ある日、千鬼が授業を終え、職員室にいると
『千鬼先生、ちょっといいですか?』
伏黒が声をかけてきた。
『どうした?質問か?』
『実は…津美紀のことなんですけど…』
『津美紀の?』
『なんだ、また喧嘩でもしたのか』
『……少し前から寝たきりなんです』
『!』
『病気とかじゃなくて、呪いによるものだって五条先生に言われて、それで先日の任務で原因らしい呪霊も祓ったんです』
千鬼は先日、埼玉の方に一年生達が全員で向かったのを思い出す。
『確か、八十八橋...だったか?』
『確かあの時は......大怪我らしいな?
違ったのか?』
『はい、少しすれば起きると思ったんですけど…』
『起きないから俺に相談しようと思った…と』
『そうです』
『分かった。診てみよう』
『ありがとうございます』
『俺らも行く!』
職員室のドアから虎杖達が入ってくる
『お前ら、ついてきたのか…』
『あんたが一向に浮かない顔するからね』
『気になってついてきた感じ〜』
『私達も津美紀さんのことは心配だから』
『お前ら…』
恵の表情が少し柔らかくなる。
『待て待て、いい雰囲気のところ悪いが、まずは状態確認だ』
『悠仁と野薔薇、怪我は大丈夫なのか?』
『バッチグー!』
『余裕!』
『菜々子と美々子もくるのか?』
『お願い千鬼先生!津美紀さんにうちも起きて欲しいし!』
『私も同じ!』
『確かに、俺はこの後任務もないし...』
『皆で一緒に行くか』
『『『『『はい!』』』』』
※
その後、千鬼たちは津美紀の病室へと向かう。病室に到着すると、室内の空気がひどく重く、誰もが無言のままでその場に立っていた。
津美紀はベッドに横たわったままで、まるで眠っているかのように見える。五条が言った通り、呪いの力が深く彼女に刻み込まれているようだ。
『…これが、津美紀の現状か。』
千鬼が静かに言うと、伏黒はうなずいた。
『なんとかできますか?…』
千鬼は大嶽丸を呼び出す。
『大嶽丸、なんとかできるか?』
『それは指示か?』
『あぁ、もちろんだ。あと傷つけんなよ』
『チッ!』
大嶽丸は舌打ちをしながらも、津美紀の状態を確認する。
『なるほど…なかなか面白いことになってるな』
『どういうことだ?』
『まずこの女は、呪物を取り込まされてる状態だ』
『『『『『『!』』』』』』
大嶽丸の口から放たれる真実に全員が驚愕する。
『ってことは…悠仁と同じで受肉してるってことか?』
『まぁ、受肉するのは確かだが…まだ完全に受肉してないな』
『そして寝たきりになっているのは、何かの印をつける際に呪力に当てられたからだろう』
『おい、治せんのかよ!』
伏黒が大嶽丸に詰め寄ろうとするが、
『待て、恵』
千鬼が止める。
『だけど、千鬼さん!』
『大丈夫だ。その様子だと治せんだろ』
『あぁ、まだ完全に定着していないからな。呪物を破壊すればなんとかなる』
『だったら治してくれ、津美紀は傷つけるな』
『はいはい、分かった分かった』
おもむろに津美紀の頭上に手をかざす。
【
そう呟くと同時に津美紀の中で何かが燃える。
すると
『ギャァアアァァァア 宿儺っー!』
どこからか断末魔が聞こえた。
『えっ、何!?』
『ちょっ、一体どこから!?』
虎杖と釘崎は周りを見渡すが
『慌てるな、呪物の主だ。(宿儺関連か?)』
『(めんどくさいことをしたかもな...)破壊はした。これでいいな?』
『あぁ、ありがと』
『もう戻っていいぞ』
『そうさせてもらう』
そう言うと同時に千鬼は大嶽丸を戻した。
すると津美紀の目がゆっくりと開いた。
『おぉ!目ぇ覚ました!』
『虎杖、うるさいわよ。静かに!』
『…うぅ…』
津美紀が起き上がると、伏黒がすぐに駆け寄り、少し潤んだ目をしながらも言った。
『津美紀!俺が分かるか?』
『…恵?』
津美紀が弱々しく声を上げると、みんなが一様に安堵の表情を浮かべた。
『菜々子ちゃんに、美々子ちゃん…それに千鬼さんも……一体何が...』
『説明は後、とりあえず先生呼ぶか』
その後、津美紀には約1年以上寝たきりだったこと、千鬼がそれを治したこと、そして恵は呪術師というものになっていることを伝える。
『そうだったんですね……何となく、危ないことはしてるなぁって思ってはいたんですけど…』
『でも、恵が選んだ道なんだよね』
『…あぁ、俺が選んだ道だ。後悔はしてない』
『だったら応援するよ』
伏黒少し驚く、
『いいのか?てっきり反対されるかと...』
『確かに、無理矢理やらされてるならやめて欲しいって言うのは簡単だけど...恵が自分で選んでやってるなら、私は恵の意思を尊重する』
『津美紀...』
『だけど、あんまり大きな怪我とかはなるべくしないでね。ましてや死んじゃうのなんかダメだから』
『菜々子ちゃんに美々子ちゃんも』
『りょうかーい』
『任せてください』
『虎杖君に釘崎さん、恵はこんな感じだけど、根は優しい子なの』
『だからこれからも友達でいてあげてください』
『ちょっ、やめろって!』
『なんで?私、恵にやっといい友達ができたと思って嬉しいのに』
『俺が友達いなかったみてーじゃねぇか!』
『伏黒友達いないのー?』
『プププ、私達がいるわよー』
『お前ら黙ってろ!』
『恵、そうだったんだ…』
『大丈夫、私達がいたもんね』
『お前らも何のってんだよ!』
『恵…相談乗るぞ』
『千鬼さんまでやめてください!』
病室に伏黒の怒る声と津美紀の笑い声が響いた。
※
〜数日後〜
虎杖達は五条に言われ、歌姫の元へ向かった。
『こっちよ』
『歌姫先生、お久しぶりです』
『久しぶり美々子、元気そうでよかったわ』
『みんな五条から話は聞いてるわね』
『『『『『はい』』』』』
『多分呪詛師と通じているのは2人以上、1人は学長以上の上層部の人間』
『こっちは私じゃどうしようもない』
『もう1人はその上層部に情報を流している奴がいる。それが今回の標的』
『まだ容疑の段階だから、捕縛後尋問します』
『...で、京都の誰ですか?』
『えっ!?なんで京都って分かるの!?』
『私達東京側に頼むってことはそういうことでしょ』
『釘崎すげーな』
歌姫は少し目を伏せながら
『内通者は…メカ丸よ』
※
誰も寄りつかない薄暗い地下に6人ほど人影が現れる。
歌姫は小声で話す。
『この地下にメカ丸の本体、与幸吉がいます。あの子が怪しいんじゃなくて誰も怪しくないから消去法でメカ丸なの』
『メカ丸の傀儡操術は天与呪縛によって日本全土に及ぶわ』
『登録していない傀儡があれば内通者として聞くらでも仕事はこなせる』
『そう?あの人結構目立つと思うけど』
『傀儡が蝿や蚊のようなサイズだとしたら?』
『そっか、そういうのもありか』
『ここよ』
伏黒は作戦を確認する。
『虎杖がドアを壊して、菜々子が動きを止める。そして、美々子が捕縛する。』
『いいな?』
『OK』
『任せて』
『分かってる』
そして虎杖は拳に呪力を込める。
『…来たか…』
そしてドアを破壊、菜々子が急いでスマホのシャッターを切ろうとすると
『!、これって…』
『っ!やられたわね』
『誰もいねーじゃん!?』
『呪力も感じない』
『でも逆に』
『これでメカ丸で確定かしら』
『遅かったな。忘れたかと思ったぞ』
『そんなヘマはしないよ』
別の場所で待機していたメカ丸──与幸吉の前に神凪蒼真と真人が現れる。
『呪縛の恐ろしさは君がよく知っているはずだ』
『相変わらずカビ臭くてやんなるね』
『もう敵なんだからちゃっちゃと殺しちゃおうよ』
『まだ駄目だよ真人』
『私達に協力し、情報を提供する。その対価として真人の【無為転変】で体を治す』
『そういう縛りを私達は彼と結んでいるからね』
『殺すのはその後さ』
『彼には渋谷でも働いて欲しかったけど、仕方ないね』
『“京都校の人間には手を出さない”先に縛りを破ったのは貴様らだろう』
『やったのは花御と夜刀神達だもーん。八つ当たりはやめてほしいな』
『呪霊と議論する気はない。ささっと治せ、下衆』
『勢い余って芋虫にしちゃいそう』
『真人、他者間との“縛り”は自らに科す“縛り”とは訳が違う』
『“罰”の不確定さがあるから今回は駄目だ』
『破った時、私達にどんな災が降りかかるか分からない』
『はいはい』
『感謝してよね、下衆以下』
そう言って真人は幸吉の頭に手をかざした。
おまけ話
〜八十八橋の任務が終わった後〜
点滴の機械音が静かに鳴る室内。
白いベッドには、虎杖、伏黒、釘崎、菜々子、美々子の五人。
あちこちに痛みを抱えながらも、全員が目を覚まし、任務の記憶をぼんやりと思い返していた。
『……マジで、ありえないわあいつら』
釘崎が腕に巻いた包帯を気にしながら、眉をしかめる。
『うん…あれは、俺が呼んだのかもしれない。宿儺関係だった……』
虎杖は顔に貼られた絆創膏の端を撫でながら、低く呟く。
『いやーでも、恵の判断がなかったら、マジで死んでたわ私達。マジで。』
菜々子は肘を固定されたまま、苦笑して親指を立てる。
『……まあ、死んでないから結果オーライ、かな』
美々子が笑うが、その腕はギプスで覆われている。
『でも少し無理しすぎたかもな……』
伏黒が隣の美々子と顔を見合わせ、少しだけ笑ったそのとき
バンッ!!
医務室のドアが勢いよく開く。
『美々子! 菜々子っ!!』
走り込んできたのは、理子。その後ろから夏油も入ってくる。
理子の顔は明らかに泣きそうで、夏油も普段の落ち着いた雰囲気は消えていた。
『あ……夏油様、理子ちゃん……っ』
菜々子が慌てて体を起こそうとするが、背中の傷が痛み、顔をしかめた。
『無理しないで!』
理子がすぐに駆け寄り、菜々子と美々子のベッドに膝をつく。
そして、震える手で二人をそっと抱きしめた。
『ほんとに無事でよかった…! どんな任務だったの、こんな……!』
『ご、ごめん…でも、ちゃんと生きて帰ってきたから……』
『うん…理子ちゃん、泣かないで。美々子もあたしも、平気だから』
理子の胸元に顔をうずめるようにしながら、2人は笑う。
その様子を見て、夏油もゆっくりと二人の頭を撫でた。
『……よく頑張ったね。でも、無茶しすぎだよ』
その声は低く、けれど優しく響いた。
『はい…』
『…ごめんなさい』
静かな空気の中、伏黒がぽつりと口を開く。
『俺の判断で…みんなを、危険に巻き込んだ』
『いやいや、伏黒のせいじゃないって! 俺らだって最終的に一緒に行くって決めたんだし』
虎杖が必死に笑って言う。
『それに、明日には家入先生が治してくれるから』
釘崎の声はどこか安心させようとしていた。
夏油は五人の顔を順に見て、ゆっくりと息を吐く。
『……全員、よく戻ってきたね』
その言葉に、五人は静かに頷いた。
医務室には、痛みと安堵、そして家族のぬくもりが、確かに満ちていた。
はい、津美紀は助けることにしました。
ちょっと簡単じゃないと思う人もいるかもしれませんが、大嶽丸ならこれぐらいはできるだろうということで