2時間で書き終えたので面白みはないかもしれません。
「で?」
硝子は談話室の惨状を見下ろして、一言だけ言った。
「どうしてこうなった」
床には段ボール、モール、電飾、意味不明なサンタの置物。
原因は分かりきっている。
「クリスマスだから」
「思いついたから」
「暇だったから」
五条、五条、五条。
つまり五条の突然の我儘である。
夏油は夏油で五条の悪ノリに付き合う形、そんな2人を止めるはずの人物がいるのだが…
「……千鬼」
少し距離を置いて絡まった飾りを解いている千鬼に硝子は声をかける。
千鬼は振り返り、少し苦笑いで
「俺は止めた」
「止めきれてない時点で同罪。勝手にこんなことして、夜蛾先生に怒られるかもよ」
「理不尽だな」
そう言いながらも千鬼の手は止まらない。
硝子はそれを見てため息をついた。
「ほら、これ」
「ん」
無言で受け渡し。
手際がいい。
その様子を見た夏油が少し笑いながら
「最初から二人にやらせればよかったんじゃないかい」
「だってそれだと五条が拗ねる」
「俺が!?」
「確かに」
「硝子!?」
「自覚ないのが一番厄介だね」
千鬼、硝子、夏油の一言で五条が不満そうに唸った。
「千鬼〜、もうちょい右につけてみようぜ」
「これ以上はバランスの関係で倒れる」
「え〜? 大丈夫大丈夫」
「ダメだ」
「即却下!?」
ツリーの飾り付けの比率を調整している時に硝子が少し不満げに声をかける。
「……だからさ」
硝子は千鬼のコートの袖をつまんで言った。
「なんで私の隣、空けて座るわけ?」
「…五条が割り込むから」
「理由になってない」
ぐい、と引っ張られて距離が詰まる。
普段あまりこういうことができない分、今日クリスマスという日を利用してもっとくっつこういう魂胆なのだろう。
「ほら、照れずに来い」
「……はいはい」
そんな2人の様子に五条が即反応した。
「はい見た〜!」
「見てないで飾り付けしろ」
「千鬼が甘やかすから硝子が調子に乗るんだよ」
「今日くらいはいいだろ」
「本当に今日だけですか〜?」
「黙れ五条」
夏油が吹き出す。
「2人はさりげなく甘くなるよね」
「私と千鬼はそんな感じでいいんだよ。
何か問題でも?」
「いや全然」
※
「千鬼、もうちょっと左」
「ここか」
「もうちょい」
「……これ以上あげると危ないぞ?」
「危なくない。それに千鬼がちゃんと守ってくれるでしょ」
今の状況は千鬼が平然と硝子の腰を掴んで持ち上げている状態。
星をつけるためにやっているのだが、硝子が「私がつける」と言い出し、千鬼曰く「全く重くない」とのことだった。
五条と夏油は「いやいやそうじゃなくて」とツッコミを入れたいが、この2人の自然な甘さは今に始まった事ではないのでツッコむことはしない。
硝子は飾り付けながら揶揄うように千鬼に笑いかける。
「もっと抱きしめてもいよ」
「……人目」
「同期しかいない」
「五条がいる」
「気にするな」
「気にするよ!」
五条が叫ぶ。
「こっちは見せられてるんだけど!?」
「だったらクリスマスの間ずっと目を閉じればいいじゃん」
「傑〜!」
「あまり突っかからないほうがいいよ悟」
結局、ツリーの飾り付けの半分以上は千鬼と硝子が終わらせることになった。
「よし、完成」
「満足か五条」
「おう!」
「そりゃ良かったよ」
肩をすくめる千鬼。
すると硝子は音もなく千鬼の隣に来て腕にしがみつき、そのまま腕を離さない。
「硝子、離れてくんない」
「嫌」
「……離れてほしいです」
「今だけ」
千鬼は小さく息を吐いた。
「……仕方ない」
※
「はい完成!」
電飾が光る。
「うわ、派手」
「飾りの調達は悟が担当したからね」
「センス壊滅的だろ」
「失礼だな!?」
テーブルに並ぶチキンやケーキを前に、自然と千鬼の隣に硝子が座る。
「はい」
硝子がケーキを刺したフォークを差し出す。
「食べさせてあげる」
「自分で食べれる」
「今日はクリスマス」
「理由になってないんだけど」
「はいあーん」
硝子がいいから食べろという圧をかけるようにフォークを近づけてくるので、千鬼は少し照れくさそうに口を開ける。
「……美味しい」
「顔で分かる」
「そりゃあよく見てますね」
「彼女だから」
五条が机を叩いた。
「はい完全アウト!」
「何がだ?」
「イチャつきすぎ!」
「甘党の俺でもこの甘さはいらない!」
「今さら?」
夏油が肩をすくめる。
「悟、君が騒ぐから余計目立つんだよ」
「理不尽!」
「なあ千鬼」
「ん」
「来年もこういうの、やる?」
「多分な」
「即答しないの?」
「五条次第」
「おいおい待て待て、どういうことかな!?」
硝子は笑って、千鬼の肩に頭を預けた。
「こんなふうにできるなら、私はやる気だから」
「……考えとく」
「はい聞いた〜!」
「五条」
「何?」
「あんまりうるさいと
「ごめんなさい!」
夏油も苦笑いで
「全く、あんまり突っかかるなと言っているじゃないか」
そんなこんなでケーキを食べていると、
「…でもでも」
やっと大人しくなったと思ったら、また五条が不穏な声を出した。
「二人さ、クリスマスだし」
「やっぱもっとイチャイチャしないの?」
「キスとかしないの?」
「もしくはそれ以上とか!」
一瞬、空気が止まる。
ニヤニヤしている五条とは別に、夏油はゆっくりと目を伏せた。
「悟」
「なに?」
「死にたいのかい?」
硝子は千鬼を見上げる。
「……どうする?」
「放置(我慢だ我慢、いつもの悪ふざけの一環だ)」
「それはそれで面白くないな」
千鬼が何も言ってこないのをいいことに、さらに五条が勝ち誇ったように笑う。
「ほら〜、否定しないってことはさ〜」
「五条」
千鬼が低い声で呼ぶ。
「今、何時だと思う」
「え? まだ22時だけど?」
「ちょうどいいな」
「なにが?」
ドンッという鈍い音と共に、五条が床に転がった。
「ちょ、待っ、何!?」
「今の時間帯なら多少叫んでも大丈夫だろ」
そして千鬼がおもむろに五条に4の字固めをした。
「ぎゃぁぁおぉ!」
「返り討ちだね」
「悪ノリの代償」
夏油と硝子が涼しい顔で言う。
ギリギリ、ギリリリ…
「ギブ?」
「ノー、ノー!」
「というか、硝子と傑!助けて!」
「殺人行為じゃないからセーフ」
「いや暴力だよね!?」
夏油が肩をすくめた。
「自業自得だよ悟」
「傑まで冷たい!」
だが少し時間が経ち、
「反省した?」
硝子が覗き込む。
「した! いやいました!」
「助けてください硝子さん!」
「関節がそろそろやばいです!」
「口だけじゃ信用ならない」
「今度何か奢ります!」
「くるしゅうない。千鬼、解放してやって」
「OK」
千鬼は4の字固めから五条を解放した。
「次、うざいくらいに絡んできたら私も本気で締める」
「その時は俺もやるかな」
「本気って何!?」
「医学的に」
「物理的に」
サラッと返してきた千鬼と硝子に五条は戸惑いながらもツッコミを入れる。
「怖っ!このカップル怖っ!」
硝子は満足そうに笑って、千鬼の腕に戻る。
「はい、解散」
「え、終わり!?」
「終わり」
「確かに、そろそろいい時間帯だね」
「これで終わりにしようか」
夏油の言葉で各々片付けを始めた。
※
ある程度片付け、「おやすみ」と言って五条と夏油が部屋を出ていって扉が閉まる。
途端に音が消えた。
「……やっと静か」
硝子がソファに深く座り直す。
千鬼は電飾の明かりを少し落とした。
「五条は反省してると思うか?」
「してない」
「即答だな」
「顔に出てた」
千鬼は小さく笑って、硝子の隣に座る。
「疲れた?」
「少し」
硝子は自然に千鬼の肩にもたれかかった。
特別な言葉はない。
ツリーの淡い光が、ゆっくり瞬く。
「……さっきさ」
「ん」
「絡まれた時、助けてくれたでしょ」
「当たり前だろ」
「当たり前って言い切るの、ずるい」
硝子はそう言って、千鬼の袖をつまむ。
「離れないって意味でしょ、それ」
「そう聞こえるなら、その通りだ」
一瞬だけ、硝子が黙った。
「……真面目なくせに、要点だけ刺してくるよね」
「あんまり言葉を飾るのが得意じゃないだけだよ」
硝子は顔を上げて千鬼を見る。
「じゃあ一つだけ、無駄なこと言って」
「なんだ」
「メリークリスマス」
千鬼は少しだけ間を置いてから、低く答えた。
「メリークリスマス、硝子」
硝子が満足そうに笑って、距離を詰める。
軽く、触れるだけのキス。
「……静かでいいな」
「ああ」
「毎年、こうだといいね」
「五条がいる限り無理だな」
「それでも面白そうだから、別にいいよ」
硝子は再び肩に頭を預けた。
雪が、窓の外で降り続いている。
誰にも邪魔されない、短い時間。
呪術師でも、学生でもない、ただの二人。
それが二人のクリスマスだった。