虎杖と釘崎は真人の言葉を聞いて瞬時に予測した。
「(今神凪って言ったな!?ってことは…)」
「(神凪って、家入先生が言ってた奴。つまり…)」
「「((こいつが!))」」
二人はすぐに駆け出そうとした時、
ズクン、と釘崎の全身を鉛の杭が打ち込むような衝撃が走った。
「ぐっ…!!」
顔が歪み、視界が白く揺らぐ。
「釘崎!?」
膝が崩れ落ちる音に虎杖が目を見開いた
「おや……これは思わぬチャンスだね」
神凪は愉快そうに口角を上げ、懐から一枚の札を摘み出した。薄紙に刻まれた“風”の文字が妖しく輝く。
ビュオォォォォッ!
暴風が炸裂し、釘崎の身体を軽々と吹き飛ばす。地を擦る音が痛々しく響いた。
「釘崎ぃぃ!…お前ぇ!」
「安心しなよ。彼女はあれぐらいでは死なないよ」
神凪は笑みを浮かべながらも冷酷に言い捨てる。
「普段以上の戦闘に、特級呪霊を装備して領域展開までしたんだ。体にガタが来てしまったんだろう」
「いわば、当然の“代償”だ」
その説明など聞き流し、虎杖は疾風のごとく踏み込み、拳を握りしめて叫んだ。
「五条先生と千鬼先生を返せ!」
「フッ…残念ながら龍山千鬼の方は持ってないよ」
その言葉と同時に、神凪は足元に符を叩きつけた。
ゴゴゴゴッ――ッ!
地面が隆起し、分厚い土壁が虎杖の進行を遮断する。
「なっ!? こんなの!!」
虎杖は唸り声を上げ、拳で土壁を粉砕する。
破片が弾け飛ぶが、その背後には既に数十枚の札が舞っていた。
札から現れたズラリと浮かび上がる異形の影。呻き声を上げる呪霊の群れが一斉に虎杖へ殺到した。
ドギュッ!
「ガッ!」
虎杖は思わず倒れ込んでしまった。
「三級の群れとはいえ、それだけくるとなかなかだろう」
「操符呪法の強みは“多才さ”だ。五行を始めとした自然由来の攻撃方法に結界の生成など」
「縛りとして札に直筆で呪文を書かなければならないという準備を要するが、さまざまなことが可能になる」
「さらに…」
虎杖は血で視界を滲ませながらも、歯を食いしばって立ち上がる。
「返せ!」
すぐに回復した虎杖は拳を構えながら向かうが神凪が札を出すと地面が隆起して虎杖を攻撃、飛ばされた虎杖を追撃で呪霊の群れを叩き込んで再び地面に倒してしまう。
「呪霊の封印、調伏も可能なんだ」
虎杖は血だらけになりながらも、決して諦めることはなく、神凪を睨みつける。
「…返せよ」
「…我ながら流石と言うべきか、宿儺の器はタフだね」
神凪が嘲笑する横で、背後からひそかに手が伸びた。
──真人の掌
だが神凪は一瞥しただけで察知し、軽く身を翻す。
「無駄だよ」
バサリと札が宙を舞い、光が瞬く。次の瞬間、真人の身体が淡く光に呑まれていく。
「な……っ!?」
抵抗する間もなく、術式が吸い込まれるように封じ込められていく。
「……知ってたさ。だって俺は
その言葉を最後に真人は札に納められるように消えていった。
「さて、続けようか」
「これからの世界の話を」
空気が震えた。
神凪の周囲に漂う“支配者の圧”。
神凪の言葉に虎杖は睨みつけながらも返す。
「…これから?」
「そう、まずはさっきも私が言った通り操符呪法は多才さが強みだ」
「君が見た通り呪霊の調伏もできる……フフ」
言葉の途中で急に神凪は小さく笑い出した。
そんな神凪を虎杖は少しイラついてしまい、
「なにがおかしいんだよ」
「いやすまない。急にらしいことをしてしまったなと思って」
「操符呪法の話だったね」
「この術式の中には抽出というものがあってね。最初は何か分からなかったんだ。神凪家の書物にも『抽出というものがある』としか書かれていない」
「試しに何かを搾り取るものかと思って、冗談混じりで果物に使ってもなにも起きなかった。
正直これは使えないと思っていたんだ」
神凪の持っていた真人の札が光始める。
「だが違った。これの真価は準一級以上の呪霊に使った時に起こる」
「“術式の抽出”だ」
札が淡く光り、神凪の中に溶け込むように消えていった。
「フゥ、さてそろそろいいんじゃないかな?」
神凪の視線の先にはカンテラを灯し、空を箒で飛ぶ西宮がいた。
それを合図されたかのように神凪に矢が飛んでくる。
神凪は避けようと即座に回避するが、乾いた音が響く。
パン!
先ほどの位置にまた戻され、矢が飛んでくる。
「なるほど…(位置が変えられた)」
神凪は結界を張り、矢を防いだ。
「おそらく内通者君が東側に来ないようにしてたのかな?」
「だったらわざわざ京都から出なければいいのに」
「無事で何よりだブラザー」
「東堂!」
虎杖が声のする方へ振り向くと、真依とメカ丸を除いた京都校が揃っていた。
「虎杖〜」
「パンダ先輩!」
「(行きたくなかったんだけどな〜)」
そこにパンダ(ゴリラモード)と日下部も到着。
仲間たちの姿に一瞬安堵が広がるが、同時に緊張も増していく。
「あの男が五条悟と千鬼先生……獄門疆と天岩戸を持っているのか」
「らしいぜ。あんな公害とブチ切れたら災害を持ち歩いて何が楽しいんだか」
パンダと憲紀の会話に三輪が入ってくる。
「一体何者なんですか?」
「見た目は神凪蒼真だが、中身は知らねぇよ」
虎杖達が臨戦態勢に入ったその時、別の方向から脹相が現れた。
顔には汗が浮かび、まるで苦しんでいるような表情だ。
「やぁ脹相」
「あいつは…」
脹相の呟きが聞こえた神凪は
「おや、気づいたようだね」
その姿を見た脹相の中では記憶の奥底に存在するある人物と重なる。
「そういうことか、
その言葉に歌姫と日下部は目を見開き、逆に生徒達は憲紀の方を見た。
「「!」」
「「「「憲紀!」」」」
「私!?」
よく分からない西宮が歌姫に尋ねる。
「何!?どういうこと?」
「加茂家の汚点……史上最悪の術式!」
「本当なら神凪の中身は150歳を超えてることになるわよ!」
「(馬鹿げた結界術、馬鹿げた呪具の所持、肉体を乗り換える術式を持つ黒幕の人選としては…)妥当っちゃ妥当だな」
「
「好きに呼びなよ」
「よくも!よくも俺に!」
「虎杖を、弟を殺させようとしたな!」
「ブラザー!兄がいたのか!?」
東堂が驚愕するが、虎杖は即座に怒鳴り返す。
「全然ちげぇよ!」
「お前変なフェロモンとか出してるんじゃないか?」
その軽口の直後、神凪の前に白いおかっぱをした女性が出てきた。
「引っ込め三下」
「今私は虫の居所が悪い!」
「どけ!俺はお兄ちゃんだぞ!!」
脹相が【穿血】を繰り出そうとした時、
「っ!(これは!?)」
動きが止まった。まるで体が縫い付けられたように固まる。
「【
低く告げる声と共に影から姿を現したのは、夜刀神。
脹相の影を夜刀神が踏んでいた。
「夜刀神!」
「確か交流会にいた特級呪霊!」
「(ますます状況がやべーじゃねぇか!今のうちに逃げるか?)」
それぞれの思考が揺れる中、さらに冷気が走る。
「(あいつは夜刀神が抑えている。ならば…)」
【
ガギィィ!
一瞬の隙をついて女性は神凪を除いた周りの人間を凍らせた。
「(氷の術式!?なんてハイレベルな!)」
「(下手に動けば体が割れる!!)」
「(手を叩く暇すら与えられなかったか……)」
「殺すなよ。
神凪は淡々と指示するが、
「全員生かす理由になるか?」
女性が不機嫌そうに返し、さらに冷気を強める。
「おい裏梅!我も凍らせる気か!」
裏梅の攻撃から回避した夜刀神が影から出てきて悪態をつく。
「黙れ蛇風情が、私は宿儺様への挨拶をあの野蛮な鬼のせいでできなかったのだ!」
そんな夜刀神に女性──裏梅は不機嫌そうに返した。
「この程度の氷…!」
脹相は【赤鱗躍動】で氷を溶かそうとするが、
「どの程度だ?」
そんな暇は与えられるはずがない。
裏梅は近づいてトドメを刺そうとしていた。
バキィ!
脹相が攻撃される直前、氷を砕いて動けるようになった虎杖は脹相の氷を砕いて脱出させた。
「っ!…誰の体だと…!」
「(俺だけ氷結が甘かった。宿儺関連だな)」
「味方でいいんだな?」
「違う!」
「はぁ!?」
「俺はお兄ちゃんだ」
脹相の言葉に虎杖は微妙な顔をする。
まずこんな状況なのに面識もなく、なんなら殺されかけたはずなのに、存在しないはずの“兄”と言われても無理はないのだが
「真面目にやってくんねーかなぁ!」
「伝達役など…一人で事足りるでしょう!」
【氷凝呪法──
虎杖と脹相はまた凍らされてしまい、さらに虎杖の方に氷が突き刺されようとしていた。
「っ!悠仁!」
「!(殺られ──)」
ドゴァ
思わず目を瞑っていた虎杖は自分に痛みが走らないことを不思議に思い、そっと目を開けた。
すると目の前に金髪の女性がいた。
その女性を見た瞬間、神凪の表情が僅かに変わった。
「久しぶりだね
「前と答えが変わったかもしれないから聞くよ」
金髪の女性──九十九由基は投げキッスをしながら質問する。
「どんな女が
「君か……久しぶりだね。
戦場の空気が、また変化した瞬間だった。
次で渋谷事変は終わる予定です。