夏油が【
玉藻前は笑みを浮かべながら滝夜叉姫を見た。
『また懐かしい気配がすると思えば......平の姫君か...』
それを見て、滝夜叉姫が小さく目を細める。
『おやおや...なるほど、それがあなたの切り札』
『さあ、どうだろうね。これで終わりかどうか、試してみればいい』
夏油の背後から、次々と呪霊たちが姿を現す。地を這うもの、空を舞うもの、炎を纏うもの、泥を這わせるもの
その数、百を優に超える。
呪霊の軍が展開された。
対する滝夜叉姫も、手をゆっくりと掲げた。
『進め』
その一言と共に、武者霊の大軍が一斉に動き出す。
鎧を纏った歩兵、槍兵、騎馬武者、火矢を構える弓兵部隊、鉄の奔流のように呪霊軍へと突撃した。
金属音が鳴り響き、呪力の衝撃が地を揺らす。
呪霊と武者霊、異形と幽魂の総力戦が
今、始まった。
玉藻前が術式展開を展開させる
「さあ、遊びましょうか」
玉藻前が腕を降り、周囲に幻術が広がる。
すると武者霊たちの動きに乱れが生じた。
味方同士で斬り合い、叫び、突如として前線に綻びが走る。
『......幻術?』
『あなたの兵たち...惑わしやすい』
さらに腕を振るい、呪力が触れた敵の身体を蝕む。
呪力に混じった毒が敵の術式を乱し、制御を狂わせていく。
呪力の流れが乱れ、効果を薄められる。
『呪力が流れない!?』
武者霊たちが膝をつき、叫びを上げる。
滝夜叉姫の軍勢は、徐々に呪力を摩耗させ、消耗していく。
『なるほど......厄介な術式です』
だが滝夜叉姫は、尚も余裕を崩さない。
『ですが......これで終わりですか?』
その言葉と共に、彼女が手を振ると、新たな兵が姿を現した。
黒漆の鎧を纏った大太刀武者。
陣形を組んだ弓兵部隊。
炎と符を操る陰陽師の亡霊たち。
『兵種が違えば、呪霊の戦術も通じないでしょう?』
『なるほど......戦術の差ってわけか』
夏油が苦笑しながらも、すぐに次の手を打つ。
夏油の前に統率された戦闘型呪霊部隊が出現する。
まるで訓練された兵士のように整列する呪霊達。これは千鬼にアドバイスされ、連携をとるように編成してみた呪霊の部隊だった。
『君の“兵隊”に対抗するには、こっちも“部隊”で動かす必要がある』
夏油が指を振ると、玉藻前が咆哮し、呪霊部隊が武者軍へと突撃。
騎馬武者を迎撃するために、空中から鳥型呪霊が火球を放ち、泥の呪霊が敵の足元を奪う。
弓兵の雨に対して、耐久力がある呪霊や結界を操る呪霊が後衛を守る。
これはただの力のぶつかり合いではなかった。
戦場は完全に、“軍師”たちの頭脳戦となっていた。
『......面白い......実に楽しい......!』
夏油が口元を歪めて笑う。
『その顔、戦が好きな者のそれですね』
滝夜叉姫の言葉に、夏油はハッとしたような顔になり、苦笑いすると
『....どうやら千鬼の悪い癖がうつったかもしれないな』
遠く、玉藻前が十数体の騎馬武者を吹き飛ばし、毒と幻で戦線を崩していく。
滝夜叉姫が再び指揮を振るい、陰陽師が毒気を払おうとするも、幻術は拭いきれず。
呪霊と武者霊、数百の命が交錯する戦場の中心で、夏油と滝夜叉姫の戦いは続いていくと思われた。
その時──
バシュッ
空が裂けたように視界が開け、戦場に陽が差し込む。
2人が上空を見ると、帳が消えている。
『なっ!帳が!』
『(悟がやったのか....)』
『(もう時間が経った?....一旦、禍蛇達と合流を)』
滝夜叉姫は指を鳴らし、残存兵で盾を作り、その背後に身を隠すと
『行きなさい!』
その声と共に武者たちが夏油に突撃する。
夏油が武者達を一掃する頃には滝夜叉姫の姿はなかった。
『(....校舎の方へ向かっているな)』
夏油も気配を追って校舎へ向かった。
※
〜一方、虎杖達〜
──ゴォン......!
空気が揺れる。木々がざわめき、呪力の渦が一層濃くなる。
虎杖の拳が花御の腹部に命中した瞬間、黒閃が走る。
だがそれでも、花御の動きは止まらなかった。
『...いい連携ですね、人間。だが、それだけでは届かない』
花御の全身に呪力が満ちる。
地面が盛り上がり、無数の根が杭のように出現する。
大技の前兆だった。
『ブラザー、離れろ!来るぞ!』
東堂が叫ぶその時、
『見つけたぁ!』
ズズン......!
森の奥から何かが飛来。
地面に着地した影は異形の姿だった。
『新手...!』
虎杖が目を見開く。
『いや、違うな(確か百鬼夜行でいた...)』
東堂の顔に笑みが浮かぶ。
『ナイスタイミングだ。千鬼先生!』
そして異形の声は低く、地を這うように響いた。
『俺の名は
『助っ人!?、マジで!?』
『マジだ。それに、面白そうな相手じゃねぇか!』
そう言うや否や、天逆毎は花御に向かって拳を振るった。
ドガッ!
呪力を纏った一撃が、花御の顔面を捉える。
特級呪霊と特級呪霊が、真正面から激突する。
『......これは、呪霊同士の戦いだな』
東堂が口元を歪めた。
『だが人間も混ぜてもらうぞ』
虎杖、東堂、天逆毎の三方向からの波状攻撃が始まる。
自然と連携ができていた。
花御の攻撃、防御をかいくぐり、虎杖の拳、東堂の拳、天逆毎の拳が撃ち込まれていく。
だが、花御はなおも立ち塞がる。
『(...あなたは人のために戦っている。なんて愚かな)』
『ああ? こっちは命令で戦ってんだよ』
『あと気味悪りィから喋んな!』
天逆毎が叫ぶ。
天逆毎は素早く虎杖の背後に回りこみ、手をかざす。
『ガキ、俺を使ってみろ』
『えっ!なに?』
『ブラザー、やってみろ!』
天逆毎は虎杖の両腕に巻き付き、ナックル型の呪具が形成される。
赤い甲の中心に禍々しい眼が浮かび、虎杖の呪力がさらに濃くなる。
『すげぇ...力が湧いてくる......!』
『(俺の術式で身体能力・呪力効率、全て引き上げた)』
『ありがとな、天逆毎!』
『(急に現れてなんて厄介な)』
花御が動く。
根の杭が空中を覆い尽くすように降り注ぐ。
虎杖が装備したナックルで杭を打ち落としながら突進する。
『うおおおおっ!』
拳が花御に炸裂、地面にクレーターが生まれ、花御の体が揺れる。
同時に東堂が川に落ちていた特級呪具【游雲】を回収。
『行くぞブラザー!』
『応!』
虎杖と東堂、そして天逆毎で戦場に立つ。
二人の黒閃が同時に放たれる。
『『黒閃!』』
二人の拳と棍が炸裂する。
花御が急いで作った木の防壁を突き破り、花御の体に、避けようのない呪力の波が叩き込まれる。
それは、呪霊・呪術師・呪具、三位一体の攻撃だった。
吹き飛ばされ、木々を薙ぎ倒し、地面に転がった花御が一瞬、呆然としたように立ち尽くし、地面に手を置いた。
パキパキ
シュアァァ
周りの木や草が急激に枯れ始める。
『(植物は呪力を孕みません)』
『(私の左腕は植物の命を奪い、呪力へと変換する。それが私に還元されることはない)』
『(その全てはこの“供花”へ)』
左の腕の鼻の中心が開眼した。
『(できることなら使いたくなかった...)』
開眼した花に、凄まじい呪力が集まる。
『東堂!』
『ブラザー!気をつけろ!』
『とんでもない呪力出力だ!』
『あれは防げるか分かんねぇな...』
『(しかしあなたの術式があれば躱すのは容易いでしょう)』
『(ならばどうするか)』
『(領域展──)』
バシュッ!
突然、帳が消える。
『!、帳が!』
そして、上空から花御達を見る影──六眼を露わにしている五条悟がいた。
帳がなくなったことを確認した五条は状況を把握する。
『(傑の相手をしている呪霊は移動したか、歌姫のところも気配が消えた)』
『(お爺ちゃんのところは、傑が対処するな)』
『(残るはあいつ、アレは逃げが上手い。悠仁のところまで距離があるな...)』
『仕方ない、少し乱暴にいこうか....』
花御は急いで逃走を図る。
『(退きます。五条悟を相手にするほど傲っていない)』
『ざけんな!』
『なにがしテェんだよ、テメェらは!』
『(おい止まれ)』
『ブラザー』
花御の元へ行こうとする悠仁を東堂と天逆毎が止める。
『東堂、天逆毎も...なんで止める!?』
『それ以上進むな』
術式順転[蒼]× 術式反転[赫]
『巻き込まれるぞ』
虚式【茈】
五条の放った茈が木々や地面を抉り、花御のいる方へまっすぐに飛んで行った。
虎杖が目を開けると花御がいた場所は地層が見え、底が暗くなるほど、深く抉られていた。
『相変わらず規格外だな』
『これでは祓えたかどうかも分からん』
『こっちは終わりっと』
『さて、残るは校舎の方か....』
五条の視線の先には、四つの強大な呪力とそれ超える一つの強大な呪力がぶつかろうとしていた。
鬼道兵法
特級呪霊
滝夜叉姫はもともと平将門の娘で人間だった。
父の死後、呪詛師としての道を選び、『父の無念を晴らし、将門の国を復活させる』という執念で強大な呪術を身に付けた。
父の影響か、平安でも指折りの術師で、朝廷側からも何度も打診を受けていたが、もちろん拒否している。
生前は、朝廷や呪術師に対抗するために呪詛を操り、戦場で怨霊を呼び出して戦った。
しかし、最終的には強力な陰陽師(呪術師)たち(安倍晴明の系譜)や当時の御三家など、総力を前に追い詰められ、自害する。(自害されたとあっては印象が悪くなるため、討伐したという記録になっている)
だが、肉体は滅びたものの、彼女の怨念は消えなかった。その呪力が長い年月を経て凝縮され、呪霊として復活。
生前の記憶を保ちつつ、かつての【滝夜叉姫】としての自我を持ち、なおかつ平将門の血を直接引いているためか、すぐに特級呪霊として生まれる。
彼女の目的は一貫しており、
『現代の権力者(呪術界、政府)を滅ぼし、将門の国を創ること』である。
そのため、神凪の作戦には乗るが、意に沿わないようだったら裏切ろうと考えている。
ちなみに、呪霊とはいえ年頃の娘なので、現代のおしゃれに少し興味があるらしい。
術式:
滝夜叉姫が生前から持っていた生得術式で、怨霊や武者の霊を召喚し、軍勢として操る。さまざまな兵種を召喚したり、呪力を込めることによって武者達の質を上げることも可能。呪霊になったことで、その力はさらに強大になり、武者を鬼のように巨大にさせたりするなど自由度が増している。
渋谷事変を読み返してみたんですが、正直どう言う展開にすればいいか迷ってる自分がいるので、もしかしたら変な文がもっと変になるかもしれないですけど、そこは、まぁこんなもんか。と流してください