ガールズトーク
交流会の団体戦でのドタバタがようやくひと段落したと思いきや、京都校は東京校から宿舎を借りていたのだが、特級呪霊たちによる校舎襲撃で、崩れてしまい、東京校の女子寮に一緒に泊まることになった。
寮の一角、一際広い団体用の和室では、ふかふかの布団がずらりと並べられ、その上に浴衣姿の女子たちが思い思いの体勢で座っていた。
『大きな部屋で、みんなで寝たいです!』
目をキラキラさせて三輪が言った時、歌姫は『たまにはいいでしょ』と、案外あっさり許可してくれた。
部屋の明かりは暖色のやや落ち着いた照明にしてあり、外の虫の声がほのかに聞こえる。
湯上がりでほんのり赤くなった頬に、扇風機の風が心地よく当たっている。
先にお風呂から出ていた釘崎、真希、菜々子、美々子の4人は、布団の端に腰を下ろし、冷たいお茶のペットボトルを回しながらくつろいでいた。
『全く、なんであいつらと一緒なんだろ』
釘崎がタオルで髪を拭きながらボヤく。
『そう言うなよ。いいじゃねぇか、面白そうで』
真希は背中を伸ばし、軽く腕を組む。
『まぁ、こういう機会なんて滅多にないからね』
美々子が笑いながら答えれば、
『経験しとくのもありだよ、野薔薇』
菜々子が同意するように口を添える。
そんなやりとりの最中、扉が開き、湯気の香りをまとった三人が入ってきた。
『……あら、もういたのね』
真依が髪をタオルで包んだまま言えば、後ろから西宮と三輪もついてくる。
『真依、久々にお姉ちゃんが一緒に寝てやろうか?』
真希がニヤつきながら言うと、
『はぁ? ふざけないでよ。桃、霞、私の隣に来て』
すかさずツッコむ真依。
『まぁまぁ、真希ちゃんも真依ちゃんも仲良くして』
西宮が苦笑いを浮かべながら場を和ませる。
全員が布団に腰を下ろし、ぺたんと座ったり、足を投げ出したりして思い思いの体勢になる。おしゃべりが始まる空気が自然と広がっていた。
その中で、ふと釘崎が何かを思い出したように顔を上げた。
『そういえば真希さん』
『ん? なんだよ?』
『千鬼先生と硝子先生って付き合ってるんですか? なんか禍蛇の時、手を繋いでましたよね』
『……ああ、確かに距離近かったけど…どうなんだろうな?』
『えっ、二人ともご結婚されてるんじゃないんですか?』
三輪の無邪気な一言に、釘崎と真希は一瞬固まった。
『えっ!』
『マジか……』
『……あー、確か真希とあんたは知らなかったわね』
真依が思い出すように言い、
『うん、あの2人、結婚してるよ』
『指輪もちゃんとあるし』
と美々子と菜々子もあっさり肯定。
『えー!? それじゃあ夫婦!? いったい、いつから!?』
釘崎の声が上ずる。
『ちょっとー、あんた達静かにしなさい』
そこへタイミングよく、浴衣を揺らしながら歌姫が部屋に入ってきた。
『……あ、歌姫先生、ちょっといいですか?』
釘崎が勢いよく振り向く。
『どうしたのよ、釘崎さん』
『野薔薇でいいです。千鬼先生と硝子先生が夫婦って本当ですか?』
『えぇ、本当よ。今さらどうしたの?』
『真希先輩と野薔薇は知らなかったんです』
『あぁ、なるほど……なら、少し本人に聞いてみましょうか』
『えっ、いいんですか!?』
『いいのよ。ちょうど硝子達と話そうと思ってたし』
歌姫はくるりと踵を返して部屋を出ていく。そして数分後、再び扉が開き、数人の影が入ってきた。
『邪魔するよ』
『お邪魔します』
『すみません、急に』
『邪魔するね』
冥冥、美里、天内理子、そして家入硝子が姿を見せると、女子たちの視線が一斉に集まる。
『いいんですよ。人数がいた方が楽しいし』
釘崎がふわっと微笑む。
『それで、私と千鬼のこと聞きたいの?』
硝子の言葉に、三輪がちょっとビクビクしながら小さく手を挙げる。
『……大丈夫、ですかね?』
『別にいいよ』
『いいんですかああ!?』
早速、三輪は質問する。
『それじゃあ、いつから付き合ってたんですか?』
『高専一年の12月頃かな、告白はあっちから』
『へー、千鬼先生からしたんですね』
『そうだね、めっちゃ緊張してたよ』
『...家入先生は何でOKしたんですか?』
真依の質問に硝子は少し笑いながら
『私ってそういうカレカノって今までなかったから経験してみるって感じだったよ』
『今は違うけどね』
『それじゃあ、彼氏としてはどうだったんですか?』
西宮も質問をする。
『良かったと思うよ。私のことを全力で守ってくれたり、よくデートにも行ったし、何なら私が何も言わなくてもなんか買ってきてくれたり、奢ってくれたりしたからね』
『逆にこっちが申し訳ないから奢ったりもしたけどね』
『ただ、油断して怪我を負って帰ってきた時は少し怒ったかな』
『確かにそれは不安になる』
美々子もうんうんと頷く
『でも、千鬼先生と硝子先生がペアだったら基本的に大丈夫なんじゃないですか?』
三輪の疑問に硝子は
『それがね、高専生の時に私達2人死にかけたことあるんだよ』
少し何かを懐かしむように言った。
『え!どんな相手だったんですか!?』
『大嶽丸』
『あぁ、あの禍蛇と戦う時に使ってたやつね』
『そういえば、あの時何があったのよ?』
歌姫も気になっていたのか質問した。
『話してもいいんですけど....少し長くなりますよ?』
『いいわよ』
『ちょっと待ってくださいね』
硝子は携帯を取り出すと
『....あっ、もしもし千鬼。ちょっと雪女こっちによこして...ちょっと出張行ってた時の話聞きたいから...分かった。ありがとう....そっち騒がしいけど大丈夫?』
『へー、五条達が枕投げ始めたんだ』
『頑張ってね』
硝子は電話を切る。
『何で雪女呼んだのよ?』
『詳しく話をするためです』
するとドアがノックされ硝子が『入っていいよ』と言うと
『失礼します』
礼儀よく雪女が入ってきた。
『硝子様、ご報告を』
『その前に、ちょっと大嶽丸と戦った時の話してよ』
『なぜです?』
『ちょっと話の流れでね、私じゃ途中からしか見てないからさ』
『分かりました。ではまず、千鬼様が硝子様と一緒に東北へ向かうところから....』
雪女は千鬼と大嶽丸の戦いの話をしていき、途中から硝子も話を始める。
『それで、あいつの心臓が止まってさ』
『え〜!それやばいじゃないですか!』
硝子はふっと目を伏せ、当時の記憶をたぐるように言葉を続けた。
『息がないって分かった瞬間、頭が真っ白になって手が震えてた。何度も名前呼んで、反転術式注ぎ込んで、それでも目を開けてくれなくて』
『大嶽丸には殴られるし、吹き飛ばされるしで、あの時は本当に終わりだって思った』
『あいつ容赦ないなわね』
釘崎が少し引くように言う。
『だけど、それでも死なせたくなくて。私、泣きながら呼びかけたんだよ』
『それで、大嶽丸が炎をこっち向けて放った時に、あいつが起きて守ってくれてさ』
『本当、死ぬほど安心したよ』
『そんなに大変な目にあったんですね』
霞が気を使うように言うと
『でも、ちゃんと起きてくれたからね。最後は大嶽丸も調伏したし、今じゃいい思い出だよ』
『ふふっあの大嶽丸を調伏するなんて、やはり彼は大物になったね』
『私の目にも狂いはなかったよ』
と冥冥も珍しく褒める。
『あの〜』
三輪が申し訳なさそうに手を上げた。
『すみません、大嶽丸ってそんなにすごいんですか?』
『霞ちゃんはあんまり実感がないか....』
『そうなんですよ西宮先輩、授業とかで話は聞いてたんですけど....』
『そうね、少しおさらいしましょうか』
そして歌姫は大嶽丸について話し出す。
平安時代に宿儺と共に恐れられていたこと、宿儺とは宿敵関係だったこと、最終的に宿儺と殺し合った結果、宿儺を瀕死に追い込んだことを話した。
『宿儺が呪物化したのは宿儺が亡くなったからとされているけど、その死因が大嶽丸だったのよ』
『てことは両面宿儺に勝ったってことですか。すごいですね!』
霞は目をキラキラさせている。
『そう、彼はその大嶽丸を調伏しているのさ』
『流石の私も驚いたねぇ』
冥冥が懐かしそうに微笑んだ。
『まぁその分、上層部から危険視されましたけどね』
そう言って硝子がため息をつく。
『そういえば、悠仁や憂太は秘匿死刑になったんだろ』
『千鬼先生も秘匿死刑にならなかったのか?』
真希は経験から千鬼も秘匿死刑になるのではないかと疑問に思った。
『実はなってた』
『なってたの!』
あっさりと衝撃の事実を言った硝子に釘崎は驚く。
『だけどすぐ取り消しになったよ』
『祓えそうな五条と夏油は絶対に引き受けないし、危険な任務に行かせてもあっさり帰ってくるから』
『だったらこっち側につかせた方がいいってことで死刑は取り消しされたみたいだよ』
『五条が言ってたから間違いないはず』
『まさに、強いから許されたってわけね』
野薔薇は納得するような反応をする。
『でも呪霊装術って呪霊が成長するんですよね。それで体を蝕まれるんだったら、大嶽丸をそのままにして大丈夫なんですか?』
真依が心配そうに聞くが
『大丈夫じゃない。大嶽丸以外に、特級5体くらい取り込んでるけど、平気そうだし』
『ね、雪女』
硝子は雪女に目線を向ける。
『はい。私達は成長していますが、千鬼様はなんともなさそうです』
雪女は無表情で淡々と話す。
『ハイスペックですね〜、私もそんないい男できないかなぁ』
『なんだ野薔薇、男欲しいのか?』
真希が揶揄うように聞く。
『そりゃあ、まぁ、興味はありますけど....』
『野薔薇ちゃんにも、ちゃんと素敵な人ができるよ』
『理子さん....ありがとうございます』
『そういえば、理子ちゃんって夏油様とどうやって知り合ったの?』
菜々子が興味津々で質問する。
『え!...いや、私は.....』
『まぁ、理子ちゃんと夏油もなかなか普通の出会い方じゃなかったからね』
『硝子さん、話していいんですかね?』
『いいんじゃない。もう過ぎたことだし』
『....分かりました。それじゃあ、まずは私が星漿体だった頃の話からですかね』
理子は少し遠くを見るような目をして、静かに語り始めた。
『あの頃はね、正直、生きる意味が分からなかったんです。ずっと“天元様と同化するための存在”って言われて育ってきたから、自分の意思とか、やりたいことなんて考えたこともなかったし、それが当たり前のことだと思っていたの』
『だから、護衛任務って言われてもいつものことだと思っていたんですけど...夏油さんや五条さんと過ごしていくうちに、少しずつ“私”というものを感じられるようになったんです』
理子の声には、どこか懐かしさと痛みが混ざっていた。
『それでも、天元様と同化しなきゃいけない運命は変わらなくて。あのとき、正直怖かった。まだいってみたい場所や友達とも話したい。それを全部捨てなきゃいけないなんて……』
『でも、夏油さんが『君の未来は保証する』って言ってくれた。その言葉が、私を救ってくれました』
理子は笑顔で懐かしむように言う。
『理子さんもなかなかハードな人生ね....』
釘崎が感心したように頷く。
『今は、夏油さん達のおかげで、こうして幸せですしね』
理子は少し照れたように微笑んで、隣にいる菜々子と美々子の頭を優しく撫でた。
『では、千鬼様達で五条悟だけが1人なんですね』
雪女の言葉に、少し場の空気が凍った。
さすがは特級、術式を使わなくても凍らせることができた。
『無理無理、あいつが千鬼や夏油みたいな素敵な恋愛ができると思う?』
『絶対ないわ〜』
歌姫は顔を赤くしながら、笑う。
『先輩、酔ってますね』
『まだまだよ!』
『そういえば、大人ばっかり聞いてないで、学生も聞きましょうよ』
歌姫はニコニコしながら恋愛トークを学生に振った。
『えっ、いや、私は別にないわ』
『私もないかなー』
『私も...』
釘崎、西宮、真依は即否定した。
『そういえば真希先輩は乙骨先輩ですよね』
美々子は自分に当たらないように真希に矛先を向ける。
振られた真希は目を見開き
『は!?なんでそういうことになってんだよ!?』
珍しく焦りながら返した。
『だってパンダ先輩が言ってた』
『あの畜生が〜』
真希は拳を握る。
『強くなったとは思うけどな、そういう目ではみてねーよ』
『そうなんですかぁ』
菜々子が揶揄うようにみていたが、
『そういう2人は恵だろ』
硝子の言葉で2人は固まった。
『えっ!あんたら伏黒がいいの!?』
『確か幼馴染ですよね。あるあるですねー』
釘崎と三輪が興奮しながら話を向ける。
『ちょっと待って....お母さん聞いてないよ?!』
理子は目を見開いている。
『なんで硝子さん知ってんの!?』
『反応見たら分かるよ』
『というか菜々子、恵のこと好きなの?』
『えっ、いや、その....いいなぁとは思ってるっていうか.....』
『というかそういう美々子こそ、恵みのことが好きなの?』
菜々子は負けじと美々子に返すが
『.....うん!そうだよ!...好きです!』
顔を真っ赤にしてヤケになった美々子が宣言した。
『きゃー、青春ねー』
『先輩、あんま揶揄わない方がいいですよ』
『伏黒のどこがいいのよ?!』
『野薔薇、恵は確かに無愛想で口下手だけど....心の中ではちゃんと善人を助けようとしていてカッコいいだよ!』
『それに、あぁ見えて結構私達のこと心配してくれるしね』
菜々子も横から付け足す。
『菜々子には悪いけど渡さないから!』
『カッチーン、いくら美々子でもそれは許せないんだけど!』
『2人とも落ち着いて』
菜々子と美々子の睨み合いを、理子が止める。
釘崎が場を切り替えようと、雪女に話を振る。
『えーと、あ、そういえば、雪女?って素材がいいわよね』
『?、素材とは?』
『顔よ、顔!まさにクールビューティみたいな感じ』
『メイクとかしないの?』
『化粧ならしません。する意味もないですし、する必要もありませんから』
『もったいないじゃん!私が可愛くしてあげる!』
西宮も雪女の顔をいじりたいのか釘崎と一緒に部屋の化粧台まで連れて行く
『硝子様....』
『付き合ってあげな』
化粧台の前では釘崎と西宮が化粧道具を持ち、どうするかを模索している。
『これいいんじゃない』
『それいいわね』
『口はこれで塗りましょ』
『もう少し目立つのないの?』
『私は必要ないと』
『いいから、私達がやりたいだけだから大人しくして』
釘崎達は簡単だが、雪女にメイクを施す。
雪女にメイクを施して数分後。
釘崎と西宮が満足げにうなずく。
『……完成!うわ、これやばくない?』
『えぐい…人間やめてるレベルの美人…』
『硝子様、終わりました』
雪女がひょこりと部屋の中心に戻ってくる。無表情のまま。
それを見た女子たちが、一斉に動きを止めた。
『……え?』
『ちょ、誰……』
真希と真依は素でびっくりする。
『うっそ、雪女!?』
歌姫は目を見開き缶ビールを落としそうになる。
『ちょっと待って、美しすぎない!?』
『人間界に降りた氷の精とかそう言われても疑いません...』
理子と美里も驚く。
『こんな顔に生まれたかった……』
三輪は少しへこむ。
『いや、すっぴんの時点で素材良かったけど、メイクしたら破壊力ヤバいわこれ……』
『....綺麗...』
菜々子と美々子も言葉があまり出てこない。
『これはモデルいけるね…下手な...いや普通のモデルより上…呪霊じゃなかったらよっぽど稼いでいただろうね』
冥冥も少し笑いながらじっと見つめる。
釘崎と西宮はドヤ顔。
『やばいでしょ?私達のセンス』
『まじで才能あると思う』
雪女は相変わらず無表情のまま、
『視界にノイズが入ります。まばたきも重いです』
と淡々と感想を述べた。
『そこは“ありがとう”とかじゃないの!?』
と釘崎がツッコむ。
『まぁいいわ、たまにメイクさせてよ。私、あなたのこと気に入っちゃった』
『?、千鬼様の命令がなければ私は基本的に出ることはありません』
雪女は首を傾げるが
『私がそうしたいからするの、はいよろしくね』
釘崎は気にせず手を差し出す。
『これは?』
『握手よ、私たちは友達よ』
『呪霊と友達とは......変わった人ですね』
『いいから!手を出しなさい!』
野薔薇は少し無理矢理だが、雪女と握手をした。
『ふっ、よかったな友達ができて』
硝子は少し笑いう。
『そう、ですね?...不快ではありません』
『千鬼には、できるだけ出すように私からお願いしてみるから、ちゃんと交流してあげな』
『ありがとうございます。硝子先生!』
『いや〜、美人ってほんと得よね〜!いい顔してんなー雪女!』
釘崎が腕を組みながら、どこか誇らしげに言う。
『次は理子さんと美里さんも!ね?やりましょ』
西宮が2人に声を掛けた。
『私も!?まあ、いいかもね?』
『私はちょっと、もうそういうのは...』
『美里さん何言ってんのよ!まだまだいけるわよ!』
歌姫が赤い顔で美里に絡み出した。
あれこれ騒がしく盛り上がる女子たちを横目に、雪女はふと硝子の方を見た。
『......騒がしいですが、悪くないですね』
その言葉に、硝子は少し笑って言った。
『それが“楽しい”ってことだよ、雪女』
女子たちの笑い声が、夜の寮にやさしく響いていた。
こういうの書くのは初めてなんですけど、どうですかね?
もう少し千鬼の呪霊達を深掘りしてみたいと思います。