呪霊装術   作:戦艦YAMATO

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暴食と色欲の権化様、Kimu Kimu様、ヨツン様誤字報告ありがとうござます。
あとセリフの『』を「」にすることができました。


36話 渋谷事変

 

 

千鬼の封印が確認されると、神凪は肩の力を抜き、ほっとしたような笑みを浮かべた。

 

「いや〜、無事封印できてよかったよ。彼も強いし、厄介なんだよねぇ」

「それに彼の呪霊達もね」

 

その背後では、頬を伝う涙を硝子は自分で拭うこともできなかった。

だんだんと悔しさにが体が震える。

 

──助けられなかった。

 

──見ていることしかできなかった。

 

歯噛みしても、千鬼の封印が解けるわけではない。だからこそ、その無力感が硝子の精神を削り取っていく。

 

「…フフフ……あはははははっ」

 

冷たい笑い声が響く。

 

硝子はその笑い声を聞いてさらに怒りが込み上げてきた。

 

「無様ね、家入硝子」

 

その声に反応するように、硝子の視線が柱の影から出てくる人物を睨みつけた。

 

「あんた…何したか分かってんの?」

 

「真依!!」

 

硝子の視線の先には禪院真依がいた。

 

真依が、心底馬鹿にしたような目で硝子を見下ろしていた。

あの勝ち気な目。冷笑の浮かんだ唇。

そして、まるで自分が全てを制したかのような、圧倒的な優越感。

まるで勝者のような雰囲気が漂っていた。

 

「何よその顔。可哀想な被害者ぶって……笑えるわね」

 

硝子の身体が微かに震えた。

 

「何をしたか分かってるって……もちろん分かってる」

 

真依の声はあくまで冷静だった。

彼女は悠然と歩き、拘束された硝子の前に立つ。

 

「だけどこれは、これからのために“必要なこと”」

「千鬼さんには悪いけど、少し大人しくしてもらうだけ」

 

真依は、ゆっくりと硝子の頬を指で撫でた。

だがその瞳は冷たかった。

 

「それにしても、滑稽ね。

目の前で旦那が封印されるっていうのに、何もできないなんて」

 

「……っ!」

 

硝子は思わず体を揺らした。

だが、しっかりと拘束されていて動けない。

 

「クソッ……!」

 

「本当に、見てて滑稽」

 

真依は歯を食いしばる硝子の涙を指先で拭いながら、にたりと笑う。

 

「どんなに泣いても、アンタには何もできない。

こうして縛られて、ただ大切な人を奪われるだけ」

 

「……ッ!!」

 

「何が黄金世代の1人よ。“周りの人間が凄い”だけだったのよ。五条悟に夏油傑、そして千鬼さん……あんた自身は何もしてない。なに? 反転術式の使い手だからって? ハッ、滑稽。

こうして同期の足を引っ張っているのがいい証拠」

 

硝子の心は悔しさでいっぱいになる。

悔しい。悔しすぎる。

千鬼が、こんなくだらない奴らに封印されるなんて!

許さない。絶対に許さない!

 

「……ま、せいぜい見てなさい」

 

真依は硝子を置いて、千鬼が封印された岩戸を見る。

岩戸は全く動かず、そこに存在感を大いに示していたが、真衣は不満げに言った。

 

「全然小さくならないじゃない」

 

真依の不満げな言葉に神凪が軽く肩をすくめて答える。

 

「そうだねぇ、封印したらすぐに手のひらサイズになるんだけど……やっぱり五条悟と同じだね。情報が処理しきれてないのかな」

 

「そう…まぁいいわ。気長に待つことにする」

「どうせもうこっちのものだし」

 

真依は薄く笑い、再び硝子を見下ろす。

 

「分かっているとは思うけど……邪魔はしないでよ」

 

真依の言葉と視線に神凪は、笑みを浮かべたまま頷いた。

 

「分かっているとも」

「君は高専の情報提供、家入硝子の拉致の協力、龍山千鬼の封印に協力すること」

「その代わり、私たちは君の恋路の協力をすること、そしてその邪魔をしないこと。そう言う縛りだからね」

 

この縛りは神凪だけでなく、漏瑚達も結んでいた。

 

一見曖昧なものだが、逆にそれによって神凪や漏瑚達は手を出しづらくなっている。

真依がこうして平然と神凪達と一緒にいるのは、自分が殺されないと分かっているからだった。

つまりこの縛りは真依の命綱でもある。

 

「……さて」

 

神凪が、硝子の前に歩み寄る。

 

彼の目には、どこか楽しげな色が浮かんでいた。

 

「家入硝子、君はこちらにつく気はないかい?」

 

硝子は一瞬目を見開いたが、すぐに冷え切った視線を神凪に向けた。

 

答えは決まっている。

 

「そんな誘いに乗るわけがない。馬鹿も休み休み言え」

 

神凪は硝子の反応を見て、ふっと微笑んだ。

 

「……まぁ、そう言うと思っていたよ」

 

彼は少しだけ、残念そうに首を傾げた。

 

「君がこちらにつけば、龍山千鬼の封印はもっと楽にできたかもしれないのに」

 

「……っ!」

 

硝子の目が鋭く光る。

 

「ふざけんな!」

「そんな条件、呑むはずがない」

「千鬼を見殺しにして生き延びるくらいなら、ここで死んだほうがマシだ!」

 

神凪は、そんな硝子の意思の強さを見て、薄く笑った。

 

「だったらもう、君は必要ないな」

「望み通りにしてあげるよ」

 

そして、静かに言い放つ。

 

「いいよ、殺しても」

 

カチリ。

 

神凪の言葉の後、すぐに金属の音が響く。

 

次の瞬間、冷たい銃口が硝子のこめかみに押し当てられた。

 

「安心して、アンタがいなくなった後は千鬼さんは“私と”幸せに暮らすから」

「あんたはただ死んでいけばいいの」

 

銃口を向けてくる真依の声が、あまりにも冷たく響く。

表情は勝ち誇ったようだった。

 

銃を持つ手はブレない。

硝子の頭にピタリと固定されたまま、指がトリガーにかかる。

 

「千鬼さんは、もう封印された。アンタの役目は終わりよ」

 

絶体絶命。

 

硝子は必死に頭を働かせる。

 

──何か、何か打開策はないか?

 

──待ってるって言われたんだ。

 

──絶対に助けないと!

 

 

その時、

 

「「「「「!」」」」」

 

神凪達が千鬼が来た方向から別の呪力が迫ってくるのを確認した。

 

地下の入り口に視線を向けると、すぐに何かが現れて神凪達を覆い尽くすように迫る。

 

「っ!、これは!」

 

それは大量の呪霊達だった。

 

明らかに神凪達に襲い掛かろうと迫ってきたので、各々対応する。

 

「どういうことだ!?神凪!」

 

「これ計画にあったっけ?!」

 

漏瑚は焼き払い、真人は自身の腕を変形させて呪霊達を倒していく。

 

「(どういうことだ?まだ“あれ”をするには早い、それにこの呪霊達は私のものではない、自然に発生したとも考えにくい)」

「……まさか!」

 

神凪は急いで硝子のいる方向を見た。

 

すると真依が吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。

そして硝子は夏油に回収されていた。

 

「夏油傑!」

 

「やぁ、久しぶり、そして一旦退かせてもらうよ」

 

そう言って硝子を抱えて呪霊に乗り、その場を去ろうとする。

 

神凪達は追いかけようとしたが、夏油はさらに呪霊を出すだけでなく、化身玉藻前の幻術で夏油が何人もいる幻を見せた。

神凪達は夏油がどれが本物かを瞬時に判断はできなかった。

漏瑚や真人、夜刀神の攻撃が空を切った。

 

「夏油!千鬼と五条が封印されてる!」

 

硝子は叫ぶが夏油は冷静に返す。

 

「分かってるよ硝子。だけど今この状況はこっちの部が悪い、一旦退くよ」

 

夏油は硝子を連れて渋谷駅から脱出する。

 

硝子は駅の方を見て叫んだ。

 

「千鬼!……待ってて!」

 

涙をこらえながら、彼女は叫んだ。

 

「必ず迎えにいくから!……ついでに五条も!」

 

「硝子……」

 

その言葉に夏油は苦笑いをしながらも、周りを警戒して硝子を連れて飛んでいく。

 

渋谷駅には呪霊の残骸と混乱だけが残されていた。

 

 

 

 

「……チクショウ!……クソが!」

 

呻くような声が、瓦礫の中から上がる。

真依は崩れた壁に叩きつけられ、右腕をかばいながら立ち上がった。

 

「あと少しだったのに……あと少しで、この手で始末できたはずなのに……!」

 

「何よこのザマ!」

 

歯を食いしばる。

もう、すぐそこまで来ていた勝利だった。

 

呪霊を一通り片付けた真人が神凪に声をかける。

 

「どうすんの?追いかける?」

 

神凪は冷静に余裕を崩さずに答えた。

 

「いや、追いかけなくてもいいかな。なんせ五条悟と龍山千鬼はこちらにある」

「嫌でも戻ってくるさ」

神凪は微笑みながら漏瑚達に声をかけた。

 

「それに夏油傑を逃さなくても封印したことや獄門疆を動かせないことはバレていたよ」

 

そう言った神凪の手には壊れた何かが握られていた。

 

夜刀神が怪訝そうな顔で質問する。

 

「なんだそれは?」

 

「おそらく…殺した内通者君のものだね。呪霊達を祓う時に地下5階に様子を見にいったら見つけたんだよ」

「やられたね」

 

「それじゃあ術師達が総力あげてこっちにくるんじゃない?」

 

「だから私はここに残るよ。おそらく夏油傑が最初にくるからね。みんなはどうする?」

 

神凪の質問にまず脹相が反応した。

 

「俺は弟の仇、虎杖悠仁と釘崎野薔薇を殺す」

 

その言葉に漏瑚が反応する。

 

「ダメだ。釘崎とやらは知らんが、虎杖は宿儺にする」

 

「俺も、虎杖殺したいな」

 

「真人!お前まで何を…」

 

「だってさぁ、多分神凪が前に言ってた術師とぶつかったら勝てない理由って五条悟、夏油傑、龍山千鬼がいるからでしょ?」

「もうその3人のうち2人は封印されて、もう1人は多分神凪が殺してくれるから、こっちが有利なわけだ」

 

「まぁ、そうだね」

 

「それに、今この場にいないだけで他にも呪霊や呪詛師達もいるし」

「だったら宿儺をわざわざ復活させなくても、もうこの状況は、僕らが勝てる可能性は十分にあるよ」

 

「だがな!」

 

「もういいだろ」

 

漏瑚の言葉を夜刀神が遮る。

 

「真人の言うことにも一理ある。だが漏瑚の宿儺を復活させて呪いの時代を確実にしたいと言う意見も分かった」

「では早い者勝ちで先に虎杖を見つけた方が殺すか、宿儺にするかを決めるのでどうだ?」

 

その言葉に真人は楽しそうに笑った。

 

「いいねぇそれ!そうしよう!」

「じゃ、お先ー!」

 

「こら待て!真人ー!」

 

そのあとを漏瑚と陀艮が追いかけていった。

 

静かになった地下には、神凪、真依、夜刀神が残っている。

 

「我は適当に街を回りながら人間や術師を殺したりする」

 

「私は岩戸が小さくなるのをここで待つわ。下手に動くと死ぬし」

 

神凪は2人の言葉にうなづく。

 

「では私は地下3階に行ってようかな。夏油傑を待たなくては」

 

そしてそれぞれ分かれていった。

 

 

 

その後、渋谷とその周辺にいる呪術師や補助監督達に、夏油傑の呪霊から家入硝子救助成功と五条悟、龍山千鬼が封印されたことを通達された。

それは呪術師達が相当不利な状況に追い込まれたことを示していた。

そして、渋谷は更なる混乱に見舞われるのは明白だった。

 

 

 




ということで内通者は禪院真依となりました。裏切った理由などについては後々、幕間の小話などで紹介します。

それと、原作の渋谷事変とは時系列がズレることがありますが気にしないでください。
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