呪霊装術   作:戦艦YAMATO

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60話 東京第二結界

 

 

 

戦いが終わった仙台結界。

乙骨は石流の傷を癒した後、凍らされた烏鷺(うろ)の傷も癒していた。

対する烏鷺は礼も言わずに忠告のように語り出す。

 

「乙骨…お前のその甘さにもいつかは絶対に限界が来る」

 

「……」

 

乙骨は何も言わず間に聞いていた。

 

「私は見た。それも2度もだ」

「術師や呪霊、強者としての地平すら超越するのは、“圧倒的な自己”と“他を顧みない災害”だ」

 

烏鷺は何かを思い出したのか、体が僅かに震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……甘すぎだ乙骨」

「これは褒めてねぇぞ」

 

乙骨は烏鷺を治した後に再び釘崎、澪華、三輪がいる場所に戻ると、ちょうどそこに倒れていた石流が起きた。

 

「本気で命を狙ってきた術師を生かして…」

 

「得することなんか何一つない。烏鷺さんにも言われましたよ」

 

「さすがにあれだけじゃあ、あいつは死なねぇか…」

 

そこは釘崎が指を指して口を出してくる。

 

「うるさいわね。そこは素直に、ありがとうございます。ってお礼言いなさいよ」

 

「嬢ちゃんが治したわけじゃねぇだろ」

 

そして乙骨は石流に得点の催促をして、石流は1ポイントを残して残りは全て乙骨に移された。

これによって烏鷺と石流の得点を取り、仙台結界で集めた乙骨の得点は190点になった。

 

「さて、得点は稼げた。また次に行きたいけど、その前に澪華さん」

 

「なんでしょう?」

 

「あなた以外の千鬼先生から解放された呪霊達。その動向を教えてもらってもいいですか?」

 

乙骨の発言は決して急ではない。

今は死滅回游と羂索、この二つが大きな課題だ。

だがみんなが、少なくとも乙骨達が気にしているのはこの二つだけではない。

第三の問題は、千鬼が渋谷事変の時に解放した呪霊達。

天元によると北海道で宴をしていたらしいが、今ここに澪華がいる時点で宴は終わったと見ていいだろう。

もしかしたら澪華の性格を考えると宴を1番最初に抜けた線もありえるが、その可能性よりも宴はもう終わって呪霊達が何かしら動き出していると考えるのが普通だった。

もし本格的にこの日本に牙を向けるなら、下手したら死滅回游や羂索どころではない被害を被ることになる。

 

そして澪華も、なんとなくだが乙骨の質問から大体の不安要素は予測できていた。

そのため、戸惑うことなく答える。

(ちなみに近くにいた石流はなんのことかさっぱりだが、面白そうなので黙って聞くことにしていた)

 

「まず前提として、私は見ての通りこれからは野薔薇と行動をしていこうと思っています」

 

「そこは信用することにするよ。当の釘崎さんが乗り気だしね」

 

「もっちろん!」

 

「では次に、私達は千鬼様から解放された後、私たちは北海道で宴をしていました。

各々飲んだり食べたりしていましたが、そのうちみんなでこの場で解散。と言うことになって各々別行動になりました。」

「だから申し訳ありませんが、私以外どうしているかは詳しく知りません。」

 

あまり期待したような返答ではなかったが、そこに三輪が戸惑いながらも質問する。

 

「で、でも…誰がどこに行ったとか、どこに行くと言っていたとかはないんですかね?」

 

「…そうですね……滝夜叉姫と土蜘蛛は、これからの日の本の様子を見る。と言っていました。あの2人は今の日本政府や呪術界を潰そうと考えていたので、もしかしたら機会を窺っているのかもしれません」

「がしゃどくろは分かりません。特に何も言わずにどこかへ行ったので…まぁ元々生者を憎む性格だったのですが、千鬼様の中に1番長くいたと言っても過言ではないので、ある意味どう行動するか一番わからない面もありますね」

「天逆毎は、強そうなやつがいそうな場所に行く。と言っていましたね。彼は強者と戦ってそれを壊すことが楽しいと感じている性格なので、十中八九どこかの結界(コロニー)の中に入ってきますね」

 

「どれもほとんど動向が不明、予測でしかない。だけど天逆毎以外はすぐには手を出してはこない感じだね」

 

「それで、1番問題の大嶽丸(おおたけまる)は?

あいつが1番気をつけないといけないやつじゃない」

 

釘崎の言葉に澪華も同意するように頷くと

 

「そうですね。ですが大嶽丸は『俺は寝てる』と言ってその場で寝始めてました」

 

「そう…一体何を考えてるんだか…」

 

「まぁそれが分かれば苦労はしないんだけどね」

 

「……急に話に入って悪いんだけどよ」

 

突然会話に石流が入ってきた。

 

「大嶽丸ってあれだろ。平安時代の最強の呪霊で、あの両面宿儺ともやり合って返り討ちにしたっていうやつでいいのか?」

 

「ええ、そうですよ」

 

「そうなのか……(まずこの時代にいんのかよ)」

「だったら、そんな奴がすぐに動いてこの日本に害をなさないってことは、少なくとも今を満喫してるでいいんじゃねぇのか?」

 

石流の意外な考察に乙骨達はキョトンとした表情になった。

『大嶽丸が今に満喫している』

こんな考察を聞かされるとは思ってもいなかったし、実際乙骨達には考えられないようなことだった。

 

「え?」

 

「だって俺たちみたいに前の人生に何かしらの悔いがあるとか、何かを成し遂げたいとか思ってたらすぐに動くだろ。

ましてや『鬼神魔王』や『災害の王』なんて呼ばれてる奴なら尚更だ」

 

「まぁ確かにね」

 

「だから少なくとも、今は特に暴れて何かをしようとか思ってないじゃないか?

まぁ起きたら何かしらするってことも考えられるが……」

「今現状動いてないってことは、大嶽丸がすぐに動くような理由なんてないってことだろ?」

 

石流の意外な解答に少し呆然としていた乙骨、釘崎、三輪だったが、石流の言うことにも一理ある。

伝承や千鬼から聞いた大嶽丸の性格を考えると、自分から面倒ごとに首を突っ込んだりはしないタイプだと思う。

それに平安時代、宿儺は彼方此方に行って好きなように過ごしていたらしいが、大嶽丸は基本的に蝦夷、現在の東北にほとんど居座っていた。(まぁ例外もあるが…)

理由は「少し力を見せればその地の人間は勝手に俺の世話をするようになるし、術師がそれほど多くない、それに術師の中心である朝廷の影響が少ないから面倒ごとが少なくて済むから」と本人が話していた。

つまり何か大嶽丸が自ら出て解決するような出来事が起きなければあの“災害”は動き出すことはないだろう。

 

「(そうだ、わざわざこちらから刺激する必要もない。いまは大人しくしてくれるならそれで………ん?)」

そんな結論に至ると乙骨はあることに気づく。

 

それは虎杖が言っていた「宿儺が何か企んでいる」という部分。

目的はわからないが、もしも宿儺の企みが成功した場合、大嶽丸は動かないと言えるだろうか。

彼は1000年前に宿儺とよく小競り合いを起こし(だいたい宿儺から仕掛けていたらしいが)その際には周囲に少なくない被害を起こした。

特に最後となる宿儺との決戦では、“甚大”という言葉がしっくりくるほどの被害だったと伝わっている。

 

それに大嶽丸自身も宿儺のことを毛嫌いしていた。

乙骨自身も、前に大嶽丸が特級呪物である『宿儺の指』を破壊しようとして失敗した時、ものすごく悔しがって恨み言を吐いていたのを目撃したこともある。

もしなんらかの理由で宿儺が復活した場合、大嶽丸がそれを放っておくとは思えない。

そして、また2人が本気でやり合うことになれば、ただでさえ疲弊している日本は、建て直しが見えなくなるほどに弱ってしまうかもしれない。

 

「(……これは早く五条先生と千鬼先生を開放しないと、この日本が終わる)」

 

乙骨は改めて決心を固め、今後の方針を話し合うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜東京第二結界〜

 

結界に入った直後、パンダは嫌な予感を覚えていた。

視界が歪み、足元の感覚が一瞬だけ消失する。

次の瞬間、無機質な金属音と共にパンダは高所へと投げ出されていた。

 

「……え?」

 

なんとか着地。

コンテナの上だった。

辺りを見回す。

秤の姿も、東堂の姿もない。

 

「……逸れた」

 

低く虚しく呟く声は風に掻き消された。

東京第二結界。

ここだけではないが、このランダムにスタート地点に飛ばされてしまう“罠”とも言える結界内は運が悪ければ即死の場所だ。

まだ即死をしていないパンダは運が良かったと言えるだろう。

だが正直、この結界に無事に入れたとしても、今度はこの結界で生き延びなければならない。

ましてや秤と東堂の二人と別行動になったとなれば、なおさら難しく思えてしまうのだ。

 

パンダは少し考え体を丸めて身を潜めるようにする。

 

「(……とりあえず目立たないのが正解だな)」

 

コンテナの上にちょこんと座り、動きを止める。

 

「(今だけ俺はパンダじゃない。テディベアだ)」

 

そう思い込めば、誰かが遠目に見ても違和感はない……はずだ。

 

しばらくの間、風の音と遠くの破壊音だけが流れた。

 

「(……静かすぎる。それに血の匂いも濃い。)」

 

死んでいるはずなのに、いや死んでいるからこそそれが特に不気味だった。

 

「(俺は天使の捜索と交渉役。戦闘はあの二人に任せるつもりだったが、まさかこんな形で引き剥がされるとはな)」

「(趣味が悪いぜ!)」

 

 

五条悟と龍山千鬼を解放する鍵。

結界内にいる可能性が高い存在。

 

「(下手に動くよりじっとしている方が……否!)」

 

「(俺はパンダだぜ!)」

 

パンダは決断し、コンテナの転がり、ポヨンっと音を立ててコンテナから降りた。

そして周囲を確認。

人影なし、ふぅ、と息を吐いたその瞬間だった。

 

「あ」

 

「(あーーー!)」

 

見つかってしまった。

 

パンダの前に現れた男、鹿紫雲一はすぐには動かなかった。

 

距離を保ったまま、じっとパンダを見ている。

その視線は、敵意よりも観察者の色が強い。

 

「なんだ?上野から脱走したか?」

 

鹿紫雲は首を傾げた。

コンテナから降りてきたそれは、二足歩行をしていた。

だが今は微妙に様子が違う。

 

パンダは何気ない鹿紫雲の一言で一瞬で対抗策を実行する。

 

「(そう、俺は!)」

 

即座に四つん這いになる。

背中を丸め、頭を低くし、視線を合わせない。

呼吸も浅く、できるだけ“動物”を装う。

 

「(上野から逃げたパンダ!)」

 

東京第二結界という異常空間でも、

「結界外から迷い込んだ動物」という可能性はゼロではない。

 

鹿紫雲は顎に手を当てた。

 

「お、やっぱ二足歩行はきついか…」

 

完全に“様子見”だ。

 

「(よし…いける!)」

 

パンダはのそのそと地面を嗅ぐふりをする。

ごく自然に、野生動物として振る舞う。

 

だが。

 

「おいコガネ」

 

鹿紫雲が何気ない調子でコガネを呼び、頭上に現れる。

鹿紫雲は指でパンダを示した。

 

「こいつは泳者(プレイヤー)か?」

 

一瞬の静寂。

 

パンダは祈った。希望的観測だがもしかしたら人間じゃないから別扱いをされることを祈って

 

「(そんな使い方ありかよ!?頼む!違いますって言え!)」

 

だがコガネは今日も元気だった。

 

『はい!泳者デス!』

 

元気いっぱいの即答。

 

その瞬間、パンダの内心は凍りついた。

空気が爆ぜる。

 

雷鳴のような音と共に、鹿紫雲の呪力が一気に跳ね上がる。

もはや観察ではない。

完全な戦闘体勢。

 

「ッ!」

 

パンダが立ち上がって構えたその瞬間──パンダが飛んだ。

鹿紫雲に殴られたのだ。しかも衝撃のあまり背中から綿が出るほど、人間だったなら胴体に穴が空いて終わる一撃だった。

 

「(速いし、重い!)」

 

着地と同時に距離を取ろうとするが遅い。

鹿紫雲の動きは速すぎる。

 

「いい反応だ」

 

鹿紫雲の再び拳が振り抜かれる。

呪力を帯びた一撃。

直撃すれば、パンダの胴は確実に吹き飛ぶ。

 

「(まずっ)」

 

パンダがそう思った、その刹那。

 

パンッ!

 

乾いた、拍手のような音が鳴り響いた。

パンダの視界が変化する。

地面の位置がずれ、空気の匂いが変わる。

自分の体が“跳んだ”感覚だけが遅れて追いついてきた。

 

「……は?」

 

パンダは気づく。

自分は、さっきとはまったく違う場所に立っている。

 

そして。

 

自分がいたはずの位置に“誰か”が──いや、あいつがいた。

 

「フッ」

 

筋骨隆々の体躯。

上半身裸。

そして自信満々の笑み。

腕を振り抜く鹿紫雲の拳を紙一重で交わした男。

そう、東堂葵である。

 

「は?」

 

鹿紫雲の声がわずかに間抜けに漏れた。

急にパンダが消えて男が現れ、さらに自分の攻撃を回避してくるのだから無理もないだろう。

だがそのほんの一瞬がダメだった。東堂にとっては十分な攻撃の隙。

 

「遅い」

 

低く腹の底から響く声。

 

次の瞬間。

 

ドンッ!!

 

鈍い衝撃音とともに鹿紫雲の顎が跳ね上がる。

東堂の拳が完璧なカウンターで突き刺さった。

空気が爆ぜ、鹿紫雲の体が後方へ弾き飛ばされ、地面を抉りながら転がった。

 

「…っ!」

 

鹿紫雲は体勢を立て直しながら、まだふらつく頭を振って目を見開く。

 

「今の……入れ替わりか?」

 

その視線の先で、東堂葵が腕を振り下ろす。

 

「その通りだ」

 

誇らしげでもなく、淡々と。

だが声には、確かな自信が宿っている。

 

「拍手一つで、位置を入れ替える」

 

東堂は一歩前に出る。

 

「不義遊戯(ぶぎうぎ)だ」

 

少し離れた位置でパンダが目を丸くしていた。

 

「葵!?」

 

「無事かパンダ」

 

東堂はちらりと振り返る。

 

「少しやられているが、命に別状はなさそうだな」

 

鹿紫雲が口の端を吊り上げた。

 

「なるほど……」

 

呪力が再びざわつく。

 

「面白ぇな」

 

鹿紫雲の瞳が完全に東堂を捉えた。

さっきの一撃で確信した。

パンダよりもこの葵という男は強いと

 

だが東堂は動じない。

 

「悪いがこれ以上パンダをやらせるわけにはいかない」

 

拳を握り腰を落とす。

 

「死滅回游が終わったら、高田ちゃんの握手会に行く約束をした友だからな!」

 

「(いやしてねぇよ!!)」

 

心の中でものすごいツッコミを入れるが、口に出すと面倒なので今は抑えることにしたパンダ。

理由はどうあれ、“実力だけ”なら間違いなく頼れる助っ人が来てくれたことに安堵を覚える。

 

雷鳴のような呪力が、空気を裂いた。

鹿紫雲一の拳が振り抜かれる時

 

パンッ!

 

乾いた音と同時に、拳の軌道が空を切る。

 

「……?」

 

鹿紫雲の視界の端で、景色が歪んだ。

拳が叩き込まれたのはコンテナだった。

 

「っ!(俺と位置を入れ替えやがった)…ほう」

 

東堂はにやりと笑った。

 

「なるほど、速いな」

「悪くない」

 

鹿紫雲は舌打ちを一つ。

 

「入れ替わりか。(本当、厄介だな)」

 

呪力が再び膨れ上がる。

呪力鹿紫雲の身体を這い、次の瞬間には地面を蹴っていた。

 

速い。

一直線の殺意。

 

だが

 

パンッ!

 

今度は東堂の姿が消え、鹿紫雲の拳は空振る。

 

代わりに現れたのは、巨体。

 

「うおおっ!?」

 

鹿紫雲は目の前にパンダが現れたのを気にせず、攻撃を加えようとした。

パンダの腹部に直撃する寸前。

 

パンッ!

 

再び位置が入れ替わり、

鹿紫雲の拳は、東堂の前腕で受け止められた。

 

「チッ……!」

 

雷が爆ぜる。

だが東堂は一歩も退かない。

 

「なかなかやるが、それぐらいでは俺は倒せん」

 

「なに?」

 

「それに俺は1人ではない」

 

その瞬間パンダが横から突っ込む。

 

「おらぁ!」

 

体重を乗せたタックル。

鹿紫雲は舌打ちしながら後退する。

 

「……連携か(さっきの位置替えはあのパンダの位置調節か)」

 

さらに雷が走る。鹿紫雲の蹴りが、パンダの側頭部を捉え──

 

パンッ!

 

入れ替わり。

 

蹴りを受けたのは石ころだった。

 

「……ちっ!(生物だけじゃねぇのか!)」

 

鹿紫雲歯を食いしばり、だが笑みを浮かべる。

苛立ちだけではない、この戦闘の高揚感。

 

「いいな!それでこそやりがいがある!」

 

鹿紫雲が如意を構えて東堂に狙いを定めるようにする。

 

「長引くな……」

 

東堂が低く呟いた、その時だった。

 

ドォン!!

 

凄まじい轟音。

 

コンテナが上から叩き潰されるように変形した。

鉄が悲鳴を上げ、地面が揺れる。

ひしゃげたコンテナからゆっくりと歩いてくる影。

 

「なんか、派手にやってんな」

 

煙の中から現れたのは、

呪術高専3年 秤金次。

 

先ほどシャルルという術師を打ちのめしてからここまできたのだ。まるで熱に引き寄せられたかのように。

 

秤は肩に乗せた拳を鳴らしながら鹿紫雲を見た。

 

「で?」

「お前が100点保持者でいいんだよな?」

 

鹿紫雲の口角が、吊り上がる。

 

「…あぁそうだ。奪いたかったら俺に勝ってからにしろよ」

 

東堂は秤を一瞥し、短く言う。

 

「強いぞ。注意しろ」

 

「見りゃ分かる」

 

秤は笑った。

 

「だから来たんだよ」

 

3対1の構図。

どう見ても鹿紫雲が不利な状況だが、鹿紫雲は笑った。

ここまで戦闘において気分がいいのはいつ以来だろうか。

わざわざ羂索の提案に乗った甲斐があった。

自分の目的である宿儺の前に楽しめそうな戦いに、鹿紫雲は笑わずにはいられなかった。

 

だがその時。

 

──空気が鳴った。

 

音ではない。

振動でもない。

“空気の密度”が唐突に変わった。

それは今まで戦ってきた歴戦だからこそ感じ取れる術師の本能のようなもの。

まるで東京第二結界そのものが、異物を拒絶するように軋んだかのようだった。

 

「……?」

 

最初に反応したのは鹿紫雲だった。

雷が止まった。呪力の流れが僅かに乱れる。

面白そうだが同時に警戒すべき気配。

 

「おい」

 

低く、警戒の声。

 

次に秤が気づく。

笑っていた口元が、自然と引き結ばれる。

 

「……は?」

 

理由は分からない。

だが、背筋に冷たいものが走った。

 

“勝てるかどうか”じゃない。

“関わっていい存在かどうか”を測る感覚。

熱いものが込み上げてくるよりも、“こんな気配が今までどこにいた”と言う困惑の方が勝っていた。

 

さらに東堂も

 

「遠くはない場所に転送されたらしいな」

 

と言いながらも目線は周囲を警戒。

 

パンダは全身の毛が逆立つような感覚となり、

 

「結構ヤベェぞこれ」

 

と目には焦りが見えていた。

 

秤は咄嗟にコガネを呼ぶ。

 

「コガネ、1分以内にこの結界に入ってきたまたはポイントが変動しているやつの情報を表示!」

 

「おうよ!」

 

そしてコガネに映る情報を見た4人。

そのうち3人は驚愕した。

 

「ほう…」

 

「もう動いたのかよ!?」

 

「ヤベェなこりゃ」

 

東堂、パンダ、秤の順で明らかにまずいと言う反応だった。

自分たちは“こいつ”を知ってる。

そしてこいつがどれだけやばいかも知ってる。

 

3人は一時退散しようとしたその時──

 

ドゴォォン!

 

「ははははははは!いたいたぁ!!」

 

コンテナを吹き飛ばして秤達の前にそいつは現れた。

 

「さっきからしょぼい奴らで退屈なんだ。

だからお前ら」

「──俺と殺し合わないか?」

 

 

 

天逆毎(あまのざこ)

得点45点

変更00回

滞留結界 東京第二

 

 

 

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