呪霊装術   作:戦艦YAMATO

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アンケートありがとうございました。
意外にバラけたんですが、澪華と立花が大きくリードしてましたね。
ですが三票の差で雪女の名前は【澪華】となりました。
これから雪女=澪華となることになるので、よろしくお願いします。


47話 死装の薔薇

 

 

十数体の改造人間が群がり、瓦礫の街路は一瞬にして地獄の光景に変わった。

がしゃどくろの足元に這い寄る改造人間を、突き出した骨の棘が串刺しにして吹き飛ばす。

一方で釘崎は息を切らしながらも、釘を一本一本正確に打ち込み、連鎖的に改造人間を爆ぜさせていた。

 

「数で押すつもり?あんた相当バカね!」

 

【簪】の炸裂音と共に、数体の改造人間が頭部ごと粉砕される。

 

真人は舌打ちしながら回避行動を取る。

彼にとって、改造人間は壁であり囮にすぎない。

だが今は、その壁を突破される速度があまりにも早すぎた。

 

「(ちっ……やりにくい。釘女は俺に触らせないよう立ち回り、さらに骨野郎まで守りに回りつつ俺を攻めてる)」

 

巨大な影が覆いかぶさる。

がしゃどくろが腕を振り下ろしたのだ。

 

ドガァン!

 

アスファルトが砕け散る轟音。真人はギリギリで飛び退いたが、その瞬間を釘崎が狙っていた。

 

「逃がさないって言ってんのよ!」

カンッ!

 

【共鳴り】

 

がしゃどくろが先に砕いた改造人間の釘にリンクし、真人の左肩が内部から裂けるように弾けた。

 

「ぐッ……!」

真人は思わず左腕を押さえた。

血が滴り落ちるが、再生は遅い。

魂へ直結する釘崎の術式のせいで、再生が遅れているのだ。

 

「どうした?笑わないの?」

挑発する釘崎の声。

 

真人は顔を歪めながらも、わざと口角を吊り上げる。

 

「……あぁ、笑ってるさ。君の死に様を想像してね」

 

返す刀のように、真人は腕を大鎌へと変形させた。

その一閃が野薔薇を薙ぎ払おうと迫るが、

 

ガギィィン!

 

巨大な骨の盾が割り込み、刃を受け止める。

 

がしゃどくろが野薔薇の前に割り込んでいた。

 

「ッざけんなぁ!」

 

真人は連続で斬撃を叩き込むが、骨の盾はひびもできず崩れない。

 

逆に、その背後から釘崎が釘を投げ放つ。

 

「はぁぁぁッ!」

 

カンッ!

一本が真人の太腿を抉り、さらに炸裂する。

 

「ぐッ……クソッ!」

 

真人は片膝をつきかけた瞬間、必死に体を歪めて回避する。

すぐさま大蛇のように腕を伸ばし、釘崎を狙うが、

再び横から巨大な骨槍が飛び込み、その腕を弾き飛ばした。

 

「……っの野郎ォ!!」

 

怒声と共に真人は後方へ飛び退いた。

荒く息を吐く。これほどまでに自分が“追い込まれる側”になるとは。

 

「(あの骨は無為転変が効かない……!女の方はこっちの攻撃は通じるが、近付けば釘の攻撃)

(まずい。これはマジで……マジで最悪の組み合わせだ)」

 

釘崎は汗に濡れた額を拭う。

だが口元の笑みは崩れない。

 

「ははは、私一人でも苦戦してたクセに、二人がかりじゃ耐えきれないんじゃない?」

 

真人はギリ、と歯を食いしばり、無理やり笑顔を作る。

 

「ふざけんなよ。誰がお前なんかに苦戦するか、お前さえ消してしまえばいいんだ」

「それにここからが本番だよ」

 

その声音は笑っているのに、瞳の奥は苛立ちと焦燥で濁っていた。

 

「そりゃよかったよ!」

 

カァン!

 

釘崎は今度は五寸釘を五本放った。

 

真人は回避して体勢をすぐに整える。呼吸を整えながら、周囲に視線を走らせた。

 

釘崎の姿が見えない。

 

「……チッ、どこ行った?」

 

がしゃどくろは真正面で構えている。

その巨体は圧倒的で、正面から視界を塞ぐように立ち塞がる。

 

「(……まさか、逃げた?いや違う。あの女がここで尻尾巻くわけない)」

 

真人が考える隙を与えないかのように、がしゃどくろは追撃する。

 

真人は急に口から何かを吐き出した。

そこから出たのは、苦悶の声を上げる小さくなった改造人間たち。

真人の指先がそれらを鷲掴みにする。

 

多重魂(たじゅうこん)

 

ゴギッ……グジュ……!

魂同士がぶつかり合い、異音と共に改造人間の肉体が痙攣を始めた。

その瞬間、内部で拒絶反応が爆発的に膨れ上がっていく。

 

真人は狂気じみた笑顔で両腕を広げた。

撥体(ばったい)ッ!」

 

ドォォォォンッ!!

眩い閃光と共に、融合された魂の質量が炸裂。

骨の巨体すらも押し返す衝撃波が走る。

 

がしゃどくろが守りの体勢に入った瞬間──その中から真人が現れた。

 

そしてわずかにあった隙間を掻い潜ってがしゃどくろの胸骨に肥大化した腕を叩き込んだ。

 

バチィッ!

 

【黒閃】!!

 

がしゃどくろの胸骨が軋み、骨片が砕け飛んだ。

 

「……ッ!」

 

巨体が後方へぐらりと揺れる。

 

真人は息を荒げながらも、笑みを崩さない。

 

「やっぱり、効くじゃん。いくらお前でもこれは痛いよねぇ」

 

だが後ろに倒れるがしゃどくろを見た真人はほんの一瞬油断してしまった。

 

がしゃどくろが口を開く。その奥に──微かに光が見える。

 

「……ッ!?」

 

次の瞬間。

 

カァンッ!!!

 

がしゃどくろの口の奥から閃光のように釘が飛び出す。

それは真人の頬を掠め、皮膚を裂いた。

 

「なっ……!?」

 

口内から姿を現したのは釘崎だった。

がしゃどくろの顎の骨を蹴り飛ばすように飛び出し、至近距離から頭に釘を刺し、【共鳴り】を叩き込む。

 

「油断したわねツギハギ!!!」

 

爆音が走り、真人のあらゆる所が抉れる。

魂に直接触れる痛みに、真人は一瞬膝をついた。

 

「……ぐ、あぁぁっ!」

 

真人は慌てて腕を肥大化させ、反射的に釘崎を薙ぎ払う。

回避した彼女はがしゃどくろの肩骨に着地し、トンカチを構えながら舌を出した。

 

「おっそい!」

 

がしゃどくろもすかさず援護するように骨槍を突き出し、真人の間合いを完全に潰す。

 

「(くそっ!いないと思ったら……正面から攻め立てられるだけでも厄介なのに、こんな芸当まで仕込んでくるのか!)」

 

真人は舌打ちし、血を流しながらも笑う。

 

「……やってくれるね。

でもさぁ……奇襲ってのは、一度バレたら終わりなんだよ」

 

対する釘崎も余裕そうにしているが内心はそうは思っていなかった。

 

この戦いで自分はがしゃどくろに助けられてばかりいる。

がしゃどくろはまだ大丈夫だが、釘崎自体は真人に一度でも触れられて無為転変を発動されたら防ぐ術はないだろう。

だからこうなってしまうのは仕方ないといえば仕方ないのだが、釘崎野薔薇はそれで納得する人間ではない。

 

『──足手纏い』

 

七海から言われた言葉が頭をよぎる。

 

ちゃんと目の前の真人と虎杖のように正面切ってやり合える方法を探っているとあることを思いついた。

 

そしてがしゃどくろに声をかける。

 

「ちょっと骸骨!」

 

「なんだ?あと私は『がしゃどくろ』という名前がある」

 

「だったらがしゃどくろ──あんたを装備させて」

 

「……」

 

釘崎の提案にがしゃどくろは僅かに驚いた。

 

実は釘崎は、交流会襲撃の後に伏黒の見舞いで5人でピザを食べている時、虎杖からある話を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

「そういえば俺さぁ、天逆毎(あまのざこ)ってやつを装備したんだよね」

 

ピザを食べている時に虎杖が急に話題を出した。

しかも話題の内容が変わっていたので釘崎は首を傾げて反応した。

 

「装備?」

 

「そうそう、なんかガントレットみたいになってさぁ」

「すっげー力が沸いてくんの」

 

虎杖はまるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のようにはしゃぐ。

その言葉に伏黒が付け加えるように説明した。

 

「天逆毎の術式は身体能力を強化する系だからな。お前とは相性がいいんだろう」

 

「でもさぁ、千鬼先生ってあんな呪霊を装備するんだろ。俺みたいに他の人にも装備できるんなら、呪術師全員強化すれば戦力あがんじゃね」

 

虎杖の考えに菜々子が苦笑いをした。

 

「それがそうでもないんだよねぇ」

 

美々子も付け加える。

 

「そんな簡単にできたら少なくとも私達はちゃんと専用の呪霊もらってる」

 

二人の否定的な意見に虎杖は疑問が浮かんだ。

 

「なんで?」

 

そんな虎杖に対して釘崎はため息をつきながら呆れる。

 

「あんたねぇ、そんなことも……そういえば最近までパンピーだったな」

 

「え?なになに」

 

少し戸惑う虎杖に伏黒は丁寧に説明を始める。

 

「あのな、千鬼先生の生得術式『呪霊装術』

これは術師、いや呪術界の間じゃ有名なんだ」

「呪霊を装備してその術式や呪力を自分のものにする。もちろんその呪霊の技や領域展開も使える」

 

「それ結構強いじゃん」

 

「メリットだけ見ればな。だがデメリットは体に大きな負担がかかることだ。最悪装備の使い手が呪霊化する」

 

「えー!なにそれ!?」

 

「実際、千鬼先生の前には何人かこの術式の持ち主がいたらしいが、全員が呪霊化か体が破裂するなどの悲惨な死を遂げたらしい」

「今回襲撃しにきた禍蛇(まがだ)もそうだったろ」

 

「あー確かに、9代目とか言ってたね」

 

「それが最大にして最悪のデメリットだ。実際、五条先生の無下限呪術と同じ1000年くらい前からある術式だが、呪術界ではこの術式はずっと危険視されてきてたらしい。

術式反転で他人に装備ができるのも千鬼先生で始めて分かったことだからな」

「このデメリットは装備する人間に適用される。無闇矢鱈に他の術師に装備させないのはそういうことだ」

 

「へー、伏黒もしたことあんの?」

 

「何回かな。俺は高専に入る前に特級を一体装備したら15分で体に力が入らなくなった」

 

菜々子と美々子も思い出すように呟く。

 

「私たちもしたけど、一級で20分が精一杯だったね」

 

「本当に強くはなるけど、その分疲れた」

 

「多分お前は宿儺の器としての適性があるから、そこまで負担はかからないんだろうな」

「確か家入先生の見解だと、もともと一つしか持てないはずの生得術式を、自分自身に無理矢理増やしているから脳や体に負担がかかっているんじゃないかって話だ」

 

「なるほど…まぁ普通に考えて、術式だけじゃなくてその呪霊の呪力も自分のものにできる時点で何もデメリットがないってのがおかしい話よね」

 

「ちなみに五条先生や夏油先生も学生時代に試したことがあるらしいが、特級3体で30分が限界だったって」

 

「まぁ夏油様は装備しなくても手数なら千鬼先生に負けてないから」

 

「五条先生も装備しなくても十分強いし」

 

すると釘崎はふと思ったことを呟いた。

 

「……私が装備したらどのくらい持つんだろう?」

 

好奇心か、それとも何かへの挑戦のつもりかなぜかその言葉が出てしまった。

 

「…さぁな、そこは装備になる呪霊との相性や階級で変わってくるし、一級術師だろうが装備できない人はいるらしい」

「人によって変わるから正確な時間も計算できない。まずそういう事態にならないようにするのが最善だろうな」

 

「まぁそれもそうよね」

 

 

 

 

 

 

 

「(あんなこと言ってたのに、こういう事態になるなんて本当に頭にくる)」

 

釘崎が自分の力不足に怒りが湧いてきている時、がしゃどくろが声をかけた。

 

「……私を装備するというのはどういうことかわかっているのか?」

 

「えぇ、もちろん」

「こちとら承知の上で言ってんだよ!」

 

釘崎は強い眼差しでがしゃどくろの眼窩に光る紫の光を見た。

 

「おそらく代償のことは聞いているはずだ。なぜそんなに危険を冒そうとする?」

 

がしゃどくろの言葉に釘崎は一瞬目を見開くがすぐに覚悟を決めた目になる。

分かっている。もしダメだったら自分は最悪呪霊になる。

そしたら虎杖達だけじゃない、先輩である真希達とも戦うことになってしまうだろう。

だが釘崎は止めることはなかった。

それをしたら“私じゃなくなる”と感じていたからだ。

 

「……あいつらが命懸けで戦ってんのに

──私一人が命が惜しくて何もしないのな嫌だから」

「“私が私らしくあるために必要なこと!”」

 

「……(全く、術師の女はこういうのが当たり前なのか?)了解した」

「ただし、責任はその選択をしたお前にある。何があっても恨むなよ」

 

「上等!」

 

その言葉と同時にがしゃどくろは指先を野薔薇の頭に触れると光出した。

 

そして釘崎も包まれた後、姿を現した。

 

その体を包むのは──がしゃどくろの骨鎧。

 

骨をベースにした鎧が、肩と背、そして全身を覆い、頭部には半壊の頭蓋兜(ずがいかぶと)が被さっている。まさに、死を纏う女。

 

「女の子が骨鎧とか……どうかしてるなぁ」

 

真人の口調は軽いが、目は鋭くなっている。

 

「…すっごいゴツいんですけど……もっと可愛らしいのにできなかったの?」

 

釘崎の愚痴にがしゃどくろが頭に語りかける。

 

「贅沢を言うな、お前の実力を考えればこうでもしないとあの呪霊に触れられて終わりだ」

 

「はいはい、そりゃどうも」

 

釘崎は肩を鳴らし、トンカチを構え直した。

 

「行くぞツギハギ」

 

死を纏った女と、人の恐れから生まれた呪い。

二つの怪物が、再び正面から激突しようとしていた。

 

 

 

 

 

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