呪霊装術   作:戦艦YAMATO

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アンケート終了しました。
『まだ出そうだから待って』が圧倒的に多かったですね。



39話 死線にて再開す

 

 

重面を殺した後、七海は新田の応急手当と状況説明をしていた。

 

「じゃあ灰原さんは無事なんすね!」

 

「はい、家入さんが治療したので無事です」

 

新田はほっとしたような顔になる。

 

「では2人はここで救護を待っててください。私は禪院さん達と合流して地下5階に向かいます」

 

すると釘崎は最初は黙っていたが、意を決していたように顔を上げる。

 

「……私も「駄目です」ぐっ…」

 

七海は釘崎が言おうとしていることを察して言葉を遮るように言った。

 

「ここからの戦いは一級で最低レベルです」

「足手纏い邪魔です。ここで待機を」

 

七海も決して意地悪をしたくて言っているわけではなかった。

五条と千鬼が封印され、夏油はそっちに注力している。

だが敵は改造人間や特級呪霊などまだ健全であり、明らかにこちらが不利だった。

無駄な犠牲を出さないためにも、釘崎を連れていくわけにはいかないのだ。

 

釘崎達は店から出る七海の背中を見つめるしかなかった。

 

 

 

 

 

地下鉄の線路では、冥冥と憂憂が虎杖と別れた後、呪詛師を簡単に倒し、封印場所へ向かっていた。

 

だが冥冥は前からの気配を感じて、走る速度を緩めて止まる。

 

「…誰だい?」

 

冥冥の眼が細くなる。

視線の先、トンネルの闇の奥から一つの人影が歩いてくる。

 

前から現れる人影の正体がはっきりした時、少し目を見開いて微笑んだ。

 

「……いやはや、あなたですか」

 

「久しぶりだね。冥冥」

 

その口調も、冥冥の記憶の中と変わらない。

懐かしさと警戒が同時に胸をよぎる。

 

「刺客を放っておいてよく言いますね。神凪(かんなぎ)先輩」

 

「ハハハ、君にとっては取るに足らない相手だったろ?」

 

「まぁそうですけど」

 

冥冥は他愛もない会話の中で思考を巡らせていた。

 

「(なぜ生きてる?去年夏油君がしくじったか?そもそも夏油君達とグルでこの騒ぎを…それはないな)」

 

神凪の目は冥冥を見つめたままだった。まるで何かを試すように。

 

「私は結構先輩のこと慕ってたんですよ。よく体術の訓練とかに付き合ってもらいましたし、任務でも何度か助けてもらいましたしね」

「後輩としてはとても感謝してたんですけど…」

 

「(夏油君だけじゃない。五条君も龍山君も1人でこの国の人間を全員殺せる)」

「(誰かと組む意味も小細工を弄する必要もない)」

 

「だからそんな先輩を殺さなくてはいけないなんて、残念至極です」

 

冥冥は少し目を細めた、

 

「(恐らくこの先輩は偽物だ)本当に…残念です」

 

「その様子だと。こちらにつく気はないようだね」

 

神凪は肩をすくめる。

 

「まぁ、五条悟達に恩を売る方がはるかにいいからね。相変わらずで安心したよ」

 

神凪は札を一枚取り出す。

 

「残念なのはこちらも同じさ。可愛い後輩を手にかけるのだから」

 

そういうと同時に神凪の隣には札を使う。

札が光出し、空間が裂けるようにして一体の呪霊が現れた。

 

「特級特定疾病呪霊【疱瘡婆】だ」

 

冥冥の目が鋭くなる。

 

「(操符呪法!読みが外れたかな?)」

 

「去年手持ちの呪霊は使い果たしたけど、質は変わってない。むしろ少し上がってるよ」

 

「念のため地下の人間は残しておきたいんだ。この先で待ってる。そいつを祓えたら私が相手するよ」

「できれば来ない方がいいんだけどね」

 

挑発にも似た台詞に、冥冥は微笑を浮かべる。

 

「すぐに行きますよ先輩」

 

冥冥の言葉に神凪は微笑んだ。

 

「変わってないなあ、その余裕そうな態度も」

「だけど冥冥、覚えているかい?前に教えたはずだよ」

 

神凪は指を指して静かに言い放つ。

 

「──烏は常に3羽以上は連れていた方がいいって」

 

「!」

 

神凪の忠告と同時に、疱瘡婆は印を結んで領域を展開させた。

 

「(領域展開!?これは少々厄介──)」

 

ガゴン!

 

冥冥の身体が、黒い棺桶のようなものに閉じ込められた。

 

「姉様!」

 

「(閉じ込められた…)棺桶ってとこかな?」

 

すると疱瘡婆は何かを唱えると上から岩が降ってきた。

 

棺桶の上から、巨大な岩が叩きつけられる。

 

ドゴッ!

 

だが冥冥は岩を破壊して出てくる。

 

バガっ!

 

「十数年振りかな、私の命に指がかかるのは」

 

「姉っ様!」

 

「(相変わらず厳しいですね。先輩…)」

 

 

 

 

 

 

 

一方、伏黒達は猪野を硝子のもとへ届けた後、急いで渋谷駅に向かっていた。

 

「早めにいかねぇと虎杖がどんな無茶しでかすか分かんねぇな」

 

「意外に大丈夫じゃない?虎杖しぶといし」

 

「それは立証済みだからね」

 

「だといいんだが……!、止まれ!」

 

伏黒は急いで止まり、菜々子と美々子も止める。

 

「どうしたの?……何あいつ?」

 

「……一般人?」

 

「でもなさそうだな……」

 

伏黒達の視線の先には、体格のいい男が立っていた。

すると男はゆっくりと振り返る。

 

「……なんか恵に似てない?」

 

「確かに」

 

「そうか?」

 

「でも筋肉はあっちが上」

 

「…それは言わなくていい」

 

伏黒達の目の前にいるのはオガミ婆によって降霊させられた禪院(伏黒)甚爾だった。

つまり恵の父親でもあるが、当の恵は父親のことをあまり覚えておらず、甚爾自身もオガミ婆が死亡した時点で暴走しているため、この場で2人が親子だということは誰も知らないし、知ることもできない。

 

すると甚爾が黒く染まった目でじっと伏黒達を見ていた。

 

「…絶対やばい」

 

「そうだな。一旦脱兎で──」

 

伏黒が脱兎を呼び出そうとした瞬間、甚爾が目の前に来ていた。

 

「!」

 

「フッ」

 

甚爾が少し笑った後、恵が吹き飛ばされる。

菜々子と美々子が見た光景は、ただ目の前にいた甚爾が消えて、いつのまにか伏黒が消え、甚爾が自分達の後ろの方にいたことしか分からなかった。

 

「恵!」

 

「嘘でしょ…」

 

菜々子は急いで写真を撮り、動きを止めた。

伏黒はすぐに蝦蟇で体勢を直して影から剣を取り出した。

 

「ちっ!(呪力が感じない、真希さんの完成系か!)」

 

「菜々子!もう一回撮れ!」

 

「分かった!」

 

菜々子は甚爾にスマホを向ける。

 

パシャ!

 

「っ!…撮れてない?」

 

スマホには甚爾は写っていなかった。

 

すると甚爾がスマホ画面の外の位置にいた。

 

菜々子は何度も連写するが、甚爾は全然写らない。

菜々子の術式は被写体に影響を及ぼすものなので撮れなければ意味がない。

だが甚爾はほぼ勘で、菜々子の写真が撮られる範囲から出るように動き回っていた。

 

伏黒はそれを見て舌打ちをする。

 

「くそっなんて速さだ」

 

すると、菜々子へ勢いよくトラックが飛んできた。

 

「菜々子!」

 

伏黒は急いで菜々子に飛びかかり、トラックを躱す。

 

「っ、ありがとう」

 

「あぁ、それよりも一旦逃げるぞ!」

 

伏黒は脱兎を呼び出して周りを覆った。

 

そしていざ逃げ出そうとした瞬間

 

ブワァ!

 

脱兎の中から甚爾が現れた。

 

「っ!」

パシャ

 

そして菜々子の腹を殴った。

 

ドゴォ!

 

「がっ!」

 

菜々子は吹き飛ばされて車に叩きつけられる。

甚爾が脱兎の中から姿を現した時、咄嗟に自分を撮ってダメージはなかったが、その後殴り飛ばされた勢いのまま車に叩きつけられてしまい、その分のダメージはきてしまった。

 

「うっ…」

 

「「菜々子!」」

 

伏黒は渾を呼び出して甚爾に向かわせる。

渾は鋭い爪で切り裂こうとするが、甚爾は簡単に避け、逆に殴りつけて圧倒する。

 

「菜々子!しっかりしろ!」

 

「死なないで!」

 

心配そうにする伏黒と涙目の美々子を前に、菜々子は痛みに顔を歪めながらも笑う。

 

「大丈夫だって…それよりも、早く逃げ、て…」

 

菜々子は意識を失ってしまった。

 

「っ!」

 

伏黒はすぐに剣を構えて甚爾に向かっていく。

渾と共に攻めていくが、最も簡単に反撃され地面に叩きつけられる。

 

ドガッ!

 

衝撃で一瞬だけだが気絶してしまい、渾が消えた。

地面に叩きつけられた伏黒の一瞬の気絶を見逃さず、甚爾が拳を振り上げた時、首に縄がかかった。

 

「吊るす!」

 

美々子の言葉と同時に甚爾は縄に引っ張られ、歩道橋に吊るされる。

だが平気な顔をして縄を引きちぎってすぐに拳を構えて美々子へ走った。

 

「させるか!」

 

伏黒は急いで美々子の前に出て剣で斬りつけるが、

 

バキッ!

 

避けられて殴られる。

咄嗟に呪力を纏った腕でガードをしたが、骨の折れる音が響いてガードレールに飛ばされた。

 

「っ!」

 

美々子は甚爾の腕に縄をかけて勢いを殺そうとするが止まらず、

 

ガシッ!

 

そのまま腕を掴まれた。

甚爾の手は鎖のように固く、振り解けない。

 

引っ張られる感覚を感じた美々子はせめて衝撃を和らげようと全身に呪力を集中させる。

 

そして伏黒の方に飛ばされた。

 

ガンッ!

 

伏黒が顔を上げた瞬間、隣で金属の歪む音が響く。

隣のガードレールがひしゃげて、美々子が口から血を吐く。

 

「美々子!」

 

「…恵、ごめん……」

 

美々子も意識を失った。

 

「っ!」

 

伏黒の顔が歪む。怒りと焦燥。目の前で仲間が倒れていく

 

「満象!」

 

伏黒が満象を甚爾の上に呼び出して甚爾を潰そうとした。

巨体が咆哮をあげながら甚爾の頭上に現れ、叩きつけるように落下していく。

 

ドォン!

 

だが甚爾は降ってくる満象を簡単に支え、持ち上げて伏黒に投げた。

 

「はぁ!?どんな力してんだよ!」

 

悪態をつきながらも横に避ける。

痛む腕を無視しながら印を結ぼうした次の瞬間、

 

ガシッガシッ!

 

両腕を掴まれて地面に叩きつけられた。

 

ドゴォア!

 

威力は凄まじく、道路が砕け、下の地面にまで貫通した。

 

「〜っ!…ガハッ!」

 

そのまま伏黒は、血を吐きながら意識を失った。

 

静寂が戻る。

周囲に立っていたのは、ただ一人。

 

禪院甚爾。

 

伏黒が持っていた呪具を奪い、誰に命じられることもなく、誰かに従うこともなく、ただ「強者」を求めて静かに歩き出す。

 

──渋谷の、さらに深い闇へ向かって。

 

 

 

 

 




補足の小話

冥冥の言っていた十数年前の死にかけた任務とは天逆毎の任務です。
殺されそうになったところを、千鬼が救援に来たという形でした。
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