呪霊装術   作:戦艦YAMATO

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原作より結構省いてます。


53話 天元様

 

 

「この空気の中悪いんだけど、話を続けようか」

 

沈みかけた空気を切り裂くように、九十九が軽く手を叩きながら言葉を発した。

その声音には、重く沈んだ場を無理やり動かそうとする強引さと、それでも前に進まなければという覚悟が混じっていた。

 

全員が九十九の方に視線を向ける。

 

話し合いの結果、天元のもとに行くのは虎杖、伏黒、九十九、真希、乙骨、脹相そして硝子の7名となった。

 

脹相の案内を頼りに薨星宮へ向かう。

脹相の案内が正解だったのか、忌庫まで辿り着き、その奥の昇降機に乗って地下に降りる。

 

昇降機から出ると、周りの壁が壊されていたり、血の跡が残っていた。

 

思わず虎杖が口に出す。

 

「血痕?それにここら辺なんか壊れてる……なんかあったのかな?」

 

「12年前につけられたものだよ。だけど今思えば…全ての歪みはあの時もう始まっていたのかもしれないね」

 

九十九の言葉に硝子以外の全員が首を傾げるが、九十九はそれ以上何も喋らなかった。

 

そして天元がいるとされる本殿まで辿り着くと、視界を包んだのは“白”。

空間そのものが塗りつぶされたような真白の世界だった。

 

虎杖が周りを見ながら驚きの声をあげるが

 

「本殿ってこんな感じなの!?」

 

その言葉を硝子はすぐに否定した。

 

「いや、前に来た時とは全然違う」

 

「(拒絶されてる……私か?)」

「天元は基本的に現に干渉しないが、六眼を封印された今なら接触可能だと踏んだんだけどね」

 

九十九は内心舌打ちをしながらダメかと考えた。

 

「戻ろうか、津美紀さんには時間がない」

 

乙骨の提案で全員が戻ろうとした時、

 

「帰るのか?」

 

背後から声が響く。

 

思わず全員が振り向き、声の主を確認する。

そこには女性が男性からわからない、もはや人間ではない目が四つの存在が立っていた。

 

「初めまして。禪院の子、道真の血、呪胎九相図、鈴鹿の血、そして──宿儺の器」

 

呪術界の基底とも言える存在『天元』だった。

 

「私には挨拶なしかい?天元」

 

「君は初対面じゃないだろう。九十九由基」

 

「……何故薨星宮を閉じた?」

 

羂索(けんじゃく)が君に同調していることを警戒した。私には人の心までは分からないからね」

 

「羂索?」

 

「かつての加茂憲倫、今は神凪蒼真の肉体に宿っている術師だ」

 

「慈悲の羂に救済の索か……皮肉にもなってないね」

 

すると虎杖が会話に入る。

 

「天元様はなんでそんな感じなの?」

 

「(こいつよくこのタイミングで割って入れるな)」

 

天元は嫌な顔せず答える。

 

「私は不死であって不老ではない、君も500年老いればこうなるよ」

 

「マジでか」

 

「(答えてくれるんだ)」

 

「12年前に同化を拒否されてから老化は加速し私の個としての自我は消え、天地そのものが私の自我となったんだ」

 

「…どうりで“声”が増えないわけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから天元から話されたのは、死滅回游の説明、羂索の目的と今までの行動、今の天元の状態、そしてなぜ今になって天元自身が動き出したのか。ということだった。

 

そして一通りの説明が終わった頃、天元は空間からあるものを取り出す。

 

「五条悟の解放。そのために必要な【獄門疆 裏】だ」

 

「裏?」

 

「裏門ってこと?」

 

「そうなるね。羂索に見つかる前、獄門疆は私の結界の外、おそらく海外にあった」

「この裏門を封印することで表の気配をおさえていたんだが無駄だったね」

「この裏門の中にも五条悟は封印されているが、あくまで開門の権限は表の所有者である羂索のものだ」

「これをこじ開けるには、あらゆる術式を強制解除する【天逆鉾】 あらゆる術式効果を見出し相殺する【黒縄】このどちらかが必要だ」

 

「だが天逆鉾は12年前五条悟が海外に封印したか破壊してしまった」

 

「何してんの先生!?」

 

「黒縄も去年五条悟が全て消してしまった」

 

「何してんだあの人は!」

 

天元の言葉に虎杖と伏黒は思わずツッコミを入れる。

流石にこれには乙骨も苦笑いで硝子は額に手を当てるほどだ。

だが九十九は目を細めながらも天元に問いかける。

 

「手はあるんだろ?」

 

「あぁ、二つある」

「一つ目は、龍山千鬼が取り込んでいる呪霊に『影逆鉾(かげのさかほこ)』という一級呪霊がいる」

 

「…歌姫先輩が可愛がってるあのイカみたいな呪霊のこと?」

 

「そうだ。あの呪霊は天逆鉾と同じ術式を持っているから、龍山千鬼の封印を解いて影逆鉾で封印を解錠すること」

「二つ目は、死滅回遊に参加している泳者(プレイヤー)の中に『天使』を名乗る千年前の術師がいる」

「彼女の術式は『あらゆる術式を消滅させる』というものだ」

「このどちらかだね」

 

「なるほど、どちらも一筋縄じゃいかないな」

 

「あぁ、天使は東側の東京コロニーだ。回游の結界は私を拒絶しているからそれ以上の情報はない」

 

「それじゃあ千鬼は?やっぱ神凪が天岩戸を持ってるの?」

 

「いや、天岩戸は禪院真依が持っている」

 

その言葉に真希の目が見開かれる。

 

「!」

 

「禪院真依はまだ日本にいる。回游には参加していないが、そのうち海外に逃亡するつもりだろう。そうしたら私でも見つけられなくなる」

「天岩戸の解除方法は禪院真依本人が解除するか、天岩戸の前で誰かがちゃんとした舞を一晩中踊る。

そうすると岩戸が少し開いた状態となり、岩戸に閉じ込められた者の手が出せるようになる。その手を力一杯引けば龍山千鬼を解放できる」

 

「ちゃんとした舞?」

 

「そうだ。そこは天岩戸が判定するから、少なくとも現代のダンスのようなものではダメだね」

 

「それじゃあソーラン節もダメか」

 

虎杖の素っ頓狂な答えに対して伏黒は呆れて眉を顰める。

 

「(いいわけねぇだろ)」

 

「庵歌姫の舞ならおそらくいけるはずだ」

 

「……先輩に頼んでみる。受けてくれるとは思うけど……」

 

硝子が言いたいことを真希が繋がるように話す。

 

「問題は真依だな」

「素直に渡してくれるはずがねぇし」

 

「大体にして、禪院先輩はなんで千鬼先生のことをそんなに執着してるんですか?」

 

伏黒の疑問に真希は目を伏せたが答える。

 

「……多分、私も原因の一つかもしれない。あいつを…あんなところに一人にさせたから……」

「多分真依にとって千鬼先生は心の拠り所だったのかもしれない」

 

真希の言葉に、場の空気がわずかに沈む。

その表情はどこか苦く、懺悔のようでもあった。

九十九も乙骨も何も言わず、ただ黙って真希の言葉を聞いていた。

 

「……千鬼先生は、真依にとって“希望”だったんだと思う。」

 

真希の声はかすかに震えていた。

 

「禪院家の中で、あいつと私はずっと“出来損ない”って呼ばれてた。

何をしても、何を言っても、誰も見てくれなかった。私らを産んだ親でさえも…でも千鬼先生は違った。」

 

少し間を置いて、真希は小さく息を吐く。

 

「千鬼先生はあいつの言葉をちゃんと聞いた。叱る時も、褒める時も、真っ直ぐで。

だから真依にとって龍山千鬼って人は、“初めて自分認めてくれた人”だったんだと思う。」

 

硝子が眉を寄せる。

「……だから千鬼を?」

 

「そうかもしれない。」

 

真希は頷いた。

 

「たとえ、それが誰かのためにならなくても……

“あの人と一緒にいたい”って気持ちだけで動いてるんだと思う。」

 

その言葉に、硝子が静かに目を伏せた。

彼女は千鬼という存在を誰よりも知る人物。

どこか遠くを見るような瞳で、ぽつりと呟く。

 

「…千鬼は優しいからね。人の痛みを、自分のことみたいに背負う人だから。」

 

硝子の声には懐かしさと哀しみが混じっていた。

 

「真依にとっては、そんな千鬼が“救い”だったのかもしれない。」

「……真依のところには私と真希で行く」

「天元様、真依の居場所は?」

 

「分かっている。ちゃんと詳しい場所は教えよう。安心してくれ、できる限りのことはするつもりだ」

 

意外に協力的な天元に硝子は少し目を見開くがすぐに礼を言った。

 

「ありがとうございます…」

「あと、真希には悪いけど真依は今の私にとっては旦那を奪った“敵”。もし素直に返さないなら

──容赦はできないよ」

 

「…はい、分かってます」

 

「あと君たちの懸念している大嶽丸達のことは今は考えなくてもいい。

彼らは今北海道にいる」

 

天元の言葉に虎杖はすぐ反応した。

 

「え!?なんで?」

 

「宴だ。自由になった記念だろう」

「いつ動き出すかわからないが、楽しくなっているようだ。とりあえずは安心してもいいだろう」

 

「はぁ…あいつら…」

 

硝子が頭を掻いてため息を出すが、こうなるのも無理はない。

先ほどまでどうすればいいかわからない悩みの種が呑気に宴をしていたと言われれば誰だって拍子抜けするし呆れてしまう。

 

「で、でもとりあえず少しは悩みが減った。ということで……」

 

乙骨が勇気を出して恐る恐る発言すると

 

「……まぁそうだな。今は千鬼達の封印と死滅回游をなんとかすることだけを考えないと」

 

硝子も気を取り直したようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員が本殿を後にしたあと、

白い空間に残ったのは、護衛として志願した九十九と脹相、そしてその護衛対象の天元だけだった。

 

先ほどまで賑やかだった気配が嘘のように消え、

空間を満たすのは、ひんやりとした静寂。

 

九十九は腕を組み、天元をまっすぐ見つめた。

 

「……あんたにしては随分協力的だったね」

 

天元は動かない。

 

「何を指している?」

 

「家入硝子だよ」

 

九十九は片眉を上げた。

 

「さっきの話しぶり……あの子の頼みを断る気がまったくなかった。

人間じゃなくなったって言ってたわりには、妙に人間くさい反応してたからさ」

 

天元はしばらく沈黙した。

ゆっくりと視線を横に流し、白い壁の向こう──かつての記憶を辿るように遠くを見つめる。

 

「……懐かしい人を思い出した」

 

「人?」

 

「ずいぶん昔の話だ。

まだ私が人の姿をしていた頃…いや

──呪術界の“要”となる時期に“呪霊装術”の使い手がいた」

 

九十九の瞳が微かに揺れる。

 

「……龍山千鬼の術式と同じ?」

 

天元はゆっくりと頷いた。

 

「そうだ。あれは“呪霊を従え、己に装う”術。その人はそれを使いこなして戦っていて、とても強い人だった…私もその力で助けられたことがある」

「だが何よりも、その人が私に接するその行動に助けられた」

 

九十九はわずかに目を細めた。

 

「ふぅん……それだけか?」

 

九十九の問いに天元は静かに笑う。

 

「そしてもう一人。家入硝子の先祖。

鈴鹿御前にも、世話になったことがある」

 

九十九がわずかに眉を上げた。

「鈴鹿御前?……あの“穢れを祓う巫女”の?」

 

「そうだ」

 

天元の声には懐かしさが滲んでいた。

無意識に首にぶら下げた紅色の勾玉を触る。

 

「彼女はとても優しく、だが意志の強い人だった」

 

白い空間に、ほんの一瞬だけ柔らかな光が差した。

天元の瞳が、わずかに細くなる。

 

「あの二人には借りがある。まぁあの二人の代わりと言うと聞こえは悪いけどね。

だけど龍山千鬼と家入硝子は、“私が見たかった光景”を見せてくれた」

 

九十九は腕を組み直し、少しだけ笑う。

 

「……お前にしてはロマンチックな話じゃない」

 

「私はもう人ではないが、この縁は忘れない」

 

天元はうっすらと微笑む。

 

「だから彼らには出来る限りのことがしたいんだよ」

 

勾玉を掴む天元の手が少し強く握られた。

 

「……もうあの光景は見たくないからね」

 

そこには、隣にいた脹相と九十九にも聞こえないほどの小さな呟きがあった。

 

 

 

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