呪霊装術   作:戦艦YAMATO

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みなさんお久しぶりです。
落ち着いてきたので、短めですが続きをどうぞ。



70話 岩戸隠れ

 

 

空気が張り詰める。

真希はただ頭を下げたまま硝子に懇願していた。

 

「……それでも」

 

絞り出すように。

 

「見捨てられねぇんだよ」

 

その言葉に硝子は一瞬だけ目を細めた。

それ以上は何も言わない。

代わりにゆっくりとしゃがみ込む。

真依の腕に触れる。

脈はほとんどなく、今生きてるのが奇跡のようなものだ。

 

「……」

 

硝子は無言で懐に手を入れた。

取り出したのは、小さな注射器。

透明な液体が揺れている。

それを見た瞬間、真希の呼吸が止まる。

 

「……それ」

 

「解毒剤、後で真希にも少し投与するよ」

 

短く答える。

真希の目にわずかに光が戻る。

だが硝子はそのまま続けた。

 

「勘違いするなよ」

 

声は冷たい。

 

「許したわけじゃない」

 

真希は何も言えなかった。

ただ強く頷く。

硝子は真依の腕を取る。

細い血管に針を当て、ほんの一瞬手が止まった。

 

──本当にいいのか。

 

そんな問いが、よぎる。

 

だが、

 

「……は」

 

小さく息を吐く。

迷いはそれで終わりだった。

 

針が皮膚を貫くき、ゆっくりと確実に薬液を押し込む。

一滴残らず薬液が流れたところで

 

「……っ」

 

真依の体が、びくりと震えた。

 

「……ぐ、ぁ……」

 

かすかな声が漏れる。

 

だが意識は戻らない。

 

ただ止まりかけていた命が、かろうじて繋ぎ止められる。

 

硝子は針を抜いた。

 

「……これでいい」

 

立ち上がる。

 

それ以上は何もしない。

真希はすぐに真依の側により、震える手でそっとその体を抱き寄せる。

 

「……真依」

 

呼びかける。

返事はない。

 

それでも呼吸はある。

それだけで真希にとっては安心材料だった。

涙が落ちてただ強く抱きしめる。

硝子はそれを一瞥しただけだった。

 

視線を外す。

 

「憲紀、一旦高専に戻るぞ。

そのあとに真希と一緒に真依を見張ってろ」

「念のため狗巻もつける」

 

硝子の静かな声に加茂は了承する。

真希が真依を逃すかもしれない。見張りに棘をつけるのはこれを防ぐため、硝子はこんな時でも冷静に先を見据えていた。

 

「分かりました…」

 

そんな硝子を感心すると同時に、加茂はどこか震える空気だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

規則的な機械音が、静かに部屋に響いている。

消毒液の匂い。

薄く差し込む光。

時間の感覚が曖昧になるような、静かな空間。

 

高専とは別の医務室のベッドの上に、禪院真依は横たわっていた。

 

呼吸はある。

だが浅い。

 

その手は、わずかに固まっていた。

何かを掴もうとしていたかのように拳が握られている。

 

強く。

 

まるでそれだけは絶対に離さないとでも言うように。

その側の椅子に座っているのは禪院真希だった。

腕を組んでいるわけでもなく、姿勢を崩しているわけでもない。

ただそこにいる。

 

ずっと。

 

どれくらい時間が経ったのか、自分でも分からない。

たまに加茂と狗巻が様子を見に来るが、流石にずっといるわけではない。

 

「……」

 

視線は、真依から外れない。

 

その胸が上下しているのを、何度も確認する。

生きている。

それだけで十分なはずなのに。

 

「……っ」

 

小さく息を吐く。

真希のその唇にはまだわずかに毒の感覚が残っていた。

舌に残る痺れ。

喉の奥の焼けるような感覚。

毒は完全に解毒されたはずだが、記憶から何度も呼び起こされる。

 

毒を少し摂取した自分がこれなのだ。真依はどんな感覚なんだろう。

 

そんな真希の心配を止めるかのようにドアが静かに開く。

 

入ってきたのは、硝子だった。

白衣で、いつもと変わらない顔。

 

「……まだ起きてないか」

 

淡々とした声。

真希は振り向かない。

 

「はい…」

 

短く答える。

それ以上言葉はない。

 

硝子はベッドの横まで来て、真依に目を落とす。

脈、呼吸、瞳孔。

 

問題はない。

 

「この様子だと、後遺症も多分残らない」

 

それだけ言う。

 

「……そうですか」

 

真希の声は低い。

再び部屋は静かになる。

機械音だけが一定のリズムを刻む。

 

ふと真希の視線が真依の手に落ちる。

 

握られたままの拳。

 

ぎりと。

 

無意識に力が入る。

 

「……それ」

 

真希が呟く。

 

硝子も視線を向ける。

 

「ああ」

 

興味なさそうに答える。

 

「夢の中じゃ、この手で掴んでるとでも思ってるんじゃないか」

 

「……離さねぇんだな」

 

ぽつりと。

 

「無意識だろ」

 

硝子は淡々と返す。

 

「執着はそう簡単に消えない」

 

真希はゆっくりと息を吐いた。

 

「……そうですね」

 

それ以上は、何も言わなかった。

硝子はそれ以上踏み込まない。

 

「……問題ないなら、私は戻る」

「もう少ししたら色々と動き出すからな」

 

振り返ってドアに向かう。

 

だが一瞬だけ足が止まる。

 

ほんの一瞬。

 

「……」

 

視線を、真依に向ける。

 

その顔を。

 

その手を。

 

「真希、真依が起きたら伝えといてくれないか」

 

硝子の言葉に思わず真希は振り返った。

それを肯定とみなした硝子は続ける。

 

「──せいぜい生きろ」

「そう伝えておいて」

 

そう言って硝子は出ていった。

 

 

残されたのは真希と真依。

 

静かな部屋。

真希は真依を見つめながら

 

「……このバカ」

 

ぽつりと零れる。

怒りか、呆れか、悲しみか。

誰に向けた言葉か。

 

自分でも分からない。

 

「……」

 

手を伸ばして真依の手に触れる。

 

握られている拳、なぜこんなにも握っているのか真希にも分かっていた。

 

「……」

 

そのままそっと包み込む。

今はただ、この手を離してはいけない。

今の真希には、こうすることしかできなかった。

 

 

 

 

 

〜天岩戸奪還から翌日〜

 

 

 

高専の近くの山の中で、それは執り行われようてしていた。

 

──天岩戸の解放

 

真依の意識が戻るのを待つより、この方法の方が早いと判断された。

 

「先輩、お願いします」

 

真剣な声色の硝子に、歌姫はにこやかに答えた。

 

「任せなさい」

「だけどその間、よろしくね」

 

「はい」

 

天岩戸の封印解除の条件の一つ、『天岩戸の前で舞を一晩舞い続けること』

歌姫にとって舞を一晩踊るのはなんら難しくもない。

問題は邪魔が入らないかと言うこと。

肝心の真依が寝ているとはいえ、羂索がこのまま何もせず見過ごすことは考えられない。

おそらくはどこかで天岩戸の封印が解かれることを聞きつけて邪魔をしにくるかもしれない。

 

それを踏まえたらこの封印解除はそう簡単な話ではない。

現に今この場には集められるだけの戦力が集められている。

 

楽巌寺嘉伸

夜蛾正道

日下部篤也

庵歌姫

加茂憲紀

狗巻棘

猪野琢真

灰原美里

灰原雄

 

九十九、脹相に関しては先日の羂索との戦いで薨星宮がボロボロにされてしまったことから、天元を別のところに匿っているのでその護衛でここにはいない。

だがそれでも戦力的には十分なはずだ。

 

夜蛾学長が口を開く。

 

「一晩歌姫を守り続ければこちらの勝ちだ」

「羂索がどんな手を使ってくるかわからん。みんな要警戒するように」

 

夜蛾学長の指示が終わると、全員はその場を取り囲むように配置につく。

 

歌姫は設置された天岩戸に手を触れて

 

「待ってなさいよ千鬼(硝子だって会いたがってるんだから)」

 

そして楽巌寺嘉伸が曲を奏で始める。

それに合わせて歌姫が踊り始めた。

 

舞が始まって少し時が経った。

楽巌寺の音と歌姫の舞だけが響く中、本来聞こえるはずの風の音がなぜか一切しなかった。

その代わり、森の奥から何やら蠢く音が響く。

 

まずそれに気づいたのは日下部。

 

「ん?(もしかして羂索か?)」

「(嘘だろ…俺の方向かよ…)」

 

ため息をつきながらも、居合の構えになってその正体を探ると、日下部懸念している羂索ではなかった。

 

ぐるぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

 

呪霊と式神の大群だった。

これはもちろん羂索の仕業。

羂索がとった行動は自ら解除を止めるわけではない。

 

──物量で押していくこと

 

いくらメンバーが集まっているとはいえ、消耗戦になれば自ずと疲れは見えてくる。

羂索はじわじわと嬲り殺していくことにしたのだ。

 

夜蛾学長が声を張り上げる。

 

「ガァッテム!!」

「いいか!絶対に歌姫の邪魔はさせるな!」

 

全員が呪霊達に向けて駆け出す。

全ては1人の術師を救うため、各々が全力で立ち向かっていった。

 

 

 

 




はい、ということで真依は助けると言う結果になりました。
これからどうしていくかはまだ決まっていません。
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