呪霊装術   作:戦艦YAMATO

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69話 縋る

 

 

 

潮風が吹き抜ける。

 

パンッ!!

 

乾いた銃声が港に響いた。

 

真依が先に撃った。

迷いのない初撃。

狙いは胸。

 

だが、

 

「……っ!」

 

硝子は体を捻って弾道から逸れる。

肩口をかすめ、血が散る。

硝子はそのまま間合いを詰めに入った。

 

「(はやっ)」

 

真依が目を見開く。

距離を取る前に硝子が踏み込んだ。

 

拳が振り抜かれる。

だが真依はそれを腕で受け流し、肘で反撃。

 

ドンッ!

 

鈍い音が響き、硝子の腹部に衝撃が入るが、

 

「……!」

 

顔色一つ変えない。

そのまま距離を潰す。

 

近すぎる銃が使えない間合い。

 

「チッ……!」

 

真依が舌打ちし、膝蹴りを放つ。

硝子はそれを受けながらも手首を掴む。

 

そのまま捻る。

 

「ぐっ!」

 

関節が悲鳴を上げるが、真依は無理やり体を回転させて逆に振りほどく。

 

すぐに後退しながら銃口を硝子へ

 

パンッ!!パンッ!!

 

一発、二発。

 

硝子の太ももと脇腹に弾丸が食い込む。

 

血が滲む。

普通なら動けなくなる傷。

 

だが

 

「……終わり?」

 

硝子は止まらない。

傷口がじわりと閉じていく。

 

「……っ(反転術式か)」

 

真依の表情がわずかに歪む。

だがそれだけではない。硝子の中では、これぐらい大嶽丸から殴打を受け続ける方が痛いから耐えられるだけだ。

 

「ほんと、反則よねそれ」

 

「便利だろ」

 

硝子が淡々と返すその呼吸はわずかに荒い。

 

無限じゃない。

回復には集中と呪力を使う。

治し続ければいずれ限界が来る。

 

真依もそれは理解していた。

 

同時に硝子は比較的前線には出ないタイプ。

真依は三級ながらも前線には出るタイプ。

2人は千鬼から護身術などを教えてもらっていたが、ここまで勝負がつかないのはそう言う差も出ているのだ。

 

「じゃあ削り切るだけ」

 

真依が再び構えるその瞬間。

 

硝子が動いた。

 

一直線。

 

迷いなく突っ込む。

 

「なっ」

 

真依が反射で撃つ。

 

パンッ!!

 

弾丸が腹に入る。

 

それでも止まらない。

 

「っ……!」

 

距離を詰める。

今度は肩に被弾。

それでも止まらない。

 

「なんで!」

 

真依が思わず声を上げる。

その一瞬。

硝子の手が伸びて銃口を掴んだ。

 

パンッ!!

 

掴んでいた硝子の掌が貫かれるが、硝子は掴んだ銃口を逸らしていたので体に当たることはなかった。

 

低く言う。

 

「これぐらい慣れてんだよ」

 

そのまま体をぶつける。

 

ドンッ!!

 

真依の背中が地面に叩きつけられる。

 

銃が手から離れる。

肺に息が詰まる。

 

「……っ!」

 

すぐに蹴り上げる。

 

硝子の顎を狙う一撃。

だがそれも防いだ硝子は

 

ゴッ!!

 

頭突き。

 

真依の額に直撃。

 

「……っ!」

 

真依が一瞬朦朧とした瞬間を狙って、真依の懐に硝子は手を伸ばす。

 

指先が天岩戸に触れた。

 

だが

 

「触るな!」

 

真依がそれを引き寄せた。

 

「渡さないっ!!」

 

互いに、同時に掴む。

 

天岩戸を。

 

次の瞬間、力がぶつかる。

 

「離せ!」

 

「嫌よ!」

 

引き合う。

互いに一歩も引かない。

 

「それは千鬼を封じ込めてる!」

 

硝子が叫ぶ。

 

「だから何よ!!」

 

真依が即座に返す。

 

「あなたに渡すくらいなら、私が奪うわ!」

 

その言葉に、硝子の目が鋭くなる。

 

「……ふざけんな」

 

低く、押し殺した声。

 

「お前、それがどういうことか分かってんのか」

 

「分かってるわよ!」

 

真依が叫ぶ。

 

力がさらに強まる。

 

「それでもいいの!!」

 

「……っ!」

 

硝子が歯を食いしばる。

 

「私はあの人の隣にいられればいいの!」

 

「……それが“隣”かよ!!」

 

硝子が怒鳴る。

その声に空気が震える。

 

「閉じ込めて、壊して、縛って!」

 

力任せに引き寄せる。

 

「それで手に入れたもんが!」

 

さらに踏み込む。

 

「本物だと思ってんのか!」

 

「思ってるわよ!」

 

真依は一切迷わず言い切った。

その目は狂っていない。

むしろ、あまりにも真っ直ぐだった。

 

「だって」

 

力が拮抗する。

互いの呼吸が荒くなる。

 

「それしか方法がないんだから!」

 

その叫びに、ほんの一瞬。

硝子の動きが止まる。

その隙を真依は見逃さなかった。

 

体を捻り、天岩戸を奪い取ろうと引き抜く。

 

「……っ!」

 

硝子も即座に引き戻す。

 

再び均衡。

 

だが次の瞬間。

 

真依が足を引っ掛ける。

 

「っ!」

 

硝子の体勢が崩れる。

そのまま押し倒されて地面に叩きつけられる。

 

それでも手は離さない。

 

「離しなさいよ!」

 

「離さない!」

 

顔がすぐ目の前で互いの息がかかる距離。

互いの目には覚悟が宿っていた。

 

「なんであんたなのよ……」

 

真依の声が震えた。

 

初めてだった。

 

明確な感情の揺れ。

 

「なんで、あんたが選ばれて……」

 

歯を食いしばる。

 

「私じゃダメなのよ……!」

 

その言葉に。

硝子の目がわずかに変わる。

 

怒りではない。

 

否定でもない。

 

「……知らないよ」

 

短く、吐き捨てる。

 

「でもな」

 

力を込める。

少しずつ天岩戸を引き寄せる。

 

「千鬼が選んだのは、私だ」

 

その言葉が、決定打だった。

 

「っ!」

 

真依の顔が歪む。

何かが壊れ、同時に怒りが湧いてくる。

 

「……うるさい」

 

低く呟いた次の瞬間。

 

ゴンッ!!

 

真依の頭突きが硝子の顔面に叩き込まれる。

 

「…っ!」

 

意識が一瞬揺れ、真依が天岩戸を引き抜く。

 

完全に奪った。

 

互いに荒い呼吸。

震える手。

 

だが決定的に違うところは、真依が天岩戸を握りしめていること。

 

「……は、ははは……ほら……やっぱり」

「奪えるじゃない」

 

真依の声はもう戻らない。

 

「これが正しいのよ」

 

天岩戸を抱きしめる。

まるで宝物のように。

 

「私が選ばれる方法は、これしかないんだから」

 

だが、その目には執着が残っている。

 

「千鬼さんは……私のものになる」

 

硝子がゆっくり起き上がる。

鼻から出る血を拭いながら。

ただ静かに見ていた。

その手がわずかに動く。

 

袖の内側、見えない位置で何かかを手に取るが、誰も気づかない。

 

「……まだやるの?」

 

真依が嗤う。

 

「まだ立つのね。ほんとしつこい」

 

ゆっくりと銃を持ち上げる。

狙いは頭。

 

終わらせるための一撃。

 

「安心して」

 

指をかける。

 

「すぐ終わらせてあげる」

 

その瞬間。

 

硝子が動いた。

 

一歩。

 

踏み込む。

 

「遅い」

 

真依が引き金を引こうとした、その直前。

真依の足に痛みが走る。

 

「っ!」

 

真依の足にはメスが刺さっていた。

銃口がわずかに逸れる。

 

パンッ!!

 

弾は硝子の頬を掠め、同時に硝子の手が真依の体に触れた。

 

「……え?」

 

ほんの一瞬。

 

違和感。

 

ブスッ

 

鈍い感触。

 

注射器の針が、真依の腹部に深く突き刺さっていた。

 

「……っ」

 

真依の目が見開かれる。

 

硝子は無言のまま、最後まで押し込む。

薬液が流れ込む。

 

確実に、全部。

 

「っ、なに……」

 

真依が反射的に硝子を突き飛ばす。

それによって距離が空き、針が抜ける。

 

「……今の、何……?」

 

息が荒い。

だがまだ動ける。

違和感はあるが致命ではない。

真依はそう思っていた。いや、そう自分に言い聞かせていた。

 

「……毒だよ」

 

硝子が短く言う。

 

「大百足の毒をベースにしたやつ」

 

その言葉に、真依の顔色が変わる。

 

「……は?」

 

理解が追いつかない。

いや、理解したくない。理解したその時に絶対に何かが起こってしまうと脳が拒絶していた。

だが次の瞬間。

 

ドクン

 

心臓が、異様な脈を打つ。

 

「……っ!?」

 

膝が揺れる。

 

「なに、これ……」

 

視界が歪み、呼吸が乱れる。

体の内側から、何かが這い回るような感覚。

 

「が……っ……!」

 

喉が焼ける。

肺がうまく動かない。息がしづらい。

 

「効きが早いでしょ」

 

硝子が言う。

息は荒いが、目は冷静。

 

「即効性重視してるからな。それに大百足の毒は、呪霊の中でも指折りだ」

 

「……っ、ふざけ……」

 

真依が一歩踏み出す。

 

ガクン

 

膝が崩れた。

 

「……あ……?」

 

手が震える。

 

力が入らない。

 

天岩戸を握る指が緩む。

 

「……なんで」

 

かすれた声。

 

「なんで、そんなの……」

 

硝子はゆっくりと近づく。

 

「医者だからな」

 

短く答える。

 

「殺す方法も、止める方法も知ってる」

 

「……っ……」

 

真依が地面に手をつく。

 

呼吸が乱れ、うまく息が吸えない。

視界が暗くなる。

それでも顔を上げて硝子を睨む。

 

「……まだ……終わって……」

 

言葉が途切れる。

 

「……ない……」

 

その手が必死に天岩戸を握りしめる。

最後まで離さないという真依なりの今できる必死の抵抗。

 

「……やっと……ここまで、来たのに……」

 

意識が沈んでいく中、それでも──

 

「……千鬼、さん……」

 

名前を呼ぶ。

初めて願うように。

 

「……私を……見て……」

 

その声は届かない。

だがそこへ、ついに我慢できなくなった真希が叫んだ。

 

「真依!」

 

隣にいた加茂が止める間もなく、一直線に真依の元へ。

 

「待て!真希!」

 

加茂の制止も届かない。

膝をつき、真依の体を抱き起こす。

 

「おい、真依!」

 

揺さぶるが、反応はない。

呼吸は浅く、不規則。

顔色はみるみる青白くなっていく。

 

「……くそっ」

 

真希の表情が歪む。

視線が真依の腹部へ落ちる。

そこにあるのは注射痕。

明らかに腹の色が違う。小さい青あざのように変色していた。

 

真希は迷いなくその傷口に口をつけた。

 

「……っ!?」

 

加茂が目を見開く。

 

「やめろ真希!それは「うるせぇ!」…」

 

怒鳴り返す。

真希には一切の躊躇がない。

強く吸い上げる。

血と一緒に、毒を。

 

「……っ、ぐ……!」

 

すぐに異変が来る。

舌に走る痺れに、喉を焼くような感覚。

大百足の毒は肌に触れるだけでも脅威となる。

いくら真希の体でも、これは例外なく効いてしまう。

 

 

真希が血と毒を吐き出す。

それは黒ずんだ血。

真希の呼吸が荒れる。

だがまた、口をつける。

 

吸う。

 

吐く。

 

吸う。

 

吐く。

 

繰り返す。

 

「……なんでだよ……」

 

震えた声。

 

「なんで、こうなるんだよ……」

 

真依の体を強く抱きしめる。

 

「……バカが……」

 

かすれた声。

 

怒りか、悲しみか、それとも両方か。

 

再び吸い出す。

視界が揺れるが、それでもやめない。

 

「……置いてくなよ……」

 

ぽつりと、零れた。

 

その言葉は小さく、弱かった。

今まで一度も見せなかった顔。

 

「……一人にすんな……」

 

その光景を硝子と加茂は黙って見ていた。

 

止めなかった。

止める理由がなかった。

ただ、ほんの一瞬の沈黙の後、硝子は静かに口を開く。

 

「……もう無理だぞ」

 

真希の動きが止まる。

 

「大百足ベースだ。毒は回り切ってる」

「分かってるだろ?」

 

淡々とした説明。

だが突き放すものではない。

 

「ある程度は抜ける。でも──」

「完全には無理だ」

 

真希は顔を上げない。

 

「……硝子さん……」

 

そう言われた真希は動かなかった。

ゆっくりと真依を地面に横たえる。

 

真希は、深く息を吸って頭を下げた。

 

「……硝子さんなら、もしものために用意してるんですよね。解毒剤」

 

声が震えていた。

だが逃げていない。

 

「真依を助けてください」

 

真希は涙を見せながら懇願した。

 

「真依は……」

 

拳を強く握る。

 

「……私の妹なんだよ」

 

沈黙。

 

その一言にすべてが詰まっていた。

 

「……」

 

硝子は、何も言わない。

ただ見ている。

頭を下げたままの真希を。

 

「お願いします!」

 

さらに深く頭が下がる。

 

「どんな罰でもいい。後で私も一緒に受ける」

 

「だから──」

 

ほんの一瞬、声が途切れる。それでも続ける。

真依を助けるために

 

「……真依を助けてください!」

 

「真依が何したか分かってんだろ」

 

「……分かってる」

 

真希は即答した。

頭を下げたまま。

 

「全部分かってる」

 

だが硝子は確認をするように

 

「みんなを裏切って、私を攫って、餌にして」

 

一つ一つ突きつける。

 

「千鬼を封じた張本人だぞ」

 

空気が張り詰める。

それでも真希は顔を上げない。

 

「……それでもだよ」

 

静かに言う。

 

「それでも……見捨てられねぇんだよ」

「もう…真依をおいて行くわけにはいかねぇんだ……」

 

真希の掠れた声が、静かにその場で響いていた。

 

 

 




真依の運命はどうしたいですか?

真依をどうする?

  • 助けよう
  • トドメを刺そう
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