冥冥は棺桶に入れられ、上から岩が降って埋められても破壊して呪霊に向かう。
そして斧で斬ろうとした瞬間
カンっ!
また棺桶に入れられた。
「狭っ」
「(…成程ね)」
冥冥は至って冷静に分析する。
1、棺桶に拘束
2、墓石で埋葬
3、3カウント開始
「ここまでがこの領域の必中効果」
「特定疾病呪霊だ。3カウント以内に棺桶から脱出できなければ──私はその病に罹り死ぬ」
冥冥が入った棺桶に墓石が降る。
ドゴッ
だが冥冥は簡単に脱出した。
バガゴッ!
「(厄介なのはこの墓石、あと2回も食らえばいつもの動きができなくなる)」
「(その状態で先輩と戦いたくはないな)」
「憂憂、無事かい?」
憂憂は冥冥に呼ばれてすぐに隣にくる。
「はい姉様」
「……(どうやら対象は1人ずつにしか発動しないらしいね)」
「(領域内で呪力が強い者を反射で標的にしているのだろう……今この場には烏一羽と憂憂だけ)」
冥冥はすぐに祓うための答えを見出した。
「(攻撃対象を憂憂に移し、私が自由に動く時間を稼ぐしかない)」
「(だが憂憂は墓石攻撃を一度でもくらえば死ぬ)」
だが冥冥は迷いなく憂憂に言った。
「憂憂、私のために死んでくれるかい?」
冥冥の質問と視線に憂憂は迷いなく、むしろ嬉しそうな顔で答えた。
「いいのですか?姐様のために死んでも」
その瞬間、憂憂は自身の呪力を解放、同時に冥冥は呪力を抑えた。
そして憂憂は棺桶に入れられる。
疱瘡婆が墓石を落とそうとした時、落ちては来なかった。
次の瞬間疱瘡婆は気がついた。
自分の印を結んでいた手が斬られていることに。
「私がただの荷物持ちであの子を連れているとでも?」
横には斧を優雅に構えて余裕そうにする冥冥がいた。
一方、棺桶の中に入れられた憂憂はシン陰流簡易領域を使い、無事だった。
「姉様の“命懸け”は私にとって、“呪術使用許可”の相言葉!」
「憂憂の役割は領域対策、他人に仮を作るのは性に合わなくてね。その辺はあの子に任せてある」
疱瘡婆はすぐに手を再生させ、直接冥冥を殺そうと飛びかかった。
「流石は特級、治りが早い」
だが次の瞬間──
パァン!
烏が特級の体を貫いた。
「!??」
だが烏は少しして地面に落ちて死んでしまった。
「術師にとって最も簡単に能力を底上げする方法は何だと思う?」
冥冥の問いに棺桶から解放された憂憂が答える。
「それは命をかけた縛り……ですよね姉様」
冥冥の術式【
烏に自死を強制させ、代価として本来微弱である動物(烏)の呪力制限を消し去り、相手へ体当たりさせる。
「(姉様の神風を防ぐ、または受けて生きていた者は、五条悟と天逆毎を除いて存在しない!)」
そして領域が解かれ、冥冥の視線の先には神凪が札を宙に浮かせて待っていた。
すると冥冥の後ろから無数の烏達が現れる。
「待っててくれて嬉しいですよ。先輩」
「今行きますね」
冥冥は不敵な笑みを浮かべた。
「さぁみんな、本丸だよ。」
「私のために死んでくれるかい?」
それを見た神凪も笑みも浮かべて
「成長したじゃないか。」
「それに最近の術師にしては、やるじゃないか」
※
〜渋谷駅 アベニュー口〜
七海は禪院班と合流していた。
「五条悟と龍山千鬼が封印か……狐につままれたようだ」
「私もです。家入さんを出しに使われたようです。おそらく2人はまんまと敵の罠にかかってしまったのでしょう」
「俺としてはこのまま五条家の衰退を肴に一杯…」
御三家の当主らしい考えでいる禪院直毘人の言葉を遮るように真希が喋る。
「やる気がねぇなら帰れよ」
すると直毘人は鼻で笑う。
「…フッ」
「なにがおかしいんだ?」
「いや、この騒ぎが終わったら、真依の処遇を考えねばと思ってな」
「……」
夏油から共有された情報は千鬼と五条の封印だけではなかった。
“禪院真依の裏切り”これは硝子も証言し、実際に敵側にいる真依を夏油は目撃していたため、確定している情報だった。
「正直、下とは言え真依は一応“禪院”の名を背負っていた。そんなあいつが敵側の内通者だったなど、我々の立場も揺るがすことになる」
「禪院家はこの騒ぎが終わり次第、即刻真依を捕縛または“死刑”にするように動くだろうなぁ」
「っ!…」
「特に扇のやつは一切文句を言わず、進んで参加するだろう。
あいつはいつかお前達を殺す機会を窺っていたように見える」
「てめぇ…」
今にもぶつかりそうな2人の間に七海が入った。
「そこまでです。一旦その話は置いておきましょう」
「今は目の前の問題を解決することが先です」
「…そうだな。七海一級術師殿の言う通りだ」
「……すいません、七海さん」
「大丈夫です。さぁ、先を急ぎましょう」
そして少し開けた場所に行くと、七海と真希は前方に何かの気配を感じた。
2人はそれぞれ構える。
「!、七海さん」
「えぇ」
そして2人の視線の先、柱の影から出てきたのは
「ぶふぅーぶー」
初の実戦なのか、緊張している雰囲気を出している陀艮だった。
そして七海が行こうとしたその時、
「ちと鈍すぎるぞ。お前達」
「!?」
直毘人が陀艮をフレームのようなもので包み、持っていた。
陀艮もなにが起きたか分からず、しかも体が動かすことができない。
バリン!
直毘人がフレームを割るようにして殴ると陀艮が吹き飛んだ。
そして柱にぶつかり、呻き声のようなものを上げながら倒れ込む。
「ぶーゔー」
「見えました?」
「…いえ(術式?…それにしても早すぎる)」
すると陀艮が顔を上げて口の周りの触手のようなものがモゾモゾと動き出した。
「ゔ……オロロロロロロ」
ガラガラ…!
陀艮の口からは無数の人間の骨が出てきた。
「貴様、何人食ったんだ?」
「ぶぅー、ゔー」
「じょうごぉ、まひとぉ、」
陀艮は助けを求めるように這いつくばりながら、仲間の呪霊達の名前を呼び出すが、直毘人達には分からない。
「やとうぅ、はなみぃ」
「はな、みぃ…」
花御の名前を言った瞬間、陀艮の目が見開かれ、雰囲気が変わる。
「…….よくも…よくも…」
「よくも花御を殺したな!」
「殺したな!!」
皮が破られて、さっきとはまるで違う姿の陀艮が現れる。
「成程、どおりで弱いわけだ」
「まだ呪胎だったというわけか…」
※
〜渋谷駅 地下4階〜
渋谷中で術師達が命を賭して戦っている中、真依は岩戸の近くで小さくなるのは今か今かと待っていた。
時計などは見ていないが、感覚的に1、2時間は立っているはずだ。だが岩戸は小さくならない。
さすがは龍山千鬼と言うべきか。
神凪も冥冥が逃走した後、「やっぱりきた」と言ってこの場を離れてしまった。
真依はスマホから岩戸に視線を移してフッと笑う。
「全く、特級呪物なのに全然終わらないじゃない」
スマホの画面を指先で弄りながら退屈そうに呟く。
「本当に五条悟と千鬼さんは規格外なのね」
その声に皮肉と諦念が混ざると同時に、彼女の口元に微かな笑みが浮かんだ。
もう少し待てば自分の望みが叶う。真依はそれを考えているので、イラつくどころかまだ待ってもいいとすら思えるほど余裕だった。
再びスマホで時間を潰そうとしたその時、
ズ、ズズズ…
鈍く、重々しい音が地下の静寂を破った。
岩戸が──動いた。
しかも少し動いただけではない、
完全に“開く”ように横に動いている。
真依は目を見開いて呆然としてしまった。
「…は?」
視線が釘付けになる。
信じがたい光景に、真依の思考は一瞬だけ停止した。
真依は、すぐに身を翻し、物陰へ飛び込んだ。
呼吸を浅くし、鼓動の音すら敵に聞かれるのではと錯覚するほどの緊張が襲い掛かる。
「(何?まさか千鬼さんが自力で!?)」
千鬼に自分が内通者だとバレるわけにはいかない。
真依が静かに顔を出して岩戸を見ると、岩戸は開いていた。
そして中から複数の影がこちらに来るのが見える。
重い足音。
まるで地の底から何かが這い出てくるような不穏なリズム。
そしてそれは、視界の先に、ゆっくりと現れた。
見た瞬間、真依の背筋に冷たいものが走り、顔にも冷や汗が出てくる。口から声が出そうになる。
慌てて自らの唇を手で押さえ、喉奥に漏れそうな悲鳴を無理やり封じ込める。
「(嘘でしょ!なんで!?)」
真依のが見たもの、岩戸の奥から出てきた“それら”を、真依は知っていた。
それは…
「ふぅ、出れたな」
「確かここは地下のはずですね」
「地下かぁ、だったら…がしゃどくろ出れんのか?」
「大きさを変えられる。問題ない」
「久しぶり外に出たな」
「土蜘蛛、そう言っても私たちが取り込まれてからはそんなに経ってませんよ」
岩戸の中から出てきたのは、千鬼が“調伏”しているはずの特級呪霊達だった。
真依の心臓が耳のすぐ近くで鳴っているかのように響く。
「(どういうこと?呪霊達は千鬼さんが命令しない限り出てこれないはず……もしかして…なんらかの理由で解放された!?)」
そう、命令がなければ、出られるはずがない。
ましては天岩戸の封印対象となった者は術式の使用ができないはず。
だが実際、千鬼の支配下であったはずの“災害たち”が、自らの意思で動き、語り、歩いている。
「さて、まずはこの地下から出るか。道はこっちか?」
「めんどくせぇから天井ぶっ壊していこうぜ」
天逆毎の提案に雪女と滝夜叉姫は淡々と否定した。
「やめてください。汚れます」
「相変わらず野蛮ですね」
天逆毎が少しキレながら2人に言い放つ。
「早く出て暴れたいんだよ!」
するとがしゃどくろが間に入って止める。
「まぁ待て、ここで暴れても仕方がない。幸い地上は少し荒れているようだ」
「ゆっくり出たとしても十分暴れられる時間はある」
「ケッ!」
「先ほど言った通り、俺の獲物には手を出すなよ」
「分かってますよ。よろしくお願いしますね土蜘蛛」
「大嶽丸はどうする?」
「ん?…俺も早く地下から出て──家入硝子にでも“挨拶”をしてこようかな」
「まぁともかく、出るぞ」
「暴れるのはそれからだ」
笑みを浮かべた大嶽丸は、そう言って歩き出す。
それに続くように呪霊達も歩き出した。
──静寂
いつのまにか岩戸も閉じていた。
それでも真依の耳には、先ほどの呪霊たちの声が、ずっと木霊していた。
恐る恐る顔を出して安全を確認する。
そしていなくなったのが分かると、意識の糸が一気に緩み、その場に崩れるように座り込んだ
「あー……もう終わったわね、これは」
ようやく出てきた言葉は、溜息にも似た投げやりな声だった。
あの呪霊達が地上に出て好き放題暴れるならば、もはや日本は本格的に壊滅する。
最低でも渋谷、いや東京の人間は文字通り消え去るだろう。
術師たちはただでさえ、渋谷のあちこちでの対応に追われている。
いま解き放たれたあいつらの対処できる術など、もはや残っていない。
「……残念だったわね、家入硝子」
ほんの僅かに、唇の端が吊り上がる。
もしかしたら今日消えるかもしれない目障りな存在を想像して、笑みを浮かべてた。
補足の小話
陀艮は夜刀神のことを『やとう』と呼んでいました。
夜刀神自身も特に気にしていません。
ちなみに土蜘蛛はそのまま
滝夜叉姫は『ひめ』と呼んでいました。