【魔法ドッジボール・ルール】
・1チーム3名のトーナメント方式で行う
・3名の中から外野を1名選出し、残り2名の内野のうち1名はコート係を務める
・内野2名のアウトもしくは7秒以上のコートの消失で敗北とみなす
・コートの移動は指定された範囲内のみとする
・外野は自分チームのコート側面から十メートル以上離れてはいけない
・内野はコートの外に出てはいけない(魔法による生成物をコート外で出現させることやそれらの生成物の相手コートへの侵入は不問とみなす)
・コート係がアウトになった場合、もう1名の内野がその役割を引き継いで試合を続行する
・外野が2名の場合、相手チームの選手をアウトにした1名は内野に復帰できる
・ボール本体への魔法効果付与は禁止
・上記のルールへの抵触や過度な暴力行為はファウルとなり、チーム内におけるファウルが合計3回となった時点で敗北とみなす
「コート係?」
同じチームになった白雪から大体のルールを聞いた
すると白雪はにこりと笑い、はいこれ、と自身の右手に持った何かを廻の前にすっと差し出す。
「これは……魔法石?」
「うん。ちょっとそれに小津佐くんの魔力を注ぎ込んでみて」
小さな穴に紐を通したペンダント型の水晶──手のひらサイズの魔法石を受け取った廻は、言われたとおりその塊に微量の魔力を注入した。
途端に内側から光を放つ魔法石。たしかな熱を持ち始めたその石の輝きに、廻が目を見開いた瞬間。
薄く透明なドーム状の魔力の膜が出現し、廻たちを覆い囲んだ。
「直径五メートルの半球。これが私たちのコートになるんだよ」
そのペンダントはコート生成専用の魔道具なんだって、と林檎のような赤毛を揺らして白雪が満面の笑みを浮かべる。
「魔法ドッジで使うコートは可動式なの。操作魔法の要領で、この球体そのものを自由自在に動かすことができるんだ」
「ほんとだ」
ペンダントに込める魔力の流れを意図的に変更すると、それまで廻を中心に張られていた半球型の薄い膜が、白雪が立つ右側の方に移動した。
どうやら魔法ドッジボールのコートはふつうのスポーツのように固定されているのではなく、そのチームの選手が魔力を使って生成、移動をさせるものらしい。
「このペンダントに魔力を注いでいる間だけコートが出現するんだね」
「そ。他のことに気を取られたり魔力が尽きたりしてコートが消えて、その状態で7秒以上経っちゃうと失格になるんだよ〜」
「コートの維持と操作。その二つがコート係の役割ってわけか。なかなかに重労働だな」
廻の隣で同じくルールを聞いていたルクスが感想を述べる。
「コート形成に必要な魔力はそこまで多くないし、内野同士で必要に応じて交代することもできるんだけど……試合が長引いたりコート移動が激しい戦いになったりすると大変かも」
でも大丈夫でしょ、と楽観的な言葉を返し、赤毛の少女は廻とルクスを交互に見た。
「この競技って結局は魔法のマルチタスクをいかにこなせるかってのがカギなんだよね。コートを維持しながら他の魔法も使える人がチームにいるかいないかで勝率がぜんぜんちがう」
「それなのにチーム分けはくじ引きなのかよ。不公平だな」
「表面上はただのレクだからね。びしっと決めると緊張しちゃうし、チーム分けのドキドキ感も醍醐味だから」
どんな醍醐味だよ、とルクスは呆れているようだが、廻には白雪たちの気持ちがわかる。
実際、くじを引く前は自分がだれと同じチームになるのかわくわくしたし、クラスの中では比較的仲のいい彼女たちがチームメイトだとわかったときも嬉しかった。これまで学校に通っていなかった廻には、今回のように他人とチームを組んで何かをするという経験がなかったからだ。
「とにかく、ルクスくんと小津佐くんはそこのとこうちのクラスじゃトップクラスでしょ? 私は複数の魔法の同時発動は苦手だし、運動神経もふつうだから今回はひたすら逃げることに徹させてもらいま~す」
「すがすがしいな……」
「まあでも、ボールに当たらないことは大事だよね」
にこにこ笑う白雪とため息を吐くルクスに廻は苦笑し、「みんなでがんばろう」とその場の会話をまとめるのだった。
──そして始まった一回戦。
ルクスが外野、廻がコート係を担うかたちで行ったその試合に大きな動きが生まれたのは、開始から約三十秒後のことだった。
ジャンプボールで相手のチームが最初のボールの所有権を得た。
ボールを投げようと振りかぶる男子生徒。
その攻撃に構える廻と白雪。両チームのコートの間が三メートルほど空いた状態だった。
そうして投げられたボールが──廻に当たった。
「小津佐くん!?」
気づけばアウトになっていた。狙われたのは足元で、避ける間も、腰をかがめて受けとめる間もなく飛んできたボールが、廻の脛の部分に当たった。
「え? 小津佐くん、いまふつうに当たらなかった……?」
「ご、ごめん」
「たしかに強いボールだったけど、
魔法ドッジボールはその名のとおり魔法を使ったドッジボールだ。ルールに違反しない範囲であれば、魔法によって何をしてもいい。
そのはずだったのだが。
「いや、最初はふつうにやるべきかなって……」
「全力でドーピングしてって言ったじゃん! 小津佐くんの素の身体能力じゃ魔法なしの女子のボールだって取れないでしょ!」
随分とはっきり傷つくことを言われた気がするが、彼女の指摘はもっともで、開始早々チームに迷惑をかけてしまった廻には返す言葉はひとつもない。
肩を落とし、とぼとぼとコートを出てルクスと同じ外野にまわる。
「ちょ、ま……嘘でしょー!?」
廻が渡したペンダントを右手に握り、白雪が叫んだ。
ただ一人の内野とコート係を兼任することになってしまった彼女が、今日初めて慌てる様子を見せた瞬間だった。