誰もいない洞窟の中で、妙な格好の金髪の男
【重面春太】が現れる。
『結局、俺何もしてないよ。怒られちゃうかな?』
重面は襲撃の際、歌姫達を襲撃したが、帳が消えたので、すぐ撤退したのだ。
『それに比べて、君は働きすぎ』
後ろからボロボロになった花御が現れる。
花御は何も喋らず倒れた。
『あーあ』
『かわいそっ』
重面は刀かけていた剣を取り
『楽にしてあげようか』
花御に向かおうとした時
『何をしている』
影から夜刀神が出てくる。
『人間が勝手なことをするな、殺されたいのか?』
『嫌だなぁ、優しさじゃんか』
『呪いにこの機微は分かんないか』
『お疲れー』
そこへ真人も笑みを浮かべて現れた。
『真人、例のものは?』
『バッチリさ』
真人は持っている荷物を夜刀神に見せる。
『特級呪物“両面宿儺”高専保有分6本』
『同じく特級呪物“呪胎九相図”1番〜3番』
『よし、順調だな』
『ほら起きて花御、帰るよ』
真人は花御を担いで運ぶ
『そういえば』
途中で立ち止まり、夜刀神へ振り返る。
『他の3人は?』
『...祓われたよ』
夜刀神は一瞬、本当のことを言うか迷ったが、言わない選択をした。
『そっか.....残念』
真人は笑いながらも少し寂しげな声だった。
〜翌日〜
高専の会議室では今回の襲撃での被害を報告していた。
『......以上が人的被害になります。』
『ありがとう伊地知。硝子、やっぱり被害者は』
『夏油の予想通り、前に七海達が遭遇した呪霊の仕業だよ』
『チッ』
『この件って学生や他の術師に共有した方がいいですかね』
『...いや』
『上で留めておいてもらった方がいいだろう』
『呪詛師界隈に特級呪物流出の確信を与えたくない』
夜蛾学長の言葉に千鬼も頷く。
『そうですね...伊地知、呪詛師は何か吐いたか?』
『そのことなのですが....』
夏油が横から補足する。
『口が堅いわけではないけど、要領を得てなくてね』
『少なくとも、あれは捨て駒として使われたね』
『そういえば、千鬼』
夜蛾学長が千鬼に声をかける。
『何ですか?』
『お前が調伏した呪霊から情報は取れたのか?』
千鬼は首を横に振った。
『ちゃんと縛り結んでてダメでした』
『そうか...』
『とりあえず今は、学生の無事を喜びましょう』
『そうですね、先輩』
『フム...』
『だが交流会は言わずもがな中止ですね』
夜蛾学長の提案に五条は待ったをかける。
『ちょっと、それは僕たちが決めることじゃないでしょ』
五条の言葉に夏油も便乗する。
『そうですよ、あくまでこれは学生のためのものなんですから』
千鬼はフッと笑い
『そうだな....聞いてみるか』
『って言うわけで、色々あったし、人も死んでるけど』
『どうする?交流会続ける?』
五条の軽い言葉に虎杖は悩むような素振りをする。
『うーん...どうするって言われてもなぁ...』
『当然、続けるに決まっているだろう』
後ろから、堂々とした声で東堂が宣言した。
『その心は?』
『1つ、故人を偲ぶのは当人と縁のある者達の特権だ。俺達が立ち入る問題ではない』
『2つ、人死にが出たのならば、尚更俺達に求められるのは、強くなることだ』
『後天的強さとは"結果”の積み重ね、敗北を噛みしめ勝利を味わう』
『そうやって俺達は成長する』
『“結果”は”結果”として在ることが一番重要なんだ』
『東堂先輩って意外としっかりしてるんですね』
『しっかりイカれてんのよ』
『3つ、学生時代の不完全燃焼は死ぬまで尾を引くものだからな』
『お前いくつだよ』
『俺は構わないですよ』
『どーせ勝つしね』
『うちもOK』
『私も』
『異議なーし』
『しゃけ』
『個人戦の組み合わせはくじ引きか?』
『え、今年は個人戦やんないよ』
その言葉に学生達は拍子抜けしたような顔をする。
『僕、ルーティンって嫌いなんだよね』
『毎年この箱に勝負方法入れて、当日開けてんの』
箱を渡された虎杖が紙を取り出すと、そこには野球と書かれていた。
『や...』
『野球〜??』
いつの間にか虎杖の後ろにいた学長達が、くじから出た野球という単語に驚く
『うぉっ!いたの!?』
『...どういうことだ、夜蛾』
『いや、私は確かに個人戦と......待て悟!』
『千鬼、良かったのかい?』
『はぁ......まぁ、今回は目を瞑るって決めたからな』
※このくじ引きをする時に、五条は千鬼に頭を下げています
生徒達は急いで野球の準備をするのだった。
〜交流会野球試合〜
天気は快晴。
だがその空の下、選手たちはそれぞれに複雑な感情を抱えていた。
『プレイボール!』
夏油の元気な声で試合は開始された。
打席に立つのは伏黒。
『…これ、ちゃんとしたルールあんのか?』
『恵、考えるな!振れ!』
五条の意味不明な応援に若干イラつくも、
『恵、体全体使え!腕だけで振るんじゃないぞー』
千鬼から割とまともなアドバイスが来たのでイラつきを収め、伏黒はスイング、打球は三遊間を抜けた。
『おーし、ナイスバッティング!』
『しゃけ!』
野球が始まってすぐは、おちゃらけた空気もあった。
だが
六回表、京都校・東堂の打席。
『俺のターンか』
バットを肩に乗せ、打席へ向かう東堂。その目はまっすぐキャッチャーの虎杖を見つめていた。
『準備はいいか、ブラザー』
『……う、うん』
何を準備するんだ?と虎杖は思ったが、気にせず続ける。
投げられた球。
東堂は
バットをスイングせず、突如【不義遊戯】を発動。
『!?』
入れ替わったのは、一塁の守備についていた伏黒。
その瞬間、飛んできた球が伏黒の顔面をかすめ──
『あぶねっ!!』
伏黒が咄嗟に避け、なんとか直撃は免れたものの、
その場の空気が凍った。
『あんた、何してんだ!!』
『勝ちにいっただけだ。ルールには“術式禁止”とは書いてなかったからな?』
『ちょっと!恵に何すんの!』
『....吊るす』
千鬼は眉をひそめ、五条を睨む。
『……五条』
『はーい、はいはい。危険行為ってことで葵、ベンチねー』
『なんだと!?』
『ていうか、あんたちょっとは空気読め!』
『空気を読むなどという行為は、人生において最も不要なスキルだ』
『はぁ!?』
『やべ、伏黒を止めろ!』
野球なのに小競り合いへ発展。
呪術師らしい、波乱の展開となった。
試合は結局、両校の『呪術抜きの野球(京都校は1人だけあり)』による和解(千鬼の一喝)で再開。
東京校が勝利を収めた。
〜夜〜
高専の屋上。風が吹き抜ける静かな場所。
千鬼はひとり、夜空を見上げていた。
『おつかれー』
硝子が隣に立ち、手に缶コーヒーを二つ持っていた。
『ありがとう』
受け取ると、しばらく無言の時間が流れる。
『…千鬼さ』
『ん?』
『今日は、少し無理してたでしょ』
『……そう見えたか?』
『うん。私にはね』
風がひときわ強く吹き抜け、缶の中のコーヒーがわずかに波打った。
千鬼はその音に紛れるように、ぽつりと呟いた。
『……俺さ』
『うん?』
『いつか、呪霊になるんじゃないかって…そんな気がしてるんだ』
硝子の手が、ぴたりと止まる。
『禍蛇の末路を見て、そう思った。アイツも最初は何かを守ろうとしてた。でも…どこかで歯車が狂った』
『俺だって同じだ。呪霊装術なんて、そもそも境界が曖昧で、危険な術式だ』
言葉を繋げながら、千鬼の声は少しずつかすれていく。
『このまま、何かが壊れたら、俺も…“呪い”になるんじゃないかって思うとさ。怖いんだよ』
『硝子。お前や、みんなを…自分の手で傷つけるんじゃないかって』
缶を握る手がわずかに震えていた。
硝子は黙っていた。沈黙は、否定も肯定もせず、ただ千鬼の痛みを受け止めていた。
やがて、そっと一歩近づくと、彼の大きな肩に背を預ける。
『千鬼。もしあんたがそんなふうになる日が来たら』
硝子は一拍、間を置いた。
『私が、止めるよ。絶対に』
『……』
『逃げたりしないし、見捨てたりもしない。でもそのときは──“呪術師”として、あんたに向き合う』
それは優しさであり、決意だった。
千鬼は長い沈黙のあと、ようやく息を吐いた。
『…ほんと、強いな。俺の妻は』
『うん。だから、怖がっててもいいよ。私が支えるから』
今度こそ、千鬼の目が硝子を見る。
その強くて優しい瞳に、確かに“ここにいる”という証があった。
『私はちゃんと見てたよ。あの呪霊の言葉も、あんたが背負おうとしてるのも』
硝子は優しい声で続けた。
『だからさ、たまには誰かに頼っていいんだよ。私とか、“周り”に』
千鬼は横目で硝子を見る。彼女の目はまっすぐ、自分を見つめていた。
『禍蛇にも、同じこと言われたよ』
『うん、知ってる』
千鬼はふっと笑う。
『本当に、あの人は最後まで先輩だったな』
『……でも私は、あんたの“妻”だよ』
千鬼の目が、少しだけ見開かれる。
硝子は柔らかく微笑んだ。
『信じてよ。全部抱え込まないで』
『......分かった。信じるよ、硝子』
風が吹いた。
その言葉に、硝子の目がわずかに潤んだのを、千鬼は気づかなかった。
〜交流会襲撃が終わった頃〜
『チッ...』
虎杖の中にいる宿儺は軽く舌打ちをした。
『最初は気のせいだとは思っていが...どうやらそうではないらしいな』
珍しく、普段よりもイラついた声色だった。
『お前もいるのか...大嶽丸...』
宿儺の脳裏には千年前の屈辱と言葉が蘇る。
『(自惚れて挑んだ結果、返り討ちかぁ?
滑稽で可哀想になってくるなぁ、宿儺!)』
傷だらけになり、片目だけとなっていても自分を見下した。あの鬼を忘れるわけがなかった。
『......まぁいい、楽しみは五条悟や伏黒恵だけではないということだ』
『ケヒッ、まだまだ退屈でもなさそうだなぁ。この時代も...』
呪いの王は静かに笑い、その時を待っている。