〈千鬼達の交流会〉
千鬼たちが三年生の頃
京都校と交流会をすることになり、夜蛾先生から説明があるため教室で待機をしていた。
五条は椅子に座りながら、足を机に乗せ、退屈そうにあくびをした。
『どうせ俺たちの圧勝でしょ、やんなくてもいいんじゃない?』
気怠げな言葉だったが、その裏には余裕と自信が滲んでいる。去年の記憶を振り返れば、わざわざ戦う意味などないと思っていた。
『悟、これは伝統ある行事だ。それにあっちも無駄だけど何か努力をしているかもしれないじゃないか』
夏油は軽く笑いながら言う。そのつもりはないだろうが、心の底では相手を見下しているようだ。
『お前ら相手を馬鹿にしすぎだ、それに今回は七海と灰原がいるんだ。油断して恥ずかしい思いしても知らねーぞ』
千鬼は腕を組みながら、少しだけ呆れたように言う。
『なんでもいいけど怪我しないでよね』
硝子は窓の外を見ながら、静かに呟いた。
『先輩たちはとても余裕そうだ!僕たちも負けないよう頑張ろうね、七海!』
灰原が明るく七海に声をかけると七海は五条達に絡まれないようにするために、簡潔に返事をする。
『...そうですね』
少しすると夜蛾先生が入ってきた。
『全員いるな、交流戦の説明を始める』
夜蛾先生が交流会の説明をしていき、終盤に入った。
『最後に、今年は特例でルールが追加された』
千鬼は眉を顰める。
『?、(どんなルールだ)』
『悟、傑、千鬼の3名は術式の使用は無し!』
『『『?!え〜!』』』
『なんで!』
『先生、納得いく説明を!』
五条と夏油は不満気だが、
『去年を考えたら分かるだろう!』
『あ〜』
『まぁ、確かにな』
千鬼と硝子は納得といった反応だった。
去年の交流会では五条たちと三年の先輩の6名対京都校7名であったが、団体戦では夏油の呪霊の大群であっという間に目標の呪霊が祓われ、個人戦では五条、夏油、千鬼の3名に当たってしまった相手が棄権し、変わりに選ばれた学生も棄権をすると言う事態が起き、交流会どころか一方的に叩きのめして圧勝をした結果になってしまったのだ。
『だからこの3人は術式の使用はなしとした。呪力による身体能力の強化や呪具の使用は認められているから今のうちに呪具でも探しておけ』
『『『は〜い』』』
※
交流会当日
団体戦では呪力で強化した3人があっという間に目標の呪霊を祓い、勝利
早く終わったので、急遽個人戦をやろうということになり、4人は始まるまで少し時間があるので飲み物を買おうと自販機に向かっていた。
『にしても京都の奴らわざわざこっちまで来てめんどくねーの?』
五条が退屈そうにに呟く
『負けてしまったんだから仕方ないだろう、今年もあっちだって頑張ったんだろうけど所詮はあの程度、めんどくさいなら負けた去年の先輩や自分を恨むことだね』
夏油がさらりと煽るように言った。
『煽るようなことを言うな、一応術式なしなんだぞ俺たち』
『千鬼くーん、そんなんでこの俺が負けるとでも?』
『やべー、こいつのこと無性に殴りたくなったわ』
『私も...解剖してやろうか?』
『なんでだよ!』
和気藹々とした空気の中、自販機の方で話し声が聞こえた。
千鬼達は反射的に壁に隠れ、遠くから見てみる。
自販機の前には京都校の学生たち3人が談笑していた。(今年の京都校は5人で参加)
『聞いたか、今回の交流会で五条悟と夏油傑、それに龍山千鬼は術式の使用禁止だってよ』
『そうらしいな、去年は散々な目に遭わされたからな今回は逆に痛い目に合わせてやろうぜ』
京都校の学生たちは術式が使えないと分かると、かなり強気になっていた(団体戦でボロ負けしたくせに)
だが問題はそこではなかった。
『それにしても見たか?あの家入硝子って女』
『あぁ、かなり良い女だったな』
『東京校の男ども倒したら声掛けに行くか』
『反転術式も使えるし、母胎としても優秀だからちゃんと女の役割を教えてやらないとな』
その言葉を聞いた瞬間
『『っ!』』
五条と夏油は急いで千鬼を見る。
そして予想通りだった。
まさに怒りという言葉が似合う表情になっており、拳が握りしめられている。
そして千鬼は京都校の学生達のもとに行こうとした。
それを五条が肩を掴み、夏油が前に出て止める。
『千鬼、止めろ』
『そうだよ、今問題起こしたらこっちの方が分が悪い』
『硝子があんなこと言われて大人しくできるか、そこを退け!』
『千鬼、止まって』
千鬼が2人を押し退けて行こうとすると、硝子が止めた。
『なんでだ?お前が言われてるんだぞ』
『いいよ別に、呪術界に入ってこういうことはあるんだろうとは思ってたし』
『それに、アイツらの言いなりになるつもりもないから』
『....それよりアイツらを殴って千鬼が責められる方が気に食わないから今は我慢して』
『....硝子がそう言うなら我慢する』
千鬼は力を抜くが、再び胸の前で拳を握りしめて
『だが、個人戦の時はぶちのめす!』
その言葉を聞いた硝子は微笑んで返す
『その時はよろしくね』
すると話題が変わった。
『それにしても、五条悟や夏油傑、家入硝子はいいとして、龍山千鬼はどうにかならないのか?』
『同じ非術師の生まれでも、あいつは危険だな
なんせ呪霊装術を持っているんだからな』
『今まで使ったものは皆悲惨な死を遂げたそうじゃないか、しかも呪霊なってしまうことだってあるんだろう』
『全く気味が悪いよな』
『どうせなら呪霊にでもなってくれないものかな、そしたらこの私が遠慮なく祓ってやるのに』
『その時は呼んでくれ、協力する』
『あいつの断末魔が想像できるな、こんな術式で生まれたことに後悔するような言葉が聞けるだろうな』
次は千鬼を標的にし、悪意に満ちた言葉が吐かれる。
『(まぁ、普通はこう言う反応だな)』
『(本来これは危険な術式、こうやって普通に扱える方が珍しいもんな)』
千鬼自身は自分の術式は危険なものだと理解していたので、怒りが湧くほどでもなかったので内心納得していた。
五条と夏油は怒りは湧くが、当の本人がなんともなさそうな顔だったので自分達は無理に行かなくてもいいと言う結論に至ったが、1人だけそうはいかなかった。
『....あいつら今....なんて言った?』
低く、凍りつくような声が響く
千鬼達は驚き、そちらを向く
『えっ、硝子?』
『殺す』
硝子はいつのまにかメスを取り出していた。
3人は必死で止める
『おいおいおい!硝子止めろって!』
『しかもメスは危ねぇだろ!洒落にならんから!』
『そうだよ!しかも硝子が3人に勝てるわけないじゃないか!』
悪気はないだろうが、夏油が無自覚に煽る。
『はぁ?!見てろよクズ、すぐに
『夏油!煽るんじゃねぇよ!』
『何してんだ傑!』
『えぇっ!ごめん!』
千鬼は硝子を諭そうとする。
『硝子、俺は大丈夫だって』
『あれが普通の術師の意見なんだよ、だけど言われた分はちゃんと個人戦で叩きのめすから』
『だから硝子は手を出さなくていい』
『なっ?』
先ほど硝子に言われたことを思い出し、これなら納得してくれるだろうと思った。
しかし硝子はキッと睨みつけて叫ぶ。
『何言ってんの?あんたがあんなこと言われて大人しくできるわけないじゃん!』
『甘いこと言ってないでさっさとあいつら切らせろ!』
『えぇ〜、さっき俺に似たようなこと言わなかったっけ?!』
『それはそれ!これはこれ!』
結局3人は暴れる硝子を担ぎ上げ、その場から全力で退散した。
※
硝子視点
個人戦が始まった。
相手は全員で5人、こちらは七海達を合わせて6人となるので必然的に私が救護班として抜けた。
いざ5人が並んで挨拶をする時にさっきの奴らが私の方を見て手を振ってきた。
私は無視して千鬼達に潰せとサインを送る。
本当にムカつく....今すぐにでもあいつらを解剖してやりたいが、千鬼達がボコしてくれると言っていたので我慢する。
勝負の方は順調だった。むしろこちらが全勝中だ。最初は七海が出て普通に勝利、次に夏油が出て体術で圧倒、次に灰原が出るが相手もなかなかの使い手で苦しいところだったが、なんとか勝利を収めた。
そして千鬼の出番がきた。相手は私に女の役割を教えてやることと千鬼を祓うとか言っていた奴だ。
思わず私は声を張り上げる。
『千鬼!潰せー!』
『まかせとけ!』
千鬼は元気よくこちらに手を振る。
相手が私を睨んできた(知るかアンタはさっさと潰されてくれ)
開始の合図がなり千鬼が仕掛ける。
一瞬で相手との距離を縮めて背負い投げをする。
床に叩きつけられて怯んだ相手に馬乗りになり、ものすごい勢いでパンチを放つ。
20発ほど殴ったところで合図がかけられ、勝負は千鬼の圧勝だった。(もっと殴ってもよかったのに...)
最後の試合でも五条が圧勝、結果として今年も東京校が勝った。
試合が終わった後、怪我をしている人は医務室で私の治療を受けるようにという指示があったので負傷者(主に京都校)が医務室に集まる。
七海と灰原をさっさと治して部屋から出るように言った。
千鬼達は一緒に残ろうとしていたが、大丈夫だと言い部屋から出てもらう。
京都校の連中も渋々だが、治して最後に千鬼と試合をした奴と私だけが医務室にいる状況となる。(というかこいつが一番重傷だった。いい気味)
反転術式で治療する。
やけに視線を感じると思ったら、声をかけられた。
『素晴らしいな、反転術式をここまで扱えるとは』
『.....』
私は別に話したくもないので無視をする。というか喋んないでほしい
『どうやるんだ?治療が終わった後、ぜひ教えて欲しいな』
『.....』
はぁ、治療が終わった後ね....千鬼なら治療中でも私がかけている反転術式の感覚を読み取ってなんとかできるようになろうとしているのに、こいつはそんな様子は一切ない。
どうせ知る気もないくせによく言う。
『それにしてもむさくるしい男3人に囲まれて大変じゃないか?』
『よかったら、私が相談に乗ろうと思うんだが、どうかな?』
『.....』
余計なお世話だな。私は楽しくやっているつもりだよ。大体にしてお前に相談して何か変わるのか?お前らに囲まれて過ごすよりはとても有意義な生活をしているんだよこっちは
『あぁ、遠慮しなくてもいいぞ。外に五条達がいるのが心配ならこれが終わったら私達京都校の宿舎で話さないか?』
『.....』
こいつ、こんなに無視してんのになんで声かけてくるんだよ。
そんなんで靡くわけないだろ、口を縫い合わせてやりたい
.....無視無視。こんな奴の言うことに腹を立てていたらキリがない。
そして治療が終わりに近づき、最後の軽い治療をしていると聞き捨てならないことを言われた。
『それにしても、君はすごいな。あんな化物と一緒にいて平気なんて』
『?....化物』
私は五条達の強さのことを言っているのだと思ったが、相手の顔を見て違うと判断した。
相手も私が反応したのが良かったのか、饒舌になる。
『あぁそうだ、龍山千鬼のことだよ。あいつは化物だろう?』
『なんせあの呪霊装術を持っている。いつ呪霊になるかも分からない、中にいる呪霊達が暴走して蝕まれるかもしれない奴と一緒にいて良く平気でいられるな』
私は今まで見てなかったそいつの顔を見た。
そいつは嘲笑うような表情をしていた。
千鬼に負けたのがよっぽど悔しかったのか、最後にある言葉を言った。
『あの化物と一緒になった女は可哀想だな。確かに地位はあるが、ああいう自分の危険性が分かってない奴と一緒になるのは嫌なものだな』
『もし相手がいるなら、そいつはあの化物が好きではなく、地位や稼ぎを見て選んだに違いないさ』
——プツン——
私の中で何かが切れる感じがする。
治療を終わらせて表情を少し笑顔にしてゆっくりと相手に声をかける。
『治療終わり。そういえば反転術式を教えて欲しかったんだよね』
『あぁ、そうだ。ここでやりにくかったら別の場所でも』
『いやここで大丈夫、この机に手を乗せて』
『こうか...』
ダンッ!
机に乗った手に私は思いっきりメスをつき刺した。
『っ!....ぐぁ...』
『何をす『黙れ』、!』
相手が大声で何かを言おうとしてきたので喉元にもう一本のメスを当てて黙らせる。
『いい、もし少しでも叫んだりしたらこのまま喉を切るから』
『分かった?』
相手は震えながら首を縦に振る。
『よく聞け。私は基本的に何言われてもいちいち怒ったりはしない』
『だけどあいつの....千鬼のことは絶対に許さない』
『千鬼はね、アンタと違って私自身をまっすぐに見てくれたの』
『反転術式がどうとか、見た目がどうとかじゃなくて私と言う人間をちゃんと見て選んでくれたの』
手に刺さっているメスを少し回す、相手は痛みで叫びそうになるがなんとか我慢してるようだ。
『それを何、千鬼といると大変だろとか、千鬼は危険な存在だとか好き勝手言いやがって』
『お前は千鬼の何がわかるの?』
相手をじっと見つめる。なぜか怯えている表情になるが、構わず続ける。
『千鬼は自分の術式が危険なものだと分かっているから、暴走しないように強くなろうと努力している』
『私達が何か悩んでいる時に相談に乗ってくれるし、自分みたいに術式とかで悩んでいる後輩達や先輩達の助けになろうと頑張っている』
私は相手を睨みつける。
『呪霊になるかもしれないって分かった時、私達にもしもの時は頼むって言ってきた』
『私はそんな風にまっすぐに走っていく千鬼と一緒にいたいと思った。悩んで泣きそうになっているあいつの隣にいたいって思った。』
『だから千鬼の地位や稼ぎに引かれて一緒にいるんじゃない』
『千鬼と一緒になって後悔はしてないし、千鬼を化物だと思った事は一度もない』
力が入ったのか喉のメスを当てている部分からも少し血が出ていたが気にしない。
『千鬼に何かあった時は絶対に助けるし、死なせない』
『だから....アンタの言葉は絶対に許さない』
私は手に刺しているメスを大きく回す。
『次、何か私の気に触ることしたら容赦しないから』
『分かった?』
相手は涙目で必死に首を縦に振る。
私はその様子を見てメスを抜き、相手の手を治す。
『分かったらさっさとお仲間のところに戻ったら?私の気が変わらないうちに』
『すみませんでしたぁぁぁ!』
涙目で謝りながら、転がるように医務室を出て行った。
『ふふっ、ざまぁ....』
そして私も医務室を後にした。
※
次の日には京都校は帰っていった。
あのクソ野郎が忠告したのか、京都の学生は最後の最後まで私と目を合わせなかった。(まぁどうでもいいけど)
見送りが終わると五条達が教室で祝勝会をしようと言い出した。
黒板には【祝!圧勝!!!】と派手な大文字が書かれ、私達はお菓子パーティを始めた。
パーティの中、千鬼は[2リットルの水2本一気飲みチャレンジ]とかいう無茶な芸を披露して場を沸かせた。
(本当に馬鹿だなぁ...でもそういうところがいいんだよね....)
私はみんなが灰原の芸に夢中になっている間に静かに千鬼の隣に座る。
そして、そっと手を握った。
『ねぇ、千鬼』
『ん?どうした?』
『私が守るから...』
千鬼の手がピクリと動いた。
千鬼は笑いながら返す。
『えっ?おいおい、それはこっちのセリフだろ』
『いや、私だってちゃんと千鬼の力になりたいんだよ』
その言葉を聞くと千鬼は驚いた顔をした後、私に笑いかけ
『....じゃあ俺は守るためにもっと強くなるから、硝子は俺が怪我した時頼む』
私も笑いかけ
『まかせろ、絶対に助けるから』
そう言って千鬼に寄りかかる。
そして静かな声で
『だから、私のこと....置いていかないでね』
その言葉は周りの笑い声でかき消された。
一瞬、硝子の目は光がなくなったように見えたが、すぐに戻る。
誰もそのことに気づくものはいなかった。