呪霊装術   作:戦艦YAMATO

67 / 91
54話 回游開始

 

 

天元から情報をもらった虎杖達は一旦高専に戻る。

薄暗い廊下を抜け、会議室へと足を踏み入れる。

会議室の静寂を破って、夜蛾学長が口を開く。

 

「死滅回游に行く前にこちらも戦力を整える必要がある」

「今から金次を迎えに行く」

 

虎杖の頭にハテナが浮かんだ。

 

「金次って?」

 

首をかしげる虎杖。

名前だけではピンとこない。

だが、場の空気が微妙に変わったのはなんとなく感じた。

そんな虎杖の疑問に硝子が答える。

 

「秤金次(はかりきんじ)、停学中の三年生だ」

 

硝子の言葉に虎杖は微妙そうな顔をした。

 

「その人強いの?というか大丈夫なの?」

 

「ムラっ気があるけど、ノッてる時は僕より強いよ」

 

乙骨から秤についての補足を聞いた虎杖は目を丸くする。

 

「すげぇじゃん!」

 

「それはない」

 

真希が速攻で切り捨てる。

乙骨は苦笑いした。

信頼が薄いのか嫌われているのか……

 

「本来なら夏油が行ければ良かったんだけどなぁ」

 

「なんで?」

 

ため息をついた硝子の言葉に疑問を持つ虎杖だが、すぐに伏黒が説明する。

 

「夏油先生は元々三年の担任だったんだ。だけど三年生が停学になって、俺たちの副担任になったわけだ」

 

「あぁ、そう言うこと」

 

「秤については、私と虎杖、伏黒で向かう。秤の準備が出来次第、死滅回游に参加してもらうぞ」

 

夜蛾学長の一言で空気が少し緊張感を持った。

 

 

 

 

※

 

 

 

 

〜栃木県の立体駐車場跡地〜

 

立体駐車場跡地の近くに現れる3人の影

──虎杖、伏黒、そして夜蛾学長がいた。

 

「ここですね。秤先輩がいるのは」

 

夜蛾学長は少し額を抑えてため息をついた。

 

「全く、賭け試合の胴元だけでなく、非術師を客としたもの…あいつは呪術規定に接触することしかしないのか」

 

その声色には明らかに呆れが見え隠れする。

 

「でも大丈夫なんですか?俺たちが迎えに行って」

 

「えっなんで?」

 

伏黒の言葉に疑問を覚える虎杖だが、すぐに説明される。

 

「秤さんは上とモメて停学くらったんだ。呪術規定も現在進行形で破ってる。高専関係者ってバレたら逃げられるかもしれない」

 

伏黒の心配に夜蛾学長は答える。

 

「そこに関しては問題ない。私がきた時点であいつも何かただ事ではないと感じてすぐ逃げるようなことはしないだろう。それに“ある事”を伝えたら、すぐにでも出てくる」

 

「ある事?」

 

「まぁ見ていろ」

 

そして駐車場の入り口に着くと、いかにもな男が二人立っていた。

虎杖達に気づいた男達が睨みつけながら歩いてくる。

 

「帰れ帰れ、ここはガキンチョやおっさんの来るとこじゃねえんだよ」

「一二の三で回れ右だ。それ以外の選択肢は俺に殴られる」

 

すると夜蛾学長が一歩前に出た。

 

「ここの胴元に合わせて欲しいんだが」

 

「はぁ?何言ってんだお前」

 

夜蛾学長は周囲に視線を巡らせ、防犯カメラを見つけると──深く息を吸い込み、怒鳴り上げた。

 

「ガッデム!金次! そこにいるのは分かってる!出てこい!」

 

虎杖も伏黒も、男達ですら背筋が凍るような怒号だった。

 

 

 

 

※

 

 

 

 

〜屋上 モニタールーム〜

 

金髪の男性、秤金次は目の前のモニターに写っている光景に冷や汗をかいていた。

防犯カメラは音までは聞こえないが、何を言ってるのかはっきり分かる。

 

「やべぇなこりゃあ」

 

目の前のモニターには自分の知っている人物が写っている。間違えるわけがない。

隣にいる女性?も明らかに動揺している目で秤を揺らす。

 

「ど、どうすんの金ちゃん!?」

 

「まさか夜蛾さんが出てくるとは……(ってことはあの人たちもいるってことか!?)」

 

秤は最悪の未来図を予想して少し震える手で携帯を取る。

 

「と、とりあえず電話だ」

 

 

 

 

※

 

 

 

 

プルルル

 

「?、胴元からだ」

 

駐車場で虎杖達を相手していた二人のうち片方が電話に出た。

 

「はい…えっ!、いやでも!……はい!分かりました!」

すると夜蛾学長を見て慌てたように携帯を渡してきた。

 

「胴元からです」

 

「そうか」

 

夜蛾学長は携帯を無言で受け取り、耳に当てる。

 

「もしもし」

 

「あっもしもし、お久しぶr「金次!」でぇ!!」

 

夜蛾学長の声に虎杖だけでなく、見張りの二人もビクッとした。

 

「しばらく姿を見ないと思ったらこれはどう言うことだ?」

 

「い、いやーちょっと熱を感じたかったって言うか、夢に近づこうと言うかー「金ちゃん大丈夫?」綺羅羅、お前ちょっと黙ってろ」

 

「ん?綺羅羅か。お前もそっちにいるのか!」

 

「ひ、ひぃ……」

 

「まぁちょうどいい。二人とも戻ってこい」

 

「え?だって俺ら停学中っすよ」

 

「事情はあとで話す。いいからそこを出て高専に戻るぞ」

 

有無も言わさない夜蛾学長の言葉に圧倒されるが、秤も簡単には行きたくない。せっかく状況が好転してきたのだ。

みすみすそれを逃す手はなかった。

 

「い、いや〜でもね「今この駐車場は悟、傑、千鬼が囲んでいるぞ」うぇ!!」

 

「嘘でしょ!?」

 

秤だけでなく、星の驚く声も入ってきた。

 

「な、なんで!!?」

 

「お前を逃さないためだ!」

 

「そこまでしますか!??」

 

「どうするんだ?」

 

「すぐに出ます!!」

 

秤は即答した。

 

 

 

 

 

※

 

 

 

 

秤と星は大人しく投降し、高専に戻って会議室に来るとすぐに土下座した。

 

「「本当にすみませんでした!」」

 

「……本来ならなんらかの処置を与えるところだが、今はこんな状況だ。それは後々にする」

 

「それで〜千鬼さん達は?」

 

秤があまり刺激しない感じで聞くと

 

「いないぞ」

 

「「えぇ!」」

 

「あれはお前達をここに来させるための嘘だ」

 

「ちくしょう!やられたぁぁぁ!」

 

秤が頭を抱えて悶絶した。

 

「というかなんで五条先生達にビビってんの?まぁ勝てないのは分かるけど」

 

虎杖がコソコソと伏黒に質問した。

対する伏黒もコソコソと返す。

 

「なんでも、前に調子に乗った時にボコされたらしい。

特に千鬼先生には文字通り何度も殺されるようなことをされたらしい」

 

「何それ!?」

 

真希と乙骨も補足するように会話に混ざる。

 

「僕は見てないんだけど、結構打ちのめされたらしいね」

 

「まぁ、そのおかげでろくでなしが多少はマシになったから良かったな」

 

夜蛾学長は秤達に注意をした後、気を取りなおすように話を変える。

 

「早速だが、なぜお前達を呼び出したか、そして今どういった状況かを説明する」

 

 

 

 

※

 

 

 

 

事情を全て聞いた後、秤と星は唖然としていた。

 

「えっと〜、五条さんと千鬼さんが封印されて夏油さんが意識戻らない?」

 

「なにそれ、信じらんない」

 

「あぁ、正直言うと私もそうだが、だが現実だ」

「特に秤、お前の協力も不可欠だ。力を貸してもらうぞ」

 

「……まぁいいすっよ。俺も五条さんたちには多少なりとも世話になりましたし」

「だけど、これに協力する代わりに俺のにも協力してくださいね」

 

「いいだろう」

 

「ありがとうございます(よっしゃっ!夜蛾さんがついてくれるってことは五条さん達も乗ってくれるはず、それに千鬼さんも…これで俺の夢に近づける。熱くなってきたぜ〜!)」

 

秤がこれからのことに夢を膨らませてると謎の生物が突然現れ、サイレンのような声を発した。

 

「ゴンゴンゴンゴンゴンゴン!」

「泳者(プレイヤー)による死滅回游へのルール追加が行われました!」

「〈総則(ルール)〉9泳者は他泳者の情報──名前、得点、ルール追加回数、滞留結界(コロニー)を参照できる」

 

 

「…え、だれ?」

 

突然現れた謎の生物に周りは呆然としていたが、

虎杖が切り口を開いた。

 

「俺はコガネ!泳者と死滅回游を繋ぐ窓口さ!」

「泳者、虎杖悠仁についてるぜ!」

 

「いやおかしいだろ。なんで虎杖がもう泳者としてカウントされてんだよ」

 

伏黒が疑問を投げかけると、虎杖は少し考えてすぐに答えにたどり着いた。

 

「…!、宿儺だ」

「宿儺も羂索と契約して呪物になった術師の一人だったんじゃねぇかな」

 

「宿儺の指はお前の意思で取り込んだのにか?」

 

「……」

 

「……後にしよう。虎杖、早速コガネに泳者の情報を出させてくれ」

 

「コガネ」

 

「あいよ!」

 

虎杖の指示でコガネの体が画面のようになり、伏黒はすぐに泳者の中からルール追加者を見つけ出した。

 

「こいつか…」

 

「鹿紫雲(かしも)?こいつ元々200点持ってたのか……」

 

すると硝子もその画面を見て呟く。

 

「ここ数日で少なくとも40人は殺してるみたいだね。過去の術師の可能性が高いな」

 

「だけどこれ、もしかしたら人を殺さずに済むかもしれない」

 

「どゆこと?伏黒」

 

伏黒は泳者の中にも各々の思惑があって羂索と契約したが、死滅回游自体には乗り気ではない者もいる。

そういう者達の中で点を持て余している者の点を貰って津美紀を回遊から抜ける穴を作らせることを説明した。

さらにコガネの検索で現在100点保持者の2名、鹿紫雲と日車を特定する。

 

やることが大体決まった虎杖達は早速死滅回游に乗り込もうと意気込んでいると、硝子があることを伝える。

 

「意気込んでいるとこ悪いけど、みんなに伝えたいことがある。特に虎杖とかには重要だ」

 

全員の視線が硝子に向く。

 

「家入先生、重要なことってなんですか?」

 

「まず、大嶽丸達が私達から離れたことは絶対に上層部に知られるな」

 

「なんで?だってあいつらのことを考えないと……」

 

「知られたら少なくともここにいる一部の人間は呪術界から殺されるか軟禁される」

 

「「「「「「「「!」」」」」」」」

 

「まず、上層部の人間は虎杖、あんたを殺したがってる。だがそれを五条が邪魔してた。それに加えて夏油と千鬼も味方してたから尚更だ」

「だけど、今この3人はいない。だったらどうなるか?」

 

硝子の問いに乙骨が答えた。

 

「虎杖君を殺す」

 

「そう、さらにあの上層部のことだ。五条達が何もできないこの隙に、やりたいことをやっておく。

次に狙われるのは学長だ」

 

「?なんで夜蛾さんが」

 

「……私はパンダのような変異呪骸を意図的に作れると思われている。つまり上層部は私が軍隊を保持できる可能性があると見てるだろう」

「だから作り方を聞き出すために、私を捕縛するかもしれない」

 

夜蛾学長の言葉に疑問を浮かべていた秤はあからさまに舌打ちをした。

 

「確かに、あいつらだったらやるな」

 

硝子は続ける。

 

「他にもあるが、上層部がいまだに私たちに手を出さない理由、それが大嶽丸達だ」

「あいつらは私の指揮下にいるって伝えてる。つまり、一応五条側である私の癪に触ることをすれば、上層部に大嶽丸達が襲撃しに来る。

とあっちは思っている」

 

パンダは腕を組み、硝子の説明で納得するように呟いた。

 

「なるほど、だから悟達が何もできない今でも、虎杖とかに手を出して来ないんだな」

 

「上層部には大嶽丸達は全国の呪霊の掃討をさせてるって説明しているけど、もし私の指揮下ではないって知られたらすぐにでも動き出す」

「だからこれは気をつけておけ」

 

鋭い眼差しが虎杖たちを射抜く。

彼らの表情は一様に硬く、誰も軽い返事などできなかった。

もはや敵は戦場だけではないという事実がより実感できる空気となった。

 

 

 

 

※

 

 

 

 

東京第一結界(コロニー)

 

メンバー:虎杖悠仁、伏黒恵、菜々子、美々子、七海健人

 

伏黒は黒いドームのような結界を睨んで顎に手を当てる。

 

「日車と天子はこの中にいる。必ず見つける」

「そして津美紀を助ける」

 

「そうだね」

 

伏黒の後ろから美々子が声をかけた。

 

「……お前達は夏油先生についてなくていいのか?」

 

「理子ちゃん達が見てくれてるから、それに私たちだって恵みの力になりたいし」

 

「それに…絶対に負けられないから」

 

菜々子と美々子は互いに手を取り合う。

夏油の意識はまだ戻らない。

守るためにも、進むしかない。

 

虎杖は拳を握りしめた。

 

「五条先生達を助けて、全部終わらせてやる」

 

七海は黙ってサングラスを押し上げた。

冷静に、しかし心の底では熱を滾らせながら。

 

 

 

 

東京第二結界

 

メンバー:パンダ、東堂葵、秤金次

 

東堂がパンダの背中をバシバシ叩く。

 

「パンダよ!さっさとこれを終わらせて俺は今度の握手会で高田ちゃんに俺の勇姿を伝えると思ってる!一緒にどうだ?」

 

パンダは冷静に

 

「言っちゃダメだろ……それに俺は行っていいのか?」

 

秤は内心舌打ちしながらも腕を伸ばしていた。

 

「(パンダはともかく、なんで東堂もなんだよ)」

「まぁこんな熱いこと、滅多にねぇからなぁ。気合い入れていくぞ」

 

軽口を叩きながらも、三人ともわかっていた。

これは笑って済む戦いではない。

 

 

 

仙台結界

 

メンバー:乙骨憂太、釘崎野薔薇、三輪霞

 

釘崎は髪整えながら鼻を鳴らす。

 

「羂索って奴がいたら、ブッ飛ばすだけよ」

 

乙骨は柔らかい笑みを浮かべた。

 

「無茶はしないでね、釘崎さん」

 

三輪は二人を見渡し、深く息を吸った。

 

「どこまでできるか分かりませんが、頑張ります!やれること、全部やります!」

 

少女の目にも、覚悟の炎が灯っていた。

 

 

 

千鬼奪還(真依追跡)チーム

 

メンバー:家入硝子、禪院真希、憲紀

 

真希は眼鏡をそっとかける。

寂しさを隠そうともせず。

 

「真依……ぜってぇ連れて帰らせる」

 

硝子は少しだけ目を伏せた。

胸が軋む。

これから千鬼を取り戻す。

 

「天元様に場所は聞いた。必ず取り返す(それが約束だから)」

 

憲紀は短く頷く。

 

「真依のやつ…(もしもの時は私が…)」

 

三人の決意は、静かに燃えていた。

 

 

 

結界外

 

メンバー:九十九由基、脹相、夜蛾学長、理子、美里、西宮、綺羅羅、灰原、伊地知、狗巻(天元の護衛、夏油の看護や連絡係)

 

脹相は、目を伏せながらも祈りのように呟く。

 

「悠仁。……必ず、生きて戻れ」

 

九十九は天元と向かい合いながら

 

「少し話をしようか…天元」

 

高専の医務室で寝ている夏油の手を理子がしっかり握りながら祈る。

 

「傑さん……起きてください。そして菜々子と美々子を助けて…」

 

 

結界へ引き寄せられるように一斉に足が動く。

息が詰まるほどの緊張が走り抜けるが、誰一人、止まらない。

 

五条悟を、龍山千鬼を救うため。

未来を奪われないために。

命運を賭けたゲームが、今始まる。

 

各々の戦場へ

 

 

 

「よぉ俺はコガネ!この結界の中では死滅回游って殺し合いのゲームが開催中だ!」

「一度足を踏み入れたらお前も泳者!」

「それでもお前は結界(なか)に入るのかい!?」

 

 

 

11月12日────死滅回游 参加

 

 

 

 

 

 




いよいよ始まりました!
正直書いていくごとに展開が自分の予想外になりそうで焦ってます!
その際は、こんな作品なんだなとやさしい気持ちで見て下ると助かります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。