呪霊装術   作:戦艦YAMATO

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力は正義!


42話 力と力

 

 

人が消え、ただ呪いと呪いが跳梁跋扈する死の街と化したその中で、二つの“異物”がぶつかった。

 

一方は、暴走する伏黒甚爾(ふしぐろとうじ)

かつて“術師殺し”と呼ばれた存在。

今は理性も記憶もない。

だが、身体は本能で強者を選び、敵を求めるように動いていた。

 

その眼前に立つのは──天逆毎(あまのざこ)

 

無数の呪霊の中でも突出した“特級”。

そして“覚醒神力”によって、圧倒的な身体能力で肉弾戦を得意とする存在。

 

 

風が止む。

 

ゴッ!!

 

次の瞬間、天逆毎の視界が揺れた。

 

伏黒甚爾の拳が、何の前触れもなく顔面を殴りつけた。

 

「──ッ!」

 

拳の重み、速さ、殺気。

全てが“呪力を持たぬ”はずの人間とは思えない。

 

天逆毎の身体が、数歩後退する。

致命傷ではないが、それでも衝撃はくる。

唇が切れ、血がにじんだ。

 

「……ッハ」

 

笑った。

殴られただけでない、いつのまにか剣で腕を斬られていた。

天逆毎が、愉快そうに目を細める。

 

「てめェ……言葉より先に、拳を出すタイプか」

 

答えは返ってこない。

伏黒甚爾はただ無言で前進する。

 

「いいぜ」

 

瞬時に腕を再生させた天逆毎も拳を構えた。

呪霊である彼にとっても、こういう相手は初めてだ。

理性も術式もなく、ただ殺すために動く男。

 

「そういうの嫌いじゃねぇ」

 

ドガッ!!

 

拳と拳が激突した。

 

刹那、アスファルトが裂ける。

 

互いに踏み込んだ拳が真正面からぶつかり合い、周囲の空気が弾け飛ぶ。

殴った拳の骨が軋み、腕が一瞬しびれる。

 

「っ、はァっ……!」

 

甚爾の回し蹴りが、空気を切り裂いて飛ぶ。

天逆毎はそれを前腕で受け止め、同時に拳で腹部を抉るように打ち込む。

 

ドボッ!

 

音が生々しい。だが、甚爾は怯まない。

身体をくねらせ、肘で天逆毎の首筋を狙う。

 

「ッ!」

 

間一髪で屈み、首を掠めた天逆毎は、地を蹴って距離を取る。

 

そして、

 

「面白ェな、お前! 」

 

肩越しに、ニヤリと笑った。

 

「その呪力による強化なしの体で、俺と殴り合うつもりかよ」

 

答えなどいらない。

殺すこと、それ自体が、会話だった。

 

再び跳ぶ。

肉と肉、骨と骨が交差する。

 

右拳を繰り出した天逆毎に、伏黒甚爾が滑り込むように右肘を叩きつける。

顔面に直撃。皮膚が裂け、目尻から血が飛んだ。

 

だが天逆毎も、即座に拳を振り抜く。

 

バギィッ!!

 

肋骨が軋む音がした。

しかし伏黒甚爾は一歩も退かない。

 

呪力による防御もなければ、痛覚を麻痺させる術式もない。

ただ本能のまま、殺し合うために動くこの男は耐えた。

 

「やるなぁ……」

 

呻くように言った天逆毎の顔は、既に獣のように綻んでいた。

 

“これは心が躍る。”

 

そう思った瞬間だった。

 

伏黒甚爾の手が、ついに剣の柄を握る力を強めた。

 

「(来るか!)」

 

次の瞬間、甚爾の踏み込みと共に渋谷の地面が割れた。

 

剣が風を裂き、天逆毎の顎を斬り上げる。

 

ガキィィン!!

 

だが、それはまだ致命打ではなかった。

天逆毎の身体はさらに上がり、剣を弾いていた。

 

「……呪力がないのに、ここまでやるとはな」

 

唸るように、天逆毎は言った。

 

目の前の男は呪力を持たない。それなのに、天逆毎の頬を殴り、腕を切断し、全身の感覚を刈り取るほどの精密な殺意を浴びせてきた。

 

「殺り甲斐があるな」

 

獰猛な笑みを浮かべた瞬間、2人の間に“風”が走った。

 

甚爾の踏み込み。道路のコンクリートが破裂する。

甚爾の繰り出された拳に、天逆毎の顔面が弾けた。

 

ドゴッ!

 

吹き飛んだのは天逆毎。数十メートル先まで滑り、壁に激突。

だが、呪力のない攻撃は呪霊である天逆毎には致命傷にはならない。

 

「やるなぁ!」

 

次の瞬間、破壊の拳が逆に甚爾の脇腹に突き刺さる。

再び肋骨が軋み、内臓が悲鳴を上げた。

 

天逆毎は甚爾の動きがわずかに鈍るその一瞬で

 

「領域、展開」

 

天逆毎が言い放った瞬間、空間が反転するように歪み、瓦礫と岩石が積み上がったような、“崩れた社”を模したような世界が広がった。

 

破力圏(はりきけん)

 

「どこまで持つ?」

 

天逆毎の全身に呪力の文様が浮かび、瞳が赫々と燃える。

地面を軽く踏み鳴らすだけで、衝撃波が走り、周囲の鉄骨が吹き飛んだ。

 

伏黒甚爾は、微動だにしない。

否──動けない。

 

「重いだろ?」

 

領域内では、対象に“重量”が加わる。

体重が数倍に膨れ上がったような圧が骨格を押し潰し、神経を鈍らせていく。

本来、伏黒甚爾は基本的に領域の中では石ころのような扱いで必中も効かないはずだが、天逆毎は領域の必中効果をなくす代わりに印を結ばないで展開できるようにしているので関係ない。

 

さらに、たとえ伏黒甚爾だろうと天逆毎が標的として認識していれば、この領域のデバフである重量は伏黒甚爾にもかかる。

 

たがそれでも、伏黒甚爾は動いた。

 

重圧の中、爆発するように踏み出し、天逆毎の胸へ剣を突き刺した。

 

ガギィン!

 

金属音が鳴る。剣と胸が激突したが、天逆毎は効いておらず、止まらない。

さらに領域は時間と共に蓄積を進める。

 

──甚爾の身体が、わずかに膝をついた。

 

「……お前の身体、そろそろ限界か」

 

再生する呪霊。

削れていく人間の器。

 

甚爾の皮膚には裂け目が増え、腕は奇妙に震え、胸から血が流れている。

それでもなお、動こうとするその姿は

 

「……フハッ」

 

天逆毎が笑う。

 

「最高だ、お前!」

 

拳と剣がぶつかり、足が砕け、双方の身体から血と肉片が飛び散る。

瓦礫の嵐が吹き荒れる領域の中、戦いは次の段階へ突入する。

 

そして

 

天逆毎が、重い一撃を受け止めた刹那。

 

「……ヒビ、か」

 

伏黒甚爾の器。

その“肉体”が、限界を迎えつつあった。

 

降霊術によって復活したこの身体は、強靭であっても永遠ではない。

操るはずの術師が死んだ今でも、ここまで戦えたのが異常なのだ。

 

「じゃあ、終わらせてやるよ!」

 

天逆毎が、拳を握る。

そして領域の効果も発動する。

今までの衝撃、傷、圧力、全ての蓄積ダメージが、甚爾の肉体に“遅れて”襲いかかる。

 

ズドン!!

 

黒い稲妻が天逆毎の拳から出る──黒閃だった。

黒閃に天逆毎の力が上乗せされ、胸部が爆ぜる。血と骨片が宙を舞う。

膝が崩れ、ついに伏黒甚爾が倒れた。

 

その顔に、笑みはなかった。

ただ、穏やかな眼差しを残して。

そしてただの肉片となって消えていく。

 

天逆毎は立ち尽くし、その姿を見つめていた。

 

「戦いはこうでなくっちゃな」

 

そう呟き、ふっと空を見上げる。

 

“天与の暴君”と呼ばれた男を砕いたのは──

“怪力乱神”だった。

 

領域が解除され、元の空間に戻る。

渋谷の一角に残されたのは、崩れた瓦礫と、血と、圧倒的な余韻だけだった。

 

 

 

 

 

 

────ビュオォ!

 

天逆毎が余韻に浸っていると、遠くからものすごい風切り音がした。

 

天逆毎は視線を移す。

すると何かが飛んでいくのが見えたが、またすぐにそれを追いかけるように飛んでいくものがあった。

目にも止まらぬ速さだったが、天逆毎にははっきりと見えていた。

そして笑う。

 

「なんだよ。1番面白そうなのがあったじゃねぇか」

 

 

 

 

 

 

 

〜東京湾〜

 

 

ザバァッ!

 

渋谷から吹き飛ばされたもの──宿儺は海に落とされていた。

 

宿儺が顔を上げると、追いかけてきたもの──大嶽丸が見下ろしていた。

 

「また俺が見下ろす形になったなぁ、宿儺!」

 

「……今度こそ徹底的に切り刻んでやろう!」

 

宿儺と大嶽丸、史上最強の術師と史上最強の呪霊が約1000年の時を超えて再び呪いあおうとしていた。

 

 

 




肉弾戦は書くのはとても難しいです。
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