ちょっと考えてみたらこのままでいいのかなぁ?と個人的に疑問に思っていたので、よかったら投票お願いします。
〜渋谷・道玄坂〜
一般人の避難もほぼ終わり、人も呪霊も見当たらなくなったハチ公前を、漏瑚が頭を押さえながら歩いていた。
「おのれ、大嶽丸め…」
大嶽丸に邪魔者扱いされ、吹っ飛ばされた漏瑚は顔の半分を失うが、なんとか再生して宿儺を探そうと駅を出ていた。
「(大嶽丸に吹き飛ばされた直後に聞こえた轟音はおそらく宿儺と大嶽丸が戦い始めたんだろう)」
「(最悪どちらかが死んだとしても、片方でも我々につかせれば必ず呪霊の時代はくる!)」
「そのためには、宿儺達を見つけるまでに術師どもも殺していかなければならんしな」
漏瑚はとりあえずここら一帯を吹き飛ばそうかと考えていると、近くに呪力を感じた。
「(なんだこの呪力は?)」
漏瑚は視線を向ける。
しかも並の呪力ではない、少なくとも自分と同じ特級レベルだ。
五条悟や龍山千鬼ではないとは分かっているが、もしかしたら新手かもしれない。
漏瑚は警戒しながら見つめた。
するとビルの影からその呪力のもとが現れた。
この場所に似つかわしくない儚げで、白銀に輝く長い髪、現代ではあまりみない着物。
そして何より目を引くのはまるで何も感じていないかのようなその表情、美しくもあるがどこか寒気がする。
そんな雰囲気だった。
「(人間ではない…呪霊か…)」
漏瑚の前に現れたのは、雪女。
七海達を臨時の診療所に送る際に、渋谷駅からものすごい圧を感じたので様子を見に来たのだ。
だがその圧の原因となった宿儺はもうここにはいない。
雪女自身もあの圧の正体が目の前にいる漏瑚ではないことは察していた。
「(こちらに向かう時、空の方で何かが飛んでいくのが見えました。おそらくあれがあの圧の正体……大嶽丸が追いかける姿が見えたので宿儺でしょう)」
「(それにこの一つ目の呪霊は確か…千鬼様が封印される時にいた呪霊の一人ですね)」
すると漏瑚が声をかけてくる。
「そこの呪霊。確か雪女と言ったか?」
「今ここにいるということは龍山千鬼から解放されたとみて間違い無いか?」
「…えぇ、半分はそうなりますね」
「(やはり…理由は知らんがこれは好都合。一気に我々にツキが回ってきた!)」
漏瑚は大嶽丸と雪女が姿を現したのを確認して、千鬼が調伏していた呪霊達は軒並み解放されていると考えた。
「雪女よ、わしらと共に来い」
「お前達がわしらにつけば、すぐにでも紛い物である人間どもは消滅し、わしら呪霊の時代が「お断りします」なっ!」
言葉を被せて断った雪女に漏瑚は驚きを隠せなかった。
「そういうのに興味はありませんので」
「それに、私はあなたを殺さなくては」
そう言った雪女の周りの温度が一気に下がった。
道路には氷が広がる。
それをみた漏瑚は頭の火山がグツグツと煮えたぎりながら
「っ!…貴様!呪霊でありながら人間の味方をするとはどういことだ!?」
「解放されたお前が選択したのは我々に牙を向くことなのか!」
「解放されたと言う答えに関しては、“半分”はそうです。と言ったはずですよ」
「それに、完全に解放されても、あなた達の野望には興味がありませんので」
「……そういえば蛸のような呪霊も同じことを言ってましたが、あなた達の仲間ですか?」
「!、陀艮のことか。奴はどうした!?」
「殺しました」
冷たく返されたその言葉を聞いた漏瑚の頭は噴火した。
まるで今の漏瑚の心境を表しているように、周りの温度も上がり、近くの車が溶け始める。
「貴様ぁぁぁ!もう許さん!」
「裏切り者はこのわしの手で消し炭にしてやる!」
怒り狂う漏瑚とは対照的に雪女は冷たく、淡々と返した。
「裏切るも何も、あなた方の仲間になった覚えは微塵もありません」
雪女の足元から、亀裂を走らせるように白い氷が路面を這う。
漏瑚の周囲では逆にアスファルトがじゅうじゅうと音を立てて溶け出し、白い蒸気が立ち込める。
渋谷の夜を照らす巨大ビジョンが、熱で映像を歪ませながら、二人の姿を映し出していた。
「……来るか」
漏瑚が火球を放った瞬間、雪女は道路を蹴ってビルの屋上へ。
炎は道路を直撃し、コンクリートが崩れ、近くの店のガラスが粉々に砕けた。
「逃げる気か!」
「逃げているわけではありません。上からなら、よく冷やせますので」
白銀の袖が翻り、雪女の指先から吹雪が解き放たれる。
瞬時に道路一帯が白くかすみ、センター街のネオン看板が氷に覆われて光を鈍らせる。
炎と氷の温度差で一気に濃い霧が生まれ、通りは視界ゼロとなった。
「面白い…(だが奴も視界が悪いはず)…ならば!」
漏瑚はビルの外壁を足場に一気に跳び、霧の中を突き破って雪女の懐へ。
視界の悪い中、漏瑚はここだ!と確信する。
しかしそこで足元を凍らされ、わずかに動きが鈍る。
「視界が悪いのは、あなたも同じでしょう?」
雪女の声が、霧の奥から静かに響く。
漏瑚の腹に拳が突き刺さった。
「うぐっ!(体術もできるのか!)」
腹部を押さえながらも、漏瑚は左腕を振り抜き、灼熱の火球を至近距離から放つ。
雪女はすかさず後方に跳び、足元に氷を走らせて滑るように退避。
火球は背後のビル壁面を爆ぜさせ、破片と炎が舞った。
【
雪女の指先から、湾曲した氷の刃が数本射出される。
空気を切り裂きながら迫るそれを、漏瑚は片手で炎の壁を立ち上げて焼き払った。
「そんな小細工でわしが止まるか!」
炎の壁がそのまま波のように押し寄せ、周囲の路面を焼き溶かす。
雪女は氷の床を生み出し、その上を滑るように側面へ回り込む。
炎がすぐ後を追い、雪と火花が混じる轟音が渋谷に響いた。
「……では、これはどうでしょう」
雪女は地面に掌をつけ、瞬時に数メートル先の路面から巨大な氷柱を噴き上げた。
炎の進路を塞ぐ形で立ち上がった氷柱は、熱にじゅうじゅうと音を立てながらも崩れず、炎を受け止める。
「チッ……」
漏瑚は後退せず、その氷柱を足場に跳躍。
頭上の火山から炎の槍を射出。
【
雪女は両手を交差させ、氷の盾を生成。
だが直撃の衝撃で周囲のガラスが一斉に割れ、盾も割られた。
粉雪のような破片が空を舞う。
雪女の盾を出していた右腕が吹き飛ばされる。
その中、雪女は盾の破片を左腕で押し返すように突き出した。
【
その破片が無数の氷弾となって漏瑚を包囲。
漏瑚は全身から火力を噴き上げてそれを焼き散らすが、間合いを詰めた雪女の蹴りが再び腹部を捉える。
「ぐぅっ!」
雪女の蹴りから黒い稲妻が走る。
──黒閃
そして漏瑚の腹を抉り、吹き飛ばした。
「……火は熱くて苦手ですが、近づけないわけではありません」
雪女は腕を瞬時に再生させた。
漏瑚も再生させながらも、一歩退き頭頂から炎の噴煙を吹き上げた。
雪女もまた背後に冷気を集め、白銀の髪がふわりと舞い上がる。
次の瞬間、炎と吹雪が渋谷の夜空で激突した。
衝撃波が渋谷の交差点全域を揺らす。
割れたビルの窓からガラス片が降り注ぎ、その一つ一つに雪女の冷気がまとわりついて氷刃となって回転する。
【
数十の氷刃が同時に旋回し、漏瑚に向けて一斉に収束。
漏瑚は両腕を広げ、灼熱の旋風を巻き起こした。
「燃え尽きろォッ!」
炎の竜巻が氷刃を次々と溶かし、蒸気が爆ぜる音で鼓膜が震える。
しかしその蒸気の向こうから、雪女の指先がわずかに覗いた。
【
瞬間、地面から白い煙が現れると同時に、氷の槍が連鎖的に突き上がる。
アスファルトを破壊しながら、漏瑚の足元を絡め取るように伸びる。
「こんなものッ!」
漏瑚は足元から噴炎を放ち、氷槍を粉砕。
そのまま頭頂から炎弾を連射し、街頭看板やビルの壁を爆破しながら雪女を追い詰める。
雪女は屋上へ跳び上がり、両手を広げる。
夜空に雪雲のような白い霧が渦巻き、そこから鋭い氷柱が無数に垂れ下がった。
【
ビル屋上から降り注ぐ氷の雨が、炎弾を次々と貫き、アスファルトに突き刺さる。
漏瑚は後方に跳び、炎の壁で防ぎながらも、確実に冷気が体力を削っていくのを感じていた。
「(チッ……このままではジリ貧だ……)」
漏瑚はある記憶を思い出す。
※
それは作戦の決行前に神凪、漏瑚、真人で集まっていた時だった。
「龍山千鬼を封印すれば、彼の呪霊達も脅威ではなくなるからね」
「むしろ殺すよりもリスクは少なくていいよ」
神凪の言葉に真人は少し疑問を覚えた。
そういえば龍山千鬼の脅威の理由として、まだ大嶽丸ぐらいしか知らない部分がある。
「呪霊達って、龍山千鬼が調伏して取り込んだ呪霊達の中で強いやつは大嶽丸だけじゃないの?」
真人の疑問に神凪は微笑みながら答える。
「そんなことはないよ。大嶽丸以外でわかっているだけでも特級を5体は取り込んでいる」
「がしゃどくろ、雪女、
それを聞いた真人は飄々とした態度をとって手を上げる。
「わー、全員有名じゃん。確かに敵になったら厄介だねぇ」
「できれば呪霊達とは戦いたくはない。わしらの同胞はできるだけ確保していきたいが……仮に戦うにしても雪女とやらはわしが何とかしよう」
するとその言葉を聞いた神凪は少し笑った。
それに対して漏瑚は少し不機嫌になり、
「…なにがおかしい?」
「あぁいや、すまないね」
「雪女か…確かに漏瑚の術式とは相性がいいかもしれないけど、雪女は少なくとも戦国時代の初めぐらいからいるはずだよ」
「何?そんな時期からいたのか」
「つまり漏瑚よりも年上かぁ」
「まぁそうなるね。雪女自身ずっと東北地方の雪山でしか活動してなかったから今まで本格的に祓われるようなこともなかったんだ」
「だけどちゃんと術式の扱いは長けている。実際、江戸時代のある術師が雪女を祓おうしようとしたけど、まんまと返り討ちにあったからね」
「だから漏瑚、舐めてかかるとまずいよ」
「ふん、舐めるつもりはない。五条悟よりも強いわけはないからな。それを考えたら、まだ勝てるはずだ」
※
漏瑚は戦いの最中に思い出した当時の自分に少し呆れるような、笑えるような心境になった。
警戒はしていた。いくら数百年を生きていたとしても、五条悟より弱いならば勝てるはず。
術式の相性を考えていてもこちらが有利。
だが戦いを見てみると全然そうではなかった。
むしろこっちが少し劣勢。黒閃も受け、あちらは何かを掴んでいるかもしれない。
実際、雪女の技のキレが格段に上がり、漏瑚を苦しめていた。
「(差は多少ある。そう思ってはいたがここまであったとは)」
だが生きてきた年数だけではない。
漏瑚は知らないが、呪霊装術で取り込まれた呪霊は成長する。
雪女は千鬼の中にいるときもたまに大嶽丸に挑んだり、他の呪霊達ともさまざまな形で交流をしていた。
その結果、雪女がここまで成長した。
この戦いの内容はそのおかげでもあったのだ。
そして戦いはついに終盤を迎えることになる。
雪女は表情ひとつ変えず、両手を前に突き出す。
地面から巨大な氷の蔓が生え、蛇のようにうねりながら漏瑚に迫る。
炎を纏った腕で殴り砕くが、その度に別の方向から冷気の刃が飛び込んでくる。
「だがわしは負けるわけにはいかん!──貴様ごと全て焼き尽くしてやる!」
漏瑚の口元が自然と吊り上がる。
“ここで決める!”
そう決めた表情だった。
両腕を広げ、頭頂の火山口が眩く赤く輝き始めた。
渋谷の夜景が、まるで溶鉱炉の中のように赤く染まっていく。
【極ノ番──隕】
漏瑚の全身から迸る熱量に、周囲の雪も氷も瞬時に蒸発。
アスファルトが沸騰し、ビルの外壁が溶け落ち始め、周囲の瓦礫や車などを取り込んでいく。
そして巨大な隕石となり、雪女に目掛けて降ってくる。
雪女の頬にも初めて、ほんのわずかな熱の色が差し、見開かれた目は紅蓮が映る。
漏瑚が全身から燃え盛る熱量を爆発させ、渋谷の空間を焦土へと変えようとした瞬間。
雪女は静かに呟いた。
まるで目の前の出来事に何も感じていないかのように、
「なるほど…これが“核心”を掴むということですか」
雪女は冷静に両手をゆっくりと広げる。
【極ノ番──
その声と同時に、周囲の空気が凍りつき、渋谷の夜空に青白い氷の花びらが無数に舞い散り始める。
花びらはやがて巨大な氷の大輪となり、熱を吸収する盾のように【隕】を包み込んだ。
蒸気と凍気が渾然一体となって、爆発の衝撃は緩やかに氷へと変わり、
巨大な氷花が漏瑚の熱量を内側から閉じ込め、破壊力を抑制していく。
焼け焦げて赤熱していた岩肌はたちまち霜に覆われ、表面から氷の花びらが生まれては瞬く間に広がっていく。
轟音と共に広がった熱波は、冷気に押し返され、爆発の猛威は鈍化していく。
氷の大輪が隕石を包み込むと、表面から亀裂が走り、やがて巨大な氷花が裂けるように弾け散った。
その中から隕石はゆっくりと割れ、冷たく輝く氷の破片へと変化していった。
まるで咲いた花が閉じて蕾になっていくように、爆発の激烈さを予感させる焦げ跡だけが残り、渋谷の地面はそのまま凍結し、静寂に包まれた。
炎が凍りついたかのような、異質で美しい光景だった。
雪女の冷気は極限まで熱を奪い去り、
まるで渋谷の街全体が白く凍りついたかのような静寂が訪れる。
漏瑚は顔に焦りの色を浮かべる。まだ凍ってはいないはずなのに動けない。
「な、何だ……この冷気は……!?」
雪女の目は無表情のまま、しかし内に秘めた決意が光っていた。
彼女の放つ冷気はまるで全ての熱を吸い尽くし、時の流れさえも凍らせるかのようだった。
「あなたの“熱”も、ここで終わりです」
氷の大輪が爆炎の中心でゆっくりと閉じていく。
その瞬間、漏瑚の炎は内部から凍りつていく。
激しい灼熱の衝撃が静寂に変わり、煙が晴れた時、そこには雪女が静かに立っていた。
漏瑚は氷像となっていき、焦熱と冷気のはざまで苦しげに喘ぐ。
「……わしは……わし、らは……」
雪女は冷たく、だが確かな声で答えた。
「よくやったと思いますよ。ただ私に負けてしまった。それだけです。」
「残念ながら、あなたを生かしておく理由は私にはありません。」
静寂を破るように、雪女の手から鋭い氷の刃が生まれ、漏瑚の心臓を狙う。
「さようなら」
漏瑚は最後の力を振り絞って凍った腕を振り上げようとするが、動くことはできず、すでに反撃にならない。
氷の刃が一閃し、炎の核を宿す漏瑚の胸を貫いた。
バキィッ。
氷が内部で一気に膨張し、漏瑚の身体を内側から砕く。
火山の頂きにあった炎も、最後の一瞬だけ赤く瞬き……そして完全に消えた。
雪女は刃を引き抜き、崩れ落ちる漏瑚を静かに見下ろす。
冷気の中、その表情は変わらない。
ただ、やる事をしただけの顔だった。
彼女は背を向け、歩き出す。
その足跡はすぐに吹雪に覆われ、漏瑚がそこにいた痕跡さえも消し去った。
※
渋谷駅地下2階——薄暗い灯がチカチカと瞬き、遠くで響く瓦礫の崩れる音と、金属が倒れる耳障りな音だけが、静寂を切り裂いていた。
「…うっ……」
夏油傑は壁に背を預け、ずるずると座り込んでいた。
ただでさえ黒い服には腹部から溢れ出す鮮血で濃く、そして重く染まり、滴が床に暗い水たまりを作る。
呼吸は浅く、意識はすでに朦朧として、失いそうになっていた。
その視界の先、揺らぐ影の中から二つの人影、
「ありがとう夜刀神。君のおかげで思ったよりも早く戦闘不能にできた」
神凪は余裕を滲ませた声で言う。
「別にいい。お前の作戦に乗っただけだ」
短く吐き捨てる夜刀神。
神凪は夏油の前まで歩み寄ると、音もなくしゃがみ込み、視線を同じ高さに落とす。
その笑みは冷たく、しかしどこか嬉しそうにも見えた。
「では──君の体をもらうよ」
なんとか意識を保とうとする夏油の瞳に映ったのは、笑顔だった。
雪女に名前はいる?
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いるいる!
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別にいらないんじゃない