呪霊装術   作:戦艦YAMATO

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車椅子ニート(レモン)様、誤字報告ありがとうございます。


61話 乱神と賭博師

 

 

 

「いいねぇ」

 

天逆毎は指を鳴らしただけだった。

 

その時、東堂と秤の位置が入れ替わる。

 

パンッ!

 

乾いた音。

 

「遅ぇ」

 

天逆毎の拳が最初から東堂の入れ替わった位置を捉えていたかのうように向けられた。

 

「な!?」

 

東堂の腹部に鈍い衝撃。肉体がきしむ。

 

「位置入れ替えはある程度読める」

 

天逆毎は笑う。

 

「視線と殺気でな」

 

吹き飛ばされる東堂をパンダが受け止める。

 

「クソッ!」

 

「次!」

 

天逆毎は間髪入れず、秤へ。

 

秤は歯を食いしばり印を結ぶ。

 

「領域展─」

 

ドン。

 

完成する前に、

秤の顔面に拳が叩き込まれた。

 

「展開前を叩くのが礼儀だろ?」

 

地面を転がる秤。

 

「チッ……こいつ、頭も切れる!」

 

その背後から、パンダ(ゴリラモード)。

 

「うおおおおおっ!!」

 

腕を振るう。

1発、2発、3発。

防御不能の連打が天逆毎を襲うが

 

「っ!(応えてない!?)」

 

天逆毎の口元が歪む。

殴られている最中、筋肉が膨張していく。

 

「増強、増強っと」

 

パンダが15発目を打つが、それを受け止め握り潰す。

 

「悪くないが、軽い」

 

逆にパンダが殴り飛ばされる。

 

「パンダ!」

 

秤が叫ぶがコンテナに埋められるように飛ばされたパンダは返事をする余裕がない。

その隙を突き、鹿紫雲が前に出た。

 

如意に呪力を収束。

雷鳴が走る。

 

「落とす」

 

だが。

 

「それも見え見え」

 

天逆毎が一歩踏み込む。

雷撃が放たれる前直線を逸れて、拳。

鹿紫雲の脇腹に直撃。

鹿紫雲は地面を転がった。

 

「確かになんだかヤバそうな技だが、準備がいる技を待つ必要は無いんだよ」

 

天逆毎は肩をだるそうに回しながらも楽しそうだった。

 

「いいな、お前ら」

 

視線が、全員をなぞる。

 

「殴っても壊れねぇ。やっと“遊び”から先に行けそうだ」

 

呪力が、さらに膨れ上がる。

 

「次は」

 

その一言で秤たちは悟る。

 

ここからが本番、そしてこの結界の難関。

 

「そろそろ……」

 

天逆毎は、両手を開いた。

 

「“戦うか”」

 

瓦礫の雨の中、天逆毎は踏み込んだ。

地面が砕ける。

一歩。それだけで衝撃波が走り、空気が破裂した。

 

「来るぞッ!」

 

東堂が叫ぶのと同時に消えた。

 

否、速すぎて視認できなかっただけだ。

次の瞬間、秤の目前。

 

「っ!」

 

反射的に腕を上げるが、

天逆毎の拳がガードごと叩き割る。

 

鈍い音。

秤の身体が後方の建物へ叩きつけられ、コンクリートが弾け飛ぶ。

 

「クソッ……!」

 

立ち上がろうとした瞬間、影。

 

「休むな」

 

追撃の膝。

秤の鳩尾に突き刺さり、内臓が裏返る感覚。

 

だが

 

「させん!」

 

東堂の拍手。

 

秤と天逆毎の位置が入れ替わる。

 

「は?」

 

天逆毎の膝は空を切り、代わりに背後から鹿紫雲の蹴りが叩き込まれた。

 

「今だ!」

 

鹿紫雲の呪力が弾け、雷光が走る。

 

だが天逆毎は蹴りを受けたまま、笑った。

 

「(雷と合わせてる?)いい蹴りだ」

「だがこんなのより、もっと強い雷は味わったことがある」

 

次の瞬間、鹿紫雲の足首を掴み叩きつける。

 

地面に亀裂。

叩きつけられたことによって鹿紫雲は呪力が霧散して血を吐く。

 

「……っ、ガフっ(攻撃が重くなってやがる)」

 

鹿紫雲は知らないが、これは天逆毎の身体能力が今この瞬間も上昇しているだけだ。

 

「オラァァァ!!」

 

ゴリラモードのパンダが突進。

 

両腕を振りかぶり全体重を乗せたフルスイング。

 

直撃。

 

天逆毎の身体が吹き飛び、いくつものコンテナを貫通した。

 

「効いたか!?」

 

砂煙。

 

……だが。

 

「効いてる効いてる」

 

砂煙の中からゆっくりと立ち上がる影。

 

身体中にヒビのような傷。

だが、それが塞がっていく。

 

「再生……」

 

パンダの目が見開かれる。

天逆毎は首を鳴らした。

 

「ゴリラ、いやパンダか?いい打ち方してるな」

 

そう言われた時、パンダの視界が回転した。

 

何が起きたか分からないまま、

地面に顔から叩きつけられる。

 

「がっ……!」

 

天逆毎の回し蹴り。

純粋な脚力だけで、

パンダの巨体が転がる。

 

「(全く効いている様子ではないな)」

 

東堂が歯を食いしばる。

 

拍手。

 

「俺が行く!」

 

今度は天逆毎の正面に東堂。

それを察知した天逆毎が拳を振り上げるが

 

パンッ!

 

東堂は即座に天逆毎と入れ替わり、背後から拳を叩き込もうとする。

 

だが察知していたのか体勢を変えて放たれた天逆毎の頭突きが東堂の腹部に直撃。

 

「が……は……!」

 

内臓が悲鳴を上げる。

だが東堂は笑った。

 

「そう来ると思った!」

 

拍手。

 

天逆毎と鹿紫雲が入れ替わる。

天逆毎が一瞬どこかを確認しようとした隙をつき、鹿紫雲の如意が天逆毎を捉えた。

 

雷鳴。

 

「当たった……!」

 

だが。

 

天逆毎は左肩から吹き飛ばされながらも鹿紫雲を見ていた。

 

「惜しい」

 

頭突き。

鹿紫雲の額に直撃。

骨が軋む音が響く。

 

「準備が要る技ばっかだな、お前ら」

 

天逆毎の呪力がさらに膨れ上がる。

体は再生され、筋肉が隆起し、皮膚の下で何かが目覚めていく。

 

秤がよろめきながら立ち上がる。

 

「…だめだ、全然削り切れねぇ。ジリ貧だ」

 

東堂も理解していた。

 

「やはり…戦えば戦うほど強くなるタイプだな」

 

天逆毎は肩を揺らして笑った。

 

「いいな、面白い面白い」

 

一歩。

 

「いいぞ……」

 

二歩。

 

「もっと来い」

 

三歩目で、

地面が沈んだ。

 

「まだ領域は張らねぇ」

 

天逆毎が宣言する。

 

「でもな」

 

拳を握る。

 

「もう“遊び”じゃねぇぞ」

 

呪力が爆発的に跳ね上がる。

空気が震え、呪力の余波で周囲の瓦礫が浮き上がった。

 

「殺し合おうぜ」

 

地面がひしゃげる。

 

「……来るぞ」

 

鹿紫雲が低く呟いた瞬間、

天逆毎の拳が振り抜かれる。

 

衝撃。

 

直線上にあったコンテナがまとめて崩れ落ちた。

 

「ちっ!」

 

鹿紫雲は間一髪で跳び退き、

呪力を纏わせる。

 

だが

 

「遅ぇ」

 

天逆毎が距離を詰める。

殴る前に、殴られた。

鹿紫雲の身体が吹き飛び、

地面を転がる。

 

「このぉ!!」

 

パンダが踏み込む。

 

「ウォォォォ!!」

 

両腕を振り上げ、

全力のラッシュ。

 

拳、拳、拳。

 

だが天逆毎は効いてない。

 

「お前それしかできねぇのか?」

 

そのままパンダを地面へ叩きつける。

天逆毎は軽くやったつもりだがパンダにとっては大ダメージだった。

 

「がはっ……!」

 

地割れ。

 

東堂が歯を食いしばる。

 

「おい!」

 

「分かってる!」

 

瓦礫の陰で、秤が叫ぶ。

 

「今準備する!でも時間がいる!」

 

その言葉を聞いた瞬間、東堂は笑った。

 

「なら話は早い」

 

拍手。

 

「不義遊戯!」

 

天逆毎の位置が入れ替わる。

東堂と至近距離、天逆毎の目が見開かれる。

 

「ほう」

 

東堂は拳を構えた。

 

「来るがいい!」

 

天逆毎の一撃はもはや東堂が呪力を纏ってガードしても手足がちぎれるくらいまで上昇している。

だが退かない。

 

「…やられっぱなしでいるかよ」

 

鹿紫雲が立ち上がる。

 

呪力が跳ね、雷光が身体を包む。

 

天逆毎が舌打ちする。

 

「チンタラすんな」

 

踏み込み。

 

だが

 

「させん!」

 

拍手。

 

天逆毎とパンダが入れ替わる。

 

「今だァ!!」

 

パンダが両腕を振り下ろす。

 

直撃。

 

天逆毎の身体が地面にめり込む。

 

だが

 

「効かねぇな」

 

地面が爆ぜる。

 

天逆毎が跳ね上がり、

パンダの胸を蹴り抜いた。

 

「ぐぁっ!!」

 

パンダが吹き飛ぶ。さらに綿が放出されて地面に舞う。

そんな中でも天逆毎は笑っていた。

 

「いいぞ……」

 

肩を鳴らす。

 

「楽しくなってきた」

 

その時、東堂が叫ぶ。

 

「今だ秤!」

 

瓦礫の向こう。

 

秤が静かに手を組んでいた。

 

「……悪いな」

 

呪力が渦を巻く。

 

「時間をもらった」

 

天逆毎が振り返る。

 

「……は?」

 

次の瞬間。

 

秤金次、領域展開。

 

空間が歪んだ。

 

坐殺博徒(ざさつばくと)

 

東京第二結界の空気が、歪んだ。

 

天逆毎の拳が振るわれる。

重く、速く、殺意に満ちた一撃。

それを──

 

電車の改札口が阻んだ。

 

「ん?」

 

首を傾げる天逆毎をよそに、秤は笑った。

 

「よっしゃあ!」

 

秤が笑うが、天逆毎にとってはそんなことは知らない。

頭に入ってくる訳のわからない情報も、度々出てくる変な演出も、全て突破して秤に近づいた。

 

ドンッ!!

 

衝撃音。

骨が砕け、肉が潰れるはずの音。

 

だが、秤は倒れなかった。

 

「……っ、はは」

 

砕けたはずの肋が、即座に元に戻る。

抉れた腹部から溢れた血が、逆再生のように体内へ引き戻されていく。

 

「来た」

 

秤の瞳が狂気じみた光を帯びる。

 

「大当たりだ」

 

“4分11秒”

 

呪力が溢れる。

身体が軽い。

痛覚はある。

だが意味をなさない。

 

天逆毎が一瞬だけ目を細めた。

 

「……ほぉ」

 

殴ったはずの相手が、笑って立っている。

しかもさっきより明らかに“強い”。

 

「それ、面白ぇな」

 

天逆毎の口角が歪む。

 

「壊しても戻るってか?」

 

「そういうことだ」

 

秤は肩を鳴らす。

 

「だからさ…」

 

一歩、前へ。

 

「今から俺が、お前の相手だ」

 

秤は構えると、

 

「東堂!」

 

秤の声が戦場を裂いた。

 

東堂は一瞬で理解する。

 

「撤退だ!」

 

「パンダ!」

 

「分かってる!」

 

パンダは歯を食いしばる。

自分達が置いていかれる側ではない。

自分達が置いていく側だ。

 

鹿紫雲もまた、如意を構えたまま秤を見る。

 

「……死ぬなよ」

 

「死なねぇよ」

 

秤は笑った。

2人は面識がないはずだが、秤の戦いを見て鹿紫雲も何か気に入った部分があったのだろう。

 

「今は、な」

 

「逃がすと思うか?」

 

その瞬間。

 

パンッ!!

 

拍手。

 

東堂の不義遊戯。

 

逃げる三人と、瓦礫の位置が入れ替わる。

同時に秤が天逆毎の真正面に現れる。

 

「相手は俺だっつってんだろ」

 

天逆毎の拳が秤の顔面を打ち抜いた。

 

砕ける。

潰れる。

首がありえない角度に曲がる。

 

だが次の瞬間、元に戻る。

 

「……っははははは!!」

 

秤が笑った。

 

「いいねぇ!最高じゃん!」

 

天逆毎も、笑った。

 

「やっぱ壊れねぇやつは楽しいな!!」

 

拳と拳。

殴っても、殴っても、秤は倒れない。

 

拳が折れ、肉が弾け、血が舞い、骨は砕け、

 

それでも秤は笑い続ける。

 

4分11秒。

 

生き残るための時間ではない。

仲間を逃がすためだけの時間。

その賭けは、まだ終わっていなかった。

 

三人の気配が、完全に遠ざかった。

 

今ここにいるのは秤金次と天逆毎だけ。

 

「……行ったか」

 

天逆毎が首を鳴らす。

その声音はどこか残念そうだった。

 

「まぁいいや。あいつらは後で追えばいい」

 

秤は血を拭いもせず、笑ったまま肩をすくめる。

 

「今は俺だけで満足しとけよ」

 

「はは」

 

天逆毎が笑う。

 

「満足?」

 

一歩踏み出す。

その瞬間秤は気づいた。

さっきまでとは決定的に違う。

遊びじゃない。

様子見でもない。

 

“完全に壊しに来ている”

 

「さっきまでのは戦いの前の準備運動みたいなもんだ」

 

天逆毎の呪力が濃度を変えていく。

量が増えたわけじゃない。質が歪んだかのようだ。

 

「不死身だろうが関係ねぇ」

 

秤の背筋を、冷たいものが走る。

 

「壊せねぇなら」

 

天逆毎がゆっくりと両手を広げる。

 

「壊れるまで壊せばいい」

 

次の瞬間。

 

空間が折れた。

音はない。

光もない。

だが確かに目の前の光景が変わった。

 

「……っ」

 

秤の足元が沈んだ。

 

否、沈んだように感じただけだ。

実際には身体そのものが重くなっている。

 

肺が圧される。

骨が軋む。

心臓の鼓動が、遅くなる。

 

「……は?」

 

初めて、秤の口から間の抜けた声が漏れた。

 

「これが……」

 

天逆毎の声が、四方から響く。

 

破力圏(はりきけん)

 

景色は変わらない。

だが“世界の法則”だけが、書き換えられていた。

 

秤は一歩踏み出そうとして、止まる。

 

重い。

 

さっきまで軽かった身体が、

まるで数倍の質量を押し付けられている。

 

「領域……」

 

印は見えない。

詠唱もない。

だが確信する。目の前の呪霊は領域を展開した。

 

「……マジかよ」

 

天逆毎が笑いながら歩いてくる。

その動きは先ほどよりも明らかに軽い。

 

「お前だけだぞ」

 

拳を握る。

 

「この中で“重くなってる”のはな」

 

ドン。

 

一歩踏み込むだけで、地面が割れる。

 

「逆に俺は」

 

天逆毎の背中の筋肉が、盛り上がる。

 

「どんどん強くなる」

 

秤は歯を食いしばる。

 

身体が悲鳴を上げている。

だが幸い再生は止まらない。

領域の押し合いでは天逆毎の方が部があるが、なんとか不死身の時間が消えずに済んだ。

 

「なるほどな」

 

苦笑しながら拳を構える。

呪力で身体能力を強化することに集中してなんとか構えるが、それでも身体中に負担がかかってくる。

 

「やっと本気ってわけか」

 

天逆毎の瞳が細くなる。

 

「そうだ」

 

「壊れねぇお前を壊れるまで叩く」

 

拳が振り下ろされる。

 

秤は迎え撃つ。

 

重い。

痛い。

潰れる。

 

それでも秤は笑った。

 

「いいねぇ!」

 

時間はまだ残っている。

 

だが天逆毎の領域は不死身でも安心できる場所じゃない。

実際、時間が経つにつれて秤の身体はもうまともに立てていなかった。

 

「……っ、ぐ……」

 

一歩踏み出すたび、骨が悲鳴を上げる。

再生はしている。

だが治る速度と、潰される速度が拮抗し始めていた。

 

「はは……マジで、容赦ねぇな……」

 

拳が飛ぶ。

 

ドゴンッ!!

 

秤の身体が地面に叩き伏せられる。

衝撃が逃げ場を失い、内側で爆ぜた。

 

「ッ……!」

 

内臓が一度“潰れた”感覚。

即座に再生するが、意識が揺らぐ。

 

「いい音だ」

 

拳を握るたび、空気が震える。

 

「キタキタァ!ここからもっと壊していくぞ!」

 

天逆毎の呪力が何か変わり始めている。

そのことに秤は直感で理解した。

 

「(まさか…)」

 

そして秤の脳内に、千鬼から教えられたことが蘇った。

 

 

 

 

 

 

 

 

それは担任の夏油が任務でいないため、千鬼が珍しく教壇に立つ日だった。

教室に2人しかいない三年生に向けて千鬼は教鞭を取っていた。

 

「『領域』と一言で言っても、効果も制限も千差万別だ。いちいち見破って対処する時間すら惜しい」

「それに領域の中には、発動してからだんだんと効果が現れてくるものもある。

例えば、俺が所持している特級呪霊『天逆毎』。

こいつの領域は、まず領域内にいる天逆毎の相手に重力がかかり、逆に時間が経てば経つほど領域の主である天逆毎は強くなる。

さらに時間が経てば防御無視の攻撃ができる」

 

呪術界では聞きなれない単語に星が首を傾げた。

 

「防御無視?なにそのゲームみたいな能力」

 

「まぁゲームみたいな能力だが、バカにできないぞ。

五条の無下限でも突破されて防げなくなるくらいの攻撃だ。だから天逆毎みたいなやつと戦う時は短期決戦で行った方がいい」

「まぁ最善策は、領域を展開させる前に祓うことだけどな」

「それにこの防御無視がくる時は、領域を展開してから天逆毎と領域に入れられた相手が受けたダメージを一気に相手に向けて放つこともできる。という合図でもある」

 

その説明を聞いた秤は目を細めて怠そうに呟く。

 

「ヤベェなそれ」

 

「そうだろ。だから理想が領域展開前に祓うことだ。よく覚えておけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

防御を“無視する”攻撃。

不死身だろうが関係なく、存在そのものを壊す一撃。

それに記憶が正しければ、この領域が展開されてから今まで蓄積された天逆毎と秤の受けたダメージを一気に秤に放つことができる。ということにもなる。

 

天逆毎が腕を引く。

 

「これで終わりだ」

 

その瞬間。

 

パンッ!

 

乾いた音が、領域内に響いた。

 

「……?」

 

天逆毎の視界が、一瞬だけズレる。

 

秤の姿が、消えた。

 

代わりにそこに立っていたのは

 

「悪いな」

 

筋骨隆々の男。

 

「時間切れだ」

 

東堂葵。

なんとか全身に呪力を回し、重力の中で立っていた。

 

「……は?」

 

天逆毎が言葉を漏らした、その刹那。

 

東堂はすでに動いていた。

 

「俺もすぐに出ていく」

 

片手に握っていた石へ呪力を一気に流し込む。

 

「?」

 

東堂はその石を全力で投げた。

空気を裂き、石は領域の端へと一気に高速で飛んでいく。

東堂には重力がかかるが、それは天逆毎が認識しているから。

いちいち石に認識しているわけではないので石が重力で落ちることはない。

だが今回はそれがダメだった。

 

パンッ!

 

再び拍手。

 

次の瞬間、

東堂は“外”にいた。

破力圏の圧が、消えている。

 

「……っはぁ!?」

 

そして代わりに東堂がいた場所に石が落ちているだけだった。

 

天逆毎が、領域の中心で舌打ちをした。

 

「…チッ」

 

防御無視が完全に発動する直前だった。

 

「逃がしたか」

 

だが、その顔は不満よりも

 

「はは」

 

楽しそうだった。

 

「いいな」

 

破力圏が、静かに解除される。

 

「次は、全員まとめて壊してやる」

 

東京第二結界の奥で、

天逆毎は次の“獲物”を思い描いていた。

 

 

 

 

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