呪霊装術   作:戦艦YAMATO

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誤字報告ありがとうございます。
やはりずっと前に出した小説はまだまだ誤字脱字があって少し悔しいですがモチベーションにつながりました。




52話 余響と幻

 

 

〜虎杖視点〜

 

あれから、もう一週間以上は過ぎた。

渋谷も街はほとんど壊滅していた。

焼けた匂いがかすかに残ってて、崩れ落ちたビル群は墓場みたい静かだ。

それでも、奇跡的に東京の23区全部が壊滅したわけじゃないらしい。

それでもなお、“生きている”と呼べる街ではなくなっていた。

 

被害の割に犠牲者は少ない。そう言われても、胸に残るのは「それでも数百人以上が死んだ」という現実だけだった。

俺たちが今やっているのは、あの日、神凪が放った呪霊を祓うことばかりだ。

 

けど……俺の頭からは、あの時の光景が離れない。

渋谷で、俺は人をたくさん殺していたかもしれない。

宿儺が俺の体を乗っ取っていたあの時、もし大嶽丸が宿儺を人気のない海上まで引き離してくれなかったら。

きっと、俺は何千人も殺してた。

その「もしも」が、今も脳裏をよぎるたびに、心臓が締め付けられる。

 

『人を助けろ』

 

爺ちゃんの遺言。

それを、俺はもう少しで守れなくなるところだった。

だからせめて今はこの手で呪霊を祓い続ける。

犠牲者が少しでも減るなら、それでいい。

それだけが、今の俺にできる事だ。

 

そんな風に一人で考えに沈んでいると、背後から低い声がかかった。

 

「悠仁」

 

振り向けば、そこに立っていたのは脹相だった。

あの渋谷駅での戦いを思い出して、思わず体が少し固くなる。

兄だと言われても、どうにも実感がない。

だって、爺ちゃんから兄弟がいるなんて聞いたこともなかったし、何より最初に会った時、渋谷駅でこいつは俺を殺そうとしてたんだ。

 

でも今は違う。

敵意なんてもうなく、むしろ俺たちを手伝ってくれている。

だから戸惑いながらも、今は味方として扱うことにしている。

……正直、俺の方がまだ混乱してるけどな。

 

「伏黒が呼んでるぞ」

 

「伏黒が?…なんかあったのか?」

 

脹相が無言で頷く。

嫌な予感を抱きながら、俺は呪霊の死骸を踏み越え、高専の一室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虎杖が高専のある一室のドアを開けると、そこには渋谷での面々がいた。

伏黒恵、禪院真希、家入硝子、釘崎野薔薇、そして──九十九由基

 

「あ、ども」

 

俺が軽く挨拶すると、九十九が微笑む。

 

「やぁ、元気そうでなにより」

 

「って釘崎! もう大丈夫かよ?」

 

「舐めんじゃないわよ。あれぐらい余裕よ」

 

こんな釘崎だが、渋谷事変後発見されてなんとか命は落とさなかったものの、体への負担が大きく3日間は昏睡状態になっていた。

本当に安心していいのかは分からないが、元気そうなその声を聞いただけでも虎杖の安心材料にはなった。

 

「それならいいんだけどさ……」

 

そんな空気を切り裂くように、伏黒が口を開いた。

表情はいつもの無表情に見えるが、声には少し焦りが滲んでいた。

 

「来たか、虎杖」

 

「あっ伏黒、用って?」

 

「単刀直入に言うぞ。──津美紀が危ない」

 

「……え?」

 

虎杖はその言葉に目を見開いた。

 

「津美紀って……伏黒の姉ちゃんだよな? なんで?」

「だって昏睡状態から目覚めて、今は普通に高校行ってるって……」

 

伏黒は拳を握り、言葉を絞り出した。

 

「加茂憲倫が仕組んだ呪術師同士の殺し合い──“死滅回游”に巻き込まれたんだ」

 

「死滅回游……?」

 

耳慣れない言葉に、部屋の空気が一層張り詰める。

 

「あぁ、だからお前の力も必要だ。“助けてくれ”」

 

伏黒のまっすぐな言葉と目を見た虎杖はすぐに了承する。

 

「OK分かった。だけど神凪のことや五条先生達のことはどうすんの?」

 

「それに関してはまず天元様に会う。『獄門疆と天岩戸の封印の解き方』、そして『加茂憲倫の具体的な目的と今後の出方』を聞く必要がある」

「死滅回游は未曾有の呪術テロ。事態を収束させるには、この二つの回答が欲しい。答えられるのは天元様しかいない」

 

さらに九十九が会話に入ってきた。

 

「天元のところには、脹相に手伝ってもらう」

 

脹相に視線を向け、九十九が軽く笑う。

 

「できるだろ?」

 

「あぁ、忌庫には俺の弟たちがいる。その気配を辿れば薨星宮にも繋がるだろう」

 

「Good!」

 

ほんの一瞬だけ、場の空気が和らいだ。

だけどその空気も、次の瞬間に破られる。

 

ドアが開く音。

全員の視線が向くと、そこには一人の青年が立っていた。

 

「あっこんにちは、真希さん。久しぶりだね」

 

「おう、憂太。久しぶりだな」

 

「乙骨先輩、お久しぶりです」

 

「乙骨……って、乙骨憂太!?」

 

真希と伏黒の言葉を聞いた釘崎が今目の前に現れた人物が乙骨憂太だと分かると、釘崎がずんずんと歩み寄っていった。

彼女の目がギラギラしているのを見て、乙骨は明らかに狼狽した。

 

「え!? えっと、な、なにかな?」

 

「あんたが乙骨憂太?」

 

「う、うん。そうだけど……(一年生だよね?一応先輩なんだけどなぁ)」

 

ガシッ! 襟首を掴まれた乙骨が目を白黒させる。

 

「えっ?」

 

「この恨みは忘れねぇからな!」

 

「え! ちょっ、ま、真希さん! 助けてー!」

 

「釘崎! ドウドウ!」

「おい釘崎、やめろ!」

 

俺が慌てて引き剥がし、伏黒が呆れたようにため息をつく。

ようやく乙骨が解放されると、混乱した表情のまま真希に問うた。

 

「真希さん、僕あの子になんかしたかな?」

 

「いや、気にすんな。大したことない」

 

「ちょっと気になるよ!」

 

実は釘崎、乙骨が去年勝ったことが要因で、今年の交流会では京都に行けなかったことをまだ根に持ってるらしい。

だが乙骨本人がそんなの知るはずもない。

むしろ想定するのも無理な恨みである。

 

虎杖は無理やり話題を戻すように口を開いた。

 

「あっ、そういえば死滅回游もなんとかしなくちゃいけないから、人手が必要だよな」

 

伏黒も察して頷く。

 

「そうだな。できるだけ協力者はいたほうがいい」

 

「だったら大嶽丸達にも協力してもらおう。今呪霊の掃討をしてるだろ?」

 

「確かに、あいつらにも助力してもらおう」

 

そう言って、早速頼もうと硝子の方へ視線を向けた時、彼女の表情が少し陰った。

 

「……そのことなんだけどさ」

 

空気が静まり返る。

硝子は重く息を吐いてから、口を開いた。

 

「あいつらはもう、私たちの味方じゃない」

 

「……え?」

 

九十九以外、全員の動きが止まった。

耳を疑うような言葉。

まさかこのタイミングで、新たな“脅威”の可能性を聞かされることとなるとは思ってもいなかった。

 

「確か大嶽丸達は、家入先生の指示にはある程度従うように千鬼先生から言われてたって聞いてたんですけど?」

 

虎杖がそう言うと、硝子は静かに首を振った。

 

「それが違った。……“指示”じゃなくて、“縛り”だった」

 

「縛り?」

 

「そう。しかも千鬼と大嶽丸達、両者の同意による縛りだ。千鬼が出した条件、簡単に言えば『高専側の助力と、指示役を私か五条か夏油にすること』。でも大嶽丸たちの条件は『自分たちを解放する』だった」

 

硝子は淡々と、けれどどこか苦しそうに言葉を続けた。

 

「そして千鬼はこう言ったらしい。

『五条悟、夏油傑、龍山千鬼。この3名が大嶽丸に指示を出せない、または意志能力を失う状況が1週間以上続いたら、解放する』ってね」

 

虎杖達は息を呑む。

その条件──普通に考えて、あり得ない。

この3人が全員動けないなんて、誰が想像できただろうか。

 

「だから大嶽丸達も、“そんなの起きるはずがない”って思ってたんだ部分があったんだ。だが、その“あり得ない”が起きた」

 

硝子の声には苦い響きがあった。

 

それもそのはず、この縛りは本来大嶽丸達には不利でしかなかった。

五条、夏油、千鬼の3名が全員大嶽丸達に指示を出せない状況、それも1週間。

こんなことはまず“あり得ない”

普通に考えたらこの3人が全員1週間以上行動不能になるような事態は起こるはずがなかったのだ。

この3人のうち誰か一人でも指示を出せる状況だったら大嶽丸達は解放されることはない。

実際、千鬼はこの提案を特級、一級、準一級呪霊全てに提案したが、

 

ほとんどの呪霊の考えたことは“そんなのは絶対にない”

 

ということでほとんどの呪霊はこの縛りを結ばず、

最終的に大嶽丸、がしゃどくろ、雪女、天逆毎、土蜘蛛、滝夜叉姫だけが結んでいた。

 

「千鬼と五条は封印、夏油は意識不明。結果、1週間が経過した。だから……あいつらは自由になった」

 

その瞬間、虎杖達の背中を冷たいものが走った。

あの渋谷で災厄を止めた存在たちが今度は、敵になるかもしれない。

 

「それじゃ……大嶽丸達はもう俺らを殺すこともできるってことですよね」

 

伏黒が静かに言う。その声を遮るように、背後から別の声が響いた。

 

「そういうことになるな」

 

全員が一斉に振り向く。

そこにいたのは──大嶽丸達だった。

空気が一瞬で凍りつく。

圧倒的な“存在感”。

その場の温度が下がったように感じるほどだった。

 

硝子が立ち上がり、冷たい視線を向ける。

 

「……何の用?」

 

「いや、挨拶をしにきた。もう俺たちとお前たちは“お別れ”だ」

 

誰もが息を呑み、術式を展開する準備を整える。

殺意は感じない。けれど、わずかな気配でも見逃せば殺される──そんな緊張が張り詰めていた。

 

だが、大嶽丸は笑った。

 

「おいおい、警戒するな。俺は今気分がいい。なんせ久しぶりの“自由”を手に入れたからなぁ」

「だから“今回は”お前たちを見逃すことにする」

「だが次会った時は──お前らを殺すかもな」

 

その言葉だけで、背筋が凍った。

“災害”が、本当に自由を得た。

その現実が、肌に突き刺さるようだった。

 

そして背中を向けて去ろうとする彼らに、釘崎が思わず声を上げた。

 

「雪女いや──澪華!」

 

呼ばれた澪華が立ち止まり、ゆっくりと振り向く。

 

「……本当に行くの?」

 

「はい」

 

その声は氷のように冷たく、静かだった。

 

「解放されたので、もうここにいる“意味はない”ですから」

 

「っ……!」

 

釘崎は唇を噛み、拳を握りしめる。

澪華は一瞬だけ首を傾げたあと、淡々と会釈し、そのまま背を向けた。

 

静かな足音が遠ざかる。

 

真希は少し影がかかった釘崎の背中を見ながら声をかける。

 

「野薔薇…」

 

完全に姿が見えなくなった後、釘崎はぽつりと呟いた。

 

「……真希さん、やっぱ呪霊は呪霊なんですね」

 

「……」

 

「友達だって握手して、不快じゃないって言われてたから、仲良くできたと思ってたんですけど……だけどそうですよね。呪術師と呪霊が友達になるなんて、そんな馬鹿な話ないですよね!」

 

笑いながら言ったその声は、少し震えていた。

それでも、にぎりしめる彼女の拳の中にはまだ“温もり”が残っていた。

澪華と握手を交わした、あの日の冷たくも確かな温もりが。

 

 

 

 

 




『大嶽丸達が天岩戸から出れた理由の補足説明』

簡単に言えば天岩戸の定員オーバーです。
天岩戸は獄門疆と同じ1名のみ。千鬼は閉じ込められた時に流石に状況がまずいと思って今回の話の中でもでもあったように大嶽丸達に条件を突き出して解放しました。(呪霊に話したいと思いながら寝れば、中にいる呪霊を話すこともできるし、解放することもできるので、術式の使用判定にはならない)
解放されたことによって、雑に言えば『千鬼の付属品』から『完全な個人』として認識されたので、天岩戸は最初に封印した千鬼意外を出すようになるため、大嶽丸達は天岩戸から出れました。
大嶽丸が前に硝子に言っていた「裏技」とはこういうことです。
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