃げた方がいいかも)』
そっとドアを閉じて逃げようとしたところに、厨房から硝子が出て来た。
『あっ、おかえり』
俺の逃亡作戦は一瞬で崩壊した。
『ちょっと黒井さんが用事あるらしいから私が作ってるよ』
軽く笑って出迎えてくれてるが、なんだか寒気を感じる。(若干目が笑ってないような気がする)
『いや、お、俺は、自分で作るからいいかなぁ〜なんて』
『一度に済ませた方がいいでしょ』
『座りな』
『お腹減っt『座りな』....はい』
圧に負けて夏油の隣に座る。
五条と夏油は気まずそうにして顔を伏せている。
『(もしかしてバレた!だけど硝子が秋葉原に来たって連絡来てないし、七海や灰原達からも何も来てない)』
『(黒井さんが用事があってご飯が作れないから代わりに作ってるだけ。きっとそうだ)』
俺は五条達が気まずそうにしているのを無視して気持ちが楽になるように考える。
『お待たせ』
硝子がお盆に料理を乗せて来た。
『今日はオムライスだよ』
ドキンッ!
俺の心臓が大きく早く鼓動を打つ。
俺たちの目の前には美味しそうで立派なオムライスが用意された。
硝子が俺の向いに座る。
『....硝子は食べないの?』
『私はもう済ませたからね』
『そう....』
話している間に夏油からケチャップを差し出されたので、もらおうとすると硝子が横から取る。
『私がかけてあげるよ』
『....いや自分でかけれるから』
『なんて書いて欲しい?』
『ほ、星の形で『ハートね、分かった』え〜』
硝子は大きくハートの枠を描き、枠の中をこれでもかとケチャップで埋め尽くす。(ワーオ、真っ赤か)
『どうぞ召し上がれ』
『『『.....いただきます...』』』
オムライスを少し食べ進めていくと硝子から声をかけられる。
『味はどう?』
『とても美味いよ(割とマジで)』
『そう....メイドカフェとどっちが美味しい?』
『っんぐっ!?…』
ゴホッゴホッ
思わず喉に詰まりかけ、何とか飲み込んだが咳き込んだ。
『えっ?!』
『だから、メイドカフェとどっちが美味しい?』
硝子は笑顔だったが、その目はまったく笑っていない。
そのまっすぐな視線が、まるで俺の心の奥まで見透かしているようで、俺は背筋が凍る思いだった。
『.....なんで知っているんでしょうか』
すると硝子は携帯を見せてくれた。
『理子ちゃんがね、人生初の秋葉原に行った時にこういうの見たんだけどって送ってくれた』
写真にはメイドカフェから出る俺達の姿が写っていた。
『(...理子ちゃんかーー、完全に油断してたーー!!』
『それで五条達を問い詰めたら、教えてくれた』
五条達に目を向けると、ものすごい勢いで食べ終わった五条達がさっさと食堂から出て行った。
『『ごちそうさまでした!』』
『おい、お前ら!』
『お先に〜!』
『俺たちもう関係ないから!』
風のように消えた二人を睨みつけたが、後の祭りだった。
どうやら、俺は完全に逃げ場を失ったらしい。
『硝子、これは』
『分かってるよ。任務でしょ』
淡々とした声で喋る。
『まぁ仕方ないよね、クズ2人じゃ先生も安心できないだろうし』
『....でもね、千鬼。私には黙って行ったよね』
『それは、変な誤解をされたくなかったから....』
『変な誤解?』
硝子は首をかしげて、肘をついて俺の顔を覗き込むようにした。
距離が近い...いや、近すぎる。
『私があんたをそんなに信用してないって思ってたんだ』
『いや、そういうわけじゃ』
『それじゃあ、どういうわけ?』
その声は静かだったが、圧を感じた。
『すみませんでした』
俺は素直に謝るしかなかった。
硝子は少しの間俺を見つめた後、すぐに微笑む。
『まぁ、いいよ.....次から気を付けてくれれば』
『(ほっ)ありがとう』
『それでどうだったの?』
『えっ』
『お帰りなさいませご主人様♡ってやられて嬉しかった?』
『えっと〜』
『メイドさん達可愛かった?』
『...えっと〜』
『萌え萌えキュン嬉しかった?』
『......えっと〜』
硝子は俺をじっと見つめてきた。
『それしか言えないの?』
『すみませんでした』
『はぁ...別にいいけどね、あんたも行きたくて行ったわけではないんだし』
『だけどそういう任務はちゃんと私にも言え』
『....分かった?』
『はい!もう二度と黙って行ったりしません!』
『よろしい』
『それじゃあ、冷めないうちに食べな』
『はい!』
オムライスはとても美味しかった。
なんとか硝子がいつもの様子に戻ったので安心する。
食器を洗って食堂を出て、男子部屋に向かう前に硝子が急に後ろから抱きついて来た。
そして耳元で低く囁く。
『また明日ね、ご主人様』
そう言ってニヤリと笑いながら背を向けて女子部屋へ戻った。
『ほんとにずるいわ〜』
俺は顔が熱くなりながらふらふらと部屋に戻った。
おまけ話
私は五条達に声をかける。
『ねぇちょっと』
『ん、何』
『どうしたんだい』
さぁてどんな反応が来るか
『....メイドカフェ』
ギクッ!
『....いきなりなんだよ』
『....そうだねぇ...行きたいのかい?』
分かりやすい反応だな
『これ見て』
理子ちゃんから送られた写真を見せると、目を見開いた2人はさらに分かりやすく反応した。
『な、なんで!』
『こら悟!』
『バレバレだぞクズ共』
『理子ちゃんから送られて来たんだよ』
『(昨日、初めて秋葉原行くんだって言ってたな〜)』
『(理子ちゃんーー)』
『んで、なんで千鬼がこんなとこ行ってるわけ?』
『実は....』
五条から任務のことを聞いた。
全く....どうせあいつのことだ、私に変な心配かけさせないために今日のうちに終わらせるつもりだろう
だけど、あいつがこの任務に選ばれたのは予想がついた。
『ねぇ』
『『はい...』』
『今回、千鬼がこの任務につくことになったのはお前らのせいだよね』
『ちょっとそれは違うかなーなんて...』
....少し脅かすか
『次、お前らが原因でこういう任務に千鬼が選ばれた時は....』
『どうなりたい?』
『『以後気をつけます!』』
『そう、ならよかった』
『お前ら今から言う材料買ってこい』
『『はい!』』
その後五条達に買い出しに行かせて私は電話をかける。
『もしもし黒井さん。今日の晩御飯大丈夫です。』
『はい、今夜食堂使うの私たちしかいないんで自分達で済ませますから、はい、ありがとうございます』
『では』
五条達が戻って来たので、私はエプロンをつけて厨房へと向かう。
『さて、とびきり美味しいのを作ってやるか』
ただの晩ご飯じゃない。
ただ食べさせるだけじゃ意味がない。
ちゃんと、私が作ったものを食べさせることに意味がある。
胃袋も何もかも掴んでおかないと
絶対に離さないようにね。
そう思いながら、まずはオムライスの準備に取りかかる。
食材を切る手が、知らず知らずのうちに力が入ってしまう。
まったく……なんでメイドカフェなんか行ってるわけ?
任務だってことは分かってる。
千鬼がふざけて行ったわけじゃないのも、もちろん分かってる。
でも、頭では分かっていても心がモヤモヤする。
知らない女の子たちに『お帰りなさいませ、ご主人様♡』なんて言われて、萌え萌えきゅんなんてやられて、それを笑顔で受け入れてたとしたら?
そう考えた瞬間、包丁の切っ先がまな板を強く打った。
『…っ、何考えてんの、私』
冷静になれ、硝子。
こんなことで怒ってどうする。
でも、だからこそ今日のご飯は大事だ。
千鬼の記憶に残るような、とびきりの味にしてあげよう。
それに
『(たっぷり分からせてやらないとね)』
※
部屋へ戻ろうとする千鬼にちょっとしたいたずらをしてあげた。私は背を向けて女子部屋に向かったが、
『ほんとずるいわ〜』
ふふっ、効果あったみたいだね。
部屋に戻った私は千鬼に抱きつく時に胸ポケットから取ったものを確認した。
千鬼とメイド3人が写ってるチェキを見る。
『結構、笑顔だな....』
ビリッ、ビリッ
私はチェキを破り、灰皿に置いてライターで火をつける。
燃え上がるチェキの欠片をじっと見つめながら、私は小さく息を吐いた。
『....ふぅ』
火はすぐに燃え尽き、灰だけが残る。
千鬼の顔が写っていた部分も、メイドたちの笑顔も、もうどこにもない。
まぁ、当然の報いだよね。
だって、千鬼は私のものなんだから。
『ねぇ千鬼、どこにも行かないよね?』
『私の知らないところで、誰かに甘い顔なんてしないよね?』
『.…だって、逃げられるわけないじゃん?』
『千鬼は、もう私のものなんだからさ』
小さく笑いながら、私は燃え尽きた灰を指先で弄ぶ。
千鬼、もうお前はどこにも逃げられないんだよ。
──だって、私は絶対に、お前を離さないから。
〜包丁のシーン〜
タンタンタンタン!
『『......(千鬼、早く帰って来て!!)』』