「ちょっと待ってよ~! これ私が当たったら負けるやつじゃん!」
コートに一人取り残された白雪が、ボールを持った両手をぷるぷると震わせながら、焦りに満ちた叫び声をグラウンドに轟かせた。
あまりの申し訳なさに自分を殴りたいような気持ちになりながら、
何やってんだお前、と呆れたような視線を向けられ、ごめん、と力なく頭を下げることしかできなかった。
一回戦の相手は、高橋、新保という男子二人と、館山という女子一人のチームだった。
強化魔法で腕力を向上させた新保のボールに当たり、廻は呆気なくアウトとなった。
威力の高いボールではあったが、白雪の言うとおり魔法を使って防いでいれば開始早々アウトになることはなかっただろう。
廻はいたく反省した。これはただのドッジボールではない。魔法の技術、使い方の工夫を競う特別なドッジボールなのだ。
ここからは本気でやろう。チームの出鼻をくじいた責任を取らなくてはならないと思った。そのために、まずは白雪が一人で内野を務めることになったこの状況をどうにかして──
「白雪! ボールこっちよこせ」
試合が再開した瞬間、ルクスが白雪に呼びかけた。
移動式のコートを使用するこのドッジボールには、ふつうのドッジボールと比べ外野の動きの自由度が高いという特徴がある。
自分のチームのコート側面から十メートル以上離れなければ、両チームのコート周辺、空中、どこにでも移動していい。
廻の脛に当たったボールを白雪が回収したことによって、現在の攻撃権は自分たちのチームにあった。
ルクスはそのボールを受け取ろうとしているのだ。内野と外野の選手同士でボールをパスし合うのは、ドッジボールの作戦の一つである。
「はい!」
ルクスに向かってボールをパスする白雪。そのボールを難なく受けとめたルクスが、青い瞳を静かに光らせ指示を続ける。
「コートをあっちの木陰の方に移せ。ゆっくりでいいから」
「う、うん。わかった……!」
首にかけたペンダント──コート作成用の魔道具に指で触れた白雪が、ルクスの言葉にこくりと頷いた。
コートの移動が可能な範囲はそれぞれの試合によって個別に設定されており、その範囲は勝ち進むほどに広くなっていくという。
一回戦で廻たちに与えられたのは、三分割したグラウンドの校舎から見て西側の区域だ。
同じグラウンドの別の場所では他のチームが同様に試合をしており、その周辺では待機中のチームの生徒と体育教師の佐伯が、各試合を見学していた。
「ルクスくん、ここでいい!?」
「ああ」
廻たちの試合範囲の端、複数の植木が立ち並ぶ場所の近くにコートごと移動した白雪がルクスを見る。
するとボールを持ったルクスが、相手チームのコートの方に身体を向けた。
彼を中心に巻き起こる魔力の風。さらりと揺れる銀色の髪。対戦相手の内野の二人が、警戒する表情を見せた瞬間。
「
四方から出現した幾本もの光の帯が相手チームのコートに侵入し、その周辺を眩しく照らした。
「わあ!?」
「まぶしっ!」
内野の新保、館山が自身の目を手で覆う。コートの外にいる廻でも直視するのが難しい眩い光だ。間近で浴びた二人にとっては堪ったものではないだろう。
影のある場所でその力を発揮する彼の魔法が、白雪がコートの位置を木陰の方に移したことで発動しやすくなったのだ。
(目くらましだ……!)
新保たちが狼狽えている隙を狙って、勢いよくボールを投げるルクス。フォームも力加減も、その角度も完璧だった。
「くっ」
「わっ!」
新保の腰に当たったボールが跳ね、近くにいた館山の肩に当たって彼らのコートの外に出た。
一度の投球が複数人に当たった場合、本来のドッジボールでは最初に当たった一人だけがアウトになることが多いらしいが、時間がかぎられた今回の試合では連続アウトも適用されるルールとなっている。
つまりこの試合は。
「か、勝った……!?」
白雪が驚いた表情を浮かべ、相手チームの三人が呆然と顔を見合わせる。
廻もぽかんと口を開けてルクスを見た。一度に二人をアウトにした当の本人だけが、涼しい顔でグラウンドを吹き抜ける夏の風を浴びていた。
(さすがルクスくん、すごい……!)
魔法の光で相手の目を眩ませ、巧みなボールのコントロールで的確にアウトにさせる。
魔法の技術と運動神経。魔法ドッジボールということの競技においては、最適解のパフォーマンスだろう。
「……ちょっと待って。僕……いまのところただの足手まとい!?」
両手で頭を抱えて廻は叫んだ。
慌てながらもコート係の役割をまっとうした白雪と、外野としてあっという間にチームを勝利に導いたルクス。試合開始数秒でアウトとなり、何もできず彼らの動きを見ているだけだった自分。
チームメイトに申し訳が立たない、とはこのことだった。