やっとここまで来たぁ!
渋谷の街路は、すでに瓦礫と化していた。
遍殺即霊体、進化した真人の動きは視界にすら映らない。
「くっ……!」
釘崎の頬をかすめただけで骨鎧がひしゃげ、瓦礫が一瞬で粉砕される。
“速度も、威力も桁違い”──今までの真人とは完全に別物だ。
真人は、恍惚とした笑みを浮かべる。
「そうだ……これだよ、釘崎野薔薇。オレは最高に“生きてる”」
再び空間が裂けた。
気配を察知する間もなく、真人の掌が迫る
だがその瞬間、野薔薇の足元から骨が暴発的に伸び、迷路のような回廊を展開した。
【
無数の骨壁が渋谷の路地を封鎖、真人を囲い込み、壁から槍や刀などが襲いかかる。
だが、
「ハッ、遅いんだよ!」
真人の影が、壁を突き抜ける。
次の瞬間、彼はすでに野薔薇の背後に回っていた。
ガキィン!
骨鎧が自動で展開、真人の掌を受け止める。
しかし防御の度に亀裂が走り、骨が粉砕されていく。
「このままじゃ押し負ける……!」
野薔薇は奥歯を噛みしめ、手に持つ槌を強く握りしめる。
「……だったらもっとこっちから仕掛ける!」
彼女は鎧の胸骨を叩き砕くと、内部から骨の槍が一斉に飛び出した。
四方八方に解き放たれた骨槍が、真人を追尾するように殺到。
「いいねぇ!」
真人はその全てを捌き、笑みを広げる。
しかし槍が外れたと思った瞬間──足元から骨の槍が生え、空気を裂いた。
【
幻影と実体が入り混じる骨の罠。真人が一瞬でも対応を遅らせれば即串刺し。
そしてその刹那、野薔薇は血まみれの手で藁人形を掲げた。
そこには戦いの最中に真人から叩き潰した肉塊が添えてある。
【“共鳴り”!】
真人の身体に鋭い痛みが走る。魂そのものに杭を打ち込まれる感覚。
真人の口元から陶酔ではない「苛立ち」が漏れる。
「っ!…やっぱりお前は厄介だ!このまま押し潰してやる!!」
叫ぶと同時に、真人の全身から呪力が炸裂。
瓦礫の街が吹き飛び、蠢骸廊の骨壁すら粉砕していく。
ここからが、本当の決着。
釘崎の額から血が滴り、骨鎧が自律で展開する。
「ぶっ殺してやる!」
「アハハハッ!もっと楽しませろよ、釘崎野薔薇ァ!!!」
釘崎が手印を結んだ。
それに対して即座に真人の声が空間を震わせる。
【領域展開
掌の世界が広がり、魂の形を無理やり捻じ曲げる死の空間が満ちる。
対して、野薔薇を中心に骸骨の咆哮が響く。
【領域展開
一瞬で街並みは荒野へと変わり果て、乾いた風が吹き抜ける。
地平に散らばる無数の骨。
それがガタガタと動き出し、錆びた鎧を纏った骸骨兵たちが次々と立ち上がる。
さらには真人にいつでも攻撃できるように胸骨を模した巨大な槍などが待ち構える。
空間そのものが呪力を吸い取る仕組みとなっていた。
真人の無数の掌と、がしゃどくろの無尽蔵の骨。
二つの領域がぶつかり合い、荒野に掌の波紋が押し寄せる。
真人が嗤う。
「(骸骨兵や骨の武器とかどんどん出てきてる…だが)魂ごとぐちゃぐちゃにしてやるよ!」
無数の掌が骸骨兵を捻じ曲げる。だが、変化させられる前に自ら崩壊して新しい骸骨が立ち上がり、呪力を吸収して再生する。
「アンタの掌、しつこいわね!」
釘崎が冷ややかに吐き捨て、同時にがしゃどくろの鎧から巨大な槍が顕現し、真人のブレードを受け止める。
呪力を込めるほど強度が上がり、釘崎を覆う骨鎧がさらに重厚に変貌していく。
真人は歯噛みしつつも興奮していた。
「触れないなら、もっと近くで壊せばいいッ!」
自慢のスピードで釘崎へ迫る。
だが骸骨兵が次々に割り込み、足元からは棘が突き上げる。
荒野と掌の世界がぶつかり合い、空間そのものが軋む。
無数の掌が骸骨を捻じ曲げ、骸骨は次々と再生して真人に迫る。
しかし──
釘崎の額に冷や汗が伝う。
「……(押されてる。骸骨が追いつかない。領域じゃ、相手のほうが分がある!)」
荒野の空気は重く、骨兵の数は増え続けるはずなのに、真人の掌が次々と破壊していく。
まるで“魂そのもの”を握り潰される圧力に、釘崎の本能が警鐘を鳴らしていた。
「……上等だよ」
釘崎は笑う。
そして鎧を鳴らし、がしゃどくろの力を全身に纏わせた。
「骨だけに任せるんじゃない。私が行く!」
ズドォンッ!!
地面を砕き、釘崎が真っ直ぐ真人へ突撃する。
「ハハハッ!来いよ!でも触れた瞬間終わりだ!」
真人の深い笑みが光る。
領域内の無数の掌が一斉に釘崎の顔へ殺到した。
「(ぐちゃぐちゃにしてやる!)」
バギィィン!!!
その瞬間、がしゃどくろが咆哮。
巨大な骨の手が釘崎の周囲を包み込み、迫る掌を悉く弾き飛ばす。
「なっ!?」
真人の口元が歪む。
領域の攻め合いによって必中状態ではないので簡単には釘崎に当たるはずがない。
白骨の守護を背に、釘崎は一直線に真人の眼前へ躍り出た。
瞳に宿るのは、恐怖を凌駕した怒りと覚悟。
「そう簡単に私のご尊顔に触れると思うなよ!」
骨の槌が、呪力を限界まで込めて脈動する。
それはまさに“怨骨呪術”の極致、全身全霊の一撃だった。
「ハアァァァァッ!!!」
釘崎が叫び、渾身の力で真人に迫る。
その背後でがしゃどくろが咆哮。
荒野の大地を割り裂き、領域内に顕現した巨大な骨の槍が天を貫くように隆起した。
次の瞬間
──ズドォォン!!
音を立てて、その槍が真人の身体めがけて一直線に突き出される。
「バカな……!」
真人は遍殺即霊体の装甲をより厚くし、防御する。
だが、圧倒的な呪力を込められた骨の一撃は装甲を粉砕し、装甲に大きな亀裂を刻んだ。
「今だぁぁぁッ!!!」
釘崎はその裂け目に跳び込み、骨で形作った五寸釘を突き立てる。
──ズガァァァン!!!
釘が魂に直撃し、真人の全身を駆け巡る痛覚と破壊の波動が炸裂する。
内側から抉り出されるような激痛に、真人が呻き声を上げた。
「がはっ……!? ク、ソッ……!!」
さらに次の瞬間、釘崎の全身を黒い稲妻が走る。
──ゴォォンッ!!!
呪力の瞬き。釘崎の一撃に黒閃が宿った。
「これで──終わりだぁッ!!!」
骨釘を打ち込んだまま、黒閃の衝撃が重ねられる。
魂を砕く共鳴と、空間を歪ませる黒閃が重なり合い、真人の身体を内外から同時に叩き壊した。
ドガァァァァンッ!!!
「アァァァァァ!!!」
轟音と閃光が荒野を裂き、真人の絶叫が木霊する。
※
真人と釘崎の決着がつく頃、その圧に引き寄せられるかのように虎杖が駆けつける。
大嶽丸によって飛ばされ、そこから走ってなんとか渋谷まで着いたのはいいものの、街は瓦礫や冷気に覆われたりしていたので何が何だか分からなかったが、少し近くで轟音や巨大な呪力を感じたのでそれを頼りにきたのだ。
周りを見渡した虎杖は誰かを見つけた。
見た目的には敵っぽいが、こちらに攻撃してくる様子がないのでもしかしたら味方の術師かもしれないと予想した虎杖は声をかけて近づく。
「あ、おーい!」
「はぁ…はぁ……ん?」
「虎杖……」
「あ、釘崎!無事だったんだな……って!」
「なにその姿!ゴツ!ちょっとかっこいいけど…」
駆け寄った虎杖は釘崎が全身に骸骨の鎧を着ていたことに驚くが、少し羨ましくも思う。
「うるさいわねぇ、私だって仕方なくこうしてんのよ」そ
「じゃないとあのツギハギにやられてたし」
「ツギハギ……! 真人のことか!?」
虎杖は釘崎が戦っていたのがあの真人だと知り、一瞬釘崎の状態を確認するが、骨の鎧以外はいつも通りなので安心する。
だが口元に血の跡が残っていたり、瓦礫の所々に血の跡が見えることから激しい戦いだったことは想像できた。
「それであいつは?」
「今から祓う」
虎杖の問いに答えた釘崎は真人が倒れているであろう場所に向かって歩き出した。
※
釘崎に黒閃を乗せた共鳴りを決められた真人は、なんとか無事だったがこれ以上ないほどに弱っていた。
領域がガラガラと崩れ、誇っていた遍殺即霊体の形は徐々に消え、ブレードや分厚くした装甲もみるみるうちに消え、元の姿に戻っている。
もし物理攻撃が効くならば、一般人に簡単に抑え込まれてしまうくらいには弱り切っていた。
「くそっ!……なんなんだよクソ女が!(雑魚のくせに…俺に殺されるはずだったくせに……ここまでやりやがって!)」
悪態をついていた真人だが、音がする方へ視線を向けると、釘崎が歩いてきていた。
その後ろには虎杖もいる。
真人にとっては最悪にも程がある光景だ。
「っ!……くっ!」
真人は必死に逃げようと体をひねるが、変身もできず、改造人間のストックもない。
領域で消耗した呪力はほぼ底を尽き、かつての圧倒的なスピードも失われていた。
「……くっ、なんで……」
真人の目に焦りが宿る。
その瞬間、釘崎がゆっくりと、しかし確実に真人へ歩を進める。
骨鎧が軋み、がしゃどくろが周囲に骨を展開し、真人に触れさせまいと盾を作る。
「……これで、終わりよ」
釘崎の声は冷たく、揺るがない決意が宿っていた。
真人はわずかに後ずさるが、足は固定され、逃げる余地はない。
釘崎の目が光り、骨の五寸釘が次の一撃に呼応して輝く。
真人の目に写るのはまさに“死神”────
「さあ……受けて立ちなさい」
釘崎が渾身の力を籠め、最後の一撃に向けて歩みを進める。
真人の顔から、余裕の笑みは完全に消えていた。
釘崎野薔薇の気迫──それは呪術師としての経験則を超えた。
戦いで何度も死と向き合い続けてきた者だけが持つ圧。
釘崎は真人との戦いで成長していたのだ。
「…なんだよこいつ……ッ!」
真人は必死に変形しようとする。だが、身体はもう応じない。
それでもただ体を動かして釘崎から距離を取ろう、逃げようと必死になる。
さっきまで嗤っていた相手にただ逃げるしかなかった。
「ヒッ……!」
半狂乱のまま、真人はよろめきながら走り出す。地面を転げ、壁にぶつかりながらも必死に。
だが
がしゃ、がしゃ、がしゃ、と。
その背後で響く骨鎧を着た釘崎のあし音は、走りもせず、焦りもせず、ただ淡々と、確実に真人を追い詰めてくる。
「…やめろ! 来るな……!」
真人の叫びは恐怖に震え、声にならない。
その姿はもはや呪いではなく、ただの獣のよう。
その隙を見逃さず、がしゃどくろが巨大な骨の槍を飛ばす。
──グサッ!
槍が真人の足を貫通するように固定し、逃走の自由を奪った。
がしゃどくろの骨の槍が無慈悲に地面を突き破り、真人の足を串刺しにして固定する。
「ぎゃあああッ!!」
甲高い悲鳴が響く。
もう逃げられない。
真人は血に濡れた手を震わせ、地に転がっていた小石を掴んだ。
「……っ!くそっ、うあああああッ!!!」
小石を釘崎に向かって投げつける。
それが唯一、彼に残された抵抗だった。
だが、釘崎は眉一つ動かさず、その全てを受け流すかのように歩みを止めない。
さっきまでこれとは比べ物にならない攻撃を受けてきた釘崎にとってこんな小石は鎧に当たろうが、自分に当たろうがなんの影響もない。
「……やめろ……来るなって言ってんだろおおお!!!」
真人は悲鳴を上げながら、小石を次々と投げ続ける。
それは人を嘲笑い、弄んできた呪霊の姿からはあまりに惨めで、滑稽ですらあった。
釘崎は五寸釘を握りしめ、肩で息をしながらもゆっくりと歩み寄る。
「……もう観念しろよ」
その声には怒りと決意が混ざっていた。
その時──
ヒュオォ……
風が吹く。
そしていつの間にか真人の前に人が立っていた。
「「!」」
虎杖と釘崎は突然現れた人に目を見開き、警戒する。
「!……
「助けてあげようか?真人」
真人の前に現れたのは、笑みを浮かべながらもどこか妖しい雰囲気を纏った神凪蒼真だった。