呪霊装術   作:戦艦YAMATO

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地味に菜々子の術式を考えみました。


68話 骸も笑う

 

 

街路に立つ7人を見下ろすがしゃどくろ。巨体はゆっくりと揺れ、眼窩の淡い紫の光が虎杖達を包む。

 

「もっと強めに…」

 

虎杖は振りかぶった拳を思い切り振るう。

空気を裂く衝撃。

だが拳は骨の表面に当たった瞬間、かすかに軋むだけで弾かれ、虎杖は腕を弾かれた反動で後ろに倒れそうになる。

だが逆に後ろになった勢いを利用して続けて回し蹴り。

 

バギィン!!

 

骨に直撃。

だが、ヒビ一つ入らない。

逆に虎杖の足が弾かれる。

 

「なんだよこれ……!」

 

それと入れ替わるように伏黒が動く。

影を操り、渾と鵺を出した。

 

渾は牙を剥き、がしゃどくろの脚へと食らいつく。

 

ガギィッ!!

 

牙が骨を噛む。

だが砕けない。

 

「グルッ!」

 

渾がさらに力を込める。

しかし骨はびくともしない。

逆に、顎が軋みを上げた。

 

雷鳴が轟く。

 

鵺が上空から急降下。

そのまま体当たりと共に雷撃を叩き込む。

 

焦げ跡すらない。

 

「(効いていない……!)」

 

伏黒の眉が寄る。

 

伏黒はすぐに他の式神を召喚。

 

万象をがしゃどくろの上に出すが、骨が衝撃を受け止め、万象を持ち上げて放り投げた。

伏黒は目を見開くが、がしゃどくろはレジィとの戦闘で、二階建ての家を投げ飛ばしたので当然の芸当でもあった。

 

「えぇ!?効いてない!?」と言う虎杖の声に伏黒の眉がぴくりと動く。

 

「退いてください」

 

七海が前に出る。

 

七海が構え、静かに踏み込み、的確に“比率”を捉える。

骨に触れて斬撃が並ぶが、がしゃどくろの足はヒビも入らなかった。

七海の縛りによって100%以上の呪力を発揮していてもこれである。

 

よく見れば骨の表面にほんの薄い線が走っていたが、こんなのは誤差の範囲にもならない。

すぐにそれすら消える。

 

「冗談でしょう……」

 

七海が低く呟く。

 

虎杖、伏黒、七海。

三方向からの連携攻撃。

 

どれも一級、いや特級にも通じる威力。

 

それでも、がしゃどくろは応えている様子はない。

 

「……効かんな」

 

がしゃどくろはわずかに首を傾けただけだった。

骨が軋む音が響く。

その眼窩の奥の光が、ゆらりと揺れる。

 

「面白いとは思うが」

 

ゆっくりと腕が持ち上がる。

 

「軽い」

 

次の瞬間。

巨腕が振るわれた。

その巨体からは想像ができなような速さで、

 

「虎杖!」

 

伏黒が叫び、それと同時に虎杖の身体が吹き飛び、ビルの壁に叩きつけられる。

 

「がはっ……!」

 

肺の空気が一気に吐き出される。

が衝撃波だけで窓ガラスが一斉に砕け散った。

 

七海も一歩引く。

 

「……なるほど」

 

冷静に分析する声。

 

「耐久力、規格外」

「術式によるダメージもほぼ通らない」

 

伏黒が歯を食いしばる。

 

「(これ、どうやって倒す……?)」

 

虎杖が立ち上がる。

口元の血を拭いながら、笑う。

 

「いいじゃんか……」

 

拳を握る。

 

「やりがいあるだろ」

 

だがその笑みの奥にあるのは、明確な確信。

 

──今まで戦ってきた中で1番硬い。

 

がしゃどくろは、そんな彼らを見下ろしていた。

 

「もっと来い」

 

低い声が響く。

 

「まだそれだけでは、私が何がしたいのかがわからん」

 

がしゃどくろの言葉に菜々子はスマホを向け、

 

「だったら謎のまま祓われなよ!」

 

撮影した。

菜々子の術式の映呪写法(えいじゅしゃほう)は、対象を撮り、何かしらの影響を与える術式。

実力差がないなら、写真を撮ってから切り裂くなどの直接的にダメージを与えるモーションを入れたりして祓うことなどできるが、実力差が大きければせいぜい動きを止められる程度。

だがその動きを止めるのが今は必要だった。

 

ビルの窓に天使が写る。

 

「今だ! 華!」

 

「分かった!」

 

来栖の手にはラッパのような光が握られていた。

それをがしゃどくろに向ける。

 

がしゃどくろも流石にあれを受けたらまずいと思い、金縛りが解けると、急いで骨のドームを作りと同時にドームの表面から棘が射出。

 

邪去侮の梯子(やこぶのはしご)

 

ドームに向けて光の柱が放たれる。

ドームは少しは耐える様子を見せたが、術式を消滅させるこの攻撃に耐久力はあまり関係ない。

そのままドームを貫通していく。

 

だが──

 

「うっ!?」

 

先ほど射出された骨の棘が、来栖に当たるのと同時だった。

 

なんとか一本だけで済んだが、それでも腹に刺さってしまい、来栖は真っ逆さまに落ちる。

だが途中で伏黒が鵺で来栖を回収、なんとか地面に激突せずに済んだ。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

「はい…なんとか…」

 

来栖はこんな状況だが、まるで少女漫画のようなシチュエーションに少し胸をドキドキさせていた。

だが対する伏黒はそうではない。

封印を解くための鍵をここで失うわけにはいかないのだ。

伏黒がタオルで来栖の腹を抑えていると

 

「危なかったな」

 

ドームが消えると同時に、がしゃどくろが姿を現す。

体はところどころにヒビなどが入っているので、おそらく先ほどまで欠損した部分もあるのだろう。

どうやら来栖の攻撃をなんとか耐え凌いだようだ。

 

「もう少し攻撃が続いていたら、消滅していたかもしれん」

 

そう言いつつも、紫色の光は警戒の色が続いていた。

来栖を行動不能にできても、息の根を止めるまでは安心できないのだろう。

再生が終わったがしゃどくろは、自身の右手を大剣のように変形させると、伏黒と天使がいる方向に向けて振り下ろす。

 

「恵!」

 

美々子の縄が伏黒と来栖を一緒に引っ張り、なんとか回避はできた。

 

「美々子、ついでで悪いが、来栖に応急手当とどこか安全な場所に運んでやってくれ」

 

「分かった」

 

美々子は来栖を慎重に持ち上げながら、後ろの方に走って行った。

 

だが状況は何一つよくなっていない。

がしゃどくろにはダメージを与えられたが、それでも再生できる範囲。

そのダメージを与えた来栖は戦闘不能。

さらにいえばがしゃどくろは警戒してしまっているので、先ほどのようにそう易々と攻撃はできなくなっている。

 

だがそんな中──

 

「ちょっと待ったぁ!!」

 

場違いな声が響いた。

全員の視線がそちらへ向く。

 

「おいおいおいおい!!」

 

腕をぶんぶん振りながら、全力で走ってくる男。

 

「そんなシリアス全開な顔してどうしたんだよみんな!」

 

高羽だった。

 

「高羽さん!?」

 

虎杖が思わず叫ぶ。

だが高羽は状況などお構いなしに、がしゃどくろの真正面まで来てピタッと止まる。

 

見上げる。

 

20メートル級の巨体。

 

普通なら、立っているだけで恐怖で膝が震える相手。

 

だが──

 

「……でっけぇな!!」

 

満面の笑みだった。

がしゃどくろを指差し大声で言う。

 

「お前さぁ!その見た目で結構技巧派で戦うのズルくない!?」

 

一瞬の静寂。

がしゃどくろがゆっくりと首を傾けた。

 

「……何だお前は」

 

低い声。

骨が軋む。

だが高羽は胸を張る。

 

「芸人だよ!」

 

ドンッ、と自分の胸を叩く。

 

「そして今からお前とタイマン張る男だ!!」

 

「……え?」

 

虎杖が間の抜けた声を出す。

 

「何言ってんだよ高羽さん!?」

 

伏黒も焦る。

 

「下がれ!死ぬぞ!」

 

だが高羽は振り返らない。

むしろ、片手を後ろに出して制する。

 

「いいから見てろって」

 

ニヤリと笑う。

 

「こういうのはな……」

 

指を鳴らす。

 

「“一番面白いやつが勝つ”って決まってんだよ」

 

高羽が言うと同時に、がしゃどくろが腕を振り上げる。

 

「ならば試すか」

 

巨大な拳が振り下ろされる。

本来なら一撃でミンチになる攻撃。

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

高羽がその場でジャンプした。

だが誰もが思った。『間に合わない』

 

ドゴォォォン!!

 

地面が砕ける。

 

「セーフ!」

 

高羽はなぜか“ギリギリで避けていた”。

 

しかも。

 

着地した瞬間、なぜかポーズを決めている。

 

「今の見た!?紙一重!」

 

「(いや当たってたろ今……)」

 

伏黒が目を細める。

確かに当たる軌道だった。

だが当たっていない。

がしゃどくろも違和感を覚えたのか、動きを止める。

 

「貴様……」

 

高羽は続ける。

 

「ていうかさ!」

 

一瞬でがしゃどくろの足元に近づきながら、コンコンと骨を叩く。

 

「骨だけで動くなんて、どう言う仕組み?霊的なやつ?それとも最新技術かな?」

 

乾いた音。

 

コンコン、と軽い音が鳴る。

さっきまで虎杖の全力でもびくともしなかったはずの骨。

 

バキッ!

 

がしゃどくろの足の骨はヒビが入った。

 

「やっべ!やっちまったぜぇぇぇぇ」

 

おちゃらけた様子でポーズをとる高羽。

だががしゃどくろの雰囲気は穏やかではない。

眼窩がわずかに揺れる。

 

「……貴様」

 

明確な違和感。

先ほどまでの虎杖達との攻撃とは違う。

ダメージというより“認識がおかしい”。

 

高羽はさらに続ける。

 

「しかもさぁ!」

 

ピョンと跳ねて、がしゃどくろの膝あたりに乗る。

 

「その理科室にあるような姿でシリアスに来るのは反則だね!」

「ちょっとくらいボケろよ!」

 

「……意味が分からん」

 

がしゃどくろが低く唸る。

自身の地面から肋骨のような骨の棘が何本も出現、高羽を追い詰めるように囲み、刺し殺そうとする。

 

「うぉ!?なんだこれ!」

 

言っている間に、高羽は肋骨によって胸を貫かれた。

 

「ぐぁぁぁぁ!」

 

「高羽さーーん!」

 

高羽と虎杖の叫びが同時にくる。

虎杖が駆け寄ると、高羽は血を流しながら何やら覚悟を決めたような、最後を悟ったような表情になっていた。

 

「虎杖君、俺の妻と子供にずっと愛していると伝えてくれ」

 

「ダメだって、まだ助かるから」

 

「いないけど」

 

「いないんかい!」

 

虎杖が思わずツッコミを入れるが、周りの空気がシーンと流れる。

 

「あと、俺の母さんと父さん、叔母ちゃん叔父ちゃん、愛犬の次郎、近所のヨシキ君にたまに餌を集りにきた野良猫のミャー吉、お隣の田中さんに……」

 

「長いって!?」

 

またもや空気がシーンをと流れる。

しかも結構な血を流して時間も経っているのに、高羽が死ぬ気配が一切ない。

がしゃどくろは顔を歪めながら(骸骨なので雰囲気的に感じる)右腕を槍のような形にして、高羽にトドメを刺そうとする。

 

「つまらんことをするな!」

 

その言葉に高羽はいち早く反応する。

 

「クソ客がぁ!」

 

胸に刺さった骨を抜き、一瞬で傷が回復。

自身に迫ってくる骨の槍を、拳を打ち上げてがしゃどくろの右腕ごと吹き飛ばした。

 

「!?」

 

「ここはシリアス展開にある笑いを理解するところだろうが!」

 

だが次の瞬間、番長服のような見た目になった高羽は宣言する。

 

「だが……そんなに戦いがしたいなら、応えてやるのも漢ってもんだ!」

 

そう言いながら切り替えをシュバっとした高羽は、がしゃどくろに迫っていく。

 

がしゃどくろに迫る中、何やら高羽の背景がキラキラしたり、思い出なのか走馬灯なのか高羽の人生を少し表示されるような映像が流れたりしていた。

 

まるで某英雄漫画にあるような演出。

 

「全ピン芸人の思いを、この拳に込める!!」

 

正直ピン芸人の思いにこんな命懸けすぎるものがあるのか疑問だが、対するがしゃどくろはそんな疑問や高羽の妙な演出などよりも別のことに驚愕していた。

 

「(なんだこの出力は?)」

 

今までとは比べ物にならないほど、高羽の呪力出力が異常に高かったのだ。

それもそのはず、現在の高羽はあの石流以上の呪力出力でがしゃどくろに殴りかかっている。

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

高羽の雄叫びと共に、がしゃどくろは右腕を再生させ、両腕を盾のように変形してさらに前面に厚い骨壁を出現させる。

 

だが高羽の術式の前では、あまり意味のないものだった。

 

 

「笑撃必殺 ピン芸人 

 

SMAAAAaSH!!」

 

 

ドゴォォォォ!!!

 

「!?…(クソっ)……!」

 

壁を破り、腕を破り、がしゃどくろの胸骨を捉え、拳がめり込む。

がしゃどくろは巨体をものともせず、簡単に吹き飛ばされ、ビルを貫通して上空に飛んでいった。

 

「ふぅー、これにて一件落着」

 

夜のはずなのに日光に当たったような高羽は汗を拭いながら、虎杖達にニカッと笑いかけた。

 

虎杖以外の全員は思った。

 

それは安堵や感心ではない。

『呪術師って…なんでこう言うやつが強いんだろう…』

普通に「すげー!」とはしゃぐ虎杖を置いて、その場の全員の共通な思いであった。

 

 

 

 

 





東京第一結界のある住宅街。
もはや人の気配も消え、夜の静けさが不気味に漂うそこに、何かが降ってきた。

ドゴォン!

家を潰して降ってきたのは、
先ほど飛ばされたがしゃどくろ。
なんとか祓われず済んだが、結構なダメージを負う。

「……(なんだったんだあいつは…)」

がしゃどくろは訳がわからなかった。
虎杖達と戦った最初は楽しかった。だが途中から出てきた珍妙な格好のやつが流れを崩し、そして最後は、そんな見た目からは想像できないような力で自分は今こんな状態だ。
だが、がしゃどくろはあることに気がつく。

“最初は楽しかった”

そう、虎杖達と戦ったあの時が
もっと言えば、高羽の最後の一撃の瞬間も少し楽しいと感じていた。

「そうか…これが今の私の…」

それに気づいたがしゃどくろは笑みを浮かべる。
骨の顔に表情がないのに、自然と笑い声が出てきているので、笑みを浮かべているのがわかる。

「フフフ…あーはっはっはっは!」

自身のやりたいことを見つけたがしゃどくろは一旦休むことにする。

「(呪力の回復を待ち、そしてまた虎杖悠仁達に“戦い”を挑む)」

そう、千鬼と長くいたがしゃどくろのやりたいことが分かった、

それは──『戦いを楽しむこと』

千鬼が戦いにがしゃどくろをよく使い、がしゃどくろ自身も単独戦闘を行ってきた。
千鬼の戦闘狂の部分が、自然とがしゃどくろに影響していたのだ。

これによって、がしゃどくろは自分のやりたいことを決定した。
そしてその思いは、今は休めることにする。
だがいつか必ず、解き放たれる時が来るであろう予感は流れていた。

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