ですがキリのいいところまで書くつもりなので、エタるつもりはないです。
安心してください。
10月31日、高専の職員室はとても重苦しい空気となっていた。
原因は部屋の隅にあるデスクに座っている存在が出している空気だ。
その存在は龍山千鬼。
理由は明白だった。
10日ほど前に硝子が行方不明になり、捜索を続けていたが、一向に足取りがつかめない。
それに加え、攫われたと思われる場所では特級呪霊の残穢が確認された。
だからこそ千鬼は焦っていた。冷静になっているように振る舞っているが、どこか近寄り難い雰囲気を醸し出していた。
『千鬼〜』
五条が声をかける。
『何だ…』
『…千鬼、気持ちは分かるけどね。少しは落ち着きなよ』
見かねた夏油も声をかけてきた。
『悟の言う通りだよ』
『こんな言い方するのも何だけど、現場に硝子の血痕がなかったんなら殺すつもりではないはずだ』
『ちゃんと無事だよ』
『…そうだよな』
『硝子は無事だよ、な…』
『だからそんなに気を張り詰めらせないほうがいいんじゃないか?』
『いざという時に冷静じゃなくなるよ』
『……夏油、分かってはいるんだ。だけどな…はぁ』
いつもよりも明らかに雰囲気が違う千鬼にふたりもどうしたらいいのか正直分からなくなっていた。
──だがその日の夜、状況が変わった。
※
記録──2018年 10月31日 19:00
東急百貨店 東急東横店を中心に
半径およそ400mの“帳”が降ろされる
同時刻──神奈川県 鎌倉市にて
家入硝子の姿を“窓”が確認
特級呪術師 龍山千鬼と夏油傑が救援に向かう
※
千鬼と夏油は硝子の目撃情報を聞きつけ、急いで向かっていた。
夏油は、巨大なマンタのような形をした呪霊に跨り、鋭い目で前方を見据えた。
現場へ向かう前に五条に言われたことを思い出す。
『傑、千鬼についてやって』
『悟は渋谷だろ。大丈夫なのかい?』
『僕は大丈夫だよ。それよりも今は千鬼だ』
『本人は冷静に見せようとしてるみたいだけど、内心かなり焦ってる』
『そうだね。まぁ気持ちが分からなくもないが...』
『だから千鬼をよろしくね』
『...分かったよ。悟もしっかりね』
『誰に言ってんの』
※
夏油は鷹に乗っている千鬼を見た。
無表情だが、目には焦りと怒りが感じられる。
『(硝子がちゃんと無事でいてくれればいいんだが...)』
そして硝子が最後に目撃された現場の山に着く。
夏油と千鬼は山を駆け上ると、気絶している硝子が木に縛りつけられていた。
『硝子!』
千鬼は急いで駆け寄り、硝子の縄を解こうとする。
たが次の瞬間、
『お前……誰だ?』
千鬼は硝子に向かってそう言った。
すると、気絶しているはずの硝子の目が開き、千鬼を睨みつけた。
縄を破り、千鬼に攻撃するが簡単に防がれて頭を掴まれる。
『舐めやがって!』
そのまま怒号とともに、地面に叩きつけられた。
すると硝子の姿が、白いマネキンのような姿に変わり、それはケタケタと不気味に笑いながら、次第に消えていった。
——パチパチパチパチ……
どこからか、拍手が鳴り響いた。
『素晴らしいよ、準一級の不意打ちを簡単に防いで祓うなんて、さすがは特級術師と言ったところかな』
声がする方へ目を向けると、神凪が笑みを浮かべて立っていた。
夏油と千鬼は目を見開く。
『神凪蒼真!』
『お前っ!』
対する神凪は2人の反応を楽しむかのように微笑んで手を振ってくる。
『やぁ、久しぶりだね。夏油傑に龍山千鬼』
『会えて嬉しいよ』
『お前が裏で糸引いてたのか!』
千鬼が即座に拳を構えると
『おっと待ちなよ龍山千鬼、君に大事な情報を教えてあげようと思ったのに』
『何?』
『家入硝子は渋谷駅にいるよ』
『!』
『…本当か、それ』
『本当だよ。なんなら縛りを結ぶかい?』
『チッ!』
『千鬼待て!』
ゴォォン!
夏油の声を聞かず、千鬼は呪霊をフル装備し、ものすごい勢いで行ってしまった。
『早いね、40分もしないうちに着くかな』
『っ…なぜ生きている?』
『君が仕留め損なったから?』
『そんなはずはない』
『ははは、まぁそうだね。だけど今は彼を追いかけたほうがいいんじゃない?』
『っ!』
『私の目的はこれで終わり、じゃあね』
神凪は手を振り、その体は何十枚の札となって崩れた。
『やはり分身か…それよりも今は千鬼を追いかけないと』
夏油はすぐに千鬼の後を追った。
※
〜渋谷駅 地下5階〜
一方、五条悟は神凪、漏瑚、真人、夜刀神、脹相を前にして封印されようとしていた。
五条の方が優勢だった。漏瑚達に攻められても崩さない余裕に、非術師が殺されても激昂しない冷静さ、勘だけで0.2秒の領域展開を発動し改造人間だけを殺す。
だが、
『獄門疆、開門』
この声が響き、獄門疆が開く。
五条は咄嗟に離れようと選択したその時、
『こんにちは、五条悟』
声のする方には去年死んだはずの神凪蒼真と
『ゔっ、んー!』
拘束され、神凪に抱えられた硝子がいた。
『は?』
──神凪は傑が殺したはず?
──仕留め損ねた?いやそんはずない
──偽物?変身?いや六眼は本物だと言ってる
──なんで硝子が?
──千鬼達が助けに行ったのはなんなんだ?
五条は脳内で思考を巡らせてしまった。
そして
ドチュドチュドチュ!
五条の体から肉の塊のようなものが出てくる。
『っ!(やられた!)』
『ダメじゃないか、戦闘中に考え事なんて
最強だから油断でもしたのかな?』
『(呪力が感じられない、体に力も入らない……詰みか)』
『んっ…んっ!…(五条!)』
硝子は必死にもがくが、神凪はなんともないようだ。
五条は神凪を睨み、
『お前誰だよ?』
『神凪蒼真だよ。忘れちゃったかなぁ』
『確かに、僕の六眼は目の前にいる奴は神凪蒼真だと言っている』
『だけど僕の魂がそれを否定している』
『それに……傑が殺さずに逃すなんてヘマをするわけねぇだろうがっ!』
『……自分の魂と親友を信じたか…』
『最強と謳われている君がね……』
神凪は硝子を夜刀神に預け、額の縫い目に指を添えた。
『キッショ、なんで分かるんだよ』
そう言うと同時に頭が開き、中の脳みそがあらわになる。
脳には小さい口がついていた。
『ちっ!』
『んっ!』
五条は舌打ちをし、硝子は目を見開く
『そういう術式でね、脳を入れ替えれば肉体を転々とできるんだ』
『もちろん、肉体に刻まれた術式も使えるよ』
『本当は夏油傑が欲しかったんだけど、神凪の術式も使えるからね』
『夏油傑がすぐに火葬場に送った時は少し焦ったけど、なんとか回収できたよ』
そしてまた頭を直す。
『心配をしなくても、封印はそのうち解くよ。100年…いや1000年後くらいかな』
『君強いんだよ。私の目的の邪魔なんだ』
『ハッ、忘れたのか?』
『傑に殺される前にその体は誰にボコられたか』
『それに強いのは僕だけじゃないことも』
『あぁ、乙骨憂太か』
『私はあの子にそこまで魅力を感じないね』
『無条件の術式模倣、底なしの呪力、どちらも最愛の人の魂を抑留する縛りで成り立っていたに過ぎない』
周りでは真人たちの意識が戻りつつあった。
『残念だけど、乙骨憂太は君にはなれないよ』
『それに、龍山千鬼は君と同様封印するし、夏油傑は…まぁ、今度こそ体をもらおうかな』
『んなこと上手くいくとおもうか?』
『特に千鬼は僕みたいに油断も容赦もしねーぞ。
すんなり封印されるかよ』
神凪はフッと笑い、硝子を指さした。
『そのために彼女を攫ったんだよ。今頃龍山千鬼は、冷静ではいられなくなっている』
『少し前に私の分身から情報が来てねぇ、ものすごい勢いでこっちに向かっているそうだ』
『ん!、んぐっ……っんんっ』
硝子はさらに暴れるが、無駄な抵抗だった。
『フフッ、彼女はすごいよ。何を聞かれても喋らなくて、ずっと私達に抵抗してたんだから』
『呪術界三強と一緒だったのは伊達ではないんだね』
神凪は少し間を置き、
『それじゃあ……おやすみ五条悟、新しい世界で会おう』
『閉門』
バチィッ!
獄門疆は閉じ、五条悟は封印されてしまった。
『んんっ!(五条!クソッ)』
『あまり暴れないで、もうすぐ君の旦那さんも来るから』
獄門疆を回収し、神凪は周りを見る。
朧げながらも、漏瑚達が意識を取り戻していた。
『全員起きたね、すぐに上に行こう』
カタカタカタ
『?』
神凪が持っている獄門疆が震え出す。
『どうした?』
漏瑚がそう言った次の瞬間──
ズシッ!
『なっ!?』
ゴンッ!
シュウウウゥゥ
『何これ、どういうこと?』
『封印できていないのではないか?』
『いや、封印は完了している。だが獄門疆が五条悟の情報を処理しきれていないんだ』
『しばらくは動かせないね』
『へぇー、すごいじゃん』
『君もそう思うでしょー』
『っ……』
真人は硝子に声をかけるが、硝子は睨み返すだけだった。
『…つまんないの』
すると神凪が設置していた札に反応があった。
『!』
『ん?どうした神凪』
『皆急いで上に向かうよ
どうやら彼が来たようだ』
神凪達は急いでB4Fへ向かった。
神凪達が着くと同時に、視線の先には禍々しい気配を漂わせ、重厚な鎧を観に纏った千鬼が到着していた。
呪術師とはいえ、人間からは出ないような呪力や気配を直に感じた神凪達の顔には汗が伝う。
『うわぁ、何あれ?』
『本当に人間か?』
『ほんの一瞬でも油断したら、消されるぞ』
『大丈夫…すぐにはかかってこないよ』
神凪は心の中で『こちらには切り札がある。龍山千鬼が本気だったらこの地下を全て壊してでも来たはず』と推理した。
『(やはり、家入硝子が効いている。冷静ではないがまだそれぐらいの理性は残っている)』
千鬼は硝子が夜刀神に抱えられてるのを見つける。
『んっ、んぐっ!』
『硝子!』
『(意識を削いだ!)今だ!』
神凪が叫んで合図をする。
『“岩戸、開放”』
一瞬の静寂の中、突如として女性の声が空気を揺らした。
神凪達の背後にあったエレベーターが変化し、洞窟の入り口のような見た目となる。
中は暗く、先は見えない。
すると夜刀神が硝子を徐に担ぎ上げた。
『なっ!?やめろぉぉ!』
何をしようとしているかを察した千鬼は叫ぶが、
『っ!』
硝子は洞窟の中に放り込まれてしまった。
『お前らぁ!』
千鬼は怒り、神凪達を文字通り血祭りに上げようとするが、
『いいのかい?死んじゃうよ、君のお嫁さんが』
『!、くそっ!…退け!』
神凪の言葉に千鬼は周りの呪霊達に構わず、洞窟の中へ入っていく。
※
『本当にこれだけで龍山千鬼を封印できるのか?』
冷静な声音で問いかけたのは漏瑚。
だがその表情には僅かな焦りが浮かんでいた。
『心配ないよ漏瑚、天岩戸は獄門疆よりも封印するための時間がかからない。獄門疆と同じで定員1名だが、封印の力は獄門疆を超える』
『だけど、条件が特殊だよねぇ』
『その通り、その封印条件は“対象自らが入ること”』
『無理矢理入れたとしても、少ししたら自動的に洞窟から出されてしまう。誰かが囮になって入ったとしても、囮になった者は自ら入ったことになるから封印条件を満たしてしまう。真人の言う通りとても特殊だ』
『だからこそ、こうするのが一番なんだよ』
神凪は微笑みながら勝利を確信した表情を浮かべた。
※
〜洞窟内〜
千鬼は少し走ると、洞窟で倒れている硝子を見つけた。
『硝子!』
千鬼は迷いなく駆け寄り、縛られた猿轡を外す。
『硝子、大丈夫か?怪我は…』
だが硝子の声が、千鬼の言葉を遮る。
『千鬼、これは罠!急いで逃げて!』
『!』
千鬼が硝子の言葉に反応をしようしたと同時に、千鬼の身体中に縄のようなものが巻き付いた。
『!…っ、くそ!』
千鬼は気づいた。
自分が装備していた呪霊が解除され、自分の術式が使えない、それどころか呪力すら練れない。
『千鬼!…っ!、外れない』
硝子もなんとか手足の拘束を解こうともがくがキツく縛ってあり、解くことはできない。
ただ千鬼が抑えられているのを見ているしかなかった。
そして硝子の体が何かに引き寄せられるように洞窟の入り口へ勝手に向かい始めた。
『千鬼!』
『硝子!(くそっ、俺がなんとかしないと!)』
千鬼は自分がなんとかしないといけないと思い、洞窟の外へ向かうために拘束を外そうとするが、もがけばもがくほど拘束は強くなっていった。
視界の先ではだんだんと硝子は遠くなり、洞窟の入り口も狭くなっている。
千鬼は焦るが、ある言葉が頭によぎった。
『“周りを信じろ”』
『っ!…なんでこんな時に…』
禍蛇の言葉がよぎる。
だが心が静かになり、そして千鬼は1人納得する。
『……いや…こんな時だからか…』
千鬼は抵抗するのをやめた。
洞窟の入り口へ引き寄せられる硝子を見る。
『硝子!』
千鬼に呼ばれ、拘束を外そうともがいていた硝子が千鬼を見た。
それを確認すると千鬼は、微笑んだ。
穏やかに、優しく
それは、絶望ではない、希望の微笑。
『待ってる…』
そして静かに言った。
硝子は目を見開いた。
『せ、ん……き?』
硝子の声が震える。
『待ってるから……必ずここから出してくれ』
千鬼の言葉に硝子は悔しい思いを隠して、真剣な眼差しで見つめる。
それは決意の表れでもあった。
『っ!……分かった!待ってて!』
『必ず迎えに行くから!』
そう言って硝子は洞窟の外に出された。
硝子は自分が出た方向を見ると、
『“岩戸、閉鎖”』
また声が響き、巨大な岩が入り口を塞いだ。
だが硝子はそれをみても諦めてはいなかった。
“必ず千鬼を助ける”
この思いを胸に、硝子の瞳には火が宿っていた。
準一級呪霊
触れた相手に変身できる術式
硝子に化けていた準一級呪霊、変身の精度は触れた時間に依存する。
最終的には六眼でみないと分からないような変身精度となるが、千鬼は本能のようなもので見破る。
見た目は右半分が男、左半分が女の形をした蝋のようなマネキンに口をつけたような感じ
ということで、2人は封印されてしまいました。
夏油1人で漏瑚達を相手にできるか?
硝子は無事でいられるか?
というかこの戦力差はどうなるか?
楽しみに待っててください。